社会的養護の必要な医療的ケア児の権利擁護に関わる基礎調査
日本小児科学会小児医療委員会社会的養護が必要な医療的ケア児小委員会報告
社会的養護の必要な医療的ケア児の権利擁護に関わる基礎調査
日本小児科学会小児医療委員会社会的養護が必要な医療的ケア児小委員会
星野 陸夫 柳 貞光 網塚 貴介 来生奈巳子 木下あゆみ
是松 聖悟 宮田 理英 松尾 宗明 三井 哲夫 芦田 明
背景と目的
重症心身障害児ではない医療的ケア児が社会的養護の必要な状況となった場合に,一般の養護施設や重症心身障害児施設では引き受けられず長期入院を余儀なくされることで,発達支援や教育などを受ける権利が損なわれている.全国の小児病床において,どの程度の社会的養護の必要な医療的ケア児が居場所を見つけられず権利を侵害されているか基礎調査を行った.
調査方法
小児病床を有する全国 2,458 病院の小児科代表者に郵送で依頼をして,2025 年 3 月時点のデータをもとに無記名で下記内容の WEB アンケートに答えてもらった.
- 1.病院所在都道府県名
- 2.小児病床数
- 3.上記病床数のうち 6 か月以上の長期入院患者数(調査票記入時点)
- 4.上記 3.のうち医療的ケアの必要な患者数
- 5.上記 4.のうち重症心身障害児に当てはまらない患者数
- 6.上記 5.の患者が退院できない理由を選択肢から(患者ごとに分けず)すべて選択
- □ 家庭状況の課題
- □ 養育者の事情(病気,障害等)
- □ 養育者の受容課題
- □ きょうだい児の事情
- □ 虐待(疑いを含む)
- □ 経済的事情
- □ 地域支援体制の未整備
- □ 医学的事情
- □ その他
結 果
1.726 施設から回答があり回答率 29.5% だった.無記名のため正確な特定は困難だが,重症心身障害児者施設と思われる施設の回答が含まれていたため,回答内容から当該施設と考えられる 32 施設を除いた 694施設の回答を解析した.そのうち少なくとも 3 施設は小児病床を持たないと推察されたが施設数には含めて検討を行った.
2.長期入院の内訳数(表 1)を見ると,全国で小児病床を持つ 1 病院当たり 0.7 人の長期入院児がいて,比較的規模の大きな病院に偏在していることが推察された.特に小児病床 101~150 床の 11 病院には 1 病院当たり 4.4 人の長期入院児がいることがわかった.そして長期入院の原因が医療的ケアと思われる割合は70.1%(うち 75% は重症心身障害児)であり,重症心身障害児以外の医療的ケア児の長期入院は全国で 85例だった.
3.前述した医療的ケア児の長期入院 85 例における長期入院の理由(図 1)を確認すると,医学的事情と地域支援体制の未整備の両方を併せ持つ回答が 14 件認められ,これらの症例は地域の支援体制が整備されれば退院できる可能性もあると思われた.一方で,医学的事情のみを課題とした長期入院の回答は 26 件認められ,これらの症例はより重症疾患が生存するようになり,高度医療の継続が必要になってきている医療的背景があるものと推察できた.上記 85 例から医学的事情のみが長期入院の理由となっていた 26 例を除いた59 例が社会的養護を必要とする医療的ケア児の長期入院と推測され,その理由でもっとも多いものは家庭状況の課題であった.
ま と め
全国の小児病床における長期入院児は,小児病床規模の大きな病院に遍在する傾向が見られ,長期入院の原因として医療的ケアが関連する割合が多くを占めた.そしてそれら長期入院例の 25%(85 例)が重症心身障害児以外の医療的ケア児と考えられた.さらにそのうち医学的事情のみが長期入院の理由と考えられた26 件を除く 59 例が,社会的養護の必要な医療的ケア児の長期入院と考えられた.また医学的事情により長期入院している重症疾患例や要高度医療例の多い実情が示唆され,小児病床の負担である一方で家族や地域支援者の負担も増大している実情が推察できた.
社会的養護の必要な医療的ケア児の長期入院例は,全国的に決して多いわけではないが,医療的ケア児全体のうち一定の割合を占めていると共に,受けられるはずの発達支援や教育を受けられず権利が侵害された状態にある可能性が高い.さらに詳細な実態を調査して,社会としての受け皿の体制を構築していく必要がある.
謝辞 調査にご協力いただきました全国の施設のみなさまに深謝いたします.

