小児周術期ワクチンスケジュールに関するコンセンサスステートメント
2026年3月27日
勝田 友博1,2、馬場 千晶1,3、橘 一也1,3、谷口 由枝1,3、多屋 馨子1,2、
中野 貴司1,2、堀越 裕歩1,2、簑島 梨恵1,3、宮入 烈1,2、宮津 光範1,3、
津川 毅1,2、森 雅亮1,2、和田 泰三1,2
1)小児周術期ワクチンスケジュール検討ワーキンググループ
2)日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会、3)日本麻酔科学会
※ 本コンセンサスステートメントにおける用語の定義
周術期:手術が決定してから手術当日まで、手術中、手術後退院までのすべての時期を指す。
手術:全身麻酔を伴う、外科手術、検査、処置、生検、および血管内カテーテル手術などを指し、局所麻酔や鎮静で行う小手術、処置は含まない。
血液製剤:洗浄赤血球を除く赤血球製剤、全血製剤、血小板製剤、新鮮凍結血漿、アルブミン製剤、ヒト免疫グロブリン製剤、血液凝固因子製剤、アンチトロンビン製剤、組織接着剤を指す。
【ポイント】
本ステートメントは、緊急手術、予定手術の如何に関わらず、以下の基準を満たさない場合であっても、主治医の判断で、手術を行うことを妨げない。
1)術前ワクチン
①注射不活化ワクチン、mRNAワクチン:手術の48時間前までに接種を完了する。
②弱毒生ワクチン
a.注射弱毒生ワクチン(BCGは除く):
・麻疹、風疹、水痘ワクチン:手術の3週間前までに接種を完了する。
・おたふくかぜワクチン:手術の4週間前までに接種を完了する。
b.BCGワクチン:手術の4週間前までに接種を完了する。
c.経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン、5価経口弱毒生ロタウイルスワクチ
(以下、経口弱毒生ロタウイルスワクチン):手術の4週間前までに接種を完了する。
d.経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:手術の4週間前までに接種を完了する。
2)術後ワクチン
【周術期に血液製剤の投与を受けなかった場合】
① 注射不活化ワクチン、全ての弱毒生ワクチン、mRNAワクチン:
術後状態が安定するまで接種を控える。
【周術期に血液製剤の投与を受けた場合】
① 注射不活化ワクチン、mRNAワクチン:
血液製剤投与の影響は受けないが、術後状態が安定するまで接種を控える。
② 弱毒生ワクチン
a.注射弱毒生ワクチン(BCGは除く):
・輸血(洗浄赤血球は除く)、ヒト免疫グロブリンを投与した場合
接種を3か月は控える4)。
・ヒト免疫グロブリンを大量投与(200mg/kg以上)した場合
接種を6か月は控える4)。
b.BCGワクチン:
血液製剤投与の影響は受けないが、術後状態が安定するまで接種を控える。
c.経口弱毒生ロタウイルスワクチン:
血液製剤投与の影響は受けないが、術後状態が安定するまで接種を控える。
d.経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:
血液製剤投与の影響は受けないが、術後状態が安定するまで接種を控える。
背景
近年、小児に接種すべきワクチンの種類が増加している。ワクチンで予防可能な疾患から子どもを守るためには、接種可能な時期になったら遅滞なく接種することが重要である。手術や麻酔の前後にワクチンを接種しても、ワクチン効果の低下や副反応の増加を示す明確なエビデンスは報告されておらず1)、予定手術などを理由に安易に接種を遅らせるべきではない。一方で、国内には、小児における周術期ワクチンスケジュールに関する統一方針がないため、各施設が独自のルールを設定して接種計画をたてているのが現状である。日本小児科学会および日本麻酔科学会は、小児周術期ワクチンスケジュール検討ワーキンググループ(WG)を合同で設立し、入手しうる国内外の最新のエビデンスをもとにコンセンサスステートメントを公開する。
総論
1.ワクチンを接種すべきではない状況
37.5度以上の発熱や重篤な急性疾患を有する場合は、回復するまで接種を待つ。また過去に接種したワクチンでアナフィラキシーを呈したことがある場合、各ワクチンの接種不適当者に該当する場合(各ワクチンの添付文書を参照のこと)は、当該ワクチンの接種はできない2)。
2.ワクチン接種間隔
2025年現在、日本で接種可能なワクチンには、注射不活化ワクチン、注射弱毒生ワクチン、経口弱毒生ワクチン、経鼻弱毒生ワクチン、mRNAワクチンの5種類がある。麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜ・BCGなどの注射弱毒生ワクチンの次に異なる注射弱毒生ワクチンを接種する際は、27日以上の間隔をあけて接種する。それ以外の組み合わせでは接種間隔の制限はない。血液製剤を投与後に麻疹・風疹・水痘・おたふくかぜ(BCGを除く)の注射弱毒生ワクチンを接種した場合、血液製剤に含まれる中和抗体により効果が減弱する可能性があるため、血液製剤の投与からワクチン接種までの間隔をあける(詳細後述)。
3.同時接種のワクチンの種類および数
注射不活化ワクチン、全ての弱毒生ワクチン、mRNAワクチンは、いずれの組み合わせでも同時接種できるワクチンの種類に制限はなく、ワクチンの数にも制限はない3)。
術前ワクチン接種
1.術前ワクチンの是非が議論される主な理由
1)周術期に用いられる可能性がある血液製剤投与の影響
①注射不活化ワクチン、mRNAワクチン
不活化ワクチンに対する免疫反応は、一般的に血液製剤の影響を受けないため、不活化ワクチンは、血液製剤の前、後、または同時に投与が可能である4)。
②弱毒生ワクチン
a.注射弱毒生ワクチン(BCGは除く):
血液製剤に注射弱毒生ワクチン抗原に対する抗体が含まれている場合、生ワクチンの効果が阻害される可能性があるため、生ワクチンを先行して接種した場合は、血液製剤の投与を少なくとも2週間待つ必要がある4)。
b.BCGワクチン:
血液製剤の投与による影響を受けないため、血液製剤の前、後、または同時に投与が可能である4)。
c.経口弱毒生ヒトロタウイルスワクチン、5価経口弱毒生ロタウイルスワクチン(以下、経口弱毒生ロタウイルスワクチン):
血液製剤の投与による影響を受けないため、血液製剤の前、後、または同時に投与が可能である4)。
d.経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:
血液製剤の投与による影響を受けないため、血液製剤の前、後、または同時に投与が可能である4)。
2)ワクチン接種後および周術期に予想される症状の類似性
周術期において、ワクチン接種後にも認められる発熱、倦怠感などの症状を認めた場合、 術前の最終手術適応判断、術中術後の合併症との関連性の評価が複雑化する可能性がある5)。
2.術前ワクチン推奨スケジュール
1)緊急手術
緊急手術の適応があると判断された場合は、直前のワクチン接種歴に関わらず、必要な手術は速やかに行われるべきである。
やむを得ず注射弱毒生ワクチン接種後、2週間以内に血液製剤を使用した場合は、6か月後を目安に抗体検査でワクチンの効果を確認するか、同じ注射弱毒生ワクチンを再接種する4)。(任意接種になることに留意)
2)予定手術
予定手術前のワクチンの接種容認期間は各国で異なるルールが存在しており4-6)、明確なエビデンスが確立していないが、本WGは以下を推奨する。ただし、例えば乳幼児期より複数回の手術が必要な基礎疾患がある患者などにおいては、本コンセンサスステートメントを遵守した結果、適切な時期における予防接種の機会を失うことが危惧される。
以上より、以下の基準を満たさない場合であっても、主治医の判断で、予定手術を行うことを妨げない。
①注射不活化ワクチン、mRNAワクチン
周術期に診断上の懸念を引き起こすワクチン接種後の症状を回避することを目的として、手術の48時間前までに接種を完了する6)。
②弱毒生ワクチン
a.注射弱毒生ワクチン(BCGは除く):
・麻疹、風疹、水痘ワクチン
血液製剤による弱毒生注射ワクチンへの影響およびワクチンウイルス由来の症状出現の影響を考慮し、手術の3週間前までに接種を完了する5)。
・おたふくかぜワクチン
血液製剤による弱毒生注射ワクチンへの影響を考慮することに加え、国内で用いられているおたふくかぜワクチンは、稀ではあるが無菌性髄膜炎症状が出現する可能性があるため7)、手術の4週間前までに接種を完了する。
b.BCGワクチン:
血液製剤の投与による影響を受けないが、原則として手術の4週間前までに接種を完了する。尚、BCGによる合併症は接種後、平均13.9か月で発生するとされているため、4週間の観察期間では不十分である可能性があるが、生体肝移植の4年〜4週間前までにBCGワクチン接種を受けていた144人の患者において、BCGによる合併症は認めなかった8)、との報告がある。
c.経口弱毒生ロタウイルスワクチン:
血液製剤の投与による影響を受けない4,9)。ただし、経口弱毒生ロタウイルスワクチンは消化管に7日間10,11)〜最大1か月4)残存することが知られているため、手術の4週間前までに接種を完了する。
d.経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:
血液製剤の投与による影響を受けない4,9)。ただし、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは気道に3〜4週間程度4,12)残存することが知られているため、手術の4週間前までに接種を完了する。
血液製剤を使用する可能性が低い予定手術においては、血液製剤の影響を考慮する必要性は低下するが、ワクチン接種後および周術期に予想される症状の類似性なども考慮し本WGは上記と同様の対応を推奨する。
3)共通事項(緊急手術、予定手術を問わない)
①抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤
注射不活化ワクチン、全ての弱毒生ワクチン、mRNAワクチンともにその影響を受けない。
術後ワクチン接種
1.術後ワクチン推奨スケジュール(緊急手術、予定手術を問わない)
1)共通事項
①注射不活化ワクチン、全ての弱毒生ワクチン、mRNAワクチンとも術後状態が安定するまで接種を控える5,13-15)。
②周術期に血液製剤投与を受けた場合、弱毒生ワクチン接種は一定期間の延期が必要となる4)。
③抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤は注射不活化ワクチン、全ての弱毒生ワクチン、mRNAワクチンともにその影響を受けない。
④免疫不全状態と考えられる場合は、専門家へのコンサルトを行い、各々の免疫状態に合う接種プランを設定することが必須である4,16-17)。
2)周術期に血液製剤の投与を受けなかった場合
①注射不活化ワクチン、全ての弱毒生ワクチン、mRNAワクチンともに術後状態が安定するまで接種を控える5)。
3)周術期に血液製剤の投与を受けた場合
①注射不活化ワクチン、mRNAワクチン
血液製剤投与の影響は受けないが、術後状態が安定するまで接種を控える5)。
②弱毒生ワクチン
a.注射弱毒生ワクチン(BCGは除く):
注射弱毒生ワクチンは、血液製剤に含まれる抗体による中和反応の影響を受けるため、接種には一定の期間を置くことが必要である4)。
・輸血(洗浄赤血球は除く)、ヒト免疫グロブリンを投与した場合
注射弱毒生ワクチン接種(BCGワクチンを除く)は3か月接種を控える4)。
・ヒト免疫グロブリン製剤を大量投与(200mg/kg以上)した場合
注射弱毒生ワクチン接種は6か月接種を控える4)。
なお、米国においては、先行して使用された血液製剤の種類と投与量ごとに、麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜ含有ワクチンの接種間隔に関する、より詳細な推奨がなされている4,9)。
b.BCGワクチン:
血液製剤の投与による影響を受けないが、術後状態が安定するまで、接種を控える5)。
c.経口弱毒生ロタウイルスワクチン:
血液製剤の投与による影響を受けないが、術後状態が安定するまで、接種を控える5)。
d.経鼻弱毒生インフルエンザワクチン:
血液製剤の投与による影響を受けないが、術後状態が安定するまで、接種を控える5)。
参考文献
1) Centers for Disease Control and Prevention.Vaccines & Immunizations,Contraindications and Precautions.
https://www.cdc.gov/vaccines/hcp/imz-best-practices/contraindications-precautions.html
(参照2025-9-5)
2) 厚生労働省.予防接種法施行規則.e-gov.
https://laws.e-gov.go.jp/law/323M40000100036/ (参照2025-9-8)
3) 日本小児科学会. 日本小児科学会の予防接種の同時接種に対する考え方.日本小児科学会.
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/doji_sessyu20201112.pdf (参照2025-9-8)
4) Centers for Disease Control and Prevention.Epidemiology and Prevention of Vaccine-Preventable Diseases (Pink Book),14th edition.2021.
5) Australian Government Department of Health and Aged Care.Vaccination before or after anaesthesia or surgery. Australian Immunisation Handbook 2018.
https://immunisationhandbook.health.gov.au/contents/vaccination-for-special-risk-groups/vaccination-before-or-after-anaesthesia-or-surgery(参照2025-11-1)
6) Fasham J、Hulatt L.Paediatric Anaesthesia For Beginners.
https://www.apagbi.org.uk/images/information%20and%20resources/professional%20resources/anaesthesia-for-beginners–apa-guide-2023–v2.pdf(参照2025-9-8)
7) 神谷元,西藤成雄,中野貴司,他.おたふくかぜワクチン接種後の副反応に関する全国調査報告.日児誌 2024;128:92-104.
8) Kinoshita N,Shoji K,Funaki T,et al.Safety of BCG Vaccination in Pediatric Liver Transplant Recipients. Transplantation 2018;102:e125.
9) Kimberlin DW,Banerjee R,Barnett ED,et al.Red Book 2024-2027 Report of the Committee on Infectious Diseases 33rd. 2024.
10) グラクソ・スミスクライン株式会社.ロタリックス内用液添付文書2023年1月改訂(第2版)
https://gskpro.com/content/dam/global/hcpportal/ja_JP/products-info/rotarix/rotarix-pcvfree.pdf(参照2025-11-1)
11) MSD株式会社.ロタテック内用液添付文書2022年2月改訂(第1版).
https://www.msdconnect.jp/wp-content/uploads/sites/5/2024/10/pi_rotateq_or.pdf(参照2025-11-1)
12) 第一三共株式会社.フルミスト点鼻液添付文書2025年8月改訂(第5版).
https://www.medicalcommunity.jp/filedsp/products$druginfo$flm$pi/field_file_pdf.(参照2025-11-1)
13) Siebert JN,Posfay-Barbe KM,Habre W, et al.Influence of Anesthesia on immune responses and its effect on vaccination in children: review of evidence. Paediatr Anaesth. 2007;17:410-20.
14) Vaccination before or after anesthesia or surgery. Australian Immunisation Handbook.
https://immunisationhandbook.health.gov.au/contents/vaccination-for-special-risk-groups/vaccination-before-or-after-anaesthesia-or-surgery(参照2025-11-1)
15) Short JA,van der Walt JH,Zoanetti DC,et al.Immunization and anesthesia-an international survey. Paediatr Anaesth. 2006;16:514-22.
16) Michael Smith. Vaccine safety.medical contraindications, myths, and risk communication. Pediatr Rev. 2015;36:227-38.
17) 日本小児感染症学会免疫不全状態にある患者に対する予防接種ガイドライン2024作成委員会. 免疫不全状態にある患者に対する予防接種ガイドライン. 東京都:協和企画;2024.

