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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:25.10.20)

第129巻 第10号/令和7年10月1日
Vol.129, No.10, October 2025

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第128回日本小児科学会学術集会
  教育講演

小児心疾患における運動制限と運動療法

豊野 学朋  1223
原  著
1.

日本の単施設で診断されたサラセミア症例の臨床経過と診断的課題

加藤 優,他  1234
2.

当院における小児肥満に対する入院治療効果

牧村 美佳,他  1244
症例報告
1.

くる病を契機に診断した高カルシウム尿症と腎石灰化を伴う家族性低マグネシウム血症

安藤 拓摩,他  1253
2.

精巣摘出を要した緑膿菌による小児精巣膿瘍

永野 遥希,他  1260
論  策

日本における離乳食・補完食指導の現状

早田 茉莉,他  1266

地方会抄録(千葉・山形・新潟・京都・鳥取・長野・熊本・北陸・福井)

  1276
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 150 点鼻薬による急性薬物中毒の疑い(同)

  1303

No. 151 スーパーマンチャレンジによる外傷性脳損傷(同)

  1305

Follow-up報告 No. 17

  1308

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2025年67巻8月掲載分目次

  1309


【原著】
■題名
日本の単施設で診断されたサラセミア症例の臨床経過と診断的課題
■著者
埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科
加藤 優  荒川 ゆうき  高田 啓志  水島 喜隆  稲嶺 樹  本田 護  上月 景弘  三谷 友一  森 麻希子  福岡 講平  大嶋 宏一  康 勝好

■キーワード
サラセミア, 血色素異常症検査, Mentzer index
■要旨
 【背景】国際化が進み,特に中国や東南アジア出身者の移住者増加に伴い,日本国内においてもサラセミアを疑う症例が増えているが,本邦における明確な診療指針はない.
 【目的】サラセミアを疑った症例の最終診断と臨床経過を検討し,診断方法やフォローアップにおける課題を明らかにする.
 【方法】当センターでサラセミアを疑い,血色素異常症検査を依頼した症例を対象とし,検査結果,臨床背景,診断後の経過を検討した.
 【結果】血色素異常症検査を提出した症例は,2013年4月から2024年3月の12年間で全23例,そのうち遺伝子検査で確定診断したのは16例であり,そのうちαサラセミア5例,βサラセミア11例で,うち2例はαサラセミアとβサラセミアの合併例であった.サラセミアと診断した症例(n = 16)の年齢中央値は4歳であった.サラセミアと診断した症例では重症型以外はRBC数が多く,MCVやT-Bilが低く,Mentzer Index(MI)が低かった.また,血縁者に外国人がいるケースが多かった.
 【結語】軽症型・無症候型であっても,遺伝カウンセリングの意義の周知を含めて,サラセミアの診断と疾患教育は重要である.人種や言語の壁が対応を困難にしている現状が課題であり,サラセミアを診断するための検査の保険収載と,診断からフォローアップまでの一貫した体制の強化が望まれる.


【原著】
■題名
当院における小児肥満に対する入院治療効果
■著者
福岡市立病院機構福岡市立こども病院内分泌・代謝科
牧村 美佳  古園 美和  都 研一

■キーワード
小児肥満症, 単純性肥満(原発性肥満), 入院治療
■要旨
 本研究では,当院における小児肥満に対する入院治療の有効性を評価した.2014年11月から2021年12月の間に単純性肥満で入院した6〜16歳の小児34名,のべ38症例を後ろ向きに解析した.入院時から退院1年後までの肥満度,臨床検査値の変化,ならびに背景因子(不登校,肥満の家族歴,ひとり親家庭)の影響を検討した.入院時の平均年齢は12歳で,平均入院期間は21日間であった.不登校は患者の26%に見られ,80%に肥満の家族歴があった.肥満度の中央値は,入院時56.9%から退院時51.2%へと有意に低下し,背景因子の有無による入院中の治療効果の差はなかった.脂質および糖代謝に関する指標にも退院時に有意な改善が見られ,総コレステロールおよびnon-HDLコレステロールの値は退院1年後にも改善が持続していた.肝機能についても,退院1年後に有意な改善が見られた.注目すべき点として,退院後1か月以内に肥満度が増加した患者では,その傾向が長期的にも維持される傾向があり,早期の肥満度変化が長期予後の予測因子となる可能性が示唆された.結論として,当院の入院治療は肥満の重症度を軽減し,代謝指標を改善するうえで有効であることが多くの症例で示された.しかし,不登校や肥満の家族歴を持つ小児では,退院後の肥満度再増加のリスクが高いため,これらの集団に対しては退院後のフォローアップを強化する必要がある.


【症例報告】
■題名
くる病を契機に診断した高カルシウム尿症と腎石灰化を伴う家族性低マグネシウム血症
■著者
江南厚生病院こども医療センター1),藤田医科大学医学部小児科学2),神戸大学大学院医学研究科内科学系講座小児科学分野3)
安藤 拓摩1)2)  後藤 研誠1)  池住 洋平2)  野津 寛大3)  高尾 洋輝1)2)  竹本 康二1)  西村 直子1)  尾崎 隆男1)

■キーワード
高カルシウム尿症と腎石灰化を伴う家族性低マグネシウム血症(FHHNC), くる病, ビタミンD欠乏, 高カルシウム尿症, 遺伝性低マグネシウム血症
■要旨
 高カルシウム尿症と腎石灰化を伴う家族性低マグネシウム血症(familial hypomagnesaemia with hypercalciuria and nephrocalcinosis:FHHNC)は,低Mg血症をきたす極めて稀な常染色体潜性遺伝疾患である.症例は2歳女児.家族歴なし.熱性けいれんで入院した際に低身長,内反膝,低Ca血症,高ALP血症,肋骨念珠,骨幹端の杯状陥凹がみられ,くる病の病因検索を行った.25(OH)D低値,intact PTH高値であったが,低Mg血症,高Mg尿症,高Ca尿症,両腎石灰化を認めた.血液pHや他の血中電解質は正常であった.遺伝学的検査によりCLDN16遺伝子の複合ヘテロ接合性変異に伴うFHHNCと確定診断した.
 硫酸マグネシウム,サイアザイド系利尿剤,活性型ビタミンDを開始し,くる病所見・低Ca血症は消失し,成長障害も改善した.しかし6歳現在,高Mg尿症と高Ca尿症は持続しており,腎機能障害の緩徐な進行がみられている.
 本症例の診断の契機となった低Ca血症・くる病所見は,FHHNCによるintact PTH上昇と潜在的なビタミンD欠乏が複合的に関与したものと考えられた.小児期に低Ca血症やくる病所見を認める場合,ビタミンD欠乏性くる病確定診断例であっても本疾患を鑑別に挙げて腎石灰化や低Mg血症について検索する必要がある.


【症例報告】
■題名
精巣摘出を要した緑膿菌による小児精巣膿瘍
■著者
熊本赤十字病院小児科1),同 小児腎臓科2),東京女子医科大学腎臓小児科3),熊本赤十字病院小児外科4)
永野 遥希1)  伴 英樹2)3)  古瀬 昭夫1)  吉元 和彦4)  平井 克樹1)

■キーワード
精巣上体炎・精巣炎, 精巣膿瘍, 緑膿菌
■要旨
 精巣上体炎は一般的な小児の急性陰嚢疾患で,内科的治療で治癒する予後良好な疾患である.緑膿菌による精巣上体炎は成人患者で一部報告されているが,小児の報告例は乏しい.症例は生来健康な11歳男児.発熱,右陰嚢腫大・陰嚢痛を認め,超音波検査で精巣上体炎・精巣炎と診断した.一部は精巣膿瘍に至っていた.尿培養,血液培養から緑膿菌を同定し,入院翌日に経験的治療であるセフメタゾール,アンピシリンからセフタジジムへ変更した.その後も局所症状の改善に乏しく右精巣摘出術を行った.術後経過は良く,手術2日後に退院とした.緑膿菌による精巣上体炎・精巣炎の既報と自験例を含めた19例の検討では47%が精巣摘出に至っていた.さらに,急性呼吸窮迫症候群の合併例や敗血症性ショックによる死亡例がみられた.自験例は尿培養,血液培養から緑膿菌を同定し適切な抗菌薬を選択することができたが,精巣上体炎・精巣炎,精巣膿瘍で,尿培養が陰性の割合は約30%と報告されており,起炎菌の同定に難渋する疾患である.19例の検討では42%が局所の膿培養の検査を行うまで緑膿菌の同定に至っていない.
 精巣上体炎・精巣炎は一般的に予後良好であるが,緑膿菌による重症例や精巣摘出例が存在する.尿培養や血液培養で起炎菌を同定し適切な抗菌薬を選択することが重要である.また,尿培養は陰性で局所の培養でのみ同定できる症例も存在するため注意を要する.


【論策】
■題名
日本における離乳食・補完食指導の現状
■著者
川口市立医療センター新生児集中治療科1),東京北医療センター小児科2)
早田 茉莉1)  市川 知則1)  奥 起久子1)2)

■キーワード
離乳食, 補完食, 栄養指導, 低栄養, 10倍粥
■要旨
 厚生労働省の「授乳離乳の支援ガイド」は世界保健機関(WHO),米国小児科学会,欧州小児消化器肝臓栄養学会など諸外国の指針と内容が異なる.全国の自治体へアンケートを行い,現在の日本の指導の現状と各指針の比較検討を行った.
 保健指導を行う1,939自治体に2023年6〜7月に指導に関する質問を送付し回答を解析した.全体の回答率は40.1%,人口30万人以上の自治体では63.6%であった.81.4%で5〜6か月で離乳食開始,91.1%で10倍粥で開始,98.0%で1回食から開始,91.7%でお粥→野菜→タンパク質と順に導入,16.7%の自治体でフォローアップミルクを離乳食に使用,46.3%で母乳を1歳半でやめる方向性で指導,母乳をいつまで飲んでもよいと指導する自治体は9.9%であった.日本の離乳食指導は諸外国のみならず厚生労働省の推奨と比して開始時の栄養価が低く,諸外国の推奨より進行が遅い可能性があった.一方で乳汁摂取の中止は早く,離乳食の時期の栄養摂取量が少ないと考えられた.日本の成長曲線はWHOの曲線と比べ,6か月から3歳の身長体重,BMIが低く,その一因である可能性もある.現状の離乳食の栄養摂取量が少ない可能性,そのことが成長に影響している可能性があると考えられた.厚生労働省のガイドを医学的根拠に基づくガイドラインにアップデートし,自治体のマニュアルを見直す必要があると思われた.

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