ガイドライン・提言

 

新生児と乳児のビタミンK欠乏性出血症発症予防に関する提言

2021年11月30日
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日本小児科学会、日本産科婦人科学会、日本周産期 ・ 新生児医学会、
日本産婦人科・新生児血液学会、日本新生児成育医学会、日本小児科医会、
日本小児保健協会、日本小児期外科系関連学会協議会、日本産婦人科医会、
日本看護協会、日本助産師会、日本助産学会、日本 外来小児科学会、
日本小児外科学会、日本胆道閉鎖症研究会、日本母乳哺育学会

要旨

新生児と乳児期早期はビタミンK欠乏性出血症を発症しやすく、その中でも肝胆道系疾患を有する児はビタミンK欠乏による頭蓋内出血のハイリスクです。頭蓋内出血を起こすと、生命予後および神経学的予後は不良となるため、新生児に関わるすべての医療者が以下の2項目に留意するよう提言します。

1.肝胆道系疾患の早期発見のため、母子手帳の便カラーカードの意義を医療者は理解し、この活用方法を保護者に指導すること
2.哺乳確立時、生後1週または産科退院時のいずれか早い時期、その後は生後3か月まで週1回、ビタミンK2を投与すること

はじめに

 ビタミンKは胎盤透過性が低いため出生時の備蓄が少なく、また、生後早期は肝臓のプロトロンビン合成能が未熟です。加えて、母乳中のビタミンK含有量は少なく、新生児の腸管内におけるビタミンK2産生も期待できないこともあり、新生児はビタミンK欠乏性出血症を発症しやすいことが知られています。新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症は,発症時期により臨床像が異なり、生後2週以降に発症する遅発型は頭蓋内出血をきたす症例が多く1)、生命予後および神経学的予後は不良です。胆道閉鎖症などの肝胆道系の基礎疾患がある場合はビタミンKの吸収障害によってビタミンK欠乏症を発症しやすいため、早期発見・早期介入が欠かせません。肝胆道系疾患を早期に発見するために、母子手帳に便色カードが掲載されるようになりましたが、未だにこの利用方法を理解してない医療者・保護者も散見されます。
 ビタミンK2シロップを哺乳確立時から与えることで、ビタミンK欠乏性出血症を予防しようという取り組みは以前からなされてきましたが、2018年に日本小児科学会新生児委員会が行った調査(対象施設2,341のうち1,175施設から回答)では、哺乳確立時、生後1週(産科退院時)、1か月健診時に3回ビタミンK2を内服させる方法(以下、3回法)が55.6%、哺乳確立時、生後1週(産科退院時)以降生後3か月まで1週ごとに合計13回内服させる方法(以下、3か月法)が22.3%、それら以外が22.1%と、ビタミンK2を内服させる方法にはばらつきがあることがわかりました2)
 このようなことから、現在の問題点として、1)未だに肝胆道系疾患が早期発見されずに、ビタミンK欠乏性出血症を発症したのちに診断される事例が少なくないこと、2)3回法と3か月法、更にはどちらにも属さない方法が混在しているという2つの点があります。

1)提言

1.肝胆道系疾患の早期発見のため、母子手帳の便カラーカードの意義を医療者は理解し、この活用方法を保護者に指導すること

2.哺乳確立時、生後1週または産科退院時のいずれか早い時期、その後は生後3か月まで週1回、ビタミンK2を投与すること(注)

注:なお、1か月健診の時点で人工栄養が主体(おおむね半分以上)の場合には、それ以降のビタミンK2シロップの投与を中止して構いません3)

2)本提言の背景と内容

提言1について:
 母子手帳には便色カードが掲載されており、便の色を見ることで胆汁が腸管内に排泄されているかを確認できます。胆道閉鎖症などの肝胆道系疾患で胆汁の排泄に障害が生じると便色が薄くなります。このように便色カードによる便色チェックは、胆道閉鎖症などの早期発見の手段となっております。胆道閉鎖症を早期に発見することは自己肝生存のためにも重要ですが、最近の報告をみても、この便色カードが胆道閉鎖症の早期発見に、十分に活用されているとは言えない状況にあります4)、5)。便色カードを適切に利用して、胆道閉鎖症を含む肝胆道系疾患を早期に発見するように意識を高める必要があります。

提言2について:
 日本小児科学会雑誌125巻1号に委員会報告として掲載されている概要を記載します。一次調査として,日本小児科学会会員の小児科施設を対象に、2015年~2017年の3年間に出生した在胎36週以上の児でビタミンK欠乏症が原因と考えられる出血性疾患の症例数について調査をしました。今回の調査でビタミンK欠乏が原因と思われる出血性疾患のうち、頭蓋内出血が13例(栄養方法:母乳栄養が10例、人工栄養1例、不明が2例)発症していました。このうちの11例で胆道閉鎖症などの肝胆道系の基礎疾患が認められ、この9例では3回法が行われていました(投与法不明およびその他が各1例)。肝胆道系の基礎疾患がなく頭蓋内出血をきたした1例については、栄養方法は母乳で、ビタミンK製剤予防投与方法は3回法であったことがわかっております。今回の調査では3か月法の乳児からビタミンK欠乏が原因と考えられる頭蓋内出血の発症はありませんでした。この調査方法では、3か月法でビタミンK欠乏性出血症を完全に予防できるとは言えないものの3か月法によるビタミンK欠乏性出血症予防の可能性が示されたと考えております。今回の調査結果でも明らかになったように、ビタミンK2投与法は混在しており、このような内服方法のばらつきは、現場ならびに母親への混乱につながりかねないため、ビタミンK2投与法も統一すべきと考えます。
 これまで、3か月法でビタミンKの過剰が起こったという報告がないこと、欧米で3か月法を採用している国が多くあること、日本産婦人科・新生児血液学会や日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会からそれぞれ推奨が出されていることも踏まえて、周産期新生児に関わる学会・団体が共同してビタミンK欠乏性出血症の予防に関する提言を行うこととなりました。

おわりに

 肝胆道疾患はビタミンK欠乏に伴う頭蓋内出血のリスクです。医療者が母子手帳の便色カードの意義を理解し、便色カードをご両親が適切に利用することで肝胆道系疾患を早期に発見することは重要です。肝胆道系疾患の有無にかかわらず、新生児と乳児期早期はビタミンK欠乏性出血症を発症しやすいことから、ビタミンK2の予防投与が行われています。現在、哺乳確立時、分娩施設退院時、1か月健診時に3回ビタミンK2を内服させる方法(3回法)と生後3か月まで1週毎に13回内服させる方法(3か月法)が混在しております。ビタミンK2投与法の混在により現場、母親への混乱をなくすためにも児のビタミンK欠乏性出血症の発症予防のために上記のとおり提言いたします。

文献

1)Sutor AH, von Kries R, Cornelissen EA, et al. Vitamin K deficiency bleeding (VKDB) in infancy. ISTH Pediatric/Perinatal Subcommittee. International Society on Thrombosis and Haemostasis. Thromb Haemost 1999;81:456-461.

2)早川昌弘ら. 新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の現状調査.日児誌125巻1号99-101, 2021

3)ビタミンK欠乏性出血症 産婦人科・新生児領域の血液疾患診療の手引き 日本産婦人科・新生児血液学会 p131-137

4)安井稔博、鈴木達也、原普二夫、他 小児に関わる医療従事者による胆道閉鎖症における便色カラーカードの認識に対する意識調査:単施設研究 日小外会誌 2019;55:1164-1169

5)横井暁子、磯野香織 胆道閉鎖症の早期発見における便色カードの有用性の検討 日小外会誌 2019;55:945-950

6) 木下勝之、木村正 新⽣児の出⾎性疾患予防のためのビタミンK投与法について5559054e3614ae4ff296b224fa7510d1.pdf (jaog.or.jp)

7)白幡聡ら新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改訂ガイドライン 日児誌115巻3号705-712,2011

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