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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:25.8.20)

第129巻 第8号/令和7年8月1日
Vol.129, No.8, August 2025

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日本小児臨床薬理学会推薦総説

OTC医薬品の過剰摂取(オーバードーズ)問題に小児科医はどう向き合うか

石崎 優子  999
原  著
1.

学齢期に診断された心筋症症例における致死性不整脈の発生状況

山田 拓人,他  1005
2.

意図的過量服薬症例に対する「子どもの強さと困難さアンケート」による評価

志村 紀彰,他  1012
3.

IgE依存性食物アレルギーを有する医療的ケア児の症例集積報告

鈴木 大地,他  1020
症例報告
1.

後方循環系に脳梗塞を繰り返し,Bow hunter症候群と診断した6歳児

野田 絵理香,他  1028
2.

Streptococcus agalactiaeによる間擦疹の新生児例

渡邊 啓夢,他  1035
3.

医療同意をする親族不在のため倫理委員会で手術を決定した重症心身障害者

山倉 慎二  1040
短  報

国内多施設蘇生レジストリからみた院内心肺蘇生事象におけるアドレナリン使用の実態

宮原 瑤子,他  1045
論  策

「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」からみた児童労働問題

武内 一  1049

地方会抄録(東海・大分・岡山・島根・香川・鹿児島・福岡・山陰)

  1058
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 148 幼児用座席乗車中の自転車転倒による頭蓋内損傷

  1086

日本小児科学会理事会議事要録

  1091

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2025年67巻6月掲載分目次

  1099

日本小児科学会分科会一覧

  1102

日本小児科学会分科会活動状況

  1103


【原著】
■題名
学齢期に診断された心筋症症例における致死性不整脈の発生状況
■著者
東京科学大学病院小児科1),土浦協同病院小児科2),東京科学大学茨城県小児・周産期地域医療学講座3),武蔵野赤十字病院小児科4)
山田 拓人1)2)  石井 卓3)  山口 洋平1)  細川 奨1)4)

■キーワード
若年者, 突然死, 心筋症, 致死性不整脈, 植え込み型除細動器
■要旨
 小児期発症の心筋症症例で致死性不整脈の発生頻度が高いことは知られているが不整脈発生時の年齢,治療状況,発生場所,具体的な状況などを詳細に検討した報告は少ない.今回15歳未満で心筋症と診断され致死性不整脈を経験した4症例を報告する.症例は肥大型心筋症3例,不整脈源性右室心筋症1例で診断時年齢は6.6歳〜14.6歳,初回の致死性不整脈発生時年齢は12.7〜14.6歳であった.初回致死性不整脈の誘因は全例学校内での運動で,全例蘇生後に植え込み型除細動器が留置された.4例中2例は致死性不整脈を契機に心筋症と診断された.3.0年〜11.9年の観察期間内で全例適切作動を経験(のべ9回)した.作動の原因となった不整脈の誘因は指示を超える運動2例,指示内の軽い運動3例,日常生活内の軽労作5例,安静時1例であった.のべ13回の致死性不整脈のうち8回は学校内で生じており,14歳前後での発生頻度が特に高かった.作動ごとに内服治療は強化されたが,全例が2剤併用下でも適切作動を経験していた.2例でAmiodaronを投与されており,Amiodaron投与下での症状を伴う心室性不整脈は見られなかった.若年発症の心筋症における致死性不整脈は厳格な服薬管理や運動制限のみで発生を完全に予防することは難しい.不整脈発生に備え,単独行動を避ける,周囲の人間が蘇生時の行動を習熟するなど日常的なリスク管理も重要と考えられた.


【原著】
■題名
意図的過量服薬症例に対する「子どもの強さと困難さアンケート」による評価
■著者
藤沢市民病院小児救急科1),同 小児科2)
志村 紀彰1)  福島 亮介1)  佐近 琢磨2)

■キーワード
オーバードーズ, 過量服薬, 子どもの強さと困難さアンケート, 小児, 薬物乱用
■要旨
 【目的】メンタルヘルスの悪化が問題視される中,意図的過量服薬する児が増加している.「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)」が意図的過量服薬症例において評価可能であるか,後方視的研究を行った.
 【方法】2024年1月から3月に当院に受診あるいは入院した11歳以上15歳以下の児で,かつSDQに回答のあった症例を対象にした.意図的過量服薬群(OD群)とその他のコントロール群の2群に分け,背景及びSDQスコア(総合的困難さ:TDS,行動・情動調節障害の評価:SDQ-DP,及びその下位尺度)を比較した.
 【結果】OD群は6例(女児が5例),コントロール群は46例(女児が27例)で,年齢中央値はそれぞれ14.5歳,13歳であった.SDQスコアについては,TDSはOD群19.5,コントロール群11で,SDQ-DPはOD群4,コントロール群2と両スコアともに有意差を認めた.SDQ-DPの下位尺度は,情緒の問題と多動/不注意で高い傾向であった.年齢と性別を調整した重回帰分析において,TDS,SDQ-DPはともに2群間に有意差を認めた.
 【結語】意図的過量服薬症例はTDSやSDQ-DPが高値となる可能性がある.特に,重度の気分[感情]障害を有する症例に多動傾向がある場合に意図的過量服薬に至るリスクが高くなる可能性あり,そのような症例のスクリーニングにSDQは有用である可能性が示された.


【原著】
■題名
IgE依存性食物アレルギーを有する医療的ケア児の症例集積報告
■著者
国立成育医療研究センターアレルギーセンター総合アレルギー科1),同 総合診療部在宅診療科2)
鈴木 大地1)  佐藤 未織1)  平井 聖子1)  豊國 賢治1)  山本 貴和子1)  福家 辰樹1)  中村 知夫2)  大矢 幸弘1)

■キーワード
医療的ケア児, IgE依存性食物アレルギー, 食物経口負荷試験, 症例集積
■要旨
 医療的ケア児は原疾患が多様かつ多数の病態が併存していることが多く,意思疎通や症状出現時の訴えが困難である場合もあり,正確に状態を評価・判断することが困難な症例も経験される.これまで医療的ケア児におけるIgE依存性食物アレルギーの原因食物,重症度,食物経口負荷試験の実施状況,治療経過をまとめた症例集積報告はなく,本研究では当院における医療的ケア児のIgE依存性食物アレルギーに関する診療情報を後方視的に収集し,解析を実施した.
 IgE依存性食物アレルギーと診断または疑われた医療的ケア児は48名であり,うち24名に対し延べ54件の食物負荷試験(経口,経管)が実施された.鶏卵と牛乳は,全負荷試験の負荷食物の約6割を占めた.食物負荷試験結果は,陽性18件(33%),陰性32件(59%),判定保留4件(7%)であった.誘発症状は,皮膚症状が9件(陽性18件に対して50%)で最も多く,消化器症状7件(同39%),口腔粘膜症状5件(同28%)と続いた.神経症状,循環器症状はいずれも1件で,アナフィラキシーの症例であった.陽性18件に対して無治療で症状消失したものが15件あった.医療的ケア児であっても,安全摂取量の評価を目的とした負荷量を設定することで,多くがIgE依存性食物アレルギーに対して食物負荷試験を安全に実施でき,適切な診断に基づき安全な範囲の摂取を行うことは可能と考えられた.


【症例報告】
■題名
後方循環系に脳梗塞を繰り返し,Bow hunter症候群と診断した6歳児
■著者
大阪赤十字病院小児科1),同 放射線診断科2),同 脳神経内科3),同 脳神経外科4),奈良県立医科大学附属病院脳神経外科5)
野田 絵理香1)  天満 祐貴1)  難波 かほり1)  森 暢幸2)  武信 洋平3)  橋本 憲司4)  松岡 龍太5)  竹島 靖浩5)  藤野 寿典1)

■キーワード
Bow Hunter症候群, 脳梗塞, 椎骨動脈解離, 小脳梗塞, 頸部超音波検査
■要旨
 小児期の脳梗塞は稀で原因として心疾患や脳血管形成異常,血栓性素因,代謝異常症等様々な原因が挙げられる.今回,後方循環系に脳梗塞を繰り返し,脳梗塞の原因がBow hunter症候群であった6歳男児を経験したため報告する.患児は生来健康で,ふらつき,歩行障害を主訴に当院を来院した.頭部MRI検査にて,両側小脳梗塞と診断し,抗凝固療法を開始した.症状は改善し,新規症状の出現はなかったが,入院6日目に撮像した頭部MRIにて左後頭葉の新規脳梗塞と左椎骨動脈内に血栓を認めた.頸部超音波検査を施行した結果,頸部右回旋により左側の椎骨動脈の流速が低下しており,Bow hunter症候群と診断した.動脈内血栓増大や飛散のリスクを考慮した上で頸部回旋制限,抗血小板薬内服,抗凝固薬内服を開始した.以降新規脳梗塞は認めず,左椎骨動脈内の血栓は抗凝固薬開始2か月後消失し,再発予防のために脊椎固定術を施行した.小児期において後方循環系に脳梗塞をきたした場合は,スクリーニング検査として頸部超音波検査による評価が簡便かつ有用である.


【症例報告】
■題名
Streptococcus agalactiaeによる間擦疹の新生児例
■著者
宮崎県立宮崎病院小児科1),国立感染症研究所薬剤耐性研究センター第7室2)
渡邊 啓夢1)  石井 茂樹1)  興梠 智子1)  山村 佳子1)  大平 智子1)  中谷 圭吾1)  中野 哲志2)

■キーワード
B群溶血性レンサ球菌, Streptococcus agalactiae, 間擦疹, 蜂窩織炎, ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群
■要旨
 間擦疹とは,頸部や腋窩,鼠径部など皮膚面が接触する間擦部に生じる表在性皮膚炎であり,同部位に二次性の細菌感染を生じる場合がある.症例は日齢11の女児.両腋窩に発赤,びらんを認めたため近医を受診し,ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群を疑われ当院へ紹介された.間擦部に限局性に生じた,浸出液を伴う境界明瞭な皮疹という特徴から間擦疹を疑った.しかし日齢11の新生児であり,蜂窩織炎の可能性も考慮し,入院管理とした.経静脈的な抗菌薬投与を開始し,速やかに皮疹は改善し,全身状態の悪化なども認めなかった.後日,入院時の皮膚培養検査でB群溶血性レンサ球菌(Group B Streptococcus:GBS)が検出され,臨床経過と合わせて同菌を起因菌と判断した.
 間擦疹の起因菌としてカンジダやA群溶血性レンサ球菌の報告は散見されるが,GBSによる間擦疹の報告はない.通常,間擦疹は表在性の皮膚感染症であり,全身症状を伴わない予後良好な皮膚炎である.幸い本症例の経過は良好だったが,低月齢児のGBS感染症の一種であることは事実であり,GBSによる間擦疹の過去報告もないためどのような臨床経過を辿るかという予測が難しい.症例が蓄積されるまでは間擦疹であってもGBSを念頭においた慎重な対応が必要かもしれない.


【症例報告】
■題名
医療同意をする親族不在のため倫理委員会で手術を決定した重症心身障害者
■著者
つばさ静岡
山倉 慎二

■キーワード
重症心身障害児・者, 医療同意, 成年後見, 臨床倫理, 倫理委員会
■要旨
 両親兄弟のいない重症心身障害児者施設入所者の手術における医療同意を倫理委員会で決定した.決定に際しては,医師・看護師による4回にわたるカンファレンスによって現場スタッフの総意として手術を希望,手術の可否をA病院院長と同院泌尿器科科長に相談し,手術の許諾を得た上で倫理委員会を開催した.倫理委員会は当施設の管理職員の他,外部委員として,A病院名誉院長,当施設の顧問弁護士,特別支援学校校長,キリスト教会牧師,本例の成年後見人,A病院泌尿器科科長,本例の主担当看護師によって行った.協議の末,倫理委員会として手術の同意を得たため,後日手術を無事終えることができた.自己意思決定能力がなく,身寄りのない重症心身障害児者の侵襲的医療行為の医療同意に当たっては,関係者の話し合いにより患者にとっての最善を考えて意思決定を代行し,法律家を含めた倫理委員会に諮り,協議,了承することが望ましい.


【短報】
■題名
国内多施設蘇生レジストリからみた院内心肺蘇生事象におけるアドレナリン使用の実態
■著者
東京都立小児総合医療センター集中治療科1),国立成育医療研究センター手術・集中治療部2),聖マリアンナ医科大学小児科学3),同 小児科学小児集中治療4),横浜市立大学次世代臨床研究センター5),モントリオール大学Sainte Justine研究所6)
宮原 瑤子1)2)3)  本間 順1)  清水 直樹1)3)  中川 聡2)  川口 敦4)5)6)  Japan National Registry of Cardio-Pulmonary Resuscitation:J-NRCPR

■キーワード
院内心停止, 心肺蘇生, アドレナリン
■要旨
 小児の心肺蘇生事象に対する第一選択薬剤はアドレナリンであり,本邦においても広く使用されている.しかし,国内施設での使用実態に関するまとまった報告はない.小児院内心肺蘇生レジストリデータを用い,アドレナリン使用状況につき検討した.アドレナリン投与例の67%がPediatric advanced life support推奨に基づく適正量(0.01±0.005 mg/kg)であったが7%で過剰投与(0.1 mg/kg以上)がみられた.また,アドレナリン投与例のうち23%は,胸骨圧迫開始から初回投与までに6分以上,5%では20分以上を要していた.


【論策】
■題名
「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」からみた児童労働問題
■著者
佛教大学社会福祉学部1),ウメオ大学医学部疫学とグローバルヘルス科2)
武内 一1)2)

■キーワード
ヤングケアラー, 児童労働, 子どもの権利, 国際労働機関, 国際児童基金
■要旨
 2020年度及び2021年度実施の国による全国規模調査によって,ヤングケアラーの状況が明らかとなった.その結果から,就学している子ども若者の少なくとも60万人がヤングケアラーであると推計された.彼らは健康問題を抱え,学校生活上での不利益を実感しており,適切な支援を通じた子どもの権利侵害の解消が求められる.
 子どもたちは,家事のみならず,しばしば,感情面のサポートや金銭管理などを任されており,これらのすべてを児童労働の対象になりうる「無給の家事労働」と位置付けて論じる必要がある.国際児童基金及び国際労働機関の定義に従えば,15歳未満児による週21時間以上(1日3時間以上)の家族の世話は,児童労働に相当する.国の調査結果から,小学6年生から中学2年生までの少なくとも3万人が,児童労働にあたる家族ケアを行っていると推計した.
 国におけるヤングケアラーへの政策展開が動き出した.この点は,先進的に対策に取り組むイギリスに近づく前進だと評価したい.しかし,推計3万人が,本来子どもとして享受できる権利を侵害する児童労働に従事しているとの状況認識と,その改善のための政策が,ヤングケアラー支援策に求められる.
 継続的にヤングケアラーの実態把握を行うと共に,予算化された8事業の全国でのさらなる浸透を図り,過重労働を強いられている子どもと若者への的確な政策展開を期待したい.

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