ガイドライン・提言

日本小児科学会学校保健心の問題委員会「提言2010」

日本小児科学会学校保健心の問題委員会

沖 潤一、小田嶋博、香美祥二、田澤雄作、田中英高、中尾繁樹、長尾雅悦、橋本俊顕、平岩幹男、脇口 宏、渡辺久子、山崎嘉久、山野恒一

 国連「子どもの権利に関する委員会」は、日本政府に対して「日本の子どもは極度に競争的な教育制度によるストレスのため発達上の障害に曝されている、休息が欠如している、不登校の数が膨大であると指摘し(1998年)、再勧告(2004年)をしている」が、積極的な対応と実効が得られていないのが現状です。学校保健心の問題委員会は、子どもの権利と尊厳を守るために、この「提言2010」を上梓します。

 子どもは人間の未来です。人は命を得て人生のスタートを切り、初等教育に始まる学校での経験を積み重ね、ライフサイクルを歩み大人となり、人間の英智を新たな命に伝えて、そのライフステージを終えます。学校保健心の問題への取り組みとその改善は、次世代への希望の掛け橋となります。学校保健心の問題の源には、就学前からの養育環境が含まれます。乳児期からの養育環境の劣悪化に対応するためには、現代の子どもの身体的な問題だけでなく、多様な社会的現象や反社会的事件に連続した視点で捉えることが重要です。その源には、親子のコミュニケーションの希薄化があり、人間が社会を構成するために必須な基本的な躾や生活習慣の獲得が不十分であることが背景にあります。この大切な礎が形成されてこそ、初等教育に始まる学校教育が成立し、子どもは大人の人間になります。現実世界でのコミュニケーションの希薄化は、親子・家族・人間の絆の希薄化に繋がりますが、これらの根元には、赤ちゃんのときからの過剰な映像メディアとの接触、行過ぎた競争教育社会、睡眠を含めた不適切な養育環境などがあります。心優しい子どもは、大人の期待に応えようと頑張り続けます。しかし、その先で、子どもは疲れ果て、自尊心を傷つけながら、心寂しい世界の中で耐えています。

 これまでの学校保健の取り組みの結果として、一定の身体疾患への対策は確実に成果を上げました。しかし、子どもの肥満、やせ、アレルギー、不登校、いじめ、虐待、喫煙・受動喫煙、発達障害、学力・スポーツ力・コミュニケーション力の低下、心の問題、うつ状態、起立性調節障害、慢性疲労などの多様な問題は未解決のままに時が過ぎていることを警鐘します。これらの問題に対応するための既知のシステムが周知され、さらに新規のシステムが立ち上げられ、共に広く活用されることを強く望みます。特に、潜在する多様な問題に気付き、小児科医を受診するシステムの構築が望まれますが、その手掛かりとして、日本小児科学会学校保健心の問題委員会が提言した「成長曲線」及び「21世紀の問診票」の活用を学校関係者に推奨します。

 この提言は、小児科医、医師、看護師、政府・メディア関係者、保育・学校関係者そして保護者、子供に寄り添い歩むすべての人々に伝えられること、トップダウン及びボトムアップ双方向からの活動が実践されることを期待します。健やかな子ども、病む子ども、すべての子どもが人間として成長するために必要な「学校教育」を補償し、すべての子どもが人間としての「社会力」を獲得することを願い、「すべての子どもたちに特別な支援が必要である」ことを提言します。

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