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(登録:2006.05.09)

 

麻疹及び風疹の予防接種に使用するMRワクチンの安全性についての見解


平成18年4月20日

厚生労働省健康局結核染症課
課長 塚原 太郎 殿

社団法人日本小児科学会
会長 衞藤 義勝
 

 平成18年4月1日より麻疹及び風疹の予防接種について2回接種を導入するとともに、乾燥弱毒生麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)を定期接種として採用したことは、我が国における麻疹及び風疹の対策の強化として大いに歓迎すべきことであることをこれまでに当学会としても表明してきたところです。
 さらに加えて、政令附則第2条の削除による2回接種の早期の実施、及び定期接種としてはMRワクチンを原則として勧めるが、状況に応じて麻疹及び風疹の単抗原ワクチンも使用できることとする省令改正が行われるのであれば、国内での麻疹、風疹及び先天性風疹症候群の排除が一層早まるとともに、各種の課題の解決にも結びつくものであると考えられます。
 2回接種の導入には、科学的知見に基づく既接種者への安全性を確認の上、実施されることとなっていますが、当学会における麻疹及び風疹の定期の予防接種に係るMRワクチンの安全性についての見解は以下のとおりです。

 自然感染あるいは生ワクチンによる麻疹、風疹などの免疫既獲得者(この中には免疫が成立しなかった者が極少数含まれる。)に対し生ワクチンによる重ねての免疫の投与が行われると 1)免疫のない者には免疫の成立 2)免疫の弱い者には免疫の増強 3)免疫を十分持つ者には無反応ないし弱い免疫反応のみが生じ、生体にとって不利な反応が生じることはなく、これらが安全に行われると考えることは医学的にも正当であり、また、これまでに世界的に広く行われていることでもあります。
 多くの生ワクチンはウイルス抗原以外のワクチン液成分がほぼ同一であり、これまでにも異なる種類の単抗原ワクチン(例:麻疹ワクチンと風疹ワクチン等)を接種してきたことから、異なるあるいは同一の生ワクチンを重ねて接種することについての安全性については既に証明されているところです。
 これまでにも学会、論文、あるいは研究班における発表などで生ワクチンを重ねて接種した効果と安全性に関する報告は多く存在します(最近発表された研究報告を代表例として別記します。)。
 したがって、麻疹及び風疹の定期予防接種においても、生後12~24月及び5歳以上7歳未満の時期に、対象者にMRワクチンを2回接種することについての安全性については十分肯定しうるものと考えます。

別記

1)国内のデータ

  1. 5~6歳児及び11~12歳児への麻疹ワクチン、風疹ワクチンの2回接種の有効性と安全性
  • 厚生労働科学研究 新興・再興感染症研究事業「ポリオ及び麻疹の現状とその予防接種の効果に関する研究(H15─新興-21 主任研究者・加藤達夫)」平成16年度報告書(「麻疹の現状とその予防接種の効果に関する研究」高山直秀ら)

 麻疹及び風疹ワクチン接種歴が明らかな5~6歳児、及び11~12歳児の麻疹、風疹抗体(HI)を測定し、それぞれ抗体価が16倍以下の者にそれぞれのワクチンを再接種した。使用した麻疹ワクチンは北里研究所及び武田薬品、風疹ワクチンはこれら2社に加えて化血研であった。双方の抗体価の低い児では麻疹ワクチン、風疹ワクチンを同時接種した。
 再接種後1か月目に再度抗体価を検査したところ、麻疹ワクチンを再接種した6歳児34名中24名で、12歳児33名中29名で有意の抗体価上昇が認められ、風疹ワクチンを再接種した6歳児9名の全員、12歳児8名中7名で有意の抗体価上昇がみとめられた。いずれの接種でも発熱、局所反応など軽微な副反応のみ認めた。

  1. 2回目の麻疹ワクチン接種に関しての安全性の報告
  • 沖縄県における乳児への麻疹ワクチンの安全性と有効性の調査(沖縄県小児保健協会知念らによる調査、2006年日本小児科学会沖縄地方会などで発表):

 平成13年の沖縄における麻疹流行時に、月齢6~11か月において麻疹接種を受けた572人の群(うち80%が1~3歳の間に麻疹ワクチン再接種)と、受けなかった1438名の群(うち88%が1~3歳の間に麻疹ワクチンを接種)を3歳児検診の際に比較。これまでの病歴(中耳炎、気管支炎、肺炎、喘息、口腔カンジダ症、下痢・消化不良、免疫不全、その他入院を必要とした疾患)につき比較したが有意差はみられなかった。

  • 厚生労働科学研究 新興・再興感染症研究事業「成人麻疹の実態把握と今後の麻疹対策の方向性に関する研究(H13─新興-8 主任研究者・高山直秀)」平成14年度報告書(「陸上自衛隊における集団麻疹予防接種について」岡部信彦ら):

 平成13年5月沖縄県の陸上自衛隊の部隊で麻疹流行があり、30歳未満の隊員509名が麻疹予防接種をうけた。そのなかの471名が接種前に抗体調査を受け、うち463名(98%)が既接種または既罹患者であったことが確認された。これらを含む接種者476名に接種当日から6週間後までの間副反応の有無の調査が行われたが、確認された副反応は発熱(12人)、接種部腫脹(14名)のみであった。

2)海外のデータ:

  • 先進国で2回接種スケジュールが確立するのは主に1990年代であり、それまでに殆どの先進国がMMRワクチンに移行しており、麻疹・風疹ワクチンの2回接種の安全性と有効性に関する海外の研究は主にMMRワクチンの2回接種の知見に基づく。
  1. 既接種者・既罹患者における安全性
  • カリフォルニアにおけるHMOの大規模データベース(約8500人)を使った研究では、4~5歳時におけるMMRワクチン2回目の接種後1か月以内の重篤な副反応は確認されなかった(DavisらPediatrics, 1997:“MMR2 Immunization at 4 to 5 Years and 10 to 12 Years of Age: A Comparison of Adverse Clinical Event After Immunization in the Vaccine Safety Datalink Project”)
  • すでに麻疹、風疹に免疫をもっている米国大学生及びオーストラリアの小・中学校生徒に麻疹ワクチンまたはMMRワクチンを集団接種した複数の報告でも、発熱、発疹など通常期待される以上の副反応はみられず、その頻度は1回目の接種で期待されるより少ないことが確認されている(Chen et a. Vaccine 1991“Adverse events following measles-mumps-rubella and measles vaccinations in college students”ほか)。
  • 日本のMRワクチンおよび単抗原ワクチンはゼラチンを含まず、欧米で使われている安定剤としてゼラチンを含んでいるMMRワクチンよりもアナフィラキシーなどのアレルギー症状の出現頻度はより少ないことが推測される。この点からも、麻疹、風疹単抗原ワクチン、及びMRワクチンの2回接種は、海外において広く使用されているMMRワクチンの2回接種と同等あるいはそれ以上の安全性があると考えられる。

有効性:

  • MMRワクチンは既存の3つの単抗原ワクチンの株を単に混合させたものであり、MMRワクチン2回接種の結果から、各単抗原ワクチン及びその組み合わせであるMRワクチン2回接種の有効性は評価できると考えられる。MMRワクチンの2回目接種、及びMMRワクチンに追加したMRワクチンの接種により、集団として麻疹、風疹のいずれも抗体価は有意に上昇することが確認されている(Pebodyら.Vaccine. 2002. “Immunogenicity of second dose measles-mumps-rubella (MMR) vaccine and implications for serosurveillance”)。
  • 学校における麻疹集団発生でも2回接種者の罹患率は1回のみの接種者の罹患率よりも低いことが複数の研究により示されている(Vitekら Pediatric Infectious Disease Journal. 1999.”Increased protections during a measles outbreak of childred previously vaccinated with a second dose of measles-mumps-rubella vaccine”など)。
  • これらの2回接種の効果はMRワクチンにも期待される。 

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