各種活動

 

2024年12月2日掲載
2024年12月11日改訂

 2024年夏以降東京などで、エコーウイルス11による新生児重症肝炎やそれに伴う死亡例の情報があります。特に小児科ならびに新生児科診療に関わる医療従事者に対して注意喚起を行うため、「新生児におけるエコーウイルス11による重症感染症に関する注意喚起」を公開しました。

新生児におけるエコーウイルス11による重症感染症に関する注意喚起

2024年12月1日
2024年12月11日改訂
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会

全文PDF

概要

 ヨーロッパでは2022年から新生児のエコーウイルス11(Echovirus 11、以下E11)による重症感染症が複数報告され、急性肝不全を伴うことが特徴的で死亡例も複数報告されている1)
 日本においても2024年夏以降東京などで、E11による新生児重症肝炎やそれに伴う死亡例の情報があるため、特に小児科ならびに新生児科診療に関わる医療従事者に対して注意喚起を行う。

エコーウイルス11(E11)について

 E11はピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属する(+)鎖の一本鎖RNAをゲノムにもつウイルスである。コクサッキーウイルスなど他のエンテロウイルス属と同様に、普通感冒、ヘルパンギーナなどの自然軽快する軽症感染症や、時に無菌性髄膜炎、脳炎、心筋炎などの重症感染症の原因となる。一方で、E11を含む非ポリオ型エンテロウイルスの特徴として、感染しても多くの場合は無症状である。糞口感染および接触感染、飛沫感染を起こす。エンベロープを有さないため、消毒用エタノールによる消毒では効果が不十分である。潜伏期間は通常3~6日である。

新生児の重症E11感染症について

 新生児がE11に感染すると、敗血症、心筋炎、髄膜炎などの重篤な疾患を発症することがある。新生児の重症E11感染症の特徴的な臨床像は、黄疸、肝腫大、腹水、および出血傾向を示す劇症肝炎である2)。また、髄膜炎や心筋炎の報告もある2)。国内でも過去に報告がある3)
 過去に報告された新生児のE11感染症では、垂直感染(出生前の経胎盤感染や出産時感染)、出生後の水平感染、保育所での水平感染4)や医療従事者による新生児集中治療室でのアウトブレイク5)が報告されている。授乳による感染の可能性も報告されている2)

疫学情報

 2022年7月から2023年にかけてフランスでは肝不全と高い致命率の新生児重症E11感染症が増加していることが2023年6月に欧州連合/欧州経済領域加盟国に報告されると、他の加盟国からも同様の報告が相次いだ2)。重症例に関連するE11の配列は、2022年に出現した新しい変異系統株(以下、新系統1)にクラスター化していた1)。同時期(2023年)にイタリアで同じ新系統1に関連する重症肝炎の2症例が報告され6)、 全ゲノム解析により、重症で致死的な症例はすべて組換えE11に関連していることが示された6)。 2023年7月、欧州疾病予防管理センターは、フランスで初めて検出された新系統1がより重篤な疾患と関連しているかどうかを評価するため、新生児重症E11感染症に関するサーベイランスを強化した2)。スペインでは新系統1による新生児における重症化との関連は認められていない7)
 一方、中国湖北省、広東省では2019年に、新系統1ではないE11による新生児の出血性肝炎症候群の複数例の報告がある8)
 今後日本においてもE11感染症流行の動向に注意を払う必要があるが、2024年11月24日現在、国立感染症研究所が全国の都道府県市の地方衛生研究所等から報告された病原体検出情報をまとめた病原微生物検出情報によると、2024年第34週以降に、複数の無菌性髄膜炎患者からE11が検出されている9)

医療従事者の皆様へ

 国内でも、活気不良・哺乳不良を主訴に来院し、凝固障害、血球減少、黄疸・急性肝不全、腎障害を含む多臓器不全や高フェリチン血症(血球貪食性リンパ組織球症)などの重篤な症候を呈し、鼻咽頭ぬぐい液を用いたMultiplex PCRにてライノウイルス/エンテロウイルス、髄液でエンテロウイルスが検出されている重症の新生児症例が経験されている10)。有症状者との接触歴が明確でないこともある。新生児の重症肝不全や心筋炎、無菌性髄膜炎などの重症患者を診療した場合、可及的に急性期の血漿(血清)、咽頭ぬぐい液、尿、便、髄液、全血等の検体を小分けで凍結保存しておくことで病原体検索に繋がる可能性がある。検査が可能な機関にすぐに臨床検体を搬送できる場合は、凍結せずに冷蔵で搬送する方が望ましい。原因不明の肝機能障害(AST又はALTが 500 U/L を超える)を認める児については、日本小児科学会を窓口とした病原体の検索が可能な場合がある。詳細は、日本小児科学会ホームページ(各種活動>予防接種・感染症情報> 原因不明の小児の急性肝炎について)をご参照いただきたい。また、エンテロウイルスであった場合、アルコール消毒では効果が不十分であることに留意し、特におむつ交換や沐浴に際し石鹸と流水による手指衛生、環境整備を行う必要がある。

参考文献

1)    Grapin M, Mirand A, Pinquier D,et.al. Severe and fatal neonatal infections linked to a new variant of echovirus 11, France, July 2022 to April 2023. Euro Surveill 2023; 28 :2300253.
2)    Enropean Center for Disease Prevention and Control (ECDC). "Epidemiological update: Echovirus 11 infections in neonates". https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/epidemiological-update-echovirus-11-infections-neonates(参照 2024-11-21)
3)    Hirade T, Abe Y, Ito S, et.al. Congenital Echovirus 11 Infection in a Neonate. Pediatr Infect Dis J 2023; 42: 1002-1006.
4)    Bina Rai S, Wan Mansor H, Vasantha T, et.al. An outbreak of echovirus 11 amongst neonates in a confinement home in Penang, Malaysia. Med J Malaysia 2007; 62: 223-226.
5)    Ho S Y, Chiu C H, Huang Y C, et.al. Investigation and successful control of an echovirus 11 outbreak in neonatal intensive care units. Pediatr Neonatol 2020; 61: 180-187.
6)    Piralla A, Borghesi A, Di Comite A, et.al. Fulminant echovirus 11 hepatitis in male non-identical twins in northern Italy, April 2023. Euro Surveill 2023; 28 :2300289.
7)    Fernandez-Garcia M D, Garcia-Ibanez N, Camacho J, et.al. Enhanced echovirus 11 genomic surveillance in neonatal infections in Spain following a European alert reveals new recombinant forms linked to severe cases, 2019 to 2023. Euro Surveill 2024; 29 :2400221.
8)    Wang P, Xu Y, Liu M, et.al. Risk factors and early markers for echovirus type 11 associated haemorrhage-hepatitis syndrome in neonates, a retrospective cohort study. Front Pediatr 2023; 11: 1063558.
9)    病原微生物検出情報(IASR). "週別無菌性髄膜炎患者からの主なウイルス分離・検出報告数、2020~2024年". https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data16j.pdf(参照 2024-11-21)
10) 松井俊大、幾瀬樹、庄司健介、他:エンテロウイルスによる新生児重症感染症. 病原微
生物検出情報(IASR). https://www.niid.go.jp/niid/ja/entero/entero-iasrs/13018-539p01.html (参照2024-12-06)

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