各種活動

要望書 不活化ポリオワクチン(IPV)早期導入に関する要望

平成22年8月23日

厚生労働大臣
長妻 昭 殿

社団法人 日本小児科学会
会長 五十嵐 隆

 今般、神戸市において、経口ポリオ生ワクチン(OPV)非接種者(接触者)に生ワクチン株による麻痺症例が発生したことが報告された。
 急性灰白髄炎(ポリオ)は、OPVの導入により患者は激減し、わが国では1980年以降、野生株ポリオウイルスは分離されていない。現在、ポリオ根絶計画が世界保健機関により進められているが、なおインドやアフリカの一部地域などで流行が持続している。また、ワクチン接種率の低下した地域での再流行が経験されており、世界根絶が達成されるまではワクチン接種の継続が必要とされている。
 一方、わが国でのOPV接種者におけるワクチン関連麻痺(VAPP)の出現頻度は1981~2000年の20年間で、免疫異常のない被接種者から麻痺患者が出た割合は約450万人当たりに1人、接種者の場合には約550万人当たりに1人とされているが、最近では200万接種あたり1例という報告もある(*)。
 予防接種実施要領に基づいて実施されている予防接種後副反応報告は、予防接種との因果関係の有無に関係なく予防接種後に健康状況の変化をきたした症例を集計したものである。これらの症例の中には、予防接種によって引き起こされた反応だけでなく、予防接種との関連性が考えられない偶発事象等も含まれているが、最近5年間の報告書の集計によると、ポリオワクチン接種後の麻痺例は、平成20年度は7例-平成19年度報告書に記載された暫定値(うち1例は回復)、平成19年度は4例、平成18年度は3例(うち1例はその後回復)、平成17年度は1例(その後回復)、平成16年度は3例(うち1例は回復、1例は接種6年後の報告、1例は被接種者の家族例)、平成15年度は2例(うち1例は髄液からコクサッキーウイルスが分離)が報告されている。また2001~2007年にポリオウイルス(ワクチンタイプ)が感染研で確認された麻痺例は7例である(感染症流行予測調査報告書より)。
 野生ポリオが根絶されている我が国において、少ない頻度ではあるがOPV関連まひ症例が発生することは重大な問題である。ポリオの予防接種の在り方についてはポリオ麻しん検討小委員会の提言(平成15年3月)において、不活化ポリオワクチン(IPV)の早期導入の必要性と、2次感染者に対する救済制度創設の必要性が指摘され、後者についてはすでに制度化された。
 IPVは、わが国においても現在DPT-IPV混合ワクチンとして臨床治験が実施されているが、承認までなお時間を要するものと考えられる。野生ポリオの輸入による再流行を防ぐためには、IPVの導入までは生ワクチンの接種率を高く保つ必要があるが、多くの先進国では既にIPVが導入されており、わが国でも極力早期のIPV導入が喫緊の課題となっている。IPVの早期導入に向け、国、審査機関、関係者には最大限の努力を要望する。

*ポリオ関連まひについて、
Hao L, Toyokawa S, Kobayashi Y: Poisson-model of risk of vaccine-associated paralytic poliomyelitis in Japan between 1971 and 2000. Jpn. J. Infect. Dis, 61:100-103,2008では、
「接種者のVAPP 1/370万接種、接触者のVAPPは1/440万接種、合計1/200万接種」としている。

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