2024年10月27日
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会
2024年度から新型コロナワクチンの接種は定期接種に位置づけられ、65歳以上の高齢者等の方が公費助成による接種の対象となりました。その他の年齢については個々の判断で接種を検討することとなりました。新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の流行状況やワクチンの開発状況をうけ、厚生労働省の審議会は、2024年秋以降の新型コロナワクチンはオミクロンJN.1対応1価ワクチンの使用を基本とする方針を決定しました1)。
日本小児科学会では、これまでに新型コロナワクチン接種に対する考え方2)~5)を公表してきましたが、上記の決定をうけて、国内の小児に対するワクチン接種の意義について再度検討しました。その結果、国内小児に対するCOVID-19の疾病負荷は依然として存在することから、入院を含む重症化を予防する手段としてのワクチン接種は有効であると考えます。以上のことから、日本小児科学会は、今後も生後6か月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)が望ましいと考えます。特に、重症化リスクが高い基礎疾患のある児への接種を推奨します。
以下に理由の詳細を述べます。
2022年以降の流行ウイルス株は世界的にもオミクロン系統から派生した亜系統株になっています。国内で流行しているオミクロン亜系統は、2023年10月以降はXBBからBA.2.86系統の亜系統であるJN.1 系統に変化し、2024年5月以降は世界的な状況と同様にJN.1系統の亜系統であるKP.3系統が優位となっています6)。従来のワクチン(起源株の1価ワクチン、BA.4-5を含む2価ワクチン、XBB.1.5の1価ワクチン)やXBBより前の感染によって得られた免疫は、KP.3系統株による感染を予防する効果は不十分であり、今後の流行拡大が想定されます。2024年度秋冬接種に使用するJN.1対応1価ワクチンはこれまで使用されてきたワクチンよりもJN.1系統やその下位系統に対して高い中和抗体価を誘導し、発症予防効果が向上することが期待されています1)。
感染症法に基づく積極的疫学調査として、2024年3月2日~3月12日に診療所で採取された検査用検体の残余血液を用いて、国内22府県から合計3,947検体を収集し、小児・高齢者を含む各年齢群における抗体保有状況が調査されています。全体としては自然感染を意味する抗N抗体保有割合は60.7%、感染もしくはワクチン接種を意味する抗S抗体保有割合は97.3%でした。年齢群別の抗N抗体保有割合は0~4歳:59.6%、5~9歳:90.6%、10~14歳:86.5%でした。また、年齢群別の抗S抗体保有割合は0~4歳:82.8%、5~9歳:95.7%、10~14歳:94.5%でした7)。
国立感染症研究所により、医療機関35病院の協力を得て、2024年1月11日~2月23日における1歳半未満の児を対象に抗体保有割合が調査されました。母体からの移行抗体の影響があるため、IgG抗体ならびにIgA抗体の2種類のアイソタイプを測定し、母体からの移行抗体の影響を加味されました。その結果、抗N抗体は5か月齢まで、抗S抗体は14か月齢まで、移行抗体が残存すると推測されました。この移行抗体残存期間内は、児への感染・ワクチン接種による抗体保有割合の評価は困難と考えられます。以上を勘案した移行抗体の影響が少ないと考えられる月齢区分の抗体保有割合は、6~17か月齢における抗N抗体保有割合は26.8%、15~17か月齢における抗S抗体保有割合は36.4%でした8)。
以上から、5歳以上の小児は既感染もしくはワクチンによる抗体保有割合が高いものの、4歳以下、さらに月齢がさがるほど多くの小児が抗体を保有していないと考えられます。また、既感染者やワクチン接種者であっても繰り返し感染することが知られています9)10)。
日本人小児の新型コロナウイルス感染者の中で、稀ではありますが一定数は急性脳症や心筋炎を発症しています11),12)。2023年4月時点で日本小児集中治療連絡協議会に報告された424例の中等症以上例(新生児 1.7%、1歳未満の乳児 13.7%、未就学児 51.4%、小学生 23.6%、中学生 5.2%、高校生以上 4.5%)のうち脳症は76例で17.9%、心筋炎は7例で1.7%を占めていました11)。2022年1月1日~2022年9月30日までの新型コロナウイルス関連の20歳未満死亡例は62例あり、現地調査を実施し各医療機関から許可を得た53例のうち外的な要因を除いた例は46例でした12)。この46例について、15.2%が1歳未満、58.7%が基礎疾患なし、ワクチン接種対象者の87.5%が未接種でした。主な死因として疑われたのは、中枢神経系の異常16例(34.8%:急性脳症等)、循環器系の異常9例(19.6%:急性心筋炎、不整脈等)でした。 また、オミクロン株以降熱性けいれんを発症する頻度が増加したことが報告されています13),14)。
ただし、症例数が少ないため、ワクチン接種により脳症や心筋炎による死亡を防ぐことができるかについては明確になっておらず、また、オミクロン株以降の流行株変遷に伴い重症化率も臨床像も変化しますので、今後もこれらの点について引き続き解析していく必要があります。
小児に対するワクチン接種には、発症予防や重症化(入院)抑制、そして再感染予防の効果があることが国内外の複数の報告で確認されてきました9), 15)~19)。同時に発症予防効果は、デルタ株に比較しオミクロン株では限定的(数か月程度)であることも示されています20)。
ワクチンの長期的な効果を検討した米国における検討(2021年10月29日~2023年1月6日にかけて100万人以上の11歳以下の小児を対象とした観察研究で、オミクロンの各種亜系統;BA.1、BA.2、BA.4、BA.5、BQ.1-BQ.1.1、XBB.1.5流行時期の実態を反映している)において以下が報告されています9)。
・0~4歳では、初回シリーズ(3回接種)の発症予防効果は接種後2か月で63.8%、接種後5か月で58.1%であった。
・5~11歳では、初回シリーズ(2回接種)のみならず、その後の追加接種による発症予防効果が確認された。2価ワクチンを用いた追加接種による発症予防効果は接種後1か月時点で76.7%であった。また、既感染者であっても再感染する可能性はあり、ワクチン接種による追加の発症予防効果が得られることも確認された。
なお、いずれの年齢群においても、重症化(入院)抑制効果は発症予防効果より高いことが確認されています9)。
また、5~25歳の小児や若年成人に対するワクチンの死亡抑制効果を検討した海外からの報告では、オミクロン期における2回接種による死亡抑制効果は42% (95% 信頼区間、31.0%~51.4%)で追加接種により64.5% (95%信頼区間、43.3%~77.8%) と報告されています18)。
2024/25シーズンのワクチンは、全世界の流行株の状況に合わせて、世界保健機関はオミクロン株JN.1系統に対するワクチンを推奨しています21)。本年5月以降、日本国内でも同様の流行状況であり、JN.1系統に対するワクチンが使用されています 1)22)。
また、小児の新型コロナウイルス感染症は軽症のことが多い23)とされていますが、国内外の知見において、小児でも基礎疾患のある小児患者には重症化リスクが高いことが報告されています24),25)。したがって、特にCOVID-19重症化リスクが高い基礎疾患のある小児26)に対しては、重症化抑制効果の観点から、年齢にかかわらず新型コロナワクチン接種を推奨します。
小児についてのデータは限られていますが、死亡抑制効果は発症予防効果や重症化抑制効果の延長上にあります。オミクロン株流行による小児患者数の増加のなか、重症化リスクの低い小児においてもワクチンで重症化、死亡を回避できる可能性があります。
小児に対するワクチンの安全性は複数のランダム化比較試験で検討されました。5~11歳の小児を対象とした検討をまとめた報告では、局所反応や発熱はプラセボと比べて増えるものの、重篤な副反応が有意に増えることはないことが確認されています27)。
有害事象は国内では副反応疑い報告としてモニタリングされ、重大な事象は慎重に検討されていますが、厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)において現在までのところ接種推奨には影響を与えないと判断されています28)。国内全体で4億回以上のワクチン接種が行われ、5~11歳の小児に対しては、のべ450万回以上、0~4歳の小児については50万回以上の接種が行われています29)。一方で、重篤な副反応としてアナフィラキシー、心筋炎等が報告されており、接種後30分はその場で健康観察をすることならびに接種後数日の間に胸痛、息切れ、ぐったりするなどの症状があった場合は医療機関への受診が必要です。国内での検討では、ブライトン分類レベル1~3の心筋炎(心筋炎の確定例~可能性のあるもの)の発生率は0~4歳の小児では報告がありませんが、5~11歳で100万回接種あたり0.7件(BNT162b2(Pfizer/BioNTech)、2022~2024年)28),30)、思春期年齢である10~14歳、15~19歳ではそれぞれ4.3件(男6.5、女1.7)、2.3件(男4.3、女0.3)(BNT162b2 (Pfizer/BioNTech)、2021~2023年)、9.5件(男19.6、女0.0)、19.5件(男37.2、女2.3)(mRNA-1273 (Moderna)、2021~2023年)30) と特に男性で比較的高く、注意を要します31)。また、因果関係が否定できない死亡例が小児でも一例報告されていることを踏まえ32)、日本小児科学会としては今後もリスクベネフィットについては継続的に十分な検討を行っていきます。