学会について

会長挨拶

2025年 年頭所感

 2025年が、世界の子どもたちとそのご家族、そして日本小児科学会の会員の皆さまにとって、希望に満ちた素晴らしい年となりますよう、心より祈念申し上げます。
 2024年は、社会がCOVID-19感染拡大によるパンデミック後の新たな日常を築きつつ、少子化の進行、医師の働き方改革など多様な課題に直面した一年でした。このような状況の中で、会員の皆さま方におかれましては、診療や教育、研究を通じて、子どもたちの健康と福祉を守るために奮闘を続けてこられたものと、敬意の念を表します。 さて、2024年の出生数の公式統計はまだ発表されておりませんが、上半期の出生数は32万9、998人と報告されており、最終的には2023年の年間出生数75万人を大きく下回ることが予測されています。少子化が一層進行する中、昨年から1か月児および5歳児健康診査支援事業が導入され、新生児拡大マススクリーニングの実証事業も開始されました。これらの施策は、少子化問題に対応するための重要な取り組みであり、子育てを支援する医療保健活動の重要性はますます高まっていると考えられます。本学会としても、1か月・5歳児健診推進アドホック委員会を設置し、国による支援事業の適切な運用と健診の円滑な実施体制構築の支援を進めております。

 

   公益社団法人日本小児科学会 会長

   滝 田 順 子

本委員会には、本学会の会員に加え、日本小児科医会、日本小児保健協会、さらには行政の方々にもご参加いただいております。機動力と実行力を兼ね備えたメンバーが結集し、5歳児健診推進体制コンソーシアムの設置に向けて、迅速かつ着実に活動を進めています。
 
 また、学童の健康状態を早期に把握し、必要な支援や治療につなげる重要な機会である学校健診についても、さまざまな課題が顕在化しており、見直しが求められる時期に来ております。具体的には、学校医や保健師の不足、地域ごとの健診実施体制や内容のばらつきがあげられ、これが結果として子どもたちが受けられる支援に格差を生じさせる要因となっています。さらに現在の健診は身体的な検査が中心であり、発達障害や心の健康に関する評価が十分に行われていないという課題も見逃せません。これらの課題を解決するために本学会では、健診項目やプロセスの標準化、健診データのDX化の推進、さらにAIの活用を支援してまいります。また、学校健診において発達や心の健康にも十分配慮した対応をどのように実現するかについても、具体的な検討を進めていく所存です。
 
 地域社会で子どもたちが健やかに育つためには、乳児健診、5歳児健診、そして学校健診を円滑に実施できる体制を整え、安心して子育てできる環境を構築することが不可欠です。その実現に向けて、会員の皆さまの一層のご協力をお願い申し上げます。
 
 一方、2024年4月に開始された医師の働き方改革は、小児科医にとって、医療現場の特性や小児科医療の特殊性に起因する多岐にわたる課題を浮き彫りにしています。小児医療の現場では、24時間体制での緊急対応や夜間救急対応が頻繁に求められ、その提供体制は医療者の長時間労働や過重労働に大きく依存してきました。働き方改革によって勤務時間の上限が設けられることで、医療者の健康が守られ、ワークライフバランスが改善される利点もあります。しかしながら、救急医療体制の縮小や診療の質の低下につながり、現状の小児の医療提供体制の維持が困難になることが懸念されます。特に、勤務環境が十分に整備されていない地域では、一部の勤務医に過重な負
担が集中することや、患者の診療機会が減少することが予想され、最悪の場合には小児医療体制の破綻に直面する恐れがあります。これらの課題を克服するためには、ICTやタスクシフトの活用によるチーム医療の促進を通じて、診療業務を効率化し、医師の負担軽減を図る必要があります。本学会としては、医療現場のICT化の促進や遠隔医療の実装を加速するための提言、学会でのワークショップの開催などを通じて、これらの課題解決に尽力してまいります。
 
 また小児科医の約45%は女性医師なので、時短勤務や職場環境の整備により、女性のキャリア支援を推進することもタスクシフトやチーム医療の推進につながり、働き方改革の課題克服の一助となるものと期待されます。そこで、本学会では、ダイバーシティ・キャリア形成委員会が中心となって、環境整備、意識啓発や教育の視点から、必要かつ有効な支援を行ってまいります。
 
 さらに働き方改革は、若手医師の教育や研究推進にも影響を与える可能性があります。学会、論文発表の準備や専門医取得のための知識、技能の取得時間が、上司から命じられる時間外労働とみなされることで、専攻医の主体性が損なわれるのではないかと危惧しております。そこで、学会が主導する研修プログラムやハンズオンセミナーを通じて、魅力的なキャリアパスの提示も行ってまいります。また職場環境や研究環境を改善することに加えて、研究活動に適した時間帯や環境を選べる柔軟な働き方を促進してまいります。
 
 2024年に顕著となった医薬品や医療用資材の供給問題は、小児医療にも深刻な影響を与えました。本学会では、現場の声を迅速に行政に届け、問題解決に向けた提言を行ってまいりました。2025年も、これらの課題に対して引き続き注力し、小児科医療の持続可能性を確保するための取り組みを強化します。具体的には、小児用医薬品の開発や製造に対する補助金や税制優遇措置を拡充するなどの公的支援の推進、既存の医薬品を小児にも適用できるよう、承認プロセスを簡素化するといった適応拡大の推進、必要不可欠な医薬品や資材を国や地域単位で備蓄し、供給不足に迅速に対応する緊急備蓄の強化があげられます。関係各団体、企業、行政とも連携して、必要な医薬品や医療用資材を子どもたちの元へ届けられることを目指します。
 
 世界に目を向けますと、国際社会においても、紛争や気候変動などの影響で多くの子どもたちが危機に直面しています。私たちは、小児科学を通じて国際社会とも連携し、未来の希望を育むために行動していく責任があります。2025年、本学会は会員の皆さまとともに、小児医療を支える新たな挑戦を続けます。少子化対策、働き方改革、そして国際社会との連携を通じて、すべての子どもたちが健やかに成長し、夢を追いかけられる未来を実現していきたいと思います。
 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

日本小児科学会会長就任のご挨拶

 令和 6 年 4 月20日に日本小児科学会会長を拝命いたしました京都大学大学院医学研究科発達小児科学の滝田順子でございます。

 本学会は明治29年(1896年)に小児科研究会として発足しました。その後、明治35年(1902年)には会則が改変され、日本小児科学会に改められました。小児科研究会の発足から数えますと、およそ130年の歴史をもつ伝統ある本学会において、女性の会長は初めてでありますので、大変身に余る光栄であり、かつその重責に身が引き締まる思いです。伝統の中にもリベラルが共存する大変素晴らしい環境を築き上げてくださいました偉大な先輩方、会員の皆様方に心より感謝申し上げます。

 日本小児科学会の目指すものは、定款を紐解きますと、小児科学に関する研究と小児医療との進歩、発展をはかるとともに会員相互の交流を促進し、小児医療の充実、子どもの健康、人権および福祉の向上、さらにこれらを社会へ普及啓発すること、と記載されております。このミッションを果たすためには、こどもたち、日本小児科学会、小児医療を取り巻く社会環境の課題を解決することが急務と考えます。

 まずこどもたちを取り巻く環境の課題として第一にあげられるのは、少子化の進行です。2023年には出生数75万人台と過去最低の数字が示されました。その一方で、生命を脅かすような重大ないじめや児童虐待件数は増加傾向にあり、それに呼応するように小・中・高生の自殺者も年々増加傾向にあります。つまり生まれるこどもは少なくなる一方で、こどもの生命の危険は高まっている状況となっています。そんな中、2018年には成育基本法が成立し、また2023年には、こどもが真ん中の社会を実現するためにこども家庭庁が発足しました。この環境の変化を受けて、私ども小児科医は、行政とも連携し、生まれたこどもを失わない、心身ともに健やかな成長を支援する必要があります。1か月児と5歳児の健康診査支援事業の推進は、こどもの健康を守るためには大きな加点になるものと期待されますが、思春期以降の青少年に対する健康管理も重要な課題と考えます。

 次に小児医療を取り巻く環境の特徴として、疾患構造の変化が挙げられます。Common Diseaseが減少する中で難病のキャリアや超低出生体重児が増加し、複雑かつ濃厚なケアが必要な医療的ケア児が増加しております。さらに最近、医薬品の供給不安、診療報酬改定、ドラッグラグの問題といった新たな課題も浮かび上がっています。これらの課題解決に向けて、地域の小児医療提供体制の維持と均てん化、またアクセス性の向上や療育環境の更なる整備が求められると思います。一方、小児科医を取り巻く社会環境における最近の大きな変化としては、2018年から開始された新専門医制度、それから今年の4月にいよいよ開始された医師の働き方改革が挙げられます。さらにNature誌でも取り上げられましたが、現在、日本の研究力の低下が深刻な問題となっております。また他方、小児科専攻医のうち女性の割合は概ね40 %程度が継続しておりますが、国試合格者の中で女性は30 %程度なので、小児科は女性医師の割合が多い診療科といえます。そこで、次世代を担う若手小児科医の確保・育成、ダイバシティ―の推進、研究力の促進が今後の重要な課題と考えられます。

 私は、本学会会長として、これらの課題解決のために、次の5つの挑戦に取り組みたいと考えております。まず、第一の挑戦として小児医療提供体制の更なる充足と質の均てん化(オンライン診療やこども・青年のメンタルヘルスケアの推進)を進めます。第二の挑戦として、次世代を担う若手医師の育成(サブスペシャルティ専門医制度の整備構築、適切なキャリア支援)、第三の挑戦として、ダイバシティーの推進(女性・若手医師の業務環境の整備、働き方改革の適切な対応)に取り組みます。第四の挑戦として、小児医療の研究とイノベーションの推進(リサーチマインド、国際化の推進)、また第五の挑戦として機動力と発信力のある学会・理事会運営(委員会活動の活性化、理事会の効率化、行政との連携)に臨みます。

 そして、これらの挑戦を成し遂げた先に全てのこどもたちと次世代の小児科医に輝かしい未来と夢を届けるフロントランナーとして、お役に立ち続けたいと願っております。

 今後ともどうかよろしくご支援、ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。

 

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