2024年2月17日
RSウイルス母子免疫ワクチンに関する考え方
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会
2024年1月18日に「妊婦への能動免疫による新生児及び乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防」を適応症として、組換えRSウイルスワクチン(販売名:アブリスボ筋注用、以下、RSウイルス母子免疫ワクチン)が製造販売承認を取得し、販売に向けた準備が行われています。60歳以上の高齢者を対象とした組換えRSウイルスワクチン(販売名:アレックスビー筋注用)の接種が既に開始されていますので、間違い接種が起こらないように注意する必要があります。日本小児科学会は、RSウイルス母子免疫ワクチンへの理解と接種が進むことを期待いたします。
1.RSウイルス感染症の医学的重要性
RSウイルスは世界中に広く分布しており、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%がRSウイルスに感染します。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の50~90%がRSウイルス感染症によるとされています。症状は感冒様症状から下気道感染に至るまで様々ですが、特に生後6か月未満で感染すると重症化することが示されています。また、合併症として無呼吸、急性脳症などがあり、後遺症として反復性喘鳴(気管支喘息)があります1)2)。日本では、毎年約12万~14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、約4分の1(約3万人)が入院を必要とすると推定されていますが、有効な治療薬はありません3)。RSウイルス感染による乳児の入院は、基礎疾患を持たない場合も多く(基礎疾患のない正期産児等)、また、月齢別の入院発生数は、生後1~2か月時点でピークとなるため、生後早期から予防策が必要とされています3)4)。こうした罹患率と疾病負荷の高さから、RSウイルスワクチンは、国による開発優先度の高いワクチンに指定され、承認が待ち望まれてきました5)。
2.現行のRSウイルス感染症の重症化抑制薬の問題点
現在、使用可能な重症化抑制薬は、抗RSウイルスヒト化モノクローナル抗体製剤のパリビズマブですが、適応症が基礎疾患を有する児や早産児に限定されているため、RSウイルス感染症による入院の大部分を占める基礎疾患のない正期産児には使用することができないことが課題の1つです6)。
3.RSウイルス母子免疫ワクチン
RSウイルス母子免疫ワクチンの機序は母子免疫であり、妊婦に接種することにより母体のRSウイルスに対する中和抗体価を高め、胎盤を通じて母体から胎児へ中和抗体が移行することで、乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患を予防します7)。適応症は、“妊婦への能動免疫による新生児および乳児におけるRSウイルスを原因とする下気道疾患の予防”、用法および用量は、妊娠24~36週の妊婦に1回0.5mLを筋肉内に接種するとなっています7)。
承認前の臨床試験(国際共同第Ⅲ相試験)において、ワクチンの有効性は、重度のRSウイルス関連下気道感染症に対して、生後90日で81.8%、生後180日で69.4%でした。医療機関の受診を必要とするRSウイルス関連下気道感染症に対して生後90日で57.1%、生後180日で51.3%の有効性でした8)。ただし、妊娠28~36週に本ワクチンを接種した場合に有効性がより高い傾向が認められました7)。反応原性の注射部位疼痛などは、ワクチン群が多かったものの、ほとんどが軽度から中等度でした。また、有害事象および重篤な有害事象はワクチン群とプラセボ群で同程度でした。参加した妊婦と出生した乳児において、試験期間を通じて安全性のシグナルは特定されませんでした8)。本臨床試験の結果からは早産出生や出生児の低出生体重との関連は示されていないものの、我が国で接種を受けた妊婦及び児の安全性のモニタリングを行うことが重要です。また、機序や臨床的な影響は不明であるものの、海外で使用されている成人用の沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチンとの同時接種は、百日咳菌の防御抗原に対する免疫応答が低下するとの報告があるため接種の際に注意が必要です7)。
以上のことを総合的に勘案し、本ワクチンは、基礎疾患のない乳児に対するRSウイルス感染症の予防に寄与することが期待されます。日本小児科学会は、我が国の新生児・乳児・幼児のRSウイルス感染症の予防や重症化抑制に関連学会と協働で取り組んでいきます。