ガイドライン・提言

 

(登録:2002.04.03)

 

牛海綿状脳症に関する我が国の牛肉などの安全性についての見解

 

平成14年2月
日本小児科学会栄養委員会
委員長 小池通夫


 厚生労働省と農林水産省が牛海綿状脳症(BSE)への緊急対策として2001年10月18日に実施をはじめた屠殺牛の全頭BSE検査、および保存中の検査開始前牛食肉全部の買い上げとその焼却処分の決定、さらに屠殺後の牛神経部分による食肉の汚染防止策の徹底、全国で飼育中の牛の番号化によるtraceabilityの確立などの結果、わが国の国産牛肉の安全性は一応確保されたといえる.一方、わが国で食用に供されている牛食肉の70%は輸入品であるが、英国やEU諸国などBSE汚染地域からの輸入もすでに全面禁止されており、輸入牛食肉も現在は一応安全と考えられる.ただし、牛餌としての肉骨粉を排除するなどのBSE感染対策が完全であったとしても、潜伏期を考慮すると今後少なくとも8年はBSEの発生の可能性がある.食肉処理場での高感染性臓器である脳、脊髄などの処理方法の徹底、検査体制の徹底が行われる限り人への感染のおそれは無いと考えて良い.EU諸国と国際獣疫事務局(OIE)が指定する牛の部位とBSE感染危険度の関係を示すと、(1)高感染性:脳、脊髄、眼球、回腸末端部、(2)中感染性(高感染性の1/400):脾臓、扁桃、リンパ節、空腸、近位回腸、胎盤、副腎、脳脊髄液、松果体、硬膜、(3)低感染性(高感染性の1/10万):末梢神経、鼻粘膜、胸腺、骨髄、肺、膵臓、(4)感染性なし:骨格筋、心臓、乳腺、牛乳、血塊、血清、腎臓、卵巣、子宮、精巣、甲状腺、唾液腺、唾液、胆汁、骨、軟骨、結合織、毛、胎児組織、となっている.これらを考慮したとしても、乳幼児の育児用ミルク製品も安全性は保証されている.
 加工食品、医薬品などで牛が原材料として使われているものが多い.医薬品では手術用糸(腸)、止血剤、ワクチン安定剤(ゼラチン)、カプセル剤(ゼラチンカプセルなど)があり、医薬品外では基礎化粧品のコラーゲン、プラセンタエキス(胎盤)など、またカルシウム栄養剤や健康食品などに用いる骨粉などがある.加工食品には牛脂やゼラチンなどが複雑に用いられている.厚生労働省はBSEの人への感染対策として、医薬品などの製造、輸入業者に対し、2001年3月までに原料の輸入先を確認し、また使用部位が禁止部位を含めば原料切替と承認内容変更を厚生労働大臣に提出することを求めた.厚生労働省が指定した輸入禁止国および項目は(1)BSEの発生国(9か国)とそのリスクの高い国(23か国)、(2)これらの国由来の牛のほか、シカ、水牛、山羊、羊に関連する原料、(3)原産国に限らず高感染性、中感染性部位の使用、である.しかし、この禁止項目を定めた時点が2000年12月で、その後僅かの間にBSE発生国が増え、日本を含め22か国になったことから、原材料の厳重な安全確認が引き続き必要と考える.なお、わが国でBSEが発生した後は、国産牛の医薬品原料使用は全ての部位で禁止されている.しかし、その後に起った雪印食品の不正、欺瞞の数々は食肉だけでなく食料品に対する国民の信頼を全面的に損なうものであった.
 日本小児科学会栄養委員会として、現在市販中の牛食肉の安全性は一応保証できるものと考える.しかし、今後も食肉を含める加工食品、医薬品などの安全性の確保のために厳重な監視の目を向けなければならない.本来、食事の安全性は消費者自らが決めるものであり、そのためには広範な情報の公開が不可欠である.

 

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