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原因不明の小児の急性肝炎に関連した論文、レポート

 原因不明の小児の急性肝炎に関連した論文・レポートを掲載いたします。
診療の参考となる論文を今後紹介してまいります。

日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会

【2022年7月19日掲載】
1.
著者名:Jordan Cates, Julia M. Baker, Olivia Almendares, et al.
論文名:Interim Analysis of Acute Hepatitis of Unknown Etiology in Children Aged <10 Years — United States, October 2021–June 2022
雑誌名:Morbidity and Mortality Weekly Report(MMWR)Centers for Disease Control and Prevention
URL:https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/71/wr/mm7126e1.htm

 2022年4月21日から米国では、ASTまたはALTが500U/L以上の10歳未満の小児について、前向き・後ろ向きの調査を開始した。2021年10月1日から2022年6月15日までに条件を満たす調査中の患者(PUI)は、全米の42州から296人報告された。年齢の中央値は2歳2か月(1か月~9歳8か月)。人種はヒスパニック系とラテン系37.8%、白人32.4%。89.9%が入院、6.1%が肝移植、3.7%が死亡した。
 データ収集済みで解析できた123人中、肝不全30.1%、呼吸器症状39.8%、消化器症状87.8%、全身症状86.2%、肝炎症状68.3%。AST・ALTのピークの中央値はそれぞれ2254.5U/L(802.5~4266.5IU/L)・1744.5U/L(710.5~3358.5IU/L)であった。
 病原体同定は、アデノウイルスが97人中48人49.5%で陽性。検体別では、全血37検体中14検体37.8%、血漿32検体中11検体34.4%、便40検体中12検体30.0%、呼吸器検体73検体中22検体30.1%が陽性だった。タイピングは13検体で行われ、6検体はF種(41型)、1検体はC種(C1型)で、6検体は型分けできず。
 SARS-CoV-2は98人中10人10.2%が陽性。SARS-CoV-2の既往歴は、カルテや抗体検査や親の報告から123人中32人26.0%にあり。以前のSARS-CoV-2感染から肝炎診断までの中央値は133日(77~283日、9人は感染時期不明)。
 その他、rhinovirus/enterovirusは98人中24人24.5%、EBウイルスは79人中9人11.4%、ロタウイルスは43人中6人14%が陽性だった。アデノウイルスとSARS-CoV-2の重感染が86人中3人3.5%に認めた。
 肝生検(摘出肝や生検)を行った36人中25人65.8%で活動性もしくは急性肝炎像あり。6人はアデノウイルス感染があったが、免疫染色や電子顕微鏡でアデノウイルスは証明されなかった。
 現時点で、ベースラインと比較して原因不明の肝炎が増加していることはなく、アデノウイルス40/41型の陽性率が増加していることもない。PUIにおけるワクチン接種率は低く、かつ、調査中症例の3/4が5歳未満でありワクチン接種可能な年齢でなく、COVID-19ワクチンはこの病態に関連なさそうである。

2.
論文名:Technical Report:Acute Hepatitis of Unknown Cases
サイト名:Centers for Disease Control and Prevention
URL:https://www.cdc.gov/ncird/investigation/hepatitis-unknown-cause/technical-report.html

 同じCDCから報告されている前述のMMWRと調査期間(2021年10月1日~2022年6月22日)が若干異なるため報告数は違っているが、割合はおおむね同じ。以下を考察している。
1)病態について
①新型コロナウイルスのパンデミックに対する行動制限により低年齢児のウイルス曝露が抑えられており、制限緩和によりアデノウイルス(またはその他のウイルス)感染の初感染の年齢が高くなり、非典型な反応が起こった可能性。
②SARS-CoV-2のアクティブな感染10%、最大1/3が既感染と報告されており、SARS-CoV-2(または他のウイルス)とアデノウイルスとの組み合わせで、自己免疫反応やスーパー抗原が関わっている可能性。
③小児多系統炎症性症候群(MIS-C)による肝炎の病態を見ている可能性。
④環境トリガーや毒素との関連は疫学調査中だが、現時点で関連の可能性は低い。
2)リスク評価について
 米国では、現時点で小児の急性肝炎の発生率は新型コロナパンデミック前のベースラインよりも高くなく、重篤な転帰はまれ。皮膚や眼の黄染に気づいたら、医療機関の受診を奨励する。

 

 

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