2023年が、世界の子どもたちとそのご家族にとって、また本学会会員の皆様にとって素晴らしい年になることを心より祈念しております。
振り返れば、2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行は、災害級の出来事として医療と社会に大きな影響を与えてきました。2021年までは、子どもの感染者は少なく、新型コロナウイルス流行の直接の影響は限定的で、むしろ学校生活などの制限による間接的な影響が心配されました。
2022年になりウイルス株が変化してからは、子どもの感染者も急増するとともに、急性脳症や心筋炎などで亡くなる子どもも増え、様相が変わってきました。5歳から11歳、さらには6か月から4歳を対象としたワクチンが導入されましたが、なかなか社会の理解が得られずワクチン接種があまり進まない状況となっています。医学・科学への信頼を得ることの難しさを感じます。
新型コロナウイルスの波状の大流行が今後も続くのか、そして子どもたちにどの様な影響を与え続けるのか現時点では将来が見通せません。すでに長期間となっている様々な生活の変容が子どもたちに与える影響も心配ですし、一方ではウイルス株の変化による子どもの新型コロナウイルス感染症の重症化にも注意して対応する必要があります。小児医療の立場から、さらに幅広く子どもたちを支えていくことが求められていくと思います。特に、今後、子どもたちの生活がどの様に正常化していくのか、そこにも小児科医の重要な役割があると思います。
2022年を振り返って、我々が最も衝撃を受けたのは、ウクライナでの戦争だった様に思います。小児医療は、小さな命を一つ一つ大事に守る医療ですが、戦争という大きな波が、一国の子どもたちの生活をいとも簡単に破壊する様を目の当たりにし、やりきれない思いで映像をご覧になっていたのではないでしょうか。日本小児科学会理事会としても、その思いを「JPS Statement on Lives and Well-being of Children in Ukraine」として声明の形で発表を致しました。また、会員の皆様に代わりウクライナの子どもたちのための寄付もさせていただきました。なんとしても、2023年は、世界が平和に向かうことを祈らずにはおられません。
日本小児科学会の明るい話題として、2022年4月に開催された第125回学術集会は、福島県郡山市で、福島県立医科大学の細矢光亮会頭の下で開催をされました。東日本大震災から10年の歳月を経て、初めて東北の地での開催となりました。震災に関連した数多くの発表があり、日本小児科学会として震災と原発事故について振り返る意味でも極めて意義深い大会となりました。新型コロナ感染流行の影響で、現地参加とリモート参加のハイブリッド形式での開催でしたが、会場には多くの参加者が来られて盛り上がりを見せ、学会としても新型コロナ禍から次に進む契機ともなった様に思います。
2023年は、こども家庭庁が設置される記念すべき年となります。「こどもまんなか」を合言葉に、改めて社会として子どもと子育て家庭を支援していく、大きなうねりとなることを期待しています。
少子化自体は、先進国に共通した現象であり、近代の生活様式にも深く関わっており、その対策は簡単ではありません。さらに、新型コロナ禍のこの2年間でさらに加速している様に見えますし、特に婚姻率の低下が顕著となっている点は大変懸念されます。しかし、少子化の進行は日本社会の将来を決める最重要課題であることは間違いありません。小児科医としてできることを、私たちもぜひ知恵をだし力を合わせて、子育てをしやすい社会作りに協力していきたいと思います。
2023年も、予測もしなかった様なことが起こるのかもしれませんし、あるいは、少しずつ社会が正常化していく穏やかな年になるのかもしれません。社会がどの様な状況であっても、日本小児科学会は会員の皆様と一緒に、子どもと医療保健の課題に丁寧に取り組んでいきたいと思います。
本年も宜しくお願い致します。
会員各位
ウクライナでの軍事紛争により、会員の皆様もショックを受けられていることと思います。戦火の中に子どもたちがさらされていることが連日報道されており、胸が締め付けられる思いで過ごされていることと思います。
ウクライナからの報道では、傷害を受けた子どもや慢性の病気の子どもたちがこども病院の地下で診療を受ける姿、あるいは診療困難となり搬送されることなどが伝えられております。また、それ以外でも、多くの子どもたちが、それまで慣れ親しんだ家が破壊され戦火の恐怖の中で生活を強いられ、あるいはそこを離れ、避難する事態になっていることも報じられております。
私たちは毎日、平和な日本の中で、一人一人の子どもの命を大事にして小児科医として仕事をしております。しかし、罪もない子どもたちの命が軽視され翻弄されているこのウクライナの状況を目の当たりにして、何ができるのか、おそらく多くの会員の皆様も自問自答されながら日々の診療に向かっておられていることかと思います。
今回は非常に大規模であり大きく報じられておりますが、これまでも実際には途上国を中心に常に世界のどこかで紛争は起こっており、そこで多くの子どもたちが災厄の中に置かれてきました。ですので、今回に関して特別にこの様なメッセージを出すことにご意見があるかもしれません。それについては、十分にグローバルな視野を持ち得ておらず、世界の現実を直視してこなかった自らの不見識を恥じるばかりです。
今後、日本小児科学会としても、どの様に対応するべきなのか理事会で議論をしたいと思います。その中で学会としての支援の方法、あるいはホームページなどを通じての学会としての国際的なメッセージの発出なども急ぎ検討を致したいと思います。
ただ、会員の皆様とまずはこの思いを共有したいと思い、このメッセージを出させていただきました。
なお、戦火の中の子どもたちのために、ユニセフによるウクライナ緊急募金が開始されております。もしご考慮いただければ、必ず災厄の中に置かれている子どもたちの支援になることと思います。ぜひ、会員の皆様とその周囲の方にもお声掛けいただきご支援をいただければ幸いです。
学会としての今後の対応につきましては、適宜、ホームページにてご報告をさせていただきます。
新しい年が会員各位、そして世界の子どもたちとそのご家族にとって明るい年となることを心より祈念しております。
2020年から始まったパンデミックの中で、改めて医療が担っている重大な責任というものを深く感じさせられる日々でした。本学会の予防接種・感染症対策委員会の委員の先生方には、学会としての発信に専門的な見地から大変な尽力をいただき感謝申し上げます。小児科医としては、新型コロナウイルス感染流行の中で、子どもたちがどの様に育っているのか、大変に気になるところです。特に子どもたちの心の問題については、心配な状況にあることを示す研究や調査の結果が出てきております。ぜひ会員の皆様とともに小児科医としても、感染症としての新型コロナウイルスだけでなく、子どもたちの生活に向き合っていきたいと思います。
さて、2022年4月に開催される第125回学術集会は、福島県立医科大学の細矢光亮教授に会頭をおつとめいただき、東日本大震災後初めて東北地区で開催をしていただきます。あの日から10年の歳月を経て、今回の学会は、改めて東日本大震災、そして福島県の方々を襲った原発事故について、振り返りを行う大事な会であると思っております。
東日本大震災の1か月後、2011年4月に当時の五十嵐隆会長の下で、日本小児科学会主催の緊急フォーラムが東京で開催されました。「この大災害に小児科医はどう立ち向かうか―適切な初動と情報の共有化を目指して―」と題されたこのフォーラムで、細矢教授が大変な状況の中でかけつけてくださり、「当地で経験した原発事故とその影響」の講演をされました。その中で、福島県の医療関係者が極限の状況の下でどの様に対応されているのかご説明をいただきました。また、福島県の美しい風景のスライドも提示されながら、深い思いを込めてお話になったことを今でもよく記憶しております。原発事故で失われたものの大きさ、特に福島県の皆様にとってかけがえのない自然が失われたことを改めて実感致しました。(このフォーラムの内容は学会ホームページで今でも動画で紹介をされておりますので、ご参照いただければと思います(http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=53)。)
あの時から10年以上の歳月がたち、その間に多くの皆様が大変なご苦労をされたことと思います。そして子どもたちの生活もまた大変な影響を受けました。またパンデミックの経験は、同じ様な災害がまたいつ起こるのかも予測できないことを思い知らされました。今後の感染の状況の予測が難しいこともあり、第125回の学術集会は現地開催に加えてWebを活用したハイブリッド形式での開催が予定されます。ぜひ皆様のご参加をいただければと思います。
さて、2020年は、わが国の小児の医療保健にとっては重要な年でもありました。まず2018年12月に公布された成育基本法の具体的な肉付けとなる基本方針が発表されました。成育基本法は理念法で基本的な考え方を提示するものですが、さらに具体的な方針が取りまとめられたということになります。
それを踏まえて、これまでの縦割りの部分が多かった子どもに関する行政をとりまとめる司令塔としての「こども家庭庁」の構想が実現することになりました。国がわが国の将来を見据えて、「こども」に対する施策の重要性を、改めて認識していただいたということだと思います。個人的には実現が非常に難しいとも考えておりましたので、これが認められたことは本当に画期的なことであると思います。
私たち日本小児科学会として、こうした国の動きに呼応して、ぜひ会員が一致団結してこれを支援し、我々が果たすべき役割を認識すべきであると思います。本学会には、現場の小児科医と国の施策を結ぶ役割が求められていると思います。そこで本学会の「健やか親子21委員会」にお願いして、「成育基本法推進委員会」に名称を変更し、本学会の司令塔として取りまとめていただくことと致しました。委員会への会員の皆様のご協力をよろしくお願い致します。
新型コロナウイルス感染症については、まだまだ予測が難しい状況が続く事と思います。日本小児科学会は、会員の皆様とともに一つ一つの課題に取り組んでいきたいと思います。
本年も宜しくお願い致します。
公益社団法人日本小児科学会
会長 岡 明
第124回日本小児科学会学術集会は、開催地の京都府での新型コロナウイルス感染症の再拡大に伴い、一般演題をWeb聴講のみとするなど制限した形でのハイブリッド開催となりました。4月に入ってからのまん延防止等重点措置の適応などを受けて、会員の皆様には直前での予定の変更などもお願いしたかと思います。そうした影響下ではありましたが、充実した内容のプログラムのおかげで、リモートでの参加をされた会員の皆様にとっても意義深い学術集会になったのではないかと思います。改めて、こうした感染拡大の可能性も最初から念頭において綿密にご準備いただいた細井創会頭ならびに京都府立医科大学小児科学教室の先生方のご尽力に心より御礼を申し上げます。
本学会の通常総会については、従来は学術集会時に開催をしております。現地での対面で開催、あるいはハイブリッド開催なども検討致しましたが、万が一、公益社団法人としての手続きに瑕疵があると学会運営が滞ることになり、会員の皆様に多大なご迷惑をおかけする可能性を考慮し、内閣府の指導内容などに基づいて代議員各位への書面による議決権行使をもって開催とさせていただきました。
対面での総会が、2年続けて開催できておらず、会員の先生方のご意見を直接伺う機会がなく誠に申し訳ありません.何かご意見などございましたらお寄せいただければ幸いです。
本学会としては、新型コロナウイルス感染症に関し、昨年、横断的な学会組織として新型コロナウイルス感染症対策ワーキングを立ち上げ、「子どもおよび子どもにかかわる業務従事者のマスク着用の考え方」など情報を発信しております。また、予防接種・感染症対策委員会による「小児の新型コロナウイルス感染症の診療に関連した論文」の紹介、小児の感染患者のレジストリ調査の実施と早期公開情報の発信、さらには社会保険委員会による「新型コロナウイルス感染症に伴う病院小児科の影響調査(2次調査概要)」報告などの情報を発信しております。ホームページに適宜アップしておりますので、「新型コロナウイルス関連情報」などご覧ください。レジストリ調査についてもぜひご協力いただければと思います。
国全体の大きな動きとして、2018年12月に成立した理念法である「成育基本法」に基づき、その内容を肉付けした「基本的な方針」が本年に2月に閣議決定され、成育医療の関連した動きが活発になってきております。
さらに、従来の縦割り行政の弊害をなくし子ども中心の社会に必要な行政組織として、こども庁(https://www.child-department.jp/)、あるいは子ども家庭庁が提言され、国の方針に取り入れられることも報道されています。成育基本法に関連した施策の具体化、さらにはこどもに特化した庁の創設など、こどもを大事にする流れが社会の中に出てきていることは大変にありがたいことであると思います。
本学会は、国民運動である「健やか親子21」(http://sukoyaka21.jp/)への協力なども行ってきましたが、今後「健やか親子21」では、成育基本法の方針で示された課題にも取り組むこととなっております。また、深刻な社会問題である子どもの貧困については、「夢を貧困につぶさせない 子供の未来応援国民運動」(https://kodomohinkon.go.jp/)も行われております。
本学会としても、子ども中心の社会の実現に向けて、成育基本法、こども庁、健やか親子21などの国民運動について、学術団体として、また小児科医の団体として貢献できる部分については、ぜひ期待される役割を果たしていきたいと考えます。
会員の皆様とともに、丁寧に子どもと医療保健に係る課題に取り組んでいきたいと思います。よろしくお願い致します。
新しい年が皆様にとりまして幸多き年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。
昨年は予想もしなかったパンデミックの年となりましたが、会員各位は、様々な思いで新春を迎えられていることと思います。COVID-19感染により、日本全国で多くの貴重な命が失われました。改めてご冥福をお祈りさせていただきます。
一方で、小児に関しては、幸いにも成人・高齢者の方に比して重症化することも稀であり、重症の感染例が小児医療の現場で課題になることはほぼありませんでした。これを、Biopsychosocialな多角的な視点から見ると、COVID-19はBio-medicineの側面では、子どもへの影響は限定的であったということかと思います。しかし、COVID-19によるPsycho-socialな影響については、我々にも十分に把握しきれておりませんが、計り知れないものと心配をしております。
学校が閉鎖され、外出も憚られるという極めて特殊な状況が月単位で持続し、やっと再開した学校も厳しい感染対策の下での生活を強いられております。適応という点でも、学校に通えない生活が続いた後の学校生活には難しさがあると思います。特に、もともと集団生活が苦手な子どもにとっては、改めて環境の変化に対応しなければなりませんし、新入生など節目にあたる年の子どもにとっても、このシチュエーションに対応しながら、同時に全く新しい環境に適応することが求められました。また、全てに感染対策が強調され優先されることが、経験の少ない子どもの心に与える影響も懸念されます。マスクで顔を半分隠して会話することが日常化してしまいましたが、乳幼児が人の表情を読み取ったりする力を育てる機会を奪っているかもしれません。今後流行がおさまりマスクをとる生活が始まったときに、不安が昂じたり戸惑うこともあるかもしれません。経験の蓄積のある大人と違って生活の変化に影響を受けやすい子どもたちにとって、大変な試練であると思います。いたずらに不安を煽る様な事は避けなければいけませんが、COVID-19による生活の変容による子どもたちの心への影響は、これから流行が落ち着いて普通の生活に戻ったときに、本当の意味での大きさが明らかになるのかもしれません。
なお、日本小児科学会では新型コロナウイルス感染症対策ワーキンググループを設置し、予防接種・感染症対策委員会を中心とした委員会横断的に、COVID-19への学会としての取り組みを進めて参りました。学会ホームページなどでの情報発信を中心に、COVID-19に関するエビデンスを整理し、子どもの立場に立った意見の表明なども行ってきました。社会的にも意見の相違があり激しい議論がされている中で、学術団体として節度を持った発信を行ってきていただいたと思っています。不十分ではないかというご意見や、内容に批判的なご意見も寄せられましたが、海外での流行が先行する中で、得られた情報を丁寧に整理して社会や会員向けに提示していくことが、学会としての重要な役割ではないかと考えております。そして、国内の状況については、学会としても調査を行い、それを共有することが必須であると考えております。調査にも引き続きご協力をいただければと思います。
さて、COVID-19の流行は、緊急事態宣言や経済の停滞など多大な社会的影響を及ぼしましたが、最も直接的な影響を受けた場所の一つが医療現場でした。そこで働く小児科医としては、発熱の機会の多い子どもの診療での感染対策に腐心することとなりました。また、COVID-19感染を恐れての受診抑制傾向や、学校の閉鎖や日常生活での感染対策による感染症一般の減少により、小児科への受診者が減少しました。こうしたCOVID-19が小児医療現場に与えている医療経済的な側面も、本学会としても直視する必要があると考えます。さらに今回のCOVID-19流行が地域の小児医療の構造を変える可能性もあり、例えば二次医療圏ごとの診療体制などに変化を求められる可能性もあると考えられます。また、小児科の一次診療のあり方にも影響がでてくるのかもしれません。ただ単にCOVID-19以前の状態に戻れば良いという事でなく、これからの小児科医療のあり方を考える良い機会でもあると思います。昨年はCOVID-19への対応に日々追われ立ち止まって考える時間もない毎日であったかと思いますが、今後日本小児科学会として会員の意見をお寄せいただきながら、改めて小児医療のグランドデザインの議論が必要であると思います。
明るい話題もありました。小児医学の進歩については、小児がんや神経筋疾患などの領域で、ゲノム医療が治療に実装化され、正にベッドサイドに届き始めております。高額な費用など今後の議論となる課題もありますが、難病治療のブレイクスルーとなっていることは事実であり、それをこうして実感できる日が来たのだと思います。引き続き先端的な医療技術の開発研究で、会員の皆様が活躍される事を期待しております。
何よりも重要な小児科の役割は、これからも今後も子どもたちの育ちと生活を守り支援することにあります。小児医療の現場も、社会全体の経済状況と同様に、今まさにCOVID-19の流行という未曽有のチャレンジを受けており苦しいところです。小児科は社会の未来を担う子どもを育むという使命を持っております。ここは使命感を改めて奮い立たせて、チャレンジを受けている子どもたちとその家族のために頑張らなければなりません。
まだもう少し、先行きの見えにくい状況が続く事と思います。学会としても前を向いて、会員の皆様とともに一つ一つの課題に取り組んでいきたいと思います。
本年も宜しくお願い致します。