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新型コロナウイルス感染症の拡大を見据え、それぞれの地域の実情に応じて保健行政・医療・福祉で対策を検討し、その結果を在宅人工呼吸装着児の養育者に周知していただくことを日本小児科学会および日本小児神経学会として提案します。
在宅人工呼吸器装着児は手厚い医療が必要な子どもたちです。新型コロナウイルスに感染した場合、重篤化する可能性が高いと考えます。また、流行期には普段利用している学校や通所施設、訪問看護や短期入所などの利用が制限される可能性もあるため、主治医は新型コロナウイルス感染症の拡大に備え、前もって各家庭の状況を平時よりも詳細に把握するとともに、各病院間の連携、行政、災害時小児周産期リエゾン、災害時小児呼吸器地域ネットワークを通じて、養育者が感染した場合や在宅人工呼吸器装着児が感染した場合など、さまざまな状況を想定して、受け入れ先の医療機関、レスパイト先の施設、入所施設等を決めておく必要があります。
在宅人工呼吸器装着児が新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者参考1)や陽性者となり入院した場合は、在宅主治医は養育者と入院主治医と密に連絡をとる必要があります。子どもは養育者の深い愛情の中で育っていきます。そのことを考慮すると、養育者が子どもの近くにいることが望ましいですが、状況によっては離れて避難や治療をせざるを得ない場合もあります。在宅人工呼吸器装着児が陽性となった場合の対応は、呼吸ケアで飛沫やエアロゾルの発生リスクがあることに配慮し、感染対策参考2)の観点から適切な施設や医療機関に原則入院となります。日本小児科学会では養育者と在宅人工呼吸器装着児の感染状況によって以下のように対応することが望ましいと考えます。
それぞれの地域の実情に応じて保健行政、医療、福祉で保険診療以外の費用の負担を含めた対策を検討し、その結果を在宅人工呼吸装着児の養育者に周知していただくようお願いいたします。
1)養育者が陰性または濃厚接触者の場合
児は養育者とともに自宅での健康観察を基本とする。その場合、養育者は児の状態を注意深く観察し、感染兆候の早期発見と早期対応に努める。さらに主治医に相談することも考慮する。
医療的資源については、在宅主治医は平時に使用しているものを枯渇させることなく提供できるよう、関係機関と連携を図り、養育者に感染防御に必要な衛生物品を可能な限り支給するよう自治体に働きかけるとともに、自宅での感染対策を確認し適切な助言を行う。
2)養育者が陽性で、入院が不要な場合
児は養育者の状態や他の養育者の有無などの状況により自宅での健康観察とするか、もしくは受け入れ可能なホテル隔離とする。
3)養育者が陽性で、入院が必要な場合
児は他の養育者の有無などの状況により自宅での健康観察とするか、もしくは受け入れ可能なレスパイト施設や医療機関へ入院を検討する。
1)養育者が陰性または濃厚接触者の場合
児は基礎疾患の重症度、各地域の実情、感染のフェーズに合わせて、適切な医療機関に入院とする。入院時の養育者の付き添いにより、児の精神的な不安を取り除くことや症状悪化の早期発見などの利点も大きいため、養育者へ感染防御策をとることや感染リスクがあることを説明し、同意を得たうえで最少人数での付き添いを許可することも考慮する。ただし医療機関の状況や児の状態により、付き添いを許可できない場合もある。
2)養育者が陽性で、入院が不要な場合
2-1)と同様であるが、養育者が付き添う場合、養育者も陽性であることを踏まえて適切な感染管理がなされる必要がある(実質入院扱いとなる可能性がある)。
3)養育者が陽性で、入院が必要な場合
児と養育者はともに入院となる。同室とするか別室とするかは、状況により判断する。
在宅人工呼吸器装着児の新型コロナウイルス感染症に関しての対応
◆濃厚接触の在宅人工呼吸器装着児は、①健康観察する場合、養育者には自宅でできる感染防御策をしてもらう。②基礎疾患の重症度、地域の実情、感染フェーズに合わせ、レスパイト施設や医療機関への入院を常に検討する。③入院するレスパイト施設や医療機関は、個室確保(陰圧が望ましい)や適切なゾーニングなど院内感染対策に努める。
◆陽性の在宅人工呼吸器装着児は、原則医療機関へ入院となる。地域の実情に合わせ、陽性以外の養育者が付き添うことも考慮する。付き添い者には、感染防御策をとることや感染リスクがあることを説明した上で同意を得ることを考慮する。
◆養育者が児を介護できないほど重症で代替えとなる養育者が不在の場合には、児がどのような状態であっても危険な状態に陥らないように、関係者で検討する必要がある。
参考1)
国立感染症研究所感染免疫センターによる最新の濃厚接触者の定義は、患者(確定例)の感染可能期間(新型コロナウイルス感染症を疑う症状を呈した2日前から隔離開始までの期間)に接触した者のうち、次の範囲に該当する者。
● 患者(確定例)と同居あるいは長時間の接触(車内、飛行機内等)があった者
● 適切な感染防護無しに患者(確定例)を診察、看護もしくは介護していた者
● 患者(確定例)の気道分泌物もしくは体液等の汚染物質に直接触れた可能性が高い者
● その他、手で触れることのできる距離(目安として1メートル)で、必要な感染予防対策無しで、患者(確定例)と15分以上の接触があった者(周辺の環境や接触の状況等個々の状況から患者の感染性を総合的に判断する)
参考2) 新型コロナウイルス陽性の在宅人工呼吸管理例の入院時の注意点
日本呼吸療法医学会ならびに日本臨床工学技士会から公開
新型コロナウイルス肺炎患者に使用する人工呼吸器等の取り扱いについて
ー医療機器を介した感染を防止する観点からー Ver.2.2
https://www.jsicm.org/news/upload/COVID-19-ventilator-V2.2.pdf
を参照して適切に対応する。
また、以下の点も併せて注意すること。
1.気管カニューレはカフ付きを使用することが望ましいが、乳幼児では変更できない場合もある。その場合は安全に十分配慮したうえで、気切部のガーゼを厚くしたり、通気性のないものでシールする等できるだけエアロゾルの発生を低減させることが望ましい。
2.エアロゾル発生防止のためリークポート使用回路は使用せず、ダブルブランチの呼気弁使用回路を使用し、呼気側にもウイルス除去フィルターを装着する。在宅用人工呼吸器を入院後も使用する場合は、回路の変更に関して特に注意が必要である。
3.バクテリアフィルタ付人工鼻による加温加湿管理が望ましいが、小児では加温加湿器を使用せざるを得ない例も想定される。その場合、呼気側のフィルターが水分で浸潤し呼気抵抗が上昇し、頻回に交換を要する可能性があるので注意する。湿潤状態で使用可能な製品も発売されており、必要であれば使用する。