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2023年10月3日

小児への新型コロナワクチン令和5年度秋冬接種に対する考え方

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会
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 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の流行状況やワクチンの開発状況をうけ、厚生労働省の審議会は、2023年秋以降の新型コロナワクチンはオミクロンXBB.1.5対応1価ワクチンの使用を基本とする方針を決定しました1)。また、公費負担は継続されるものの、従来の努力義務や接種勧奨などの公的関与は重症化のリスクが高い者に限定されることになりました。
 日本小児科学会では、これまでに新型コロナワクチン接種に対する考え方2)~4)を公表していますが、上記の決定をうけて、国内の小児に対するワクチン接種の意義について再度検討しました。その結果、国内小児に対するCOVID-19の脅威は依然として存在すること、感染および重症化を予防する手段としてのワクチン接種は有効であると考えています。以上のことから、日本小児科学会は、生後6か月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を引き続き推奨します。
 
 以下に理由の詳細を述べます。
 
流行株の変化によって今後も流行拡大が予想される
  2022年以降の流行ウイルス株は世界的にもオミクロン系統から派生した亜系統株になっています。国内で流行しているオミクロン亜系統は、2023年5月以降はBA.2,BA.5からXBB.1系統に変化し、最近ではEG.5系統の割合が増加しています1)。従来のワクチン(起源株の1価ワクチンあるいはBA2・BA5を含む2価ワクチン)やXBBより前の感染によって得られた免疫は、XBBあるいはEG.5系統株による感染を予防する効果は不十分であり、今後の流行拡大が想定されます。令和5年度秋冬接種に使用するXBB.1.5対応1価ワクチンはこれまで使用されてきた2価ワクチンよりもXBB.1.5系統株に対して高い中和抗体価を誘導し、発症予防効果が向上することが期待されています1)
国内の約半数は未感染者であり今後も感染機会が続く
  5都道府県の一般住民(成人)を対象とした抗体保有率調査が2023年2月3日~3月4日にかけて行われ、自然感染を意味する抗N抗体の保有率は32.1%と報告されました5)。また、2023年5月17日~31日に16〜69歳から収集された献血の残余検体を用いた検討では抗N抗体の保有率は42.8%と報告されています6)。令和5年7月22日~8月21日に西日本の診療所で採取された検査用検体の残余血液を用いた検討では、学童期以降の小児の7割以上が既感染者7)と報告されていますが、こちらは対象が限られており、我が国全体の抗体保有割合と異なる可能性があると考えられています。したがって、乳幼児を中心にまだ多くの未感染者がいると考えられます。また、既感染者であっても繰り返し感染することが知られています8)9)
小児においても重症例・死亡例が発生している
  日本人小児のSARS-CoV-2感染者の中で、稀ではありますが一定数は急性脳症や心筋炎を発症しています10)~12)。第7波・第8波において日本小児集中治療連絡協議会に報告された424例の中等症以上例(新生児 1.7%、1歳未満の乳児 13.7%、未就学児 51.4%、小学生 23.6%、中学生 5.2%、高校生以上 4.5%)のうち脳症は76例で18%、心筋炎は7例で2%を占めていました10)。2022年1月1日~2022年9月30日までのSARS-CoV-2関連の20歳未満死亡例は62例あり、うち外的な要因を除いた例は50例でした11)。この50例の内訳は、中枢神経系の異常19例(38%:急性脳症等)、循環器系の異常9例(18%:急性心筋炎、不整脈等)、呼吸器系の異常4例(8%:細菌性肺炎を含む肺炎等)、その他9例(18%:多臓器不全等)、原因不明9例(18%)でした。別途行われた調査では、脳症と診断された患者31例中の10例(29.4%)が死亡あるいは重篤な後遺症を残したと報告されています12)
小児へのワクチンは有効である
 
小児に対するワクチン接種には、発症予防や重症化(入院)予防の効果があることが国内外の複数の報告で確認されてきました13)~15)。これらの報告を根拠として、日本小児科学会ではこれまでも小児への接種を推奨してきました2)~4)
その後、ワクチンの長期的な効果を検討した米国における検討(2021年10月29日~2023年1月6日にかけて100万人以上の11歳以下の小児を対象とした観察研究で、オミクロンの各種亜系統;BA.1、BA.2、BA.4、BA.5、BQ.1-BQ.1.1、XBB.1.5流行時期の実態を反映している)が行われています8)
同検討により、5~11歳の小児における、初回シリーズ(2回接種)のみならず、その後の追加接種による効果が確認されています。2価ワクチンを用いた追加接種による発症予防効果は接種後1か月時点で76.7%であると報告されています。なお、既感染者であっても再感染する可能性はあり、ワクチン接種による追加の発症予防効果が得られることも確認されています。
0~4歳の小児における初回シリーズ(3回接種)の発症予防効果は接種後2か月で63.8%、接種後5か月で58.1%でした。
なお、いずれの年齢群においても、重症化(入院)予防効果は発症予防効果より高いことが確認されています8)
5~25歳の小児や若年成人に対するワクチンの死亡抑制効果を検討した海外からの報告では、オミクロン期における2回接種による死亡抑制効果は42% (95% 信頼区間、31.0%~51.4%)で追加接種により64.5% (95%信頼区間、 43.3%~77.8%) と報告されています16)。国内の小児に関する検討報告はありませんが、成人を対象としたデルタ期における試算では、ワクチンによって発症者が33%、死亡者が67%抑制された結果、高齢者を中心に18,622人(95% 信頼区間: 6,522~33,762)の死亡がワクチンで回避されたとされています17)。このように小児についてのデータは限られていますが、死亡抑制効果は発症予防効果や重症化抑制効果の延長上にあることから、小児においてもワクチンで死亡を回避できる可能性があります。
小児のワクチン接種に関する膨大なデータが蓄積され、より信頼性の高い安全性評価が継続的に行われるようになった
 
小児に対するワクチンの安全性は複数のランダム化比較試験で検討されました。5~11歳の小児を対象とした検討をまとめた報告では、局所反応や発熱はプラセボと比べて増えるものの、重篤な副反応が有意に増えることはないことが確認されています18)
有害事象は国内では副反応疑い報告としてモニタリングされ、重大な事象は慎重に検討されていますが、厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会 副反応検討部会)において現在までのところ接種推奨には影響を与えないと判断されています19)。国内全体で4億回以上のワクチン接種が行われ、5~11歳の小児に対しては、のべ430万回以上、0~4歳の小児については40万回以上の接種が行われています20)。一方で、重篤な副反応としてアナフィラキシー、心筋炎等が報告されており、接種後30分はその場で健康観察をすることならびに接種後数日の間に胸痛、息切れ、ぐったりするなどの症状があった場合は医療機関への受診が必要です。国内での検討では、ブライトン分類レベル1~3の心筋炎の発生率は5~11歳で100万回接種あたり0.6件、0~4歳の小児では報告がありません19)。また、因果関係が否定できない死亡例が小児でも一例報告されていることを踏まえ、日本小児科学会としては今後もリスクベネフィットについては継続的に十分な検討を行っていきます。
 
参考文献
  1. 第49回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料1「新型コロナワクチンの接種について」2023(令和5)年8月9日.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001132657.pdf(参照2023-8-16)
  2. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会.「5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」2022年8月10日、2022年9月19日.日本小児科学会. http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=451(参照2023-8-16)
  3. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会.「生後6か月以上5歳未満の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」2022年11月2日.日本小児科学会. https://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=466(参照2023-8-16)
  4. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会 「小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2023.6追補)」2023年6月9日.日本小児科学会. http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=507(参照2023-8-16)
  5. 第6回抗体保有調査(住民調査)速報結果(令和4年度新型コロナウイルス感染症大規模血清疫学調査).厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001084515.pdf(参照2023-5-18)
  6. 第122回(令和5年6月16日)新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード事務局提出資料 資料2-2 第3回献血時の検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの抗体保有割合実態調査.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/001109157.pdf(参照2023-8-16)
  7. 第50回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会資料2「新型コロナワクチンの接種について」2023(令和5)年9月8日.厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001145304.pdf(参照2023-9-8)
  8. Lin DY, Xu Y, Gu Y, et al. Effects of COVID-19 vaccination and previous SARS-CoV-2 infection on omicron infection and severe outcomes in children under 12 years of age in the USA: an observational cohort study. Lancet Infect Dis. 2023 Jun 16:S1473-3099(23)00272-4. doi: 10.1016/S1473-3099(23)00272-4. Epub ahead of print. PMID: 37336222; PMCID: PMC10275621.
  9. Buonsenso D, Cusenza F, Passadore L, Bonanno F, De Guido C, Esposito S. Duration of immunity to SARS-CoV-2 in children after natural infection or vaccination in the omicron and pre-omicron era: A systematic review of clinical and immunological studies. Front Immunol. 2023 Jan 11;13:1024924. doi: 10.3389/fimmu.2022.1024924. PMID: 36713374; PMCID: PMC9874918.
  10. 日本集中治療医学会・小児集中治療委員会 新型コロナウイルス関連小児重症・中等症例発生状況速報(2023年4月2日現在).日本集中治療医学会https://www.jsicm.org/news/upload/230402JSICM_jscts.pdf(参照2023-8-16)
  11. 新型コロナウイルス感染後の20歳未満の死亡例に関する積極的疫学調査(第二報).国立感染症研究所実地疫学研究センター 同 感染症疫学センター2022年12月28日 .2023年1月13日.国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2559-cfeir/11727-20.html(参照2023-5-10)
  12. Sakuma H, Takanashi J, Muramatsu K, et al. Severe pediatric acute encephalopathy syndromes related to SARS-CoV-2. Front Neurosci. 2023 Feb 27;17:1085082.
  13. Watanabe A, Kani R, Iwagami M, et al. Assessment of Efficacy and Safety of mRNA COVID-19 Vaccines in Children Aged 5 to 11 Years: A Systematic Review and Meta-analysis.JAMA Pediatr. 2023 Apr 1;177(4):384-394.doi:10.1001/
  14. Muñoz FM, Sher LD, Sabharwal C, et al. Evaluation of BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Children Younger than 5 Years of Age. N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):621-634. doi: 10.1056/NEJMoa2211031.
  15. Ikuse T, Aizawa Y, Yamanaka T, et al. Comparison of Clinical Characteristics of Children Infected with Coronavirus Disease 2019 between Omicron Variant BA.5 and BA.1/BA.2 in Japan.Pediatr Infect Dis J. 2023 Mar 2. doi: 10.1097
  16. Oliveira EA, Oliveira MCL, Simões E Silva AC, et al. Association of Prior COVID-19 Vaccination With SARS-CoV-2 Infection and Death in Children and Young Persons During the Omicron Variant Period in Brazil. JAMA Pediatr. 2023 Jul 31:e232584. doi: 10.1001/jamapediatrics.2023.2584. Epub ahead of print. PMID: 37523191; PMCID: PMC10391357.
  17. Kayano T, Sasanami M, Kobayashi T, et al. Number of averted COVID-19 cases and deaths attributable to reduced risk in vaccinated individuals in Japan. Lancet Reg Health West Pac. 2022 Nov;28:100571. doi: 10.1016/j.lanwpc.2022.100571. Epub 2022 Aug 11. PMID: 35971514; PMCID: PMC9366235.
  18. Piechotta V, Siemens W, Thielemann I, et al. Safety and effectiveness of vaccines against COVID-19 in children aged 5-11 years: a systematic review and meta-analysis. Lancet Child Adolesc Health. 2023 Jun;7(6):379-391. doi: 10.1016/S2352-4642(23)00078-0. Epub 2023 Apr 18. PMID: 37084750; PMCID: PMC10112865.
  19. 第94回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和5年度第5回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催) 資料 令和5年7月28日(金).厚生労働省.https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000208910_00061.html(参照2023-8-16)
  20. 新型コロナワクチンについて.首相官邸ホームページ. https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html(参照2023-8-16)

 


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