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原因不明の小児の急性肝炎に関連した論文、レポート

 原因不明の小児の急性肝炎に関連した論文・レポートを掲載いたします。
診療の参考となる論文を今後紹介してまいります。
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会
【2022年8月22日掲載】
1.
著者名:Kambhampati AK, Burke RM, Dietz S, et al
論文名:Trends in Acute Hepatitis of Unspecified Etiology and Adenovirus Stool Testing Results in Children - United States, 2017-2022.
雑誌名:MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2022 Jun 17;71(24):797-802.
DOI: 10.15585/mmwr.mm7124e1.
URL:https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7124e1.htm
 
 米国や欧州から原因不明の小児肝炎患者と当該患者からのアデノウイルス41型の検出が報告されている。いずれも米国において過去には報告対象になっていないため、現在の報告数が増加傾向にあるか否かは不明である。肝炎関連の救急外来受診と入院患者数、肝移植患者数とアデノウイルス便検査にかかわるデータを4か所から収集し解析した。受診行動の変化があった2020年を除外し、2021年10月から2022年3月のデータをCOVID-19流行前のデータと比較した。その結果、小児の肝炎やアデノウイルス40・41型の明らかな上昇は確認されなかった。
*National Syndromic Surveillance Program (NSSP), the Premier Healthcare Database Special Release (PHD-SR), the Organ Procurement and Transplant Network (OPTN),  Labcorp (商業ベースの大手検査機関)
 
2.
著者名:Kelgeri C, Couper M, Gupte GL et al
論文名:Clinical Spectrum of Children with Acute Hepatitis of Unknown Cause.
雑誌名:N Engl J Med. 2022 Jul 13. PMID: 35830627
DOI: 10.1056/NEJMoa2206704
URL:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2206704
 
背景:2022年1月以降、小児の原因不明肝炎症例の増加が報告されている。世界各国からの報告が相次ぐ中でも、英国からの症例が多い。
方法:英国の小児肝臓移植センター単一施設へ2022年1月から4月11日の間に入院した症例について後方視的検討を行った。U.K. Health Security Agencyの急性肝炎の症例報告基準を満たした10歳未満の小児(血清ALT値が500 IU/L以上、A~E型肝炎ウイルス感染症が否定され、代謝性、先天性・遺伝性、構造的な異常を伴わない)の診療録から患者背景、臨床的特徴、検査値、微生物検査結果、画像結果と経過と転帰を調査した。
結果:診断基準を満たす症例は44例で多くは生来健康であった。年齢中央値は4歳(1~7歳)、発症時の症状・所見は黄疸が93%、嘔吐が54%、下痢が32%に認められた。
アデノウイルスのPCR検査を行った30例中27(90%)例が陽性であった。劇症肝不全が6例(14%)で認められ、全例移植に至った。死亡例はなく、肝移植を施行した6例は生存退院した。アデノウイルスは高率に検出されたものの、因果関係は不明と判断された。
 
3.
著者名:Gutierrez Sanchez LH, Shiau H, Baker JM
論文名:A Case Series of Children with Acute Hepatitis and Human Adenovirus Infection.
雑誌名:N Engl J Med. 2022 Jul 13. PMID: 35830653
DOI: 10.1056/NEJMoa2206294
URL:https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2206294
 
背景:アデノウイルスは典型的には呼吸器、消化器、結膜の感染症の原因となるが通常は自然軽快する。2021年後期から2022年前期にかけて、生来健康な小児において、アデノウイルス血症を伴う急性肝炎患者が報告されている。
方法:アラバマ小児病院に2021年10月1日~2022年2月28日の間に入院した18歳未満の全ての小児肝炎症例をICD-10(改定版)病名から抽出した。全血を用いた定量PCR検査でアデノウイルスが陽性であった患者を登録し、診療録から情報を収集した。また血液残検体を用いて、確認検査とアデノウイルスの型同定を行った。
結果:急性肝炎15例が確認され、うち6例は(40%)原因が特定され、9例(60%)は原因不明であった。原因不明の9例中8例(89%)はアデノウイルス陽性であった。この8例と他施設からの紹介患者1例を加えた9例を解析対象とした。年齢中央値は2歳11か月(1歳1か月~6歳5か月)であった。肝生検が施行された6例において、軽度から中等度の急性肝炎所見を認め、胆汁うっ滞を一部認めたが、免疫組織化学染色や電子顕微鏡所見でアデノウイルスは確認されなかった。肝組織のPCR検査で陽性であったのは3例(50%)であった。5例の検体を用いた遺伝子型の検討では3つの異なるアデノウイルス41型ヘキソンバリアントが確認された。(訳注:アデノウイルスの中和反応の抗原性を規定しているとされるヘキソンのループ1および2領域の部分配列を決定することによる型別判定がなされる)。2例は肝移植を施行し、他の症例は自然回復した。
結論:同時期に入院した原因不明肝炎症例においてアデノウイルス血症が高率に認められたが因果関係については不明であった。遺伝子学的な解析からは、特定の株による事象ではないと考えられた。

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