各種活動

 

インフルエンザ等の診療に関する情報提供

(登録:2017年1月15日)
(更新:2017年3月19日)

日本小児科学会
予防接種・感染症対策委員会
新興・再興感染症対策小委員会

1.インフルエンザとウイルスの性状について

【2016/17シーズン】
 2016/17シーズンは例年より流行開始が早く、2016年第46週(11月14日~11月20日)に定点当たり報告数が1.38(患者報告数6,843)となり、全国的な流行開始となった。その後の増加は緩やかであったが、2017年の年明けから急増し、2017年第4週(1月23日~29日)にピークとなった(定点当たり報告数39.41(患者報告数195,501))。第6週(2月6日~12日)頃から順調に減少し、第9週(2月27日~3月5日)の定点当たり報告数は13.55(患者報告数67,273)である(2017年3月8日現在)。検出されているウイルスは、2017年3月10日現在、AH3亜型が最も多く、次いでB型、AH1pdm09の順であった。http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-map.html
 国立感染症研究所インフルエンザウイルス研究センターは、全国の地方衛生研究所(地研)で分離・同定されたウイルス株総数の約10%を無作為に抽出し、2016/17シーズンのワクチン株(A/ カリフォルニア/7/2009、A/香港/4801/2014、B/ テキサス/02/2013、B/ プーケット/3073/2013)との抗原性の相違を検討するとともに、HA遺伝子とNA遺伝子の系統樹解析を行っている。2017年2月24日現在、2016年9月以降に国内で分離・同定されたウイルスの約8割は、2016/17シーズンのワクチン株(A/ 香港/4801/2014)に類似の抗原性を示すA/香港/7127/2014細胞分離株と抗原的に類似していた。一方、ワクチン株を鶏卵で増やした株および国内ワクチン製造株であるA/香港/4801/2014(X-263)に対する抗血清とは反応性が低く、鶏卵馴化に伴って抗原性変化が生じたためと考えられている。ウイルスの系統樹解析では、全て2016/17シーズンのワクチン株A/香港 /4801/2014と同じサブクレード3C.2a(L3I, N144S, F159Y, K160T, Q311H, D489N)に属している。また解析株の67.5%は、2015/16シーズンに出現したサブクレード3C.2a1 株(N171K, I406V, G484E)に属しており、遺伝子的に多様化が進んでいる。クレード3C.3aに属する株は検出されていない。http://www.nih.go.jp/niid/ja/flu-antigen-phylogeny.html

 全国約500箇所の基幹定点から報告される入院例の検討では、2016年第36週(9月5日~9月11日)~2017年第9週(2月27日~3月5日)までに、12,202が報告され、年齢分布は一昨シーズン(2014/15シーズン)と同様に高齢者が多い。http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html

 インフルエンザ脳症は、5類感染症全数把握疾患である急性脳炎(脳症を含む)の1つとして全例が届けられているが、2017年第1週~第8週までの報告数は67であった(2017年3月1日現在)。http://www.nih.go.jp/niid/ja/idwr-dl/2017.html

【2015/16シーズン】
 2015/16シーズンはA(H1N1)pdm09亜型を中心に全国的にインフルエンザが流行し、全国的な流行開始の指標である定点あたり報告数が1.00を超えたのは2016年第1週(2016年1月4日~10日)であり、過去2シーズンに比べると遅い流行開始であった。その後急速に流行は拡大し、第6週(2016年2月8日~2月14日)に定点あたり報告数は39.97となりピークを迎えた。ピークの高さは過去10シーズンで上から2番目の高さであった。2016年第3週(2016年1月18日~24日)からはB型(ビクトリア系統、山形系統)も含めた流行が認められた。例年と比べ、15歳未満の小児の入院症例が多く認められたが、高齢者のインフルエンザによる死亡者を反映する指標である超過死亡は21大都市では認められなかった。一方、地域レベルでは、一部の都市で超過死亡が確認された。またインフルエンザ脳症サーベイランスからは、症例数は過去2シーズンと比べ約2倍と多く認められた。
 A(H1N1)pdm09 亜型ウイルス、B 型ウイルスの山形系統およびビクトリア系統の分離株はそれぞれワクチン株と抗原性が一致又は類似していた。A(H3N2)亜型ウイルスについては、抗原性が若干変化していることが示唆された。これを受け、2016/17 シーズンのワクチン株の変更が行われた。
 オセルタミビル耐性ウイルスの地域への拡大は認められず、抗インフルエンザ薬を用いた従来の診療に支障をきたすものではなかった。
 詳細な情報については国立感染症研究所、厚生労働省によるまとめhttp://www.nih.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1516.pdfを参照。

2.急性脳症の診断と管理について

 平成21年に厚生労働省のインフルエンザ脳症研究班(代表森島恒雄)により「インフルエンザ脳症に関する診療ガイドライン」改訂版、http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/influenza090928.pdf」が発表され、以降全身管理の向上もあり、脳症の予後は改善している。
 インフルエンザウイルス以外の原因による急性脳症に対する診療について、日本小児神経学会は「小児急性脳症診療ガイドライン」を発行し、診断と検査、全身管理、原因や病型別の治療について言及している。
 急性脳症の原因としてインフルエンザウイルスは重要であるが、他の病原体の関与も少なくなく急性期における原因の特定は困難である。後方視的な診断のためには、急性期における検体(血液、尿、便、髄液、咽頭ぬぐい液の5点セット)と急性期と回復期のペア血清の採取と凍結保存が重要である。インフルエンザ脳症の場合は、髄液や血液からの病原体検出は困難であり、呼吸器由来検体が必須となる。また別の病原体の鑑別を考慮すると、上記5点セットの確保が重要になる。もし検体採取後すぐに検査研究機関に搬入可能な場合は、検体を凍結せずに搬送する。
 急性脳炎(脳症を含む)は感染症法に基づく全数把握疾患であり、すべての医師に診断後7日以内の届出が義務づけられている。急性脳炎・脳症と診断した医師は、http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-03.htmlの症例定義に基づき、http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/pdf/01-05-03.pdfの届出票を最寄りの保健所に届け出て欲しい。保健所に届出られた急性脳炎(脳症)の病原体検索は、保健所を通して地方衛生研究所あるいは厚生労働省のAFP脳炎班(代表 多屋馨子)で検討中である。

3.異常行動について

 厚生労働省研究班(代表岡部信彦)により、インフルエンザ罹患に伴う異常行動の研究が実施されており、2015/16シーズンについてデータが公開されている。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000142736.pdf
 重度の異常な行動の発生状況について、従来のインフルエンザ罹患者における報告と概ね類似している事が確認され、年齢は8歳が最頻値で、男性が68%であった。 異常な言動の他に飛び降りなど、結果として重大な事案が発生しかねない報告もあった。過去の報告と同様に、抗インフルエンザウイルス薬の種類、使用の有無と異常行動については、特定の関係に限られるものではないと考えられた。引き続き従来同様の注意喚起を徹底するとともに、異常行動の収集・評価を継続して行うと報告されている。現時点では、10歳以上の未成年の患者に対するオセルタミビル(タミフル®)の使用差し控えについて添付文書上の記載変更はない。

4.呼吸不全症例

 現在、全国の小児の重症呼吸不全例を確実に把握する登録システムは存在しない。2017年3月12日時点で、都内小児集中治療2施設において管理を要する重症呼吸不全症例は数例報告されている。インフルエンザによる呼吸不全症例において、上気道由来の検体を用いた抗原検査が陰性の症例でも、下気道からの検体でインフルエンザウイルス遺伝子がPCR法で陽性となる症例が経験されている。喀痰など下気道からの検体が得られた場合、迅速検査の再検やPCR検査ができる施設へ検体を輸送することを考慮する。
 2015/16シーズンはA(H1N1)pdm09 亜型ウイルスによる肺炎や呼吸不全症例が一部報告された。
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2015_2016_influenza..pdf
 定点報告おける入院時の医療対応の実施状況からは、14歳以下の症例において2015/16シーズンは2013/14シーズン、2014/15シーズンと比較して、入院患者数や入院時の医療対応(ICU利用、人工呼吸器使用、頭部CT、頭部MRI、脳波)を必要とした数は増加していた。
 インフルエンザ肺炎の治療指針については2013/2014シーズンにおける対応を参照されたい。
http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/influenza_130730_2.pdf
 全国の状況を迅速に把握できる登録方法の開発が望まれる。

51歳未満のインフルエンザのオセルタミビルの適応拡大について

 1歳未満の新生児・乳児インフルエンザ症例に対するオセルタミビル(タミフル®)適応拡大の要望を2013年に3学会合同(日本小児感染症学会・日本未熟児新生児学会(現日本新生児成育医学会)・日本感染症学会)で厚生労働省の医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議に公知申請で要望申請していた。2015年11月17日に厚生労働省から同薬の使用実態調査の要請があった。小児感染症学会にて調査が行われ、2015/16シーズンに18施設から3 mg/kg/dose、1日2回投与された22症例の情報が集積された。我が国の使用実態が明らかにされ、特記すべき有害事象を認めなかったことから、1歳未満のインフルエンザ症例に対するタミフル®使用について、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は承認審査前の評価を行い、適応外使用に係る公知申請が可能と判断し、2016年11月24日から保険適用となった。
 添付文書の改訂はまだなされていないが、現在、1歳未満の新生児・乳児インフルエンザに対し、3mg/kg/dose、1日2回の投与が可能である。

6.乳製品過敏症の既往のある患者に対する注意喚起後のアナフィラキシー

 ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(イナビル®) およびザナミビル水和物(リレンザ®) はともに、乳蛋白を含む乳糖水和物が微量含まれている。平成27年度第5回薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会で、直近3年度の国内において、乳製品へのアレルギーがある患者への投与で アナフィラキシー例が報告された。 その内訳は、イナビル®が5例(うち因果関係が否定できない症例が4例)、 リレンザ®が1例(同1例)であったため、2015年8月6日添付文書に「慎重投与」の項が新設され、 乳製品過敏症の既往のある患者に関する注意喚起を追記された。
 注意喚起後、イナビル®使用後のアナフィラキシーショック2例、アナフィラキシー反応2例、ショック1例が報告された。これらの症例には、乳製品に対するアレルギーの既往歴ありの患者2例含まれていた。 リレンザ®使用後のアナフィラキシーの報告はなかった(いずれも企業報告)。

7.鳥インフルエンザ(H7N9)に関する情報

 2013年3月から中国で鳥インフルエンザ(H7N9)のヒトへの感染事例が報告されているが、2016年9月から第5波の発生が見られている。患者の多くが鳥との接触歴や生鳥市場への訪問歴があり、持続的なヒトーヒト感染の可能性は低いと考えられているが、流行地域への渡航の際には注意が必要である。下記のホームページで最新情報を確認して欲しい。
厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000144470.html
厚生労働省検疫所(FORTH)
http://www.forth.go.jp/
国立感染症研究所
http://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/a/flua-h7n9.html
WHO
http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/influenza_h7n9/en/
米国CDC
https://www.cdc.gov/flu/avianflu/h7n9-virus.htm

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