各種活動

 

(登録:2005.06.30)

 

平成17年6月26日

厚生労働省 健康局
結核感染症課長 牛尾 光宏 殿

社団法人日本小児科学会
会長 衞藤 義勝

麻疹及び風疹定期予防接種の2回接種の導入および
その接種スケジュールについての要望

 感染症発生動向調査によれば、過去10 年間には年間約1~3万人の麻疹患者が報告されてきましたが、各方面の理解と努力により平成15 年は8,285 件、平成16 年は1,554 件(暫定値)と、患者報告数は減少傾向にあり、推計値も数年前における年間20-30万人から、年間1-2万人まで減少しております。しかし、すでに麻疹Eliminationをほぼ達成した米国、韓国等と比較すれば、依然として、数多くの患者が発生している状況にあります。このため、今後も麻しん予防接種の一層の推進に各関係機関、関係者が努力すべきであります。一方、患者数減少に伴い野生ウイルスによるブースター効果が弱まり予防接種によって付与された免疫力の低下が今後生ずることが予測されること、及び接種率の増加に伴ってprimary vaccine failure も蓄積されることから、さらなる麻疹発生数の減少のためにはWHOが推奨する高い接種率の維持に加えて複数回のワクチン接種を導入することを、我が国においても実施する段階に達していると考えられます。
 風疹の予防接種は、風疹流行を阻止し、妊婦感染を防ぐという考え方に基づき、現在「生後12 月から生後90 月に至るまでの間にある者」を対象に接種が行われています。この制度への経過措置として、昭和54 年4月2日から昭和62 年10 月1日生まれの者は、平成15 年9月30 日までは定期予防接種の対象とされました。しかし、経過措置対象者を中心に若年成人の間で風疹抗体を持たない者が少なからず存在しており、いったん風疹が流行した場合にはその影響を受けた先天性風疹症候群(CRS)の発生が懸念されています。平成16 年にはCRSが年間10 例報告され、風疹対策の強化が行われているところです。CRSの発生阻止のためには、流行の発生を阻止すること、すなわち風疹の排除が不可欠です。麻疹と同様、わが国においても風疹排除を目標としてさらなる対策の強化を図るべきであり、このため、麻疹と共に風疹予防接種の2回接種を導入し、より強固な集団免疫の獲得を目指す必要があると考えられます。
 これらの点から、当学会は国の提案である麻疹・風疹ワクチンの定期接種としての2回導入について全面的に賛成するものであります。
 しかしその実施に当たり、国の提案される1期月齢12-18ヶ月、2期就学6ヶ月前の短い期間に限定することには、強く反対するものであります。その理由は、極めて狭い範囲のみ定期接種と限定することは、その範囲における被接種者数は現在よりも向上することが期待され、またそのように努力すべきであることは理解されますが、一方では、狭い期間に限定された範囲では医学的理由などから接種できなかった者、うっかりを含めて接種漏れとなった者などの感受性者の集積、そしてその間での麻疹の発生の持続が危惧されるからで「子どもに対して優しい」感染予防対策と言えるものでは到底ありません。またWHOは、elimination達成のためには、免疫保有95%以上の維持が必要であるとしていますが、この目標への到達も国の提案方式では困難になることが予測されます。ことにelimination達成には多くの国ではある時期での一斉投与(catch up campaign)が必要であるとされますが、我が国では制度上これを行うのはおそらく困難であると考えられ、したがってeliminationを目標とする以上、定期接種での高い接種率の維持をいかに実施するか最大限配慮していく必要があります。
これらの点より実施にあたって、国案に代わり以下の提案を致します。

1. 麻しんおよび風しんワクチンの接種においては、予防接種法施行令で定める対象者は、1期月齢12ヶ月-24ヶ月に達するまで、2期月齢60ヶ月-90ヶ月に達するまでとし、1期は12-15ヶ月の間に、2期は就学6ヶ月前から就学までの間に終了することを強く勧める。
2. これらの接種を、何らかの理由で接種し損ねていることが判明した場合、保護者および接種者がこれを受けやすくできるような方策を配慮し、麻疹elimination の方針を尊重する。
3. 接種にあたっては、1)現在承認申請中の麻しん・風しん混合(MR)ワクチンを2回接種、2)麻しんワクチンと風しんワクチンを同時に接種、3)麻しんワクチン接種後27日以上あけて風しんワクチンを接種する などの方法が考えられ、保護者による選択を当面可能にする。
4. 未接種者のチェック、それらに対するワクチン接種機会の提供は、1歳半健診、就学時健診および就学時などを最大限活用する

以上、日本小児科学会は我が国および世界における重要な課題である麻疹、風疹対策の一環として、上記の4点を我が国に於いて実施にあたっての考え方として検討して頂くことを要望いたします。

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