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学会の活動

2026年4月からの妊婦を対象としたRSウイルス母子免疫ワクチン(アブリスボ®筋注用)の定期接種化にあたって

2026年3月27日

日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会

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はじめに

 RSウイルス感染症は、乳児期における下気道感染症の主要な原因であり、特に生後早期の乳児においては重症化や入院を要する頻度が高い感染症である。我が国ではこれまで、早産児や基礎疾患を有する児を中心に抗RSウイルス抗体製剤による発症・重症化抑制策が行われてきたが、出生直後から生後数か月間のすべての乳児を広く保護するための予防戦略には限界があった。日本小児科学会は、「抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤及びRSウイルス母子免疫ワクチンを広く提供するための体制整備に関する要望書」を厚生労働省に提出し、すべての新生児や乳児のRSウイルス感染症の予防戦略として、抗RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤及びRSウイルス母子免疫ワクチンを用いた予防法を広く提供するための体制整備を要望してきた1)。さらに、日本小児科学会は、RSウイルス母子免疫ワクチンへの理解と接種が進むことへの期待を提言してきた2)
 このような背景のもと、妊婦を対象とした組換えRSウイルスワクチン(アブリスボ®筋注用)が、2026年4月より定期接種として導入されることは、新生児・乳児RSウイルス感染症対策における重要な進展である。
 本ワクチンは、妊婦へ接種することで母体内に誘導されたRSウイルス特異的抗体を胎盤移行により胎児へ移行させ、生後早期の乳児を受動免疫により防御することを目的としている2) 3)。特に、RSウイルス感染症による重症化リスクが最も高い生直後から数か月間をカバーできる点に、本ワクチンの大きな意義がある2)。一方で、定期接種化にあたって、医療者が本ワクチンの特性を十分に理解することが重要であることから、いくつかの注意事項や考え方について提言する。

妊婦への接種について

定期接種における接種時期:妊娠 28週0日~36 週6日
筋肉内注射 0.5mL
使用するワクチンは、アブリスボ®筋注用である(アレックスビー®筋注用は使用できない)
注意事項

  • 接種時期と出生:妊婦がワクチン接種後2週間以内に出生した児は、胎盤を介する抗体移行が十分でない可能性があり、有効性は確立していない3)
  • 同時接種:インフルエンザHAワクチンや新型コロナワクチンなど妊婦に接種可能なワクチンとの同時接種は、医師が必要と認めた場合に可能である4)。ただし、機序や臨床的な影響は不明であるものの、海外で使用されている成人用の沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチン(日本の沈降精製百日咳ジフテリア破傷風混合(3種混合)ワクチンとは製剤が異なる)との同時接種は、百日咳菌の防御抗原に対する免疫応答が低下するとの報告がある2)3)。ワクチン接種の機会を逃さないことは重要であることから、国内の3種混合ワクチンとの同時接種については医師が必要と認めた場合に行うことができる。
  • 里帰り出産など移動が多い妊婦が住民票のない自治体で接種できる体制づくりについて至急対応が求められる。
  • できるかぎり産婦人科医もしくは産婦人科医がいる施設で接種することが望まれるが、産婦人科医以外が接種する場合は、産婦人科主治医と連携して接種にあたることが大切である。
  • 産婦人科医が接種医でない場合(小児科医や内科医等が接種する場合)、産婦人科主治医と接種前後に関する情報を共有する。現時点で因果関係は確立していないものの、本RSウイルス母子免疫ワクチンと妊娠高血圧症候群の関連を示唆する報告がある5)。そのため、同じ施設内に産婦人科医がいない場合は、接種直前の妊婦健診の際に産婦人科主治医と妊婦が相談して接種の可否を確認しておく。問診票の妊娠高血圧症候群の質問項目が「いいえ」であることを確認する。「はい」の場合は、産婦人科のある施設での接種または産婦人科主治医と連携した接種を行うことが望ましい。その他、産婦人科疾患等で接種に心配がある場合は接種医が産婦人科主治医に確認する。接種の可否の最終判断は接種医が行う。
  • 母子健康手帳を中心とした妊婦への接種証明の記録を徹底する(抗体製剤の投与との関係があるため)。妊娠中に組換えRSウイルスワクチンを接種したかどうか、接種した場合はその接種時期を確認する必要がある。記載がない場合は、接種医療機関に確認するか、母親に接種年月日を確認してもらう必要がある6)

母子健康手帳の「予防接種の記録(5)その他の予防接種」のページに接種シールを貼付する。

  • 妊娠の度にRSウイルス母子免疫ワクチンの接種を行う5)
  • 児のRSウイルス感染症の疾病に関することやRSウイルス母子免疫ワクチンと抗体製剤については、妊娠前や妊娠初期に十分な説明を行っておく必要がある。以下の資料を参考とする。
    日本産科婦人科学会 「女性を脅かす感染症」 https://www.jsog.or.jp/citizen/7042/
    日本周産期・新生児医学会 「ウイルス感染症予防」 https://rsvirus-jspnm.jp/
  • 授乳については、添付文書では「予防接種上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討すること。ヒト母乳中への本剤の移行は不明である」とされている3)。一方で、授乳に関連した有害事象はこれまで報告されておらず、また母乳を介した抗体移行が認められることが報告されており、諸外国では授乳を中止していない。
  • 副反応疑い報告の基準は、妊婦のアナフィラキシーが設定されている7)

抗RSウイルス抗体製剤(ニルセビマブ〔ベイフォータス®〕、パリビズマブ〔シナジス®〕)との関係について

 母子免疫ワクチンは、すべての乳児を対象とした集団予防戦略として位置づけられるものである。その一方、母子免疫ワクチンの有効性や有効性持続期間に関して、基礎疾患を有するリスク児に層別化したデータは十分ではない(例えば、後期早産児、先天性心疾患やダウン症の正期産児と基礎疾患のない正期産児が同じ有効性を有するかどうかなど)。そのため、現時点の我が国においては、抗体製剤は、健康保険適用下で基礎疾患を有する児や早産児などのRSウイルス感染症の重症化リスクが高い児に対する個別的発症抑制手段として引き続き重要な役割を担う。

  • 妊婦がRSウイルス母子免疫ワクチンを接種していた場合であっても、その抗体移行には個人差もあるため、現行の保険適用に基づき抗体製剤投与が行われている重症化リスク児(ニルセビマブの適応症の6疾患またはパリビズマブの適応症の11疾患を有する児)に対しては、その重症化リスクを鑑み、抗体製剤の投与が推奨される6)
  • 母子免疫ワクチンの基礎疾患を有するリスク児における有効性持続期間に関する知見は現段階では乏しく、RSウイルスの流行に遅れないように、診断がつき次第診療上適切なタイミングで、出生後早期より抗体製剤を投与する必要がある。(特に早産児については母親がRSウイルス母子免疫ワクチンを接種していても効果が乏しい可能性があるので、NICU退院前後に行うことが考えられる。)

 また、妊婦へのRSウイルスワクチン接種がされていない場合や、以下の妊婦へのRSウイルスワクチン接種の児に対する効果が低下することが予測される場合には、特に積極的な投与が推奨される6)

  • 妊婦がRSウイルス母子免疫ワクチン接種後2週間以内に出生した新生児・乳児(胎盤を介する十分な抗体移行が期待できないと考えられるため)。
  • RSウイルス母子免疫ワクチン接種に対して十分な免疫応答が得られない可能性のある妊婦(例:免疫不全状態の人)や経胎盤RSウイルス抗体移行が減少する可能性のある妊婦(例:HIV感染者)から出生した新生児・乳児。
  • 出生後にRSウイルス抗体の消失につながる心肺バイパスを受けたもしくは体外式膜型人工肺を使用した新生児・乳児。

 本学会は今後も、産婦人科関連学会、行政、関係機関と連携し、最新の科学的知見および現場の実情を踏まえながら、必要に応じて本ステートメントの見直しを行い、医療者に対する適切な情報提供に努めていく。

参考文献

  1. 日本小児科学会. RSウイルスヒトモノクローナル抗体製剤及びRSウイルス母子免疫ワクチンを広く提供するための体制整備に関する要望書. 日本小児科学会.
  2. (参照2026-2-4)
  3. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. RS ウイルス母子免疫ワクチンに関する考え方.日本小児科学会.
  4. (参照2026-2-4)
  5. 医薬品医療機器総合機構.アブリスボ筋注用 添付文書. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/631350AE1028_1?user=1(参照2026 -2-4)
  6. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 妊婦への接種が推奨または考慮されるワクチン.日本小児科学会.
  7.  (参照2026-2-4)
  8. 第72回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会、予防接種基本方針部会. 小児におけるRSウイルス感染症の予防について. https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001627347.pdf(参照2026-2-4)
  9. 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 日本におけるニルセビマブの使用に関するコンセンサスガイドラインQ&A(第3版、一部修正).日本小児科学会.
  10. (参照2026- 2-4)
  11. 第110回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和7年度第11回薬事審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催). 新 た に 定 期 接 種 に 位 置 づ け ら れ る ワ ク チ ン に 係 る副 反 応 疑 い 報 告 基 準 に つ い て. https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001650788.pdf(参照2026-2-4)
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