ガイドライン・提言

 

2020年11月24日掲載

治療用特殊ミルクの適正使用に係る注意喚起

日本小児医療保健協議会治療用ミルク安定供給委員会

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1.特殊ミルクの現状

 先天性代謝異常症など、厳重な食事療法を新生児期、乳児期から必要とする疾患に対しては治療用特殊ミルクが必要不可欠であり、疾患によっては成人に至るまで使用を継続する必要があります。特殊ミルクは、薬局等で購入可能な市販品以外に、薬価収載品、登録品、登録外品があります。薬価収載品はフェニルケトン尿症治療用とメープルシロップ尿症治療用の2種類ですが、承認審査課程の困難さなどから今後追加収載されることはないと思われます。特殊ミルク供給事業による登録特殊ミルクは現在21品目あり、その開発の経緯などから主に先天代謝異常症に用いるものが指定されています。これ以外は登録外特殊ミルクで、現在11品目となっています。登録品、登録外品の供給は特殊ミルク事務局が一括管理し、主治医からの依頼を受け適応症、必要量を確認したのち乳業メーカーから医療機関へ供給されます。供給された登録特殊ミルクは製造経費などの約半額が公費で補助されていますが、登録外特殊ミルクでは公費負担はありません。同じミルクでも使用する疾患により登録品として供給されるか、登録外品となるかが異なり、公費負担割合が変わることとなります。近年その供給量は増加傾向にあり、全体で10年前の約2倍、供給量増加の著しいケトンフォーミュラのみで見ると10年前の約4.5倍の供給量となっております。患者さん負担はなく公費負担も限定的であることから、治療用特殊ミルクの供給事業は乳業メーカーの多大なる負担の上に成り立っております。

2.特殊ミルク供給の問題点

 上記の通り、特殊ミルクの供給は乳業メーカーのおこなう社会貢献に依存した事業となっており、長期的に見て安定した制度であるとはいえません。また、特殊ミルク供給事業は、新生児マススクリーニングの開始に伴い、当時の厚生省母子保健課の指導で先天代謝異常症患児を中心に開始されたことから、20歳以上の症例への供給は公費負担の対象外となり、新規供給も認められておりません。
 さらに年々増加する特殊ミルクの供給量の中でも増加が著しいケトンフォーミュラ((株)明治、817-B)は、脂肪比率が高いことから製品化が難しく、製造機器の洗浄が頻回に必要であり、缶への計量・充填作業も機械化できず手作業で行う必要があることから生産量に限界があります。同じ(株)明治が産生する低カリウム・中リンフォーミュラ(8806H)も近年需要が高まっていることから、これらの供給量の増加が他のミルクの生産にも影響を及ぼしかねない状況で、物理的に見ても限界が近づいていると考えるべき状況にあります。

3.適正使用に係る注意喚起

 このような状況下で治療用特殊ミルクの安定供給を継続していくためには、疾患ごとに特殊ミルクの使用法、適応となる年齢区分などを検討する必要がありました。この課題の解決のため、2018年1月「先天代謝異常症の生涯にわたる診療支援を目指したガイドラインの作成・改訂および診療体制の整備に向けた調査研究」班と日本先天代謝異常学会、日本小児内分泌学会、日本小児栄養消化器肝臓学会、日本小児腎臓病学会、日本小児神経学会が連携して特殊ミルクワーキンググループを立ち上げ、特殊ミルクが必要な疾患について、使用する特殊ミルク、治療法の実際、適応となる年齢区分、成人期での必要性等をまとめ、2020年4月に「日本小児医療保健協議会(四者協)治療用ミルク安定供給委員会編、特殊ミルク治療ガイドブック」の出版に至りました。これに伴い、特殊ミルク事務局での対応もこのガイドブックの記載に則ったものとなり、これまでは概ね主治医の申請通りの供給が行われていたものが、今後はこれまでの供給如何にかかわらず同ガイドブックに記載がなければ原則として供給されないこととなりました。申請の際には特殊ミルクの適応についてご確認いただき適正に対処していただきますようお願いいたします。
 なお、難治てんかんに対するケトンフォーミュラの申請については、ガイドブックにある新規開始基準、治療継続基準に準拠して供給されるため、2020年6月から「ケトンフォーミュラ供給補足申請書」の提出が求められるようになりました。詳細は恩賜財団母子愛育会、特殊ミルク事務局のホームページ(http://www.boshiaiikukai.jp/milk.html)をご確認ください。該当特殊ミルクを申請される場合は適応基準や治療効果を確認の上、申請されるようお願いいたします。
 また、特殊ミルクの使用全般に関しましては、使用期限切れ等による廃棄処分などを極力低減させるべく、使用開始時は少量の請求にとどめ使用状況の確認を行うこと、使用量の管理を適宜行い過剰請求にならないよう注意すること、万一余剰のミルクが生じた場合は主治医の責任において他症例への使用も検討することなどに留意していただくようお願いいたします。
 
 

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