会長挨拶
2026年 年頭所感
2026年が、世界の子どもたちとそのご家族、
そして日本小児科学会の会員の皆さまにとって、
健やかで希望に満ちた一年となりますよう、
心より祈念申し上げます。
公益社団法人日本小児科学会 会長
滝田 順子

新年を迎え、会員の皆さまに謹んでご挨拶を申し上げます。2026年が、子どもたちとそのご家族、そして会員の皆さまにとって、健やかで希望に満ちた一年となりますよう心より祈念いたします。2025年は、働き方改革の影響、医薬品供給の逼迫など、小児医療に関わる諸課題が一段と深刻さを増した一年でした。このような厳しい環境の中にあっても、会員の皆さまは、子どもたちのために不断の努力を続けてこられました。皆さまの献身的な取り組みに、改めて深く敬意を表します。
さて、2025年も出生数の減少は止まることを知らず、現在、少子化はこれまでにない深刻な局面を迎えています。子どもの数が減少する社会において、一人ひとりの子どもの健康を守り、その成長を支えることは、医療のみならず社会全体にとって最も重要な使命です。このような認識のもと、本学会では 1か月児・5歳児健診の充実と全国的定着を、少子化時代の重要施策の一つと位置づけています。国は2024年度から支援事業を開始し、都道府県での健診体制整備が進みつつありますが、実施主体の負担、地域格差、情報連携、健診項目の標準化など、なお解決すべき課題が多く残されています。本学会では、1か月児・5歳児健診推進アドホック委員会が中心となり、行政・日本小児科医会・日本小児保健協会との連携を強化し、健診の円滑な実施と支援事業の効果的な運用、さらに5歳児健診推進コンソーシアムの設置など、持続可能な制度基盤づくりに尽力しております。これらの健診が、発達障害や慢性疾患の早期発見、虐待予防、養育支援に直結することを強く意識し、2026年も引き続き支援を進めてまいります。
加えて、医薬品の供給不安定化は小児医療における極めて深刻な課題となっています。抗菌薬、ワクチン、栄養製剤、希少疾患治療薬など、診療に不可欠な薬剤の供給停止や出荷調整が相次ぎ、全国の医療現場から危機感が寄せられています。会員の先生方におかれましても、大変ご心配のことと推察いたします。本学会ではこの問題を重く受け止め、薬事委員会を中心に、供給停止予定品目の確認、医薬品の治療上必要性に関する意見提出、薬価改定要望書の作成と厚生労働省への提出、企業への見解回答など、多岐にわたる働きかけを進めてまいりました。今後も、小児に不可欠な医薬品の安定供給を確保するため、行政、産業界、関連学会との連携強化を図り、治療機会が失われることのないよう、実効性ある対策を提言し続けてまいります。
一方、これらの社会的課題に迅速かつ的確に対応するためには、学術団体としての機動力と組織運営の強化が不可欠です。そこで2024年から2025年にかけて、私は会長として全委員会の委員長・副委員長との個別面談を実施し、活動方針・課題・将来構想を直接伺いました。これにより、委員会の現状を俯瞰的に把握するとともに、委員会間の連携強化、事業の優先順位づけ、政策提言の基盤整備が進みました。また、学会運営をより安定的かつ効率的に進めるため、新たに庶務担当理事を設置し、事務局機能の強化および全体のマネジメント体制の整備を進めています。これらの取り組みによって、学会としての機動性と実行力は着実に高まりつつあります。
また、ダイバーシティの推進は本学会が重点戦略として掲げる領域です。2024年度には、委員会委員長に占める女性割合が30委員会中10委員会へと拡大し、代議員の女性割合も年々上昇傾向にあります。総じて、女性医師のプレゼンスは着実に高まりつつあります。そして2025年度、学会は大きな一歩として、理事会の女性理事枠を従来の1名から3名へ拡大いたしました。これは、意思決定の場に多様な視点を確実に取り入れ、学会の方向性をより豊かにする基盤整備であり、今後も女性医師のキャリア形成支援や研究参画促進を重点政策として進めてまいります。
さらに、2025年は、本学会にとって国際連携が大きく前進した一年でもありました。PAS若手交換プログラムやIPAでの活動に加え、10月には、ヨーロッパ小児科学会(EAP)学術集会に参加し、日本小児科学会として初めてEAPとのMOU(協力覚書)を締結いたしました。EAPとの協働は、日本の小児医療の成果を世界へ発信し、同時に欧州から最新の知見や制度を学ぶ双方向の価値ある連携であり、国際的な小児医療の発展に貢献する重要な礎となります。
国際社会に目を向けますと、紛争や気候変動などの影響で、依然として多くの子どもたちが危機に直面しています。こうした国際的な不安定さの中でこそ、小児科学を軸とした国際連携を強化し、子どもたちの未来を守るために行動する責務が、私たちにはあります。2026年、本学会は会員の皆さまとともに、小児医療の質と安全を高める新たな挑戦を続けてまいります。国内で進む少子化や働き方改革への対応に加え、国際社会との協働を深化させることで、すべての子どもたちが健やかに育ち、希望をもって未来を描ける社会の実現をめざします。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
2025年 年頭所感
2024年は、社会がCOVID-19感染拡大によるパンデミック後の新たな日常を築きつつ、少子化の進行、医師の働き方改革など多様な課題に直面した一年でした。このような状況の中で、会員の皆さま方におかれましては、診療や教育、研究を通じて、子どもたちの健康と福祉を守るために奮闘を続けてこられたものと、敬意の念を表します。 さて、2024年の出生数の公式統計はまだ発表されておりませんが、上半期の出生数は32万9、998人と報告されており、最終的には2023年の年間出生数75万人を大きく下回ることが予測されています。少子化が一層進行する中、昨年から1か月児および5歳児健康診査支援事業が導入され、新生児拡大マススクリーニングの実証事業も開始されました。これらの施策は、少子化問題に対応するための重要な取り組みであり、子育てを支援する医療保健活動の重要性はますます高まっていると考えられます。本学会としても、1か月・5歳児健診推進アドホック委員会を設置し、国による支援事業の適切な運用と健診の円滑な実施体制構築の支援を進めております。
本委員会には、本学会の会員に加え、日本小児科医会、日本小児保健協会、さらには行政の方々にもご参加いただいております。機動力と実行力を兼ね備えたメンバーが結集し、5歳児健診推進体制コンソーシアムの設置に向けて、迅速かつ着実に活動を進めています。
また、学童の健康状態を早期に把握し、必要な支援や治療につなげる重要な機会である学校健診についても、さまざまな課題が顕在化しており、見直しが求められる時期に来ております。具体的には、学校医や保健師の不足、地域ごとの健診実施体制や内容のばらつきがあげられ、これが結果として子どもたちが受けられる支援に格差を生じさせる要因となっています。さらに現在の健診は身体的な検査が中心であり、発達障害や心の健康に関する評価が十分に行われていないという課題も見逃せません。これらの課題を解決するために本学会では、健診項目やプロセスの標準化、健診データのDX化の推進、さらにAIの活用を支援してまいります。また、学校健診において発達や心の健康にも十分配慮した対応をどのように実現するかについても、具体的な検討を進めていく所存です。
地域社会で子どもたちが健やかに育つためには、乳児健診、5歳児健診、そして学校健診を円滑に実施できる体制を整え、安心して子育てできる環境を構築することが不可欠です。その実現に向けて、会員の皆さまの一層のご協力をお願い申し上げます。
一方、2024年4月に開始された医師の働き方改革は、小児科医にとって、医療現場の特性や小児科医療の特殊性に起因する多岐にわたる課題を浮き彫りにしています。小児医療の現場では、24時間体制での緊急対応や夜間救急対応が頻繁に求められ、その提供体制は医療者の長時間労働や過重労働に大きく依存してきました。働き方改革によって勤務時間の上限が設けられることで、医療者の健康が守られ、ワークライフバランスが改善される利点もあります。しかしながら、救急医療体制の縮小や診療の質の低下につながり、現状の小児の医療提供体制の維持が困難になることが懸念されます。特に、勤務環境が十分に整備されていない地域では、一部の勤務医に過重な負担が集中することや、患者の診療機会が減少することが予想され、最悪の場合には小児医療体制の破綻に直面する恐れがあります。これらの課題を克服するためには、ICTやタスクシフトの活用によるチーム医療の促進を通じて、診療業務を効率化し、医師の負担軽減を図る必要があります。本学会としては、医療現場のICT化の促進や遠隔医療の実装を加速するための提言、学会でのワークショップの開催などを通じて、これらの課題解決に尽力してまいります。
また小児科医の約45%は女性医師なので、時短勤務や職場環境の整備により、女性のキャリア支援を推進することもタスクシフトやチーム医療の推進につながり、働き方改革の課題克服の一助となるものと期待されます。そこで、本学会では、ダイバーシティ・キャリア形成委員会が中心となって、環境整備、意識啓発や教育の視点から、必要かつ有効な支援を行ってまいります。
さらに働き方改革は、若手医師の教育や研究推進にも影響を与える可能性があります。学会、論文発表の準備や専門医取得のための知識、技能の取得時間が、上司から命じられる時間外労働とみなされることで、専攻医の主体性が損なわれるのではないかと危惧しております。そこで、学会が主導する研修プログラムやハンズオンセミナーを通じて、魅力的なキャリアパスの提示も行ってまいります。また職場環境や研究環境を改善することに加えて、研究活動に適した時間帯や環境を選べる柔軟な働き方を促進してまいります。
2024年に顕著となった医薬品や医療用資材の供給問題は、小児医療にも深刻な影響を与えました。本学会では、現場の声を迅速に行政に届け、問題解決に向けた提言を行ってまいりました。2025年も、これらの課題に対して引き続き注力し、小児科医療の持続可能性を確保するための取り組みを強化します。具体的には、小児用医薬品の開発や製造に対する補助金や税制優遇措置を拡充するなどの公的支援の推進、既存の医薬品を小児にも適用できるよう、承認プロセスを簡素化するといった適応拡大の推進、必要不可欠な医薬品や資材を国や地域単位で備蓄し、供給不足に迅速に対応する緊急備蓄の強化があげられます。関係各団体、企業、行政とも連携して、必要な医薬品や医療用資材を子どもたちの元へ届けられることを目指します。
世界に目を向けますと、国際社会においても、紛争や気候変動などの影響で多くの子どもたちが危機に直面しています。私たちは、小児科学を通じて国際社会とも連携し、未来の希望を育むために行動していく責任があります。2025年、本学会は会員の皆さまとともに、小児医療を支える新たな挑戦を続けます。少子化対策、働き方改革、そして国際社会との連携を通じて、すべての子どもたちが健やかに成長し、夢を追いかけられる未来を実現していきたいと思います。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
日本小児科学会会長就任のご挨拶
令和 6 年 4 月20日に日本小児科学会会長を拝命いたしました京都大学大学院医学研究科発達小児科学の滝田順子でございます。
本学会は明治29年(1896年)に小児科研究会として発足しました。その後、明治35年(1902年)には会則が改変され、日本小児科学会に改められました。小児科研究会の発足から数えますと、およそ130年の歴史をもつ伝統ある本学会において、女性の会長は初めてでありますので、大変身に余る光栄であり、かつその重責に身が引き締まる思いです。伝統の中にもリベラルが共存する大変素晴らしい環境を築き上げてくださいました偉大な先輩方、会員の皆様方に心より感謝申し上げます。
日本小児科学会の目指すものは、定款を紐解きますと、小児科学に関する研究と小児医療との進歩、発展をはかるとともに会員相互の交流を促進し、小児医療の充実、子どもの健康、人権および福祉の向上、さらにこれらを社会へ普及啓発すること、と記載されております。このミッションを果たすためには、こどもたち、日本小児科学会、小児医療を取り巻く社会環境の課題を解決することが急務と考えます。
まずこどもたちを取り巻く環境の課題として第一にあげられるのは、少子化の進行です。2023年には出生数75万人台と過去最低の数字が示されました。その一方で、生命を脅かすような重大ないじめや児童虐待件数は増加傾向にあり、それに呼応するように小・中・高生の自殺者も年々増加傾向にあります。つまり生まれるこどもは少なくなる一方で、こどもの生命の危険は高まっている状況となっています。そんな中、2018年には成育基本法が成立し、また2023年には、こどもが真ん中の社会を実現するためにこども家庭庁が発足しました。この環境の変化を受けて、私ども小児科医は、行政とも連携し、生まれたこどもを失わない、心身ともに健やかな成長を支援する必要があります。1か月児と5歳児の健康診査支援事業の推進は、こどもの健康を守るためには大きな加点になるものと期待されますが、思春期以降の青少年に対する健康管理も重要な課題と考えます。
次に小児医療を取り巻く環境の特徴として、疾患構造の変化が挙げられます。Common Diseaseが減少する中で難病のキャリアや超低出生体重児が増加し、複雑かつ濃厚なケアが必要な医療的ケア児が増加しております。さらに最近、医薬品の供給不安、診療報酬改定、ドラッグラグの問題といった新たな課題も浮かび上がっています。これらの課題解決に向けて、地域の小児医療提供体制の維持と均てん化、またアクセス性の向上や療育環境の更なる整備が求められると思います。一方、小児科医を取り巻く社会環境における最近の大きな変化としては、2018年から開始された新専門医制度、それから今年の4月にいよいよ開始された医師の働き方改革が挙げられます。さらにNature誌でも取り上げられましたが、現在、日本の研究力の低下が深刻な問題となっております。また他方、小児科専攻医のうち女性の割合は概ね40 %程度が継続しておりますが、国試合格者の中で女性は30 %程度なので、小児科は女性医師の割合が多い診療科といえます。そこで、次世代を担う若手小児科医の確保・育成、ダイバシティ―の推進、研究力の促進が今後の重要な課題と考えられます。
次に小児医療を取り巻く環境の特徴として、疾患構造の変化が挙げられます。Common Diseaseが減少する中で難病のキャリアや超低出生体重児が増加し、複雑かつ濃厚なケアが必要な医療的ケア児が増加しております。さらに最近、医薬品の供給不安、診療報酬改定、ドラッグラグの問題といった新たな課題も浮かび上がっています。これらの課題解決に向けて、地域の小児医療提供体制の維持と均てん化、またアクセス性の向上や療育環境の更なる整備が求められると思います。一方、小児科医を取り巻く社会環境における最近の大きな変化としては、2018年から開始された新専門医制度、それから今年の4月にいよいよ開始された医師の働き方改革が挙げられます。さらにNature誌でも取り上げられましたが、現在、日本の研究力の低下が深刻な問題となっております。また他方、小児科専攻医のうち女性の割合は概ね40 %程度が継続しておりますが、国試合格者の中で女性は30 %程度なので、小児科は女性医師の割合が多い診療科といえます。そこで、次世代を担う若手小児科医の確保・育成、ダイバシティ―の推進、研究力の促進が今後の重要な課題と考えられます。
私は、本学会会長として、これらの課題解決のために、次の5つの挑戦に取り組みたいと考えております。まず、第一の挑戦として小児医療提供体制の更なる充足と質の均てん化(オンライン診療やこども・青年のメンタルヘルスケアの推進)を進めます。第二の挑戦として、次世代を担う若手医師の育成(サブスペシャルティ専門医制度の整備構築、適切なキャリア支援)、第三の挑戦として、ダイバシティーの推進(女性・若手医師の業務環境の整備、働き方改革の適切な対応)に取り組みます。第四の挑戦として、小児医療の研究とイノベーションの推進(リサーチマインド、国際化の推進)、また第五の挑戦として機動力と発信力のある学会・理事会運営(委員会活動の活性化、理事会の効率化、行政との連携)に臨みます。
そして、これらの挑戦を成し遂げた先に全てのこどもたちと次世代の小児科医に輝かしい未来と夢を届けるフロントランナーとして、お役に立ち続けたいと願っております。
今後ともどうかよろしくご支援、ご指導のほど、よろしくお願い申し上げます。

