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2016年 年頭所感

日本小児科学会 会長
五十嵐 隆


 新年、あけましておめでとうございます。日頃から日本小児科学会の活動に御協力をいただいている会員の皆様にこころから感謝申し上げます。
 日本小児科学会の最も重要な目的はわが国の小児科学という学術活動を発展させることです。最近のわが国の小児医学の学術活動を英文論文発表数で評価すると13 年前と比較して減少状態が続いていました。日本小児科学会はこの様な状況を直視し、学術委員会に研究活性化小委員会を設け、論文作成のための入門セミナーなどを積極的に実施してきました。その結果、2014 年には上昇に転じています。良い臨床は優れた研究によって裏打ちされます。課題はあるものの高いレベルで充実しているわが国の小児科学をさらに発展させるためには、臨床・基礎研究を促進する仕組みを具体化し、積極的に若手・中堅小児科医の臨床・基礎研究への参入を促す施策を日本小児科学会が中心となって推進することが必要です。幸いに小児科のsubspecialty の学会の中から優れた臨床研究が公表されており、この様な動きを更に発展させることが求められています。最近になって臨床研究を推進させるための様々な体制が研究医療機関や病院で整備されつつあります。一方、小児科学の基礎的研究も極めて重要であり、関係者の更なる努力が今後も必要です。
 平成26 年5 月に「難病の患者に対する医療などに関する法律」と「児童福祉法の一部を改正する法律案」が国会で可決され、平成27 年1 月より法律が施行されました。今回の難病対策の改革及び小児慢性特定疾患の制度改正により、対象疾患数が増えたこと、事業が義務的経費による運営になったこと、自立支援事業が新設されたことなどは患者さんと御家族が長年待ち望んできたものです。特に難病対策事業については制度創設から40 年経っての初めての抜本的改革でした。また、小児慢性特定疾患患者さんへの医療費支援は20 歳になると打ち切られますが、第二次の指定難病として162 疾患が、部分的な疾患も含めると180 疾患が新たに難病に指定され、その中に小児慢性特定疾患が多数加わったことは成人になっても支援を受けられることになり、画期的な変革です。さらに、日本小児科学会を中心とした関連学会と厚生労働省研究班が協力して昨年8 月末に第三次分の指定難病に認定していただきたい小児慢性特定疾患名を厚生労働省に提出しました。今回の小児慢性特定疾患や指定難病の選定にあたっては、小児科のsubspecialtyの学会、小児の外科系の学会、難病の子どもを守る会から多大な御協力をいただきました。関係者の方に深く感謝申し上げます。
 日本小児科学会では現在女性会員数が増加しています。日本小児科学会が会員の要望を正しく反映するために、今まで以上に女性の代議員や理事を増やすことが必要です。現在、日本小児科学会には女性理事が1 名おられますが、女性会員数から考えるとまだまだ少ない状況です。昨年春の総会で女性理事枠を1名ではありますが新設することを御承認いただきました。次期の日本小児科学会理事会では複数の女性理事が誕生することを祈っております。さらに、実地医家や病院勤務者が理事に就任されることも必要と考えます。医学会だけでなくわが国では全般的に男女平等の実現の点で未熟です。世界経済フォーラムが発表した「国際男女格差レポート2014」によるとわが国の男女平等達成レベルは142 か国中104 位でした。
 わが国の子どもへの予防接種体制に少しずつ改善が見られています。一昨年秋に水痘ワクチンが定期接種化されました。今後、ムンプス、B 型肝炎、ロタウイルスなどのワクチンを定期接種化すること、若年成人への百日咳ワクチン接種、混合ワクチン製剤を増やすこと、不活化ワクチンを続けて接種する場合の接種間隔の制限撤廃などが重要な課題になっています。また、ヒトパピローマウイルスワクチンが定期接種になったにもかかわらず現在勧奨が取りやめとなっています。機能性身体症状に対する理解、支援、治療がわが国の医療関係者の中で確立していないこともその理由の一つとされます。機能性身体症状を呈する患者さんにしっかりと対応できる診療体制を構築するために、会員の皆様にも御尽力いただきたく存じます。さらに、自分の健康を守り、増進するために、子どもが感染症や予防接種等に関する正しい知識を持つことができるように現行の学校教育を変えることにも小児科医が関与してゆく必要があります。
 米国で子どもや青年のプライマリケアを担当する小児科医にとって、健康な子ども(well child)の健康・保健問題に対する総合的なコンサルタント業務の占める割合が高いことが特徴です。わが国では乳幼児健診や学校検診が行われています。しかしながら、地域によって差があるものの健診の多くは集団で行われています。集団健診では多職種の医療従事者による評価と指導がある、養育状況の評価ができるなどの利点があります。一方、プライバシーが保障されない、児の成長・発達に悩んでいる保護者が参加しづらいなどの問題があり、さらに子育てに関して質問する時間を十分には持てないことがほとんどです。特に現在行われている学校検診では子どもの様々な悩みを個別に相談できる状況になっていません。米国ではすべての子どもや青年に担当医が決まっていて、幼児期以降の子どもや青年は21 歳になるまで基本的に年1 回の健康診査(health supervision)を受けることが義務づけられています。子どものこころと体を診察・評価するだけでなく、生活習慣、親子関係、学校生活など子どもを取り巻く環境を把握し、心身の健康に影響を与えるリスクをスクリーニングして、必要な場合には適切な指導や助言を行っています。乳児への対応は発達評価、栄養指導、親子関係の評価、予防接種、養育者への健康指導などが中心ですが、思春期の子どもには学校生活、友人関係、性感染症、避妊、社会性や精神保健の問題にも対応しています。思春期の子どもや青年の個々の問題を拾い上げて適切に対応するには、現在のわが国の学校健診の枠組みの中では不可能です。思春期の子どもや青年期の健診の個別化と義務化とがわが国の将来を構築するために求められる今後の課題と考えます。さらに、ていねいに時間をかけて行われる健診に何らかの形で経費上の保障があることが必要です。日本小児科学会は乳幼児健康診を標準化することに努力し、ようやくその目的を達成しつつあります。今後は、思春期の子どもたちの健診をhealth supervision の見地から具体化して会員に提示すると共に、わが国の思春期の子どもたちの健診体制を見直し、会員の力を結集して理想的な体制として構築することが大きな課題です。
 日本小児科学会は2007 年に「小児科医は子ども達が成人するまで見守ります」と宣言しました。また、一昨年に「小児科医は子どもの総合医である」ことを再確認しました。病気や障害を持つ子どもや青年はもちろんのこと、すべての子どもや青年の健康に関する総合コンサルタントとしての機能がこれからの小児科医に求められることになります。そのためには、小児科学・小児医療のこれまでの教育だけでなく、現場における診療補助者の配備などの点でも大きな変革が必要です。さらに、何よりもまずプライマリケア医療に従事する小児科医自身の基本的姿勢を変革することが求められています。
 0 歳児保育の対象児がすでに10 万人を超え、保育所へ入所する子どもは幼稚園に入園する子どもよりもはるかに多い状況になっています。また、保育園で子どもが過ごす時間は平均で約11 時間に及びます。保育施設での感染症や食物アレルギーなどへの対策が必要です。会員の皆様が園医となって保育施設での子どもの保健・予防活動に御尽力いただきたく存じます。また、経済状況の悪化を理由にともすると劣悪化しかねない保育施設の環境を、子どもの健全育成の立場から改善するように地域で働きかけてくださるようにお願いいたします。日本小児科学会は園医、看護職、保育士を対象とする研修をこれからも行い、幼い子どもの成育環境を整備したいと願っています。
 高度且つ先進的な医療の進歩によりこれまで死亡していた子どもが救命された結果、障害や疾患を持って長期間生存する子どもが増えています。障害や疾患を持つ子どもや青年の医療・保健問題への対応は先進諸国における共通の課題です。しかしながら、高齢者と比較すると、障害のある子どもや青年とその御家族が安心して医療支援や福祉サービスを受けることの出来る体制がわが国では十分ではありません。子どもや青年のレスパイトケアや終末期のケアを行う英国の「ホスピス」の様な機能を果たす施設がわが国では極めて限られています。そのために、在宅医療を担う家族の負担にはとても大きなものがあります。在宅医療を担う家族を支援するためにも、こうした施設の充実が求められています。さらに、虐待やその他の理由で家族からの養育を受けられない子どもたちや一時保護のまま行き先の見つからない子どもたちが増加しています。社会的養護を必要とする子どもへの関心を高め、社会的養護施設の運営に関与してゆくことも小児科医や日本小児科学会が取り組むべき仕事と考えます。なお、昨年から日本小児科学会はこれまで大学病院小児科等が主催していた小児在宅医療実技講習会を引き継ぎ、主催しています。
 思春期の子どもたちの医療・保健の必要性が高まっています。日本小児科学会は関連学協会と協力して思春期の子どもの医療・保健問題にも適切に対応できる小児科医を育成するために活動してきましたが、小児科医が思春期の子どもたちの医療・保健を支える環境を構築できていません。さらに、子どものこころの問題にも適切に対応し、支援する体制も未整備な状況にあります。これらの点は日本小児科学会が今後克服すべき大きな課題として認識すべきであり、さらなる対応が必要と考えます。さらに、成人に移行(transition)する慢性疾患を持つ子どもの治療・療育が様々な施設にて大きな問題になっています。幸いに、一部の診療科では成人の関連学会との連携が進んでいるところが見られ始めています。日本小児科学会はこの問題の実態を引き続き調査し、内科などの関係する学会との協議が必要と考えます。さらに、小児慢性特定疾患として登録されている疾患のなかで指定難病として認定されている疾患については、成人期での医療・保健上の問題点を明らかにし、どのような対応が必要かを示したガイドを作成しました。この様なツールを増やすことで、成人への医療提供者との連携が深まることを願っています。さらに、日本小児科学会は小児慢性特定疾患の患者さんの入院加算を現行の15 歳までから20 歳にまで延長することを厚生労働省に要望しており、現在検討をいただいているところです。
 わが国の小児科専門医が社会から信頼される存在になるために、臨床家としてのスキルと人間性を高めるだけでなく、専門医教育の内容について具体的に検討し、それを社会に示し、意見を募ることが求められます。小児科専門医の取得に際して日本小児科学会が専門医を認定するのではなく、今後日本専門医機構が認定するシステムに変更されます。施設の認定、専門医の更新についても同様です。日本小児科学会は小児科専門医・専門医取得のためのインテンシブコースを開催してきました。毎回500 名を超える会員の参加を得ています。また、日本小児科学会は指導医の育成を目指して小児科医のための臨床研修指導医講習会を年3 回開催し、毎回30~42 名程の会員の参加を得ております。この様な取り組みはわが国の医学会の中でも極めて先進的であり、高い評価を受けています。本活動に御尽力されている関係者の方に感謝申し上げます。
 現在65 歳以上の高齢者は3,277 万人、20 歳未満の小児は2,741 万人となり、高齢者の人口が増えています。世代毎への社会保障費、年金、医療費、教育費などの国からの支出を比較すると、高齢者と小児への支出比は18:1 であることが明らかになりました。この様な状況にはやむを得ない面がありますが、強烈な世代間格差がわが国に存在することに注目せざるを得ません。わが国の子どもの相対的貧困率も16.3%に上昇しており、国からの子どもや子育て世代への支出の増加が現在求められています。しかしながら現実は高齢者への支出のみが増えている状況です。この様な状況を改善させるには、胎児から若年成人までの医療、保健を途切れることなく支援するための理念法である「成育基本法」を成立させることが必要です。母子だけでなく思春期の子どもや若年成人の健康の増進を目指す同法の成立に向けて、皆様の御理解と御支援を切に願っております。
 日本小児科学会が行っている様々な活動を推進するため、今後も日本小児科学会分科会、日本小児保健協会、日本小児科医会、日本保育園保健協議会、日本小児外科学会などの関連学協会や日本医師会との連携をさらに密にしたいと考えます。
 会員の皆様には日本小児科学会の活動に一層の御理解と御支援をいただけるよう、こころよりお願い申し上げます。

2015年 年頭所感

2014年 年頭所感

2013年 年頭所感

2012年 年頭所感

2011年 年頭所感

日本小児科学会会長就任のご挨拶

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