ガイドライン・提言

 

入院しているこどもの家族の付き添いに関する見解

(日本小児科学会理事会承認日 令和6年7月21日)
公益社団法人 日本小児科学会
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 公益社団法人日本小児科学会は令和4年3月に「医療における子ども憲章」1)を公表し、その中で「病院などで親や大切な人といっしょにいる権利」として、「あなたは、医療を受けるとき、お父さん、お母さん、またはそれに代わる人とできる限りいっしょにいることができます」と示しています。しかし、こどもの入院に際しては、医療機関の構造、診療報酬、社会における各種保障にこどもの特殊性への配慮が十分されておらず、結果としてこどもと家族に多大な制約が強いられています。
 ここでは入院しているこどもの家族の付き添いに係る諸問題をまとめ、その理解や解決を図る目的で当学会の見解を示します。
 
日本小児科学会の見解(概要)

 入院中のこどもに対する家族の付き添いは成人の入院と同じに考えるべきではありません。こどもと家族が共にいることは権利であるだけでなく、メンタルヘルスの安定につながり治療的観点からも有益です。
 そのため、こどもと家族の希望や背景を勘案しながら、医学的にどちらを選択しても問題ないと判断された場合は、付き添いありでも、付き添いなしでも入院できる状況にすることが望ましいと考えます。
 どちらを選択しても、こどもと家族のwell-being注)が保障される病院環境の整備、診療報酬の見直し、社会制度の変革を望みます。
注)身体的、精神的に健康な状態であるだけでなく、社会的、経済的に良好で満たされている状態にあること

 こどもの中には、幼児であっても自立し家族の付き添いなしでも入院生活を送れることができるこどもから、その発達段階、病状、精神状態などから家族の付き添いが望ましいと判断されるこどももいます。一方、希望の有無に関わらず虐待が疑われる場合など家族の付き添いが望ましくないこどももいます。このような複雑な背景下でのこどもの入院生活に関して、これまで小児科医は、家族が付き添う場合にも、付き添わない場合にも課題があることを認識し、こどもと家族への負担を憂慮していました。
 こどもの入院には成人よりも多くの人員を必要とするにも関わらず、小児病棟では成人診療科と同じ看護体制で運営されることが多く、また入院するこどもの病状の重症化(例えばこの10年で医療的ケア児は2倍に増加、そのうち人工呼吸器を必要とする児は10倍に増加2))もあり、それらが看護師の過重労働につながっています。家族のこどもへの世話はこどもと家族の双方に良い影響を及ぼすことが期待されますが、付き添い者は看護の代替ではありません。こどもの食事介助、おむつ交換、入浴、寝かしつけ等の世話を家族に依存しすぎる場合や、家庭で実施している医療的ケアを入院中も家族が行っている場合もあるため、是正していく必要があります。
 しかし、成人患者を基準に設定されている医療制度と病棟の環境で、その課題を小児科医と小児病棟スタッフだけで解決することは困難でした。また、成人との混合病棟にこどもが入院する病院、小児病棟を持つ病院など、それぞれの体制に応じて少しずつ異なる現状と課題もあります。さらに、コロナ禍の影響による病棟の再編成にて小児病棟が混合病棟になった病院、感染対策から付き添い体制の変更を余儀なくされた病院もあり、それぞれで新たな課題も生じています。
 このような中で、令和5年6月1日にNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」より「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査」の結果が公表されました3)。今回、これまで解決できなかった課題が何かを明示するとともに、入院するこどもと家族が穏やかに生活を送るための見解を明示いたします。

1.入院しているこどもと家族の権利

 病気でこどもが入院している際に家族の付き添いがあることで、心理的な安定、より良い睡眠の確保、医療や処置に向かうこどもの力を高めることなどに効果があることが報告されています4)-6)。家族もこどものそばで付き添うことで安心を得られる利点があります。家族の付き添いは治療的観点からも有益です。入院しているこどもには家族と共にいる権利があり、それは尊重されるべきです。
 また、家族にも付き添う権利と付き添わない権利があります。医療機関のルールが優先される場合もあるようですが、家族が意思を表明する機会は確保されるべきです。
 
 上記のこどもと家族の権利が尊重されることを前提に、家族がこどもの入院に付き添うとき、家族がこどもの入院に付き添わないときの両者の課題と解決のための提案を以下に示します。この提案には現状の診療報酬のなかでは実現困難なことも含まれていますが、解決のために、国と医療機関に望むことを記載しました。

2.家族がこどもの入院に付き添うとき

 特に家族と離れて生活する経験が少ない乳幼児の場合、一人で入院させることには家族も不安を感じるため付き添いを希望する場合があります。
1)課題
①付き添う家族には食事、睡眠環境、入浴、洗濯、プライベートの空間が十分に整備できている施設は多くありません。
②プライバシーが保障できていないため付き添える家族に制約が生じる場合があります(例:大部屋などで他の患児の付き添いをしている家族と性別が異なる場合、希望してもかなわないなど)。
③付き添いのため家族が仕事を休むことへの経済的補償と身分保障も十分でないことがあります。
④感染対策のために入院期間中に付き添い者を交代できないこともあります。
⑤こどもに家族が付き添っている間のきょうだい児を含む家族の生活への保障はありません。
2)解決のための提案
①付き添う家族の食事、入浴、洗濯、睡眠環境、プライベートな空間の確保が必要です。具体的には付き添う家族への食事やベッドの提供ができるようにするための制度設計の見直しと、これらが実現できる小児病棟の改築(個室設置を含む)が必要です。
  • 国に望むこと
     医療機関がこれらに取り組むことができるように施設基準と診療報酬の見直しを望みます。
  • 医療機関に望むこと
     上記の国への要望が実現するまで、可能な範囲での病棟整備を望みます。
②こどもの付き添いによる家族の経済的補償と身分保障が必要です。
  • 国に望むこと
     現在、法定休暇として看護休暇制度がありますが、わが国では未就学のこども1人につき年5日、2人以上の場合も年10日です。諸外国ではこども1人あたり3ー4か月まで認められている国もあるため、わが国でもその延長などが期待されます。そしてこどもの入院は多くが緊急入院であることから、申請して許可されるまでのタイムラグがないようにすることを望みます。
③入院するこどものきょうだい児の生活が保障される必要があります。
  • 国に望むこと
     社会制度のなかでこどもが入院し、保護者が付き添っている場合のきょうだい児の生活支援が保障される社会制度の設立を望みます。そして付き添う家族がいつでも帰宅できるよう、こどもの日常生活の支援ができる人員を病院が採用できるような診療報酬の見直しを望みます。
  • 医療機関に望むこと
     上記の国への要望が実現するまで、可能な範囲で付き添う家族がいつでも帰宅できるようこどもの日常生活の支援ができる人員を採用することを望みます。

3.家族がこどもの入院に付き添わないとき

 こどもが家族の付き添いなしで入院する理由として、家族の事情で付き添いができない場合だけでなく、こどもの病状や治療上の必要性で付き添いできない場合や、虐待が疑われる場合など社会的理由で付き添いが適切でない場合があります。さらに新型コロナウイルス感染症のパンデミック下では感染対策の観点から、家族が付き添いを希望しても許可できない状況もありました。この場合、こどもと家族の両者とも精神的苦痛が生じやすい環境となります。
1)課題
①こどもの日常生活や遊び、学習を支援するため保育士やチャイルドライフスペシャリスト、子ども療養支援士などを採用することが求められていますが、人員が不足していることに加え、それらの職員を多く採用している病院では人件費が経営上の課題となっているため、現行の診療報酬制度では継続することは困難です。
②昼間に充分な人員を配置できても、夜間、こどもを安心して寝かしつけられる人員の採用までは困難な実態があります。
③虐待が疑われた場合など、特別な事情で保護されたこどもには家族の付き添いは認められません。
2)解決のための提案
①入院中のこどもが家族の顔を見ながら連絡がとれるためのシステムが望まれます。
  • 医療機関に望むこと
     例えば、オンライン環境を1人1人に整えるなどが解決策と考えます。この環境は医療者から家族への病状説明にも利用することが期待され、家族の安心につながります。
②面会制限の見直しが望まれます。
  • 医療機関に望むこと
     面会する人の年齢や面会時間を成人と同じように制限するのでなく、こどもの入院という特殊性からフレキシブルに対応できる体制にすることを望みます。
③夜間も含めたこどもの日常生活の支援ができる人員の採用を望みます。
  • 国に望むこと
     看護師、保育士、チャイルドライフスペシャリスト等の増員の他、看護補助者(看護助手、介護士など)を採用できるよう、診療報酬制度の増点を含む見直しを望みます。
     乳児院や児童養護施設、障害児入所施設の乳幼児が入院する場合、施設職員が付き添うのであれば乳児院や児童養護施設、障害児入所施設の職員を増員する体制を望みます。
  • 医療機関に望むこと
     上記の国への要望が実現するまで、可能な範囲で看護師、保育士、チャイルドライフスペシャリスト等の増員、看護補助者の採用を望みます。
 
 上記のように、こどもの入院の特殊性に病院の構造、医療制度、社会保障制度が対応できていない実態があります。小児病棟、病院、関連学会、そして国がこの課題解決に取り組み、ひとつひとつ解決することで、家族と医療者がこれまで以上にお互いの状況を理解し、尊重しあいながら、こどもの病気の治療に協力しながら専念できる環境となることを望みます。
 
【参考文献】
1)日本小児科学会.医療における子ども憲章.https://www.jpeds.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=143(2023.12.6 閲覧)
2)平成30年度厚生労働科学研究費補助金障害者政策総合研究事業「医療的ケア児に対する実態調査と医療・福祉・保健・教育等の連携に関する研究」(田村班)
3)NPO法人キープ・ママ・スマイリング.入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022<概要>.https://momsmile.jp/wp/wp-content/uploads/2023/06/a7b63100c25f4547c15be124e0e70e25.pdf(2023.12.6 閲覧)
4)Doupnik SK, Hill D, Palakshappa D, et al. Parent coping support interventions during acute pediatric hospitalizations: a meta-analysis. Pediatrics 2017; 140: e20164171.
5)Hybschmann J, Topperzer MK, Gjærde LK, et al. Sleep in hospitalized children and adolescents: a scoping review. Sleep Med Rev 2021; 59: 101496.
6)Çamur Z, Karabudak SS. The effect of parental participation in the care of hospitalized children on parent satisfaction and parent and child anxiety: randomized controlled trial. Int J Nurs Pract 2021; 27: e12910.
 

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