各種活動

 

2024年10月29日
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会

 我が国における小児における肺炎球菌結合型ワクチンの定期接種の状況及び課題等を踏まえ注意喚起を行うため、「小児における肺炎球菌結合型ワクチンの定期接種に関する考え方」を公開しました。

小児における肺炎球菌結合型ワクチンの定期接種に関する考え方

全文PDF

はじめに

 肺炎球菌は、乳幼児の感染症の中で主要な病原体の一つであり、中耳炎、肺炎、菌血症・敗血症、細菌性髄膜炎など、多彩な感染症の原因となる。また、ときに後遺症を残す疾患を引き起こす原因としても知られている。日本では、沈降7価肺炎球菌結合型ワクチン(7-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV7)導入前の小児侵襲性肺炎球菌感染症(Invasive Pneumococcal Disease : IPD) において、PCV7に含まれる7血清型(6B、14、23F、19F、9V、4、18C)が78.2%、PCV7には含まれず沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(13-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV13)のみに含まれる6血清型(1、5、7F、3、6A、19A)が12.2%、これら以外の血清型が9.4%を占めていた1)。なお、その時点においては、血清型6Bが全体の30.3%を占める最も多く分離されていた血清型であった1)
 また、ベルギーにおける報告では、PCV13から沈降10価肺炎球菌結合型ワクチン(10-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV10)へ定期接種ワクチンを変更した際に、PCV13に含まれ、PCV10に含まれていない血清型19Aが有意に増加を認めており2)、PCV13による予防効果が示されるとともに、かつて流行していた血清型がまだ残っていたことが示唆されている。このような経緯と現状を踏まえると、小児領域では、PCV7やPCV13で抑えてきた13血清型を今後も継続的に抑制し、新たな血清型を追加したPCVが求められている。加えて、新たなPCVでは血清型毎の免疫原性の評価についても注視していく必要がある。
 さらに、ワクチンが導入される前のイギリスからの報告では、母体からの免疫移行を含めても、0歳時でのIgG抗体の濃度は低く、IPDの報告が0歳児で多かったことが示されている3)。日本においても髄膜炎については0歳児で最も多かったという報告があり4)、初回免疫の重要性と追加免疫でのブースト(免疫増強)効果が期待され、初回免疫として0歳児で3回接種、追加免疫として1歳以上で1回接種のスケジュールで定期接種が行われている。

本邦において使用可能な小児に対する肺炎球菌ワクチンについて

 小児に対する肺炎球菌ワクチンに関しては、2013年11月から定期接種ワクチンとして、PCV13が10年以上にわたり使用されていたが、2023年に、沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(15-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV15)が国内で製造販売承認され、2024年4月から定期接種で使用可能となった。また、2024年3月には、沈降20価肺炎球菌結合型ワクチン(20-valent pneumococcal conjugate vaccine: PCV20)が国内で製造販売承認され、2024年10月から、PCV13に代わり定期接種で使用可能となった。

PCV15

 PCV15は、PCV13に含まれる13種類の血清型に、血清型22F、33Fを加えた15種類の血清型の莢膜多糖体に無毒性変異ジフテリア毒素(CRM197)を結合したタンパク結合型ワクチンである。免疫原性を向上させるために、キャリアタンパク質の結合法を変更するなど改良と検討を重ねている。健康乳児を対象とした国内第Ⅲ相試験において、PCV15接種群の3回接種後30日目のPCV13と共通する13血清型の血清型特異的IgG抗体保有率および血清型特異的IgG Geometric mean concentration : GMC(幾何平均抗体濃度)はPCV13接種群に対する非劣性を示した。また、PCV15固有の2血清型においては、血清型特異的IgG抗体応答を誘導した。PCV15の4回皮下又は筋肉内接種時の忍容性は良好で、安全性プロファイルはPCV13と同様であったとされる5)。また、オプソニン活性応答についても可能な限り全例で測定され、IgGと同様の結果を示した。PCV15の筋肉内接種の免疫原性は健康乳児を対象とした国内第Ⅰ相試験で検討され、皮下接種時と同様であった。また本試験ではDPT-IPVとの同時接種についても検討され、相互の影響は認められなかった6)。なお、海外データではあるが、早産児を対象とした解析においても良好な免疫原性と忍容性が確認されている7)。この他、鎌状赤血球症、HIV感染症、同種造血幹細胞移植を受けた小児においても、PCV13と比較し良好な免疫原性を示した8, 9, 10)。また、海外の第Ⅲ相試験において、7か月‐17歳の未接種あるいは価数の少ないワクチン接種が行われた者に対してPCV15によるキャッチアップ接種を行った結果、PCV13と比較し良好な免疫原性が認められた11)。PCV15は、18歳未満の小児のIPD予防として接種が可能である。また、PCV15はPCV13と同様に、すべての年齢の肺炎球菌感染症に対するリスクの高い者に接種が可能であり、23 価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine : PPSV23)とともに使用することで、より効果的な感染症予防が期待できる12)

PCV20

 PCV20は、PCV15に含まれる15種類の血清型に血清型8、10A、11A、12F、15Bを加えた20種類の血清型の莢膜多糖体に無毒性変異ジフテリア毒素(CRM197)を結合したタンパク結合型ワクチンである。日本人の健康乳幼児を対象としたPCV20の安全性及び免疫原性を評価する第Ⅲ相試験結果によると、PCV20皮下接種群で主要評価項目である3回目接種1か月後の各血清型特異的IgG抗体保有率は、PCV13との共通血清型のうち、血清型6A及び6Bを除く11血清型で、また、追加された7血清型のうち血清型10A及び12Fを除く5血清型で、PCV13皮下接種群に対する非劣性基準を満たした。非劣性基準を満たさなかった血清型については、主要評価項目以外の有効性評価項目の結果を含めた総合的な考察に基づいて評価し、オプソニン活性応答を含む免疫原性について、PCV13と同様の免疫応答が示唆され、追加免疫により初回免疫後よりも高い免疫原性が確認された。また、PCV20 筋肉内接種群は皮下接種群と比較し同等の免疫原性を示した。安全性に関しては、PCV20筋肉内接種群と皮下接種群の安全性と忍容性プロファイルは同様であったが、局所反応は筋肉内接種群の方が、発現割合が低かった13)。PCV20は、6歳未満までの小児のIPD予防として接種が可能である。また、肺炎球菌感染症に対するハイリスク者に対しては、全年齢においてPCV20の接種が可能となっている。

PCV15/PCV20接種の実際(定期接種ワクチンとして接種する場合)

接種対象は、2か月齢以上5歳未満である。
1.標準的な接種スケジュール
 2 か月齢以上 7か月齢未満で接種を開始する。初回免疫は、1回0.5mLずつを3 回、いずれも27日間以上の間隔で皮下又は筋肉内に注射する。ただし、3 回目接種については、12 か月齢未満までに完了する。追加免疫は、12か月齢以降、標準として 12~15か月齢の間に行う。追加免疫は、1回0.5mLを1 回、皮下又は筋肉内に注射する。ただし、3 回目接種から60日間以上の間隔をおく。
2.生後2か月齢以上7か月齢未満に接種を開始出来なかった者に対する対応
a.7か月齢以上12 か月齢未満で接種を開始する場合
 初回免疫は1回0.5mLずつを2 回、27日間以上の間隔で皮下又は筋肉内に注射する。追加免疫は1回0.5mLを1回、2 回目の接種後60日間以上の間隔で、12 か月齢以降、皮下又は筋肉内に注射する。
b.12か月齢以上24か月齢未満で接種を開始する場合
 1回0.5mLずつを2回、60日間以上の間隔で皮下又は筋肉内に注射する。
c.24か月齢以上で接種を開始する場合
 1回0.5mLを皮下又は筋肉内に注射する。
3. 他のワクチンとの接種間隔について
他の不活化ワクチンと同様に、接種間隔の定めは置かず、同時接種についても、医師が特に必要と認めた場合に行うことができる。
4. PCV15とPCV20の交互接種について
厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会で提示された資料においては、PCV20を基本とするとの記載があるが14)、PCV15の使用を否定するものではない。また、PCV15で接種を開始することも予防接種実施規則上、認められている。なお、PCV15とPCV20はともにPCV13との比較試験を行っているが、PCV15とPCV20との直接比較試験は行っておらず、データも集積されていない15,16)(2024年10月時点)。
  PCV20においては、薬事審査において、 PCV13 から PCV20 に切り替えて接種した場合の安全性・有効性が認められていることから、PCV13からPCV20への切り替えは可能とする。一方、 PCV15 から PCV20 に切り替えて接種した場合の安全性・有効性は確立していないことから、PCV15で接種を開始した場合には、原則としてはPCV15で接種を行う。
なお、2024年9月27日に改正された予防接種実施要領17)には、「小児の肺炎球菌感染症の予防接種にあたっては、同一の者には、過去に接種歴のあるワクチンと同一の種類のワクチンを使用することを原則とするが、ある回数投与した後に転居した際、転居後の定期接種を実施する市町村において、PCV20の接種しか実施していない等の理由により、原則によることができないやむを得ない事情があると当該市町村長が認める場合には、PCV15で接種を開始した者について、残りの接種をPCV20を用いて行って差し支えないこととする」と記載されている。また、「原則としてPCV20を使用することとするが、当面の間、PCV15も使用できること。またPCV13を使用して1回目、2回目又は3回目までの接種を終了した者の接種について、残りの接種は、PCV20を用いて行うことを原則とするが、PCV15を用いて行うこともできる」とも記載されている。
5.長期療養特例
定期接種の対象年齢の間において長期にわたり療養を必要とする疾病で定期接種を受けることができなかったと認められる場合、該当する特別の事情がなくなった日から起算して2年を経過する日までの間、定期接種の対象者として取り扱う(ただし、6歳未満)。

諸外国における状況について

 海外の主要国においては、PCV15とPCV20が使用可能となっている(一部はPCV13)。米国やカナダにおいては、定期接種のワクチンとしてPCV15とPCV20は並列に表記されており、どちらを使用することも可能となっている18,19)。EUにおいては、PCV20が2023年に製造販売承認を受けたが、これまでのPCV13とPCV15(初回免疫2回+追加免疫1回)とは異なり、PCV20は臨床試験における免疫原性の状況から、初回免疫として3回、追加免疫として1回接種のスケジュール(初回免疫3回+追加免疫1回)となっている20)。これらを受け、最近ドイツにおける定期接種はPCV13またはPCV15を継続することが示された21)。このように米国のAdvisory Committee on Immunization Practices: ACIPやEUでは、PCV15とPCV20のどちらも使用可能なワクチンとして並列に推奨されている。

供給に関する懸念

本邦において、小児に対するワクチンはインフルエンザ、B型肝炎ウイルス、ロタウイルス、5種混合、ヒトパピローマウイルスなど多くのワクチンで2種類以上流通しており、そのうち1種類のワクチンを推奨するということはされておらず、安定した供給体制が維持できる状況となっている。予防接種基本計画(ワクチンの生産体制及び流通体制)に記載されている通り、供給面を考慮して、2種類以上のワクチンが使用可能な状況にしておくことが小児における定期接種ワクチンとして望ましい。

まとめ

上記の本邦における状況及び課題等を踏まえ、日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会は、以下3点の注意喚起を行う。
 
①2024年10月以降は、PCV15およびPCV20の両ワクチンが定期接種ワクチンとして使用されるようになったこと
 
②予防接種実施要領上は、PCV20と同様にPCV15も使用可能であること
 
③交互接種データがない点を考慮し、PCV15およびPCV20で開始した被接種者については原則同一ワクチンで接種を完了すること

文献


1)    Suga S, Chang B, Asada K, et al. Nationwide population-based surveillance of invasive pneumococcal disease in Japanese children: Effects of the seven-valent pneumococcal conjugate vaccine. Vaccine. 2015; 33: 6054-60.
2)    Desmet S, Lagrou K, Wyndham-Thomas C, et al. Dynamic changes in paediatric invasive pneumococcal disease after sequential switches of conjugate vaccine in Belgium: a national retrospective observational study.Lancet Infect Dis. 2021; 21(1): 127-136.
3)    Baler P, Borrow R, Findlow J, et al. Age-stratified prevalences of pneumococcal-serotype-specific immunoglobulin G in England and their relationship to the serotype-specific incidence of invasive pneumococcal disease prior to the introduction of the pneumococcal 7-valent conjugate vaccine. Clin Vaccine Immunol. 2007; 14(11): 1442-50
4)    厚生労働省、国立感染症研究所. 感染症週報(Infectious Diseases Weekly Report Japan)2012年 第16週(4月16日~4月22日):14巻 16号
5)    沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)バクニュバンス®水性懸濁注シリンジ(V114)臨床試験成績等の概要.第58回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会資料(2023年12月20日)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001225298.pdf(参照2024-9-7)
6)    Ishihara Y, Kuroki H, Hidaka H, et al. Safety and immunogenicity of a 15-valent pneumococcal conjugate vaccine in Japanese healthy infants: A Phase I study (V114-028). Hum Vaccin Immunother. 2023; 19(1): 2180973.
7)    Chapman T, Patel SM, Flores SA, et al. Safety and Immunogenicity of V114 in Preterm Infants: A Pooled Analysis of Four Phase Three Studies. Pediatr Infect Dis J. 2023; 42(11): 1021-1028
8)    Quinn CT, Wiedmann RT, Jarovsky D,et al. Safety and immunogenicity of V114, a 15-valent pneumococcal conjugate vaccine, in children with SCD: a V114-023 (PNEU-SICKLE) study. Blood Adv. 2023; 7(3): 414-421
9)    Wilck M, Barnabas S, Chokephaibulkit K, et al. A phase 3 study of safety and immunogenicity of V114, a 15-valent pneumococcal conjugate vaccine, followed by 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine, in children with HIV. AIDS. 2023; 37(8): 1227-1237
10)    Wilck M, Cornely OA, Cordonnier C, et al. A Phase 3, Randomized, Double-Blind, Comparator-Controlled Study to Evaluate Safety, Tolerability, and Immunogenicity of V114, a 15-Valent Pneumococcal Conjugate Vaccine, in Allogeneic Hematopoietic Cell Transplant Recipients (PNEU-STEM). Clin Infect Dis. 2023; 77(8): 1102-1110
11)    Banniettis N, Wysocki J, Szenborn L, et al. A phase III, multicenter, randomized, double-blind, active comparator-controlled study to evaluate the safety, tolerability, and immunogenicity of catch-up vaccination regimens of V114, a 15-valent pneumococcal conjugate vaccine, in healthy infants, children, and adolescents (PNEU-PLAN). Vaccine. 2022; 40(44): 6315-6325
12)    日本感染症学会.ガイドライン・提言.「6 歳から64 歳までのハイリスク者に対する肺炎球菌ワクチン接種の考え方(第2版)」(2023 年9月11日).https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/64haienlinenashi_230913.pdf(参照2024-9-7)
13)    沈降20価肺炎球菌ワクチン(無毒性変異ジフテリア毒素結合体)プレベナー20®水性懸濁注臨床試験成績等の概要.第61回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会資料(2024年7月18日)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001276358.pdf(参照2024-9-7)
14)    第61回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001276351.pdf(参照2024-10-10)
15)    バクニュバンス®水性懸濁注シリンジ. 添付文書: https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/631140KG1020_1_04/(参照2024-10-10)
16)    プレベナー20®水性懸濁注. 添付文書:
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071371(参照2024-10-10)
17)    予防接種実施要領(令和6年9月27日改正 https://www.mhlw.go.jp/content/001092480.pdf(参照2024-10-10)
18)    CDC. Grading of Recommendations, Assessment, Development, and Evaluation (GRADE): 20-valent pneumococcal conjugate vaccine (PCV20) for children aged <2 years.
https://www.cdc.gov/acip/grade/pcv20-child.html?CDC_AAref_Val=https://www.cdc.gov/vaccines/acip/recs/grade/PCV20-child.html (参照2024-10-10)
19)    National Advisory Committee on Immunization. Recommendations for public health programs on the use of pneumococcal vaccines in children, including the use of 15-valent and 20-valent conjugate vaccines. https://www.canada.ca/en/public-health/services/publications/vaccines-immunization/national-advisory-committee-immunization-recommendations-public-health-programs-use-pneumococcal-vaccines-children-including-use-15-valent-20-valent-conjugate-vaccines.html(参照2024-10-10)
20)    European Medicines Agency. Prevenar 20. https://www.ema.europa.eu/en/documents/overview/prevenar-20-previously-apexxnar-epar-medicine-overview_en.pdf(参照2024-10-10)
21)    Robert Koch Institut. Stellungnahme der STIKO zur Anwendung des 20-valenten Pneumokokken-Konjugatimpfstoffs (PCV20) im Säuglings-, Kindes- und Jugendalter. https://www.rki.de/DE/Content/Infekt/EpidBull/Archiv/2024/31/Art_01.html(参照2024-10-10)
 

ページの先頭へ戻る