ガイドライン・提言

 

(登録:2001.04.27)

 

在宅無呼吸監視装置(ホームアプニアモニタ)に関する意見書

 

平成13年1月
日本小児科学会倫理委員会
中村  肇 委 員 長
仁志田博司 委   員
田辺  功 委   員
泉  達郎 担 当 理 事

 

 睡眠中に発生する無呼吸を感知し警報を発するいわゆる無呼吸監視装置は、乳幼児の突然死予防の目的でこれまでいくつかの機種が開発され実際に使用されてきた.しかし最近のアメリカ小児科学会誌(Pediatrics)上でも議論されているごとく、このような無呼吸監視装置が乳幼児の死亡、特に乳幼児突然死症候群による死亡、の予防に有効であったという疫学的なデータはない.
 それにもかかわらず、家庭においても無呼吸監視装置が使用されているのは、前児を突然死で亡くしている家族や突然死に近いエピソード(アルテ、乳幼児突発性危急事態)を経験した家族が、その精神的な不安を軽減する効果のためである.
 欧米においては、乳幼児突然死症候群そのものが理解されているのみならず、蘇生術をはじめとした危急事態発生時の対応が社会常識のように身についているところから、個人の責任のもとに医療者の介入なく無呼吸監視装置が一般の家庭で使用されている場合がある.
 しかし社会的背景の異なる本邦に於いては、そのような目的の無呼吸監視装置は全て医療器具としての認可を受けており、一般家庭向けには医師の指示を前提としたレンタルのみである.また装置は使用後回収されるところから、いつどこでだれが使用しているかが把握されており、トラブルが発生した場合はすぐに対応できるシステムになっている.
 ところが、昨今ベビー用ハイテク・モニターの名称の機具が通信販売や量販店で一般家庭向けに売り出されているが、その機具は「赤ちゃんの呼吸に伴う動きが20秒間停止した場合には、直ちに警報を発して異常を知らせ、お母さまの素早い対応を促すのが特徴です.」と宣伝文に記載されているごとく、実質的には乳幼児の無呼吸監視装置として使用されるものと考えられる.スイッチの入れ忘れなどの過った使用や装置を過信して児を長期間一人にしてしまうことなどが如何に危険かは言うまでない.異常が発生した時の蘇生法などの対応法を考慮しないこのような機具の販売は、医学的観点から認め難いのみならず利用者の危険を顧みない非倫理的な行為と判断される.さらに多くの場合、ある一定期間の使用後に第三者に装置が渡ってしまう可能性がある.このような危険性を孕んだ販売方式では、無呼吸モニターの適切な説明と指導がないままに、乳幼児に対し野放しで使用されることとなり、極めて危険な事態が発生することが懸念される.

 日本小児科学会はこのような乳幼児の命にかかわる状況の速やかなる改善を関係諸子に強く要望するものである.

 

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