ガイドライン・提言

 

血中カルニチン2分画検査の適正な運用について

血中カルニチン2分画検査の適正な運用について

(2017.11.27公開)

 カルニチン欠乏症はさまざまな年代で意識障害、けいれん、横紋筋融解症、脳症、頻回嘔吐、精神・運動発達の遅延、心肥大、心筋症、心機能低下および突然死(あるいはその家族歴)などの重篤な症状を引き起こします。種々の先天代謝異常症患者のみならず肝硬変や肝不全患者、腎不全患者、食思不振症やその他の低栄養状態の患者、カルニチンを含まない経管栄養・完全静脈栄養(TPN)あるいは一部の牛乳アレルゲン除去調製粉乳などで栄養管理されている患者、カルニチン欠乏を起こす薬剤投与を受けている患者(バルプロ酸、ピボキシル基含有抗菌薬、抗がん剤など)など様々な疾患を持つ患者や治療を受けている患者にカルニチン欠乏症が発症することがあり、日常臨床で必ずしも稀ではありません。そのため医師がカルニチン欠乏症を正しく診断して治療する必要があります。
 このような状況の中で、日本小児医療保健協議会の栄養委員会が中心になりカルニチン欠乏症の診断・治療指針2016が作成され、2016年12月に日本小児科学会ホームページに全文が公表されました。その要旨は日本小児科学会雑誌に掲載されております(2017年1月号)。

 カルニチン欠乏症の診断法には、タンデムマス法と酵素サイクリング法があり、目的に応じての使い分けが必要です。先天代謝異常症の確定診断にはタンデムマス法が必須ですが、先天代謝異常症の確定診断後の経過観察においては酵素サイクリング法が代替法となり、その他の原因によるカルニチン欠乏症の診断にはほとんどの場合酵素サイクリング法で代替可能と考えられ、指針では酵素サイクリング法(血中カルニチン2分画検査)を中心に疾患毎に詳細を解説しております。本法は総カルニチン値と遊離カルニチン値をそれぞれのキットで測定し、その差からアシルカルニチン値を算出します。アシルカルニチンの分子種は特定できませんが、様々な病態における遊離カルニチンの低下だけではなく、アシルカルニチンの蓄積などカルニチン代謝異常を検出することが可能です。透析やバルプロ酸服用などカルニチン欠乏症の原因が継続しているかぎりは遊離カルニチン値が正常濃度に入るようにカルニチン製剤の継続投与が必要と考えられますが、ある程度補充した後は減量可能な場合もあります。カルニチンの血中プールは全体の0.6%と言われており、カルニチン製剤の投与後に測定すると投与の影響で極めて高値になってしまいます。カルニチン製剤の添付文書において、投与に際しては原則としてカルニチンの欠乏状態の検査を行うことが求められておりますが、こうしたカルニチン補充療法のモニタリングに関する詳細なインターバルについては疾患毎にさらなる検討を行い確立していく必要があると考えます。今後、各施設においてカルニチン欠乏症の診断と治療の一層の充実のために『カルニチン欠乏症の診断・治療指針2016』を用いた血中カルニチン2分画検査の適正な運用に役立てていただけたら幸いです。

 なお、今回の指針は2016年版のエキスパートオピニオンとし、今後も定期的に見直しを行う予定であることを申し添えます。

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