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血液培養ボトル出荷調整に関する小児の血液培養についての提言

2024年9月2日
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会
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 この度の血液培養ボトルの出荷調整に伴い、すでに日本臨床微生物学会、日本感染症学会、日本臨床検査医学会から合同で対応案が出されています(以下は日本感染症学会のURL)。https://www.kansensho.or.jp/modules/news/index.php?content_id=640 (2024年8月26日閲覧)
 日本小児科学会は、小児における感染症の疫学や病態の特性、使用するボトルの違いを踏まえて、小児の血液培養に関して以下の提言を致します。なお、本提言は、血液培養ボトル出荷調整が解除された段階で「小児の血液培養に関する推奨」として再考する予定です。

1. 小児の血液培養の対象を適正化する

 肺炎球菌結合型ワクチンやインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンが定期接種化された現在、小児の血液培養陽性率は5.7%であり、成人の27.3%と比較して低くなっています1)。特に救急外来の発熱患者においては、血液培養から検出される菌は真の原因菌よりも汚染菌の方が多くなります2)。肺炎や蜂窩織炎では血液培養陽性率が低いことが知られており3,4)、診断の確実性によっては血液培養を採取しないことも許容されます。また、状態が安定している症例で、腎盂腎炎などのように血液以外の検体から原因微生物の特定が可能な場合は、血液培養検査を行わないことも検討できます。
 一方で、敗血症、不明熱、関節炎・骨髄炎、PICU・NICU入室患者、血液腫瘍患者、低月齢児の発熱などでは、血液培養の結果が治療方針や予後に直結する可能性が高く、無理な削減をしないほうがよいと考えます。

2. 小児用ボトルは小児患者のために使用する

 小児用ボトルは少ない血液でも、小児で頻度の高い病原体が発育しやすい条件で製造されています。また、血液培養陽性率は、推奨されている血液量の範囲内で、血液量が多い方が高くなることも知られています。そのため少量しか血液を入れられない小児用ボトルを使用して成人の血液培養を採取しても正確に原因菌を特定できない可能性があります。以上の理由から、成人用血液培養ボトルの不足で、成人の血液培養採取に小児用ボトルを流用することは厳に慎んで頂くようお願いします。小児用血液培養ボトルは小児のために使用してください。

3. 嫌気ボトルの使用は偏性嫌気性菌による感染症が疑われる場合に限定する

 小児で偏性嫌気性菌が菌血症を起こす頻度は低いことが知られていますが5,6)、一方で、偏性嫌気性菌以外の菌が嫌気ボトルを使用することで同定できることも知られています7)。このため平時では血液培養の感度を高めるために嫌気ボトルを併用することもあると思いますが、血液培養ボトルが不足している現状では、小児では頭頚部膿瘍や腹腔内感染症などのように嫌気ボトルが特に有用と考えられる病態以外では嫌気ボトルの使用を控えるといった工夫が必要です。

4. 髄液、関節液、胸水、腹水などの培養に血液培養ボトルを使用しない

 これらの検体を血液培養ボトルに入れることで培養陽性の感度が上がるという報告もありますが、血液培養ボトルをこれらの培養に使用しないでください。これらの検体には増菌培地を用いるなど、他の異なる方法で検査を実施することで感度の上昇が期待できます。各検体の適切な提出方法について、それぞれの施設の細菌検査室と事前に協議をしておくことが重要です。

5. 使用する場合は適切な量を血液培養ボトルに入れ陽性率を高める

 小児では、複数ボトルの採取よりも1ボトルに十分量の血液検体を接種することで、陽性率が高まります8)。小児用ボトルを使用する場合は、体格にもよりますが、ボトル記載の上限の血液量(3~4mL)を入れるように心がけることが重要です。

6. 血液培養の再検は必須の症例に限定する

 黄色ブドウ球菌やカンジダによる菌血症では血液培養を再検することは必須といわれています。これら以外の菌種では症例ごとに検討が必要になります。陰性化確認が必須でない菌種については極力対象を絞ることが重要です。また、陰性確認では採取間隔を延長したり、1セットのみの採取は許容されると考えます。再検したい菌種が、緑膿菌などのブドウ糖発酵菌やカンジダであれば好気ボトルのみを用いる、バクテロイデスなどの偏性嫌気性菌の場合は嫌気ボトルのみを用いる、などという方法をとることも検討できます。

7. 偽陽性・コンタミネーションを避ける

 今回の事例を機会に、適切な皮膚消毒などの採取手順を各施設で見直すことで、コンタミネーションを避ける努力をしましょう。コンタミネーションを避けるためにルールを統一し教育すること自体がコンタミネーションを減らす可能性があります9,10)
 すでに留置しているカテーテルからの血液培養の採取は、中心静脈カテーテルや動脈カテーテルでは可能ですが、末梢静脈カテーテルではコンタミネーションの可能性が高いため避けるべきです。なお、清潔な操作で留置した直後の末梢静脈カテーテルから血液培養を採取することは可能です。

参考資料

 小児の血液培養を適切に採取するための参考資料として、小児の血液培養検査の標準化に取り組んでいる「こどもの血液培養と菌血症カレッジ」が、2020年1月に「小児血液培養採取チェックリスト」を作成し、公開していますのでURLを記載します。
https://www.bdj.co.jp/s/koketsukin-check/ (2024年8月26日閲覧)
本チェックリストを参考に、各施設において、小児の血液培養における対象の適正化について検討されることをお奨めします。

引用文献

1.   Kusama Y, Ito K, Fukuda H et al. National database study of trends in bacteraemia aetiology among children and adults in Japan: a longitudinal observational study. BMJ Open 2021; 11: e043774
2.   Sard B, Bailey MC, Vinci R. An analysis of pediatric blood cultures in the postpneumococcal conjugate vaccine era in a community hospital emergency department. Pediatr Emerg Care. 2006; 22: 295-300.
3.   Neuman MI, Hall M, Lipsett SC, et al. Utility of blood culture among children hospitalized with community-acquired pneumonia. Pediatrics. 2017; 140: e20171013.
4.   Trenchs V, Hernandez-Bou S, Bianchi C, et al. Blood cultures are not useful in the evaluation of children with uncomplicated superficial skin and soft tissue infections. Pediatr Infect Dis J. 2015; 34: 924-927.
5.   Zaidi AK, Knaut AL, Mirrett S, et al. Value of routine anaerobic blood cultures for pediatric patients. J Pediatr. 1995; 127: 263-268.
6.   Gross I, Gordon O, Abu Ahmad W, et al. Yield of anaerobic blood cultures in pediatric emergency department patients. Pediatr Infect Dis J. 2018; 37: 281-286.
7.   Kato H, Shoji K, Jinguji M, et al. The utility of performing anaerobic blood cultures in pediatric intensive care units. J Pediatric Infect Dis Soc. 2023; 12: 372-378.
8.   Isaacman DJ, Karasic RB, Reynolds EA, et al. Effect of number of blood cultures and volume of blood on detection of bacteremia in children. J Pediatr. 1996; 128: 190-195.
9.   Hall TR, Domenico HJ, Self WH, et al. Reducing the blood culture contamination rate in a pediatric emergency department and subsequent cost savings. Pediatrics. 2013; 131: e292-e297.
10. El Feghaly RE, Chatterjee J, Dowdy K, et al. A quality improvement initiative: reducing blood culture contamination in a children's hospital. Pediatrics. 2018; 142: e20180244

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