ガイドライン・提言

 

乳幼児の虐待による頭部外傷(AHT:Abusive Head Trauma)に関する共同合意声明

 日本小児科学会では、乳幼児の虐待による頭部外傷(AHT:Abusive Head Trauma)で死亡・不可逆的な後遺障害を負った子どもの権利擁護のために、米国小児放射線学会(SPR)、欧州小児放射線学会(ESPR)、米国小児神経放射線学会(ASPNR)、米国小児科学会(AAP)、欧州神経放射線学会(ESNR)、米国子ども虐待専門家協会(APSAC)との共同で合意声明を発表致しました。
※原文はhttps://link.springer.com/article/10.1007/s00247-018-4149-1  から有償(2018年6月までは無償)で確認することができます(Pediatric Radiology,pp 1–18)。

乳幼児の虐待による頭部外傷(AHT:Abusive Head Trauma)に関する共同合意声明 要旨

注:日本語翻訳版は原文を日本小児科学会が翻訳したものです。

 虐待による頭部外傷(AHT)は、2歳以下の小児の致死的頭部外傷の主要な原因である。AHTの診断は、病歴・身体所見・画像所見・検査所見に基づき、多機関連携チームの総合判断で行われる。AHTの受傷原因は、多要因性(揺さぶり、揺さぶり後の直達外力、直達外力など)であり、最も包含的で最適な用語としてAHTという用語が近年用いられている。硬膜下血腫、脳実質及び脊髄の変化、多発多層性網膜出血、肋骨骨折やその他の骨折を併発し、養育者から語られた病歴がこれら所見と矛盾している場合には、包括的な検査を行い、AHTに類似する症状をきたしうる病態の鑑別を尽くす必要があるものの、AHTの診断の医学的妥当性に関する論争はない。しかしながら、法廷では、一般に受容されている医学文献とは全く相容れない、医学的根拠の全くない仮説が飛び交う状況となっている。法廷で弁護側医学証人は、脳静脈洞血栓症・一次性の低酸素性虚血性脳損傷・腰椎穿刺、嘔吐物の誤嚥などによる窒息が原因で、AHTと同様の所見を呈するとの主張を行うが、それらの主張には信頼できる医学的根拠は何もない。出生に伴う無症候性の硬膜下血腫が、出生後相当程度時間が経った段階で再出血を起こしショックに陥る可能性があるとの主張もなされるが、このような病態は、医学的文献では何ら実証されていない。AHTの診断は、加害者の意図の証明や「殺人の診断」といった法的診断ではなく、あくまで医学的診断である。本共同合意声明が、関連する医学界で受け入れられている実際の医学的エビデンスに基づく医師の意見と、臨床所見や画像・検査所見や医学文献による何らの裏付けもない法廷の場での主張や仮説的な言説とを区別する上で、裁判官や陪審員/裁判員の判断の一助となり、混乱が最小化されることを期待する。

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