各種活動

 

(登録:2008.3.27)
 
大学生などにおける百日咳流行についての注意喚起
 
平成20年3月23日
社団法人日本小児科学会
 
 百日咳は乳幼児、小児に好発する感染症ですが、数年来、成人の百日咳が感染症専門家の間で注目されております。一般にワクチンによる感染症の予防効果は生ワクチンではあっても数年~10数年で減衰することがあり、不活化ワクチンの場合にはさらに短期間であることが多いため、追加接種が行われることがあります。百日咳ワクチン(P)が含まれる三種混合ワクチン(DPT:不活化ワクチン)は、我が国では乳児期に3回(1期)、1年後に追加接種1回を行いますが、11~12歳の2期接種は、百日咳による直接の危険時期は過ぎたと考えられるところから、2種混合ワクチン(DT)の追加接種が行われています。一部海外では成人層での百日咳、およびそこから乳幼児への感染拡大への警戒のため、我が国の2期(DT)に相当する予防接種をDPT三種混合ワクチンで行っている国もありますが、我が国では今のところその予定はありません。
 2007年に大学生を中心に成人、年長児に麻疹が流行したことは周知の通りですが、四国の2大学では百日咳の流行的多発がみられました。いずれも医学部の学生から拡大したことが考えられ、医学部および付属病院職員にも感染が拡大しました。
 早期検知、治療、予防的投薬および積極的疫学調査などの適切な対応がとられ、2次感染による患者さんの発症者は無く、幸い新生児病棟等への拡大もありませんでしたが、見過ごした場合には、重症者、あるいは最悪では新生児乳児などの死亡者も含む重大な院内感染に進展した可能性は十分にあったと推察されます。このときの疫学調査では、学生に発症する以前より地域で百日咳に感染したと考えられる患者さん、職員も少なからず観察されており、今後も麻疹と同様に大学生を中心に百日咳が多発する可能性は四国のみならず全国同様であることが危惧されます。
 三種混合ワクチン既接種者、あるいは成人の百日咳は、小児百日咳に関して成書に書かれてあるような典型的な臨床症状(レプリーゼあるいはウープ)、検査所見(白血球増加、リンパ球増加)を呈しません。2週間以上続く長引く咳に加えて、突然の咳き込み、咳き込みによる嘔吐など、嘔気、嘔吐を伴うような頑固な咳嗽が遷延することが多いようですが、軽症例も少なくありません。鼻咽腔からの細菌培養は検出率が低く、血清診断は、感染と維持された抗体との鑑別が必ずしも明確ではありません。PCR、LAMP法などによる核酸検出法が利用されることがありますが、健康保険の適応になっておらず、検査可能な施設は限られています。また、核酸検出法は検出感度が高すぎて、必ずしもその診断的意義は確定しておりません。この様な理由で、症状が必ずしも典型的でない成人百日咳の診断は非常に困難で、専門医でも見過ごすことがあるほどです。
 しかし、軽症例であっても感染源となり、医学生、看護学生、その他の教育実習生などが百日咳に罹患すると、実習先の医療機関、施設、学校などで重大な問題が生じることが予想されます。そこで、日本小児科学会は成人、特に大学生における百日咳の存在と学生を介した院内感染、医療機関・学校など実習先への感染拡大を最小限に抑制するために、感冒にしてはしつこいと感じられる2週間以上続く頑固な咳嗽を認める学生、教職員が観察された際には、百日咳を念頭においた対応が必要であることを大学関係者にお知らせします。ご配慮のほど、よろしくお願い申し上げます。
 付記:なお、100%の診断率ではないものの、一般的には血清診断として山口株(流行株)に対する凝集素価の上昇(単一血清でかなりの上昇、あるいはペア血清で4倍以上の上昇)を確認することなども重要です。確定診断前に診断的治療が必要となる場合もあります。
 また国立感染症研究所によってLAMP法を用いた遺伝子キットが地方衛生研究所百日咳レファレンスセンター(秋田県健康環境センター、東京都健康安全研究センター、大阪府立公衆衛生研究所、三重県科学技術振興センター、愛知県立衛生研究所、福岡県保健環境研究所等)に配布され、検査体制の強化/拡充が図られているところです。すべての検体検査に応じられる段階ではありませんが、病原診断の相談先となります。(病原微生物検出情報―IASR― 2008年3月号 特集:百日咳 http://idsc.nih.go.jp/iasr/index-j.html
 

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