各種活動

 

小児の新型コロナウイルス感染症の診療に関連した論文

 これまで小児の新型コロナウイルス感染症の診療に関連した論文を分野別に掲載しておりましたが、2022年6月からは、診療の参考となる論文を紹介してまいります。

日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会

【2023年6月1日掲載】

「SARS-CoV-2の検査後に入院を要さなかった小児(children and young people: CYP)における健康と幸福に関する自然経過:12か月間の前向き研究」

 英国において、2020年10月から2021年3月の間に、急性期(ベースライン)においてSARS-CoV-2のPCR検査後、入院を要さなかった11〜17歳の小児(children and young people: CYP)を対象とし、6か月と12か月後におけるアンケートを行った。ベースライン以降、途中で新たにSARS-CoV−2陽性となった例は除外され、最終的に5,086人が12か月間の評価対象となった。その内訳はSARS-CoV-2陽性群2,909人、陰性群2,177人であった。
 21 の症状のうち 10 症状(嗄声、胸痛、腹痛、下痢、錯乱/見当識障害/眠気、眼痛/不快感、耳痛/耳鳴、皮膚隆起/発赤/掻痒、足の赤紫色の水疱、その他)の有病率は、陽性群と陰性群ともに、ベースライン、6 か月、12 か月ともに10% 未満であった(図1)。他の11の症状(発熱、悪寒/震え、慢性咳嗽、疲労/倦怠感、息切れ、嗅覚・味覚障害、頭痛、食事回避、目眩/立ちくらみ、咽頭痛、筋肉痛)に関しては、ベースラインの時点でこれらの症状を有していた陽性群においては、11症状全ての有病率が12か月で大幅に減少した。11症状のうちの1つを6か月の時点で初めて認めた CYP においても、その後12か月までに有病率は低下した。11 症状のうち 9症状(発熱、悪寒/震え、慢性咳嗽、嗅覚・味覚障害、頭痛、食事回避、目眩/立ちくらみ、咽頭痛、筋肉痛)の全体的な有病率は、12か月で減少した(図2)。多くのCYP は、ベースラインでは認めなかった息切れ、疲労を6か月または 12 か月のいずれかのタイミングで初めて申告した。その結果、陽性群におけるこれら2つの症状の全体的な有病率は6か月で増加し、12か月でさらに増加していたが、個々の症例においては、ベースラインまたは6か月のいずれかの時点で既に息切れ、疲労を有していた患者では、その後の有病率が減少していた(図3)。これら2症状における同様の傾向は、陰性群でも確認された。同様のパターンは、生活の質の低下、感情および行動上の問題、幸福度の低下、疲労、Long COVIDなどの尺度においても観察された(図4)。
 CYP では、急性期に報告された多くの症状の有病率は 12 か月に渡り減少傾向を示した。


論文名:Natural course of health and well-being in non-hospitalised children and young people after testing for SARS-CoV-2: a prospective follow-up study over 12 months.
著者名:Pinto Pereira SM, Shafran R, Nugawela MD, et al.
雑誌名:Lancet Reg Health Eur. 2023 Feb;25:100554.DOI: 10.1016/j.lanepe.2022.100554. Epub 2022 Dec 5. PMID: 36504922
URL:https://www.thelancet.com/journals/lanepe/article/PIIS2666-7762(22)00250-2/fulltext

 

【2023年4月25日掲載】

「米国の小児におけるコロナワクチン(BNT162b2)の安全性に関する病院ベースの電子データを用いた後方視的解析」

小児に対する新型コロナウイルスワクチン(BNT162b2, Comirnaty)の緊急使用が承認された後、5~17歳の小児に対しての本ワクチン接種が急速に進んだ。しかし、小児への本ワクチン接種に関連した有害事象の報告は限られている。特に5~11歳と12~17歳に分けた詳細な検討はされていない。そこで本研究では、Mayo Clinic Health Systemに登録されている5~17歳の小児(北米5州に在住)のelectric health records(EHRs)を用いて、2021年の1月5日から2022年の8月5日までの間に2回BNT162b2を受けた小児を対象に後方視的に比較解析した。Bidirectional Encoder Representations from Transformers(BERT)という自然言語処理モデルを用いて、膨大なEHRs中の情報から各有害事象を抽出し統計処理に用いた。観察期間中に当該データベースには934,616名の小児が登録され、424,079名の小児が2回のワクチン接種を受けていた。ベースラインデータとして1回目接種前735日から21日までの間に14日間の観察期間、接種後の有害事象把握のため1回目接種、2回目接種後それぞれ14日間の観察記録が必要なため、最終的にこれらの条件を満たし統計学的解析に使用された対象者数は56,436名(5~11歳:20,227名、12~17歳:36,209名)だった。重篤な有害事象に関しては、1回目あるいは2回目接種後のアナフィラキシー(0.01%)、心筋炎(0.01%)、心膜炎(0.01%)はいずれも過去の報告同様極めて発症頻度は低かった。20,225名の5~11歳の児においては、2回目接種後の疲労(risk difference [RD]dose 2 0.08%[95% CI -0.01 to 0.18], p=0.044)と発熱([RD]dose 2 0.13%[95% CI 0.00 to 0.27], p=0.022)がベースラインデータと比較し有意にリスクが上昇していた。一方、36,209名の12~17歳児においては、2回目接種後の関節痛([RD]dose 2 0.06%[95% CI -0.00to 0.12], p=0.026)、悪寒([RD]dose 2 0.05%[95% CI -0.00 to 0.11], p=0.034)、筋肉痛([RD]dose 2 0.06%[95% CI -0.01 to 0.14], p=0.038)がベースラインデータと比較し有意にリスクが上昇していた。全体的な発生頻度は低いものの、12~17歳の男児において2回目接種後の心筋炎のリスクが有意に高かった([RD]dose 2 0.03%[95% CI 0.01 to 0.07], p=0.013)点は注意が必要である。

表.  BNT162b2ワクチン、初回接種、2回接種後の有害事象の発生リスク。1回目接種前のベースラインデータとの比較。

 
図. 年齢、性別の各有害事象の発生リスクの比較
*注釈のついた箇所は1回目あるいは2回目接種後のリスクが有意に高い (p<0.05)
A:5~11歳の女児と男児、B:12歳から17歳の女子と男子

以上から、BNT162b2の小児への接種は安全で十分許容されると思われる。ただし、思春期の男子については、心筋炎のリスクについて今後も調査を続ける必要がある。さらに、今回の研究成績が全ての小児に当てはまるかどうかについては、さらなる解析が必要である。

論文名:Paediatric safety assessment of BNT162b2 vaccination in a multistate hospital-based electronic health record system in the USA: a retrospective analysis.
著者名:Matson RP, Niesen MJM, Levy ER, et al.
雑誌名:Lancet Digit Health. 2023 Apr;5(4):e206-e216. DOI: 10.1016/S2589-7500(22)00253-9.

URL:https://www.thelancet.com/journals/landig/article/PIIS2589-7500(22)00253-9/fulltext

 


【2023年4月5日掲載】

「2020年と2021年の米国小児入院患者におけるCOVID-19/小児多系統炎症症候群(MIS-C)の重度神経障害の頻度・分類の変化について」

 2020年の米国におけるICU入室等の重症急性COVID-19あるいはMIS-Cによる小児入院患者の22%で神経障害が認められ、内12%は重度の障害であったことが報告されています。本研究の目的は2020年と同様に2021年の米国の小児および青年の入院患者のCOVID-19関連神経障害の頻度・分類に関する最新情報を提供することです。
 2020年12月15日から2021年12月31日までに、米国31州にある55病院に入院した21歳未満の重症急性COVID-19あるいは米国疾病予防管理センター(CDC)の診断基準を満たすMIS-C患者2,168名を対象としました。その2,168名のデータを研修を受けたスタッフが診療録から抽出し、神経学、神経放射線学および救命救急の3名の専門家が致死的な神経学的状況および神経学的欠落症状(運動、認知、または言語機能の重大な障害)の有・無について判定しました。
 その結果、急性COVID-19あるいはMIS-C患者2,168名(男性58%・女性42%、年齢中央値10.3歳)中476名(22%)の診療録に神経障害の記載を認め、年長児や基礎疾患として既に神経疾患を有する患者により多く出現していました。また、けいれん発作は幼若小児に生じやすく、味覚・嗅覚障害は青年期に多く認めました。476名中434名(91%)は生命に関係のない神経障害の症状であり、最も一般的には疲労感、脱力感、混迷、頭痛、味覚・嗅覚障害でした。その90%が神経学的後遺症なく生存、5%が死亡、4%が重篤な神経疾患の後遺症を残して退院しました。一方、残り42名(9%)は致死的な神経症状を呈し、その疾患別内訳は中枢神経系急性感染症/急性散在性脳脊髄炎(ADEM)23名(図)、脳卒中11名、重度脳症5名、急性劇症脳浮腫2名、ギランバレー症候群1名でした(表)。致死的な神経障害を呈した患者はデルタ株流行以前と比較して、デルタ株でより多く出現していました。予後としては42名中10名(24%)が退院時に新たな神経学的欠落を伴って退院、8名(19%)が死亡していました。神経障害とワクチン接種状況が確認された新型コロナワクチン接種適応患者155名中147名(95%)がワクチン未接種であり、致死的な神経障害を呈したワクチン接種適応患者でも16名中15名(94%)がワクチン未接種でした。
 急性COVID-19あるいはMIS-Cで入院した米国の小児および青年における神経障害は2021年も持続しており、急性中枢神経感染症/ADEMが2020年よりも多くの致死的症例の原因になりました。新型コロナワクチン接種は2021年に小児や青年が接種可能になりましたが、ほとんどのワクチン接種適応患者はワクチンを受けていません。新型コロナワクチン接種は、急性COVID-19およびMIS-Cの入院阻止に有用であり、関連する神経学的合併症を減らす可能性もあります。

図:致死的COVID-19関連・神経障害の中枢神経画像

A:脳静脈洞血栓を伴った髄膜炎
B:脳髄膜炎(ADEM様)
C:脳炎(ADEM様)

表:

著者名:Kerri LL, Tina YP, Cameron CY, et al.
論文名:Changes in Distribution of Severe Neurologic Involvement in US Pediatrics Inpatients With COVID-19 or Multisystem Inflammatory Syndrome in Children in 2021 vs 2020
雑誌名:JAMA Neurol. 2023;80(1):91-98.
DOI:10.1001/jamaneurol.2022.3881
URL: https://jamanetwork.com/journals/jamaneurology/fullarticle/2798383?resultClick=1

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「2021/22シーズンに米国でインフルエンザで入院あるいは死亡した18歳未満の小児および青年におけるSARS-CoV-2とインフルエンザの重複感染の有病率と臨床的特徴」

 米国では、2022/23シーズン早期から小児のインフルエンザ関連入院が増加し、SARS-CoV-2も同時流行しています。インフルエンザとCOVID-19の同時流行は今シーズンが初めてですが、両ウイルスの重複感染が重症度にどの程度影響しているかは不明です。そこで、2021/22シーズンに米国疾病予防管理センター(CDC)に報告された、18歳未満の重複感染症例(2021年10月3日~2022年10月1日)について解析しました。データはインフルエンザ入院サーベイランスネットワーク(FluSurv-NET)を通して収集しました。人口ベースのRESP-NETシステムで、ここには250を超える救急病院が含まれています。
 SARS-CoV-2の重複感染は、インフルエンザ関連入院の6%(575名中32名)に認められ、インフルエンザ関連死亡例の16%(44名中7名)に認められました。重複感染例は重複感染がなかった症例と比較すると、入院割合が高く、人工呼吸管理(4% vs 13%; P = 0.03)、BiPAP/CPAP使用(6% vs 16%; P = 0.05)が多いことが示されました。死亡した重複感染症例7名の中に、インフルエンザワクチンの接種を完了した者はなく、抗インフルエンザウイルス薬を投与されていたのも1名のみでした。重篤な転帰を予防するために、臨床医は推奨される呼吸器ウイルス検査アルゴリズムに従って治療を決定し、入院中またはSARS-CoV-2重複感染小児に対しては、早期の抗インフルエンザウイルス療法の開始を検討する必要があります。一般市民と保護者は、呼吸器系ウイルスが流行している間は、適切にフィットする高品質のマスクを着用し、生後6か月以上に推奨されているインフルエンザワクチンおよび新型コロナワクチンの接種を受けておくなど、予防戦略をたてておく必要があります。
 重複感染の死亡症例で見られた合併症は、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、細気管支炎で、インフルエンザ単独の死亡症例で見られた合併症は、肺炎、けいれん、急性呼吸窮迫症候群でした。心筋症/心筋炎は、インフルエンザ単独死亡症例32名中5名(16%) 、重複感染症例では認められませんでした( P=0.57 )。重複感染死亡症例5名中 4名、およびインフルエンザ単独死亡症例36名中21名(58%)で、1つ以上の基礎疾患が報告されました( P = 0.63 )。抗インフルエンザウイルス療法は、重複感染死亡症例の1名とインフルエンザ単独死亡症例17名(46%)に実施されていました( P = 0.21 )。

著者名:Adams K, Tastad KJ, Huang S,et al.
論文名:Prevalence of SARS-CoV-2 and Influenza Coinfection and Clinical Characteristics Among Children and Adolescents Aged <18 Years Who Were Hospitalized or Died with Influenza -United States, 2021-22 Influenza Season.
雑誌名:MMWR Morb Mortal Wkly Rep.
DOI:10.15585/mmwr.mm7150a4.
URL: https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7150a4.htm?s_cid=mm7150a4_w


【2023年2月8日掲載】

「新型コロナウイルスのオミクロン株の自然感染とワクチン接種による免疫反応の違い」

 小児のSARS-CoV-2感染は、ほとんどが軽症または無症候性ですが、デルタ株・オミクロン株などの変異株の流行、行動制限の緩和などにより小児の症例数が増加しています。武漢株において、小児は成人と比較してSARS-CoV-2感染後の抗体産生(※セロコンバージョン)が乏しいことが報告されていましたが、デルタ株・オミクロン株感染後の反応については良く知られていません。
 この研究は、オーストラリアで2020年3月から2022年7月までの間に新型コロナウイルス感染症と診断された成人、小児を含む計580名のコホート研究の一環として行われました。この期間中、武漢株(2020年3月)、デルタ株(2021年5月)、およびオミクロン株(2021年11月)の3つの流行がありました。6か月から17歳までの新型コロナワクチン未接種の新型コロナウイルス感染小児は107名、ワクチンを最低1回接種済でオミクロン株に感染した小児は24名でした。なおオーストラリアでは2021年12月から5~11歳小児への新型コロナワクチンが開始され、2022年8月時点で2回接種率は40.6%と推定されました。
 武漢、デルタ、オミクロンの各変異株に感染したワクチン未接種児、およびワクチン接種後オミクロン株に感染した児の抗体反応を、SARS-CoV-2 S1特異的IgG測定法と中和試験(%阻害)を用いて評価しました。ワクチン未接種児における武漢株、デルタ株、オミクロン株の自然感染後の1か月後までのセロコンバージョン率はそれぞれ37.5%(21/56)、100%(35/35)、81.3%(13/16)でした。しかし、抗体反応(平均抗体量(単位/mL)・阻止率)は、以下の表のとおりそれぞれ359.0・74.0%、435.5・76.9%、46.4・16.3%であり、オミクロン株感染後の抗体反応はデルタ株、武漢株感染後と比較して著しく低値でした。一方、ワクチン接種後オミクロン株に感染した児での抗体反応(平均抗体量(単位/mL)・阻止率)は2856・96.5%と最も高い値を示しました。

 

図.武漢(黒)、デルタ(青)、オミクロン(赤)変異株に感染した小児と、以前にワクチンを接種しオミクロンに感染した小児(オレンジ)における感染後36日目のSARS-CoV-2抗体反応。
a SARS-CoV-2免疫グロブリンG(IgG)血清陽性率 武漢S1抗原を用いたIgG ELISAで測定し、Fisher’s Exact testを用いて比較
b 武漢S1抗原を用いたELISAで測定したSARS-CoV-2 IgG濃度
c 武漢特異的RBD抗原による中和検定で測定したSARS-CoV-2 中和抗体。異なるSARS-CoV-2波、ワクチン接種者と非接種者の小児のS1特異的IgG抗体濃度および中和抗体(%阻害)の比較は、両側Mann-Whitney U検定を用いて行った。
d 武漢RBDまたはOmicron RBD特異的抗原を用いて、中和検定により測定したSARS-CoV-2中和抗体;変異体特異的抗体応答は両側Wilcoxon符号順位検定で比較検討した。
点線は血清陽性のカットオフ値を示す。各データポイントは、各波(武漢、n=21、デルタ、n=35、オミクロン、n=13)およびワクチン接種後に感染した人(n=24)の血清陽性者を示す。データは幾何平均濃度±95%信頼区間として表示。BAU, binding antibody units
(出典より引用翻訳・改変)

 以上より、小児のオミクロン株自然感染後の免疫反応は低く、再感染のリスクと長期的な健康に影響を与える可能性があると考えられます。小児に対するワクチン接種は、オミクロン株感染後の低い免疫反応を改善させる可能性があることを示唆しています。オーストラリアではさらに低年齢へのワクチンが導入されており有効性の評価が待たれます。

著者名:Toh ZQ, Mazarakis N, Nguyen J, et al.
論文名:Comparison of antibody responses to SARS-CoV-2 variants in Australian children
雑誌名:Nat Commun 2022 Nov 23;13(1):7185.
DOI:10.1038/s41467-022-34983-2.
URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9700848/

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過去の掲載分

2022年1月27日~12月23日掲載分

2021年2月4日~2021年11月11日掲載分

2020年3月24日~2020年12月14日掲載分

 

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