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二重投稿・二重出版 に関する判断基準と取り扱い

2021年4月15日
日本小児科学会 英文誌編集委員会
和文誌編集委員会
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1. 二重投稿 ・二重出版とは

⚫ 二重投稿(Duplicate submission)とは、同じ原稿を二つ(もしくはそれ以上)の雑誌に同時に投稿することである。二重投稿は、それぞれの雑誌が不必要な査読プロセスを経てしまうこと、さらには同じ論文を出版することになるため避けられるべきである。
⚫ 二重出版(Duplicate publication)とは、すでに掲載された論文(Prior publication)と内容が大幅に重複する論文を、その過去の論文を明記して言及することなく出版すること、もしくは出版を意図して投稿することである。医学論文の読者は、(特に明記されていない限りは)論文に書かれている内容はオリジナルであると信じており、異なる複数の研究と誤解されることでエビデンスを歪曲させることにもつながる。このことは、著作権や出版倫理などの点からも問題である。
⚫ 例外を除いて(「4.許容される二重出版」を参照)二重投稿・二重出版は許容されず、責任著者は投稿時のカバーレターで二重投稿・二重出版にあたらないことを明記する必要がある。

2. 二重投稿・二重出版の原則

⚫ 互いの論文の言語が異なっても、二重投稿・二重出版とみなす。
⚫ プレスリリースもPrior publicationとみなされる。そのため、プレスリリースは出版(公開)後に行う。
⚫ プレプリントサーバーへの掲載はPrior publicationには該当しない。
⚫ 学会発表は、研究の途中での進捗を報告しているとみなされるため、その抄録は必ずしもPrior publicationとはみなされない。そのため、途中経過を学会報告した研究について、完成した報告を論文として出版することは二重出版とはみなされない。ただし、抄録とほぼ同一のデータ・図表で構成された論文は二重出版とみなされることがある。
⚫ 二重投稿・二重出版に該当する懸念がある場合には、カバーレター等にその旨を明記し、編集事務局に判断を仰ぐことができる。

3. 二重投稿・二重出版の判断基準

⚫ 同一の(または重複した)症例群やデータセットを対象とすることが、必ずしも二重投稿・二重出版に該当するわけではない。二重投稿・二重出版に該当する「内容の大幅な重複」とみなすかどうかは、「新たな論文によって、先行する論文(Prior publication)にどの程度の新たな知見を追加できるか」が主な判断の根拠となる。以下に例を示すが、一律の基準は設定できず、明確に判断できないこともある。ただし、一部でも重複した内容を扱う場合には、新たな論文の中で先行論文が存在することを明記して引用し、重複している内容を明らかにする必要がある。また、投稿された論文の学術的な意義は、あくまでも先行論文には含まれない「追加された新たな知見」を基に判定する。
<二重投稿・二重出版には必ずしもあたらない例>
以下の例は、必ずしも二重投稿・二重出版にあたらない。ただし、いずれも先行する論文があることを明記しその内容を明らかにすることが少なくとも必要である。
例1. 先行論文では短期的な経過のみの報告であったが、長期にフォローアップした情報により、先行論文では知りえなかった新たな知見が中心となっている論文は、二重投稿・二重出版には必ずしもあたらない。具体例①「先行論文では診断後2年までの治療経過であったが、20年後までのフォローアップ情報を加えることで得られた長期の治療成績を報告した論文」
 
例2. 先行論文では行われていなかった解析が実施可能となり新たに判明した結果が中心となっている論文は、二重投稿・二重出版には必ずしもあたらない。具体例②「先行論文では遺伝子解析が実施できなかったが、技術の確立などにより新たに遺伝子解析を実施し、その結果から得られた新たな知見を中心とした論文」
 
例3. 先行論文と同じデータセットを用いているが、新たな統計解析手法で再解析を行うことで、先行論文では判明していなかった新たな知見を見出した論文は、二重投稿・二重出版には必ずしもあたらない。具体例③「先行論文では解析されていなかったが、因子を"時間依存性変数"として解析を行った結果、因子と観測結果に関連があること(もしくはないこと)が新たに明らかになり、その点を中心として議論された論文」具体例④「公開された解析データを用い、新たな視点で解析することで明らかになった知見を議論した論文」
 
例4. 少数の症例を対象とした内容がすでに先行論文として報告されているが、新たに症例を追加し多数例とすることで初めて明らかになった内容(頻度や関連など)について報告した論文は、二重投稿・二重出版には必ずしもあたらない。具体例⑤「先行論文では2例のみであったが、30例を対象とすることで、治療と転帰との関連があること(もしくはないこと)が新たに明らかになった知見を報告した論文」具体例⑥「共通する対象についてすでに報告されている4つの臨床試験の結果を統合することで、初めて明らかになった予後因子を報告した論文」
 
例5. 先行論文に含まれる一部の対象について、新たに詳細な情報を追加することで、初めて明らかになった知見を記載した論文は、二重投稿・二重出版には必ずしもあたらない。具体例⑦「先行論文では30例について報告されているが、そのうちの特定の2例のみについて得られている詳細な臨床経過や解析結果をもとにして得られた新たな知見を中心とした論文」
<二重投稿・二重出版に該当しうる例>
以下の例は、二重投稿・二重出版に該当する。
例1. 同一の症例(または症例群)を対象とした先行論文が報告されており、新たな論文でも先行論文と比べて「新たな知見」が追加されているわけではない場合、著者が相互の論文で異なっていても、二重投稿・二重出版に該当する。近年の医学の高度化・複雑化により、複数の部門(診療科や研究室)・複数の施設が関与することが多くなっているため、注意が必要である。

4. 二次出版(secondary publication)、許容される二次出版(acceptable secondarypublication)

⚫ ガイドラインなど、できる限り広い対象に届けることが望ましい重要な内容については、許容される二次出版とされることがある。ただし、少なくとも以下の条件を満たす必要がある。より詳細には、ICMJEの基準を参照すること。
➢ 著者が両方の雑誌の編集事務局から承諾を取ること。
➢ それぞれの論文を掲載する雑誌の主な読者層が異なること。複数の専門誌に掲載する場合や、言語が異なる場合が想定される。
➢ 二次出版の論文の著者・提示される結果・その解釈・結論が先行出版のものを忠実に反映していること。二次出版が先行出版の内容の概要版であることは許容される。
➢ 二次出版側に先行出版があることが明記されていること。
➢ 複数の学会から構成される合同委員会によるガイドライン等は、同時期に同内容のものをそれぞれの学会誌に掲載する事が可能である。
➢ 先行原著論文の二次出版としての論文は原著論文とは見做されない。

5. サラミ論文(サラミ出版)

⚫ 本来はひとつの論文として報告できる研究の中で、対象・方法・研究目的などが共通の結果を細かく分割することで意図的に複数の論文として投稿することを指す。サラミ論文は、一部の論文にしか気づかない読者に研究結果の理解の偏りを生むことや、メタアナリシスの結果をゆがめることで学術の発展の妨げとなり、さらには論文数の意図的な水増しとみなされる不適切な行為である。
⚫ 研究者の業績の評価は単なる「論文の数」に基づくものではなく、学術の発展に寄与する「論文の質」によることを意識するべきである。
<サラミ論文には必ずしもあたらない例>
以下の例は、必ずしもサラミ論文にはあたらない。
例1. 大きな構成の研究の中で、別の視点からの異なる研究仮説に基づいた二つの研究計画とその結果があり、それぞれを別個に論文として報告することは、サラミ論文には必ずしもあたらない。
<サラミ論文に該当しうる例>
以下の例は、サラミ論文に該当する。
例1. ある施設で特定の疾患に対する治療を行った症例群のデータセットがすでに取得されており、特に科学的に妥当な理由がないにもかかわらず、1990~2000年、2000年~2010年の2つの時期に分割し、共通する研究仮説・解析法で検討を行い、本質的に同じ結果を別々の論文として報告することは、サラミ論文に該当する。

補遺.Pediatrics International誌の二重投稿・二重出版への対応の基本方針

⚫ 二重投稿・二重出版が疑われた段階で、その論文の査読プロセスをいったん停止する。不正が疑われた論文の著者が関連する論文が同時に査読の過程にある場合も、その査読プロセスを停止する。
⚫ 関連する論文(先行論文)に関する情報を出版社に請求し、状況を確認したうえで著者に二重投稿・二重出版の疑いがあることを伝え、その回答を踏まえて総務会で対応を協議する。
⚫ 総務会の協議結果を編集委員会で議論し、二重投稿・二重出版に該当するかどうかを協議する。二重投稿・二重出版に該当すると判断された場合、協議の結果をふまえて総務会が著者および施設への対応を決定する。
⚫ 共著者を含む著者全員はPediatrics International誌に3年間の投稿停止とする。
⚫ 論文不正が明らかになった場合、その論文は即座にrejectとなり、その著者が関与する他の論文も査読過程も停止する。
⚫ 不正と判断された論文の著者が関連するすでに受理済みの論文については撤回等の対象とはしない。
⚫ 出版倫理に関する教育・啓発活動は学術活動に関与する施設の責務であり、二重投稿・二重出版に該当する事象があったことについて、編集委員長名で勧告する。
 
(以上)

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