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水痘ワクチンの定期接種化に関する要望書

平成17年7月24日

厚生労働省 健康局
結核感染症課長 牛尾 光宏 殿

社団法人 日本小児科学会
会長 衞藤 義勝


 水痘は水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の初感染により水疱、発熱を主症状とする小児期によく見られる急性疾患である。感染力は麻疹同様に強く、10歳までに約90%の小児に感染する。健康小児では発熱とともに掻痒による不快感が強く我国では多くの例で抗ウイルス薬のアシクロビルが用いられている。成人水痘は重症化しやすく死亡率も高い。合併症として頻度の高いものは、水疱部位の細菌性2次感染症で1~4%にみられ、劇症型A群連鎖球菌感染症や敗血症などの全身性致死的疾患に進展することもある。中枢神経系の合併症としては、髄膜脳炎や小脳性運動失調症があり、発症頻度は水痘1,000例中1例近くといわれる。約80%は回復するが、後遺症を残す例、死亡例(本邦推計:年間20~25例、人口動態統計:平成4~15年103例)も存在する。
 本症は水痘生ワクチンで予防できる。1974年、我国で開発された弱毒ウイルス岡株はWHOに認められ世界で唯一、ワクチン産生用として評価が定まっており、我が国のみならず欧米でもワクチン産生用に用いられ水痘ワクチンとして100カ国以上で認可・使用されている。本ワクチンの有効性、安全性は国内外の報告で確認されており、我国では1987年以降、任意接種として健康小児に用いられている。しかし、任意接種であるがため、これまでのところ接種率は約30%程度にとどまっており水痘の疫学状況を変えるまでに至っていない。一方、米国では1995年以降、岡株ワクチンを定期接種化し2003年には接種率は85%に達し、水痘流行の減少、水痘関連死亡・合併症の減少、水痘による入院・入院費用の減少などの効果が明らかになっている。
 本ワクチンの問題点として、ワクチン被接種者の中で、後に10~15%で水痘罹患が見られることが挙げられている。しかし、その臨床像は、発疹の数が50個以下の軽症例であり、中等症・重症の水痘は完全に防止することができる。米国ではこのことが重視されている。
 しかし一方、ワクチン接種率が中途半端な程度にとどまると成人における水痘を増加させる恐れがある。また接種率が今より向上し自然水痘が少なくなれば被接種者においてブースターがかからなくなり、ワクチン接種を受けた人が、後に免疫が薄れた頃、水痘に罹患するケースが増加することなどが言われている。これらの点は、まさに麻疹ワクチン、風疹ワクチンなど生ウイルスワクチンに共通の問題で、接種率を90%以上に維持する努力、将来的には2回接種法の導入などで解決される問題である。
 以上のように水痘ワクチンの定期接種化により、1)水痘流行の減少・排除、2)関連死亡・合併症の防止・減少、3)水痘発症者に対する、種々の医療費の減少などによる良好な対費用効果、さらには4)水痘罹患後にみられ、年長者や老人を悩ませる帯状疱疹発症の防止も期待できる。このように水痘ワクチンの定期接種化は小児のみにとどまらず、国民全ての人々に有益であり、公衆衛生的、医療経済的にも意義が高いものである。
 前回の予防接種法改正時ならびに今回の「予防接種に関する検討会」でも定期接種化について委員の合意が得られているワクチンであり、日本小児科学会として改めて水痘生ワクチンの定期接種化を強く要望するものである。

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