ガイドライン・提言

 

2020年9月13日

ビオチン大量内服による検査値異常に係る注意喚起

日本小児科学会、日本新生児成育医学会、
日本先天代謝異常学会、日本マススクリーニング学会

 

 測定系にビオチンを用いる体外診断用医薬品において、高用量のビオチンを摂取した測定対象者の検体を使用した場合正しく測定できないことが厚生労働省、米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)から注意喚起され、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長から当該体外診断用医薬品についての自主点検、添付文書の内容確認、改訂等の周知徹底が求められているところです(令和元年9月12日付 薬生安発0912第5号「測定系にビオチンを用いる体外診断用医薬品の添付文書の自主点検等について」)。また日本臨床検査薬協会からも医療機関への周知が行われたところです。(2020年8月21日付 臨薬協発2020-032号「測定系にビオチンを用いる体外診断用医薬品と高用量ビオチンの摂取について」)

 ビオチンは、ビタミンB7とも呼ばれる水溶性ビタミンの一種で、ホロカルボキシラーゼ合成酵素の補酵素であるため、生体に含まれる4種類のカルボキシラーゼの活性維持に必要不可欠なものです。タンデムマス法による新生児マススクリーニングの対象疾患にもなっているホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症では治療薬として必要不可欠で、新生児期から10㎎/日以上の大量投与を必要とします。また、先天代謝異常症が疑われる代謝性アシドーシス発作を来す症例においては、有機酸代謝異常症治療の一環としてホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症の可能性を考慮し、他のビタミン剤とともに投与することが推奨されています。

 一方、ビオチンは、卵白等に含まれる糖タンパク質であるアビジンと非常に高い結合能を持つため、この特性を用いてアビジン・ビオチン法として免疫組織化学、細胞の標識、免疫沈降など化学分析分野で広く用いられており、ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)などを用いた臨床検査法にも応用されています。ELISAではビオチン化した抗体とアビジン標識した酵素を反応させるなどの方法で目的物質の測定が行われるため、検体内に存在するビオチンによって干渉が生じ、多量に存在すれば見かけ上の高値、あるいは低値が生じることとなります。多量のビオチンの存在により、甲状腺ホルモンの測定では高値に、TSHの測定では逆に低値を示すため、臨床的にはバセドウ病様の検査所見を示した症例報告が散見されております(日児誌 2020;124:387、日新生児成育医会誌 2019;31:790 等)。これ以外にもNT-proBNP、HBsAg、HBsAb、AFP、LH、FSH、血中トロポニンなど多くの項目でビオチンによる検査値干渉を生じることが知られております。

 前述した厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長からの通知にも、該当する体外診断用医薬品については妨害物質・妨害薬剤の項目にビオチンを記載すること、影響を与えないビオチン最大濃度を記載することが求められており、関連企業は対応を行っているところです。日本小児科学会と関連学会では、ビオチン投与中の症例において臨床症状・治療経過などにそぐわない検査結果が生じた場合、上記干渉の可能性を念頭に、診断用医薬品の確認、投与中止後の再検査などを考慮しつつ、診断、治療を行うべきことを周知いたします。

 尚、ビオチン投与はホロカルボキシラーゼ合成酵素欠損症などでは投与が必須である一方、不適切な投与やサプリメント等(米国などから購入されるものではビオチン5-10㎎/錠などの高用量のものもある)の使用による不必要な摂取も多くみられることから、病態によっては、専門家による投与の必要性の再検討が必要であることも併せて申し添えます。

 適正な治療と、適正な検査結果の解釈にご留意いただくようお願い申し上げます。

以上

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