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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:25.11.25)

第129巻 第11号/令和7年11月1日
Vol.129, No.11, November 2025

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第128回日本小児科学会学術集会
  教育講演

小児科医なら知っておきたいDCD(発達性協調運動症)の理解と支援

宮地 泰士  1311
原著総説

シトリン欠損症の病態および治療

早坂 清  1318
原  著
1.

心臓手術後5年以上経過した18トリソミーにおける心臓関連死

大崎 薫,他  1329
2.

6歳未満児の軽症頭部外傷に対するCT検査数と実施理由のリアルワールドデータ解析

下川 尚子,他  1342
症例報告
1.

デクスメデトミジン鎮静後に意識障害を伴う急激な徐脈を生じ遷延した小児例

横関 紗帆,他  1353
2.

中枢性睡眠時無呼吸を契機に診断に至った前駆B細胞性急性リンパ性白血病中枢神経再発

伏見 由季,他  1358
論  策

都道府県別にみた死因別小児死亡率の地域間格差

國吉 保孝  1364

地方会抄録(秋田・奈良・香川・静岡・福岡・北海道・宮城・富山)

  1372

日本小児科学会理事会議事要録

  1405
日本小児科学会ダイバーシティ・キャリア形成委員会報告
  リレーコラム キャリアの積み方─私の場合51

世界の小児科医とともに

  1409

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2025年67巻9月掲載分目次

  1411
令和7年度公益財団法人小児医学研究振興財団

研究助成事業のお知らせ

  1414


【原著総説】
■題名
シトリン欠損症の病態および治療
■著者
山形大学小児科学教室
早坂 清

■キーワード
シトリン欠損症, 新生児肝内胆汁うっ滞症, 成人発症2型シトルリン血症, 中鎖脂肪酸トリグリセリド
■要旨
 シトリン欠損症はSLC25A13変異による遺伝性疾患で,新生児肝内胆汁うっ滞症(NICCD),発育不全と脂質異常症(FTDCD),成人発症2型シトルリン血症(CTLN2)を発症する.シトリンは,主に肝に発現するアスパラギン酸―グルタミン酸輸送体であり,リンゴ酸―アスパラギン酸シャトルを構成する.シトリン欠損症の肝細胞では,一次的に解糖系,二次的にクエン酸回路と脂肪合成が障害される.PPARα活性も低下し,β-酸化も障害される.肝細胞はグルコースと遊離脂肪酸を利用できず,エネルギーの欠乏に陥る.エネルギー欠乏および酸化/小胞体ストレスにより肝障害が進行し,アンモニア処理機構も障害され,不可逆的な肝障害を惹起する.中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)補充療法は,肝細胞にエネルギーを供給し,脂肪合成を促進するとともに,リンゴ酸―クエン酸シャトルを介してレドックスバランスを改善し,細胞質のアスパラギン酸の合成を促す効果的な治療法である.しかし,糖新生の改善は期待されず,低血糖,成長障害,CTLN2発症などの不可逆的な障害を予防するために,必要量の炭水化物を含む食事とMCTの迅速かつ継続的な投与が推奨される.グリセオール輸液は禁忌であるが,高濃度の糖(中心静脈栄養を含む)は,高血糖を避ければ安全に投与出来る.糖尿病の合併例では,インスリンによる血糖コントロールが不可欠である.


【原著】
■題名
心臓手術後5年以上経過した18トリソミーにおける心臓関連死
■著者
JA尾道総合病院小児科1),あかね会土谷総合病院小児科2),広島中央通りこどもクリニック3),あかね会土谷総合病院心臓血管外科4)
大崎 薫1)2)  田原 昌博3)  水戸川 昂樹2)  森田 理沙2)  浦山 耕太郎2)  山田 和紀4)

■キーワード
18トリソミー, 先天性心疾患, 心内修復術, 肺動脈絞扼術, 肺高血圧
■要旨
 18トリソミーの先天性心疾患への心臓手術により短期予後の改善が報告されてきた.さらに,心内修復術の報告も増えてきている.当院で心臓手術を行い5年以上経過した18トリソミーの臨床像を検討し,心内修復術の適応条件について検討した.
 2009年4月〜2019年3月に高肺血流性心疾患のため心臓手術(姑息術:肺動脈絞扼術)を行った18トリソミー34例を5年以上生存(A群13例)と5年未満死亡(D群21例),D群を心臓関連死(DC群10例),非心臓関連死(DN群11例)に分類し後方視的検討を行った.
 心臓術後の生存退院94%,生存期間中央値37.5か月であった.A群とD群の在胎週数,出生体重中央値は39週と37週(p<0.05),1,954 gと1,746 g(p<0.05),0〜1歳の体重増加中央値は+178.8 g/月と+121.9 g/月であった.DC群,DN群,A群+DN群の肺体血圧比中央値は術前1.00,0.74,0.81と術後0.51,0.38,0.38であった.肺生検組織ではHE分類Grade3以上が,DC群50%,DN群11%,A群+DN群10%であった.
 高肺血流性心疾患を合併する18トリソミーにおいて,姑息術後に体重増加不良や遺残肺高血圧を認める症例に対する心内修復術の適応は,より慎重に判断するべきである.


【原著】
■題名
6歳未満児の軽症頭部外傷に対するCT検査数と実施理由のリアルワールドデータ解析
■著者
久留米大学医学部脳神経外科学講座1),久留米大学バイオ統計センター2)
下川 尚子1)  室谷 健太2)  五百路 徹也2)  森岡 基浩1)

■キーワード
小児, 頭部外傷, 軽症, CT検査, リアルワールドデータ
■要旨
 【目的】日本において小児軽症頭部外傷に対して実施されたCT検査数とその検査理由を明らかにする.
 【対象と方法】2022年4月〜2023年3月の社会保険診療報酬支払基金の外来レセプトを対象として6歳未満児の頭部外傷に対して実施されたCT検査数と検査理由を調べ,それらと関連しているかについて4つの因子(患者の性別・年齢や受診した医療機関の規模・都道府県)を検討した.
 【結果】日本全国で6歳未満児の軽症頭部外傷に実施されたCT検査は年間15,066件で,その検査理由の10,000件(66.7%)は「家族等の希望」であった.「家族等の希望」で実施されたCT検査は年長児ほど多く,医療機関規模が大きくなるほど減少した.1県あたりのCT検査数が多いほど「家族等の希望」で実施される検査が増える正の相関関係がみられた.
 【考察】日本では「家族等の希望」を理由として実施されるCT検査が非常に多かった.医療被ばくを低減するためには診断アルゴリズムの活用を更に推奨しなければならない.小児軽症頭部外傷はクリニックから大病院などさまざまな医療機関で診察されていたので,診断アルゴリズム推奨の情報は多方面に発信する必要がある.
 【結論】日本では小児軽症頭部外傷に対して本来の必要性より「家族等の希望」でかなり多くのCT検査が行われる実態があり,医療放射線被ばく量軽減の観点からも適切なCT検査の実施になるように更なる対策が求められる.


【症例報告】
■題名
デクスメデトミジン鎮静後に意識障害を伴う急激な徐脈を生じ遷延した小児例
■著者
芳賀赤十字病院小児科1),自治医科大学小児科2)
横関 紗帆1)2)  齋藤 真理1)  菊池 豊1)  橋本 佑介1)  福田 真也1)2)  神田 藍1)2)  霜田 かれん1)2)  檜波田 真実1)2)  保科 優1)

■キーワード
デクスメデトミジン, 徐脈, 房室ブロック, 小児
■要旨
 デクスメデトミジンは中枢性α2アドレナリン受容体作動薬であり,小児の非挿管での検査時鎮静に対する適応が追加されたことで,麻酔・鎮静管理を専門としない小児科医の使用機会が増加すると予想される.今回,9歳男児にデクスメデトミジン鎮静下に脳波検査を施行し,デクスメデトミジン終了後に覚醒して歩行・排尿したところ,意識障害を伴う急激な心拍数減少と2度房室ブロックを伴って遷延する徐脈を認めた.これらの症状に,デクスメデトミジンの交感神経抑制作用や心伝導抑制作用が影響した可能性が考えられ,アトロピン硫酸塩水和物を静注して徐脈は改善した.デクスメデトミジンには,低濃度でも交感神経抑制作用を生ずる可能性やクリアランスが低下する状況では血中濃度の低下が遅延する可能性が考えられるため,患者が鎮静から覚醒した後も,患者の活動性を上げて十分に評価することが重要である.


【症例報告】
■題名
中枢性睡眠時無呼吸を契機に診断に至った前駆B細胞性急性リンパ性白血病中枢神経再発
■著者
神奈川県立こども医療センター血液・腫瘍科1),同 総合診療科2),国立成育医療研究センター小児がんセンター小児がん免疫診断科3)
伏見 由季1)2)  宮川 直将1)  廣田 恵璃1)  浅井 和暉1)  林 亜揮子1)  慶野 大1)  横須賀 とも子1)  浜之上 聡1)  岩崎 史記1)  後藤 裕明1)  田上 幸治2)  出口 隆生3)  柳町 昌克1)

■キーワード
中枢性睡眠時無呼吸, 急性リンパ性白血病, 中枢神経再発, 腫瘍性髄膜炎, 全頭蓋放射線照射
■要旨
 睡眠時無呼吸は呼吸中枢の異常による中枢性,気道の物理的な閉塞による閉塞性に分類される.新生児・乳児期には中枢性が多く,幼児期以降は閉塞性が大部分を占めるようになるが,基礎疾患を有する場合には中枢性睡眠時無呼吸を起こすことが知られている.今回,中枢性睡眠時無呼吸を契機として前駆B細胞性急性リンパ性白血病(BCP-ALL)の中枢神経再発の診断に至った幼児の1例を経験した.症例はBCP-ALLに対して同種造血細胞移植を行った6歳男児で,頭痛,嘔吐,睡眠時無呼吸を主訴に当院を受診した.中枢性睡眠時無呼吸の診断基準を満たし,白血病特異的な精査を行う中で髄液検査よりBCP-ALLの中枢神経再発と診断した.1週間毎に髄腔内化学療法を行い,髄液検査所見の改善に合わせて睡眠時無呼吸も軽快した.中枢性睡眠時無呼吸はBCP-ALLの中枢神経再発が原因と考えられ,白血病患者において中枢性睡眠時無呼吸を認めた場合の鑑別として中枢神経再発を考慮すべきである.


【論策】
■題名
都道府県別にみた死因別小児死亡率の地域間格差
■著者
国際医療福祉大学医療福祉・マネジメント学科
國吉 保孝

■キーワード
医療計画, 自殺, 人口動態統計, 新生物, 不慮の事故
■要旨
 【背景】小児医療政策において,死亡率低減は重要な政策目標である.しかし,現状の医療計画では死亡率の数値目標を設定しているものの,地域特性を考慮した具体的な介入戦略の提示は限定的である.本研究は,2015年から2023年までの公的統計データを用い,都道府県別の小児(0〜14歳)および乳幼児(0〜4歳)における死因別死亡率を分析し,地域間格差の実態を明らかにすることを目的とした.
 【方法】人口動態統計月報年計(概数)および人口推計を用い,全死因,新生物,不慮の事故,自殺による死亡率を都道府県別に算出した.各死亡率は9年間の死因別死亡数合計を同期間の各年齢階級別人口の合計で除し,95%信頼区間を算出した.
 【結果】小児の全死因による死亡率は,全国平均で人口10万対20.0人(95%信頼区間:19.8人〜20.2人),都道府県間で最大1.4倍(最大値24.0人vs最小値16.9人)の格差を認めた.新生物では2.6倍(最大値2.6人vs最小値1.0人),不慮の事故では4.7倍(最大値3.3人vs最小値0.7人),自殺では3.7倍(最大値1.1人vs最小値0.3人)の地域間格差が確認された.乳幼児においても同様の傾向を認めた.
 【結論】小児・乳幼児の死亡率には地域差が存在し,新生物,不慮の事故,自殺のいずれにおいても,都道府県間で格差が認められた.

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