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傷害予防、何をする?どう説明する?

 JPLSコース当日、子どもの心停止の原因には「不慮の事故」が大きな割合を占めていることや、死亡に至らないまでも原因が同じで軽症で済んだ事故について私たち小児科医は日常的に遭遇していることを学んだ。傷害の情報を収集する手段として日本小児科学会が公表しているInjury Alertをコース内では紹介したが、多種多様な事故の情報はInjury Alertだけで全て収集できるわけではない。Injury Alert以外の情報収集の方法や傷害をどうやって予防するのか?小児科医としてできることは何か?をこの項では解説する。

傷害予防における小児科医の役割

 子どもは心身の発達段階にあり、年齢の低い子どもであればあるほど、本人の注意により安全を確保することは困難である。そのため、傷害を予防するには子どもの能力の限界や特性に応じて周囲の環境を構築することが重要となる1)。また、子どもの発達は全ての心身機能が一律に進むのではなく、ある特定機能が急速に発達する時期があり、その機能の発達に合わせて新たな遊びを好むようになる2)。これらの遊びは筋力、平衡感覚、空間認知機能を養うため重要であるが、安全に遊びが行われるよう環境を整える必要がある1)。その際、子どもの発達に関する知識は根幹となるため、予防のための環境整備や改善において、小児科医が重要な役割を果たし得る。

 傷害発生時に子どもは医療機関を救急受診することが多いが、小児科医はどの程度関わっているだろうか?特に外傷においては虐待の鑑別を行う必要があり、虐待に気づくきっかけとして、発達段階と事故の状況、程度、診察所見との間に違和感がないかどうかは重要である3)。受傷機転、事故の背景、養育環境など、傷害予防に繋げるための情報収集は同時に虐待発見のための問診と密接な関係にあり、小児科医の腕の見せ所である。 小児科医として救急現場の外傷診療にどのように関わるか、個人、施設で継続的に改善点を模索して欲しい。

傷害予防の本質的な考え方4)5)

 傷害は種類、重症度、発生頻度ともにさまざまであり、各人によって「傷害」についての認識も同様にさまざまである。しかしながら子どもの傷害、特に転帰が重大なものが発生した際には「保護者の責任」「保護者の不注意」と指摘され、多くのニュースで「気をつけましょう」という警告が一様に並ぶのは珍しい光景ではない。何にどう気をつければその事故が防ぎ得るのか科学的根拠に基づかない指導は、最終的には「24時間、決して目を離さないように」という実現不可能な精神論に行き着いてしまう。

 傷害予防には家庭内という最小単位であっても、国の政策という大規模なものであったとしても、実現するための原則がある。それは、傷害に関わる要因を制御したい変数、操作可能な変数、操作不能であるが重要な説明変数の3つに分類し、3つの因果構造を分析し、制御したい変数にアプローチすることにある。この際注意が必要なのは制御したい変数は直接的には制御できない場合が多いことである。

 具体的に変数を補足すると、制御したい変数とは重症度が高い傷害の発生数や、傷害による死亡数などがある。 操作可能な変数は製品の設計や環境整備(柵の高さを何cmにするか、喉つき防止カバーつきの歯ブラシ、チャイルドシートや自転車ヘルメットの法制化など)、保護者の意識や行動などがある。 操作不能であるが重要な説明変数としては、子どもの年齢、発達段階、天候、季節、時刻などが挙げられる。

 小児科医が直接予防の指導をするときに意識すべきは操作可能な変数についての指摘であり、この3つの変数の因果構造の構築のために発生した傷害の情報共有が重要である。

傷害の情報収集2,3)

<日本小児科学会>

*Injury Alert(傷害速報)

/general/40035.html

*子どもの予防可能な傷害と対策(医療者向け)

 /society-activities/gideline/proposals-assertions/50148.html

*子どもの予防可能な傷害と対策(保護者向け)

 /general-public/40023.html

*〜食品による窒息 子どもを守るためにできること〜

 /society-activities/gideline/proposals-assertions/50123.html

<こども家庭庁>

*子どもの不慮の事故を防ぐために

https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety-actions

<消費者庁>

*子どもの事故防止

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child

*子ども安全メール

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001

<国民生活センター>

*事故情報データバンク

https://www.jikojoho.caa.go.jp/ai-national

<日本中毒情報センター>

*医師向け中毒情報データベース

*初期対応向け中毒情報データベース

<NPO法人Safe Kids Japan>

https://safekidsjapan.org

参考文献

1) 小松原明哲: 子どもの事故を予防する 人間工学の考え方. 小児科診療 2022; 85: 233-238.

2) 小松原明哲: エンジニアのための人間工学(改訂第6版). 日本出版サービス, 135-137, 2021

3) 長村敏生: 小児科医が子どもの事故予防に関わる意義. 小児科診療 2022; 85: 145-150.

4) 山中龍宏, 北村光司, 大野美喜子, 他: 傷害予防に取り組む-変えられるものを見つけ、変えられるものを変える-. 日児会誌 2016; 120: 565-579. 5) 山中龍宏: 子どもの傷害を予防する-安全知識循環型社会の構築に向けて-. 安全工学 2015; 54: 228-235.

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