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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:25.5.15)
第129巻 第5号/令和7年5月1日
Vol.129, No.5, May 2025
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日本小児アレルギー学会推薦総説 |
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最新のエビデンスに基づく小児アトピー性皮膚炎の治療戦略
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大矢 幸弘 643 |
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森田 英明,他 654 |
原 著 |
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酒井 秀政,他 661 |
症例報告 |
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河上 哲朗,他 668 |
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竹内 彩華,他 674 |
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佐藤 法子,他 680 |
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赤間 太郎,他 685 |
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安藤 博貴,他 692 |
論 策 |
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松下 享,他 699 |
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705 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報) |
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No. 147 ベッドインベッドの転覆による窒息(同)
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717 |
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722 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2025年67巻3月掲載分目次
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769 |
公益財団法人小児医学研究振興財団 |
令和6年度 研究助成事業・海外留学フェローシップ |
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771 |
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773 |
【原著】
■題名
アレルギー疾患の早期診断におけるBCG接種後のコッホ現象類似反応の有用性
■著者
静岡市立静岡病院小児科 酒井 秀政 五十嵐 健康
■キーワード
BCGワクチン, コッホ現象類似反応, アトピー性皮膚炎, 気管支喘息, 早期診断
■要旨
【背景】Bacille Calmette-Guerin(BCG)ワクチン接種後早期に接種部位腫脹を来すものの潜在性結核等が否定的と判断され,その後通常反応を来す児はコッホ現象類似反応と呼ばれるが,その意義は不明である.
【目的】コッホ現象類似反応を来した児とアレルギー疾患の発症のしやすさの関連を検討する.
【方法】2018年11月から2023年3月までの期間,当科でコッホ現象類似反応と判断された児(コッホ現象類似反応群)を対象とし,診療録を後方視的に参照し,各種アレルギー疾患の診断の有無とその他の背景因子等を集積し,同時期にBCG接種を受け,接種後反応で受診のなかった児(通常反応群)と比較検討する.
【結果】コッホ現象類似反応群は通常反応群に比し,アトピー性皮膚炎,食物アレルギー,気管支喘息と診断される率が有意に高かった.気管支喘息については,性別や家族のアレルギー歴を調整した回帰分析でオッズ比4.16と関連を認めた.アトピー性皮膚炎と食物アレルギーについては,家族のアレルギー歴と相加的に罹患リスクが高い傾向を認めた.
【結語】コッホ現象類似反応の児は,アレルギー疾患を念頭に診療することで,アレルギー疾患の早期診断・早期加療に繋げられる可能性がある.
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【症例報告】
■題名
外科的切除後も感覚障害を残した非外傷性骨化性筋炎
■著者
東京都立小児総合医療センター総合診療科1),同 整形外科2) 河上 哲朗1) 松島 崇浩1) 中村 俊貴1) 榊原 裕史1) 鈴木 知子1) 松岡 夏子2) 幡谷 浩史1)
■キーワード
有痛性腫瘤, 感覚障害, 骨化性筋炎, ユビキチン特異的ペプチダーゼ6遺伝子, 蛍光in situハイブリダイゼーション法
■要旨
【緒言】骨化性筋炎は異所性骨化と有痛性腫瘤を特徴とする稀な良性腫瘍である.一部の症例で神経血管障害を生じ悪性腫瘍との鑑別を要する.小児例の診断戦略は確立していない.【症例】生来健康な12歳男児.入院2か月前から右下腹部痛を自覚した.入院1か月前までに右股関節動作痛が増強し,入院1週間前に右上前腸骨棘近傍の有痛性腫瘤を生じ,徐々に増大したため精査目的に入院した.入院時診察では右股関節屈曲拘縮と右外側大腿皮神経領域の感覚障害がみられた.血液検査では炎症反応と神経特異エノラーゼ(NSE)の上昇があり,造影CT検査で右上前腸骨棘近傍に2.0×3.0 cmの楕円形腫瘤がみられた.腫瘤近傍の感覚障害とNSE上昇,腫瘤の増大傾向から神経侵襲を伴う悪性腫瘍との鑑別のために生検・切除術を行った.切除検体の病理像と蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法でユビキチン特異的ペプチダーゼ6(Ubiquitin-specific Peptidase 6: USP6)遺伝子再構成から骨化性筋炎と診断した.術後1週間で運動機能は回復したが,感覚障害は1年後も改善なく残存していた.【考察】本症例の感覚障害の病態として外側大腿皮神経への炎症波及や直接圧迫の影響が考えられた.【結語】骨化性筋炎は良性腫瘍だが罹患部位によっては早期に非可逆的神経障害を生じうる.悪性腫瘍との鑑別に早期の生検を行う場合は,FISH法によるUSP6遺伝子再構成の評価が有用である可能性がある.
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【症例報告】
■題名
急性上気道炎治療中に脳静脈洞血栓を発症し,プロテインS欠乏症と診断された3歳男児例
■著者
大阪市立総合医療センター小児脳神経・言語療法内科 竹内 彩華 温井 めぐみ 松原 康平 石岡 梨紗子 山田 直紀 井上 岳司 九鬼 一郎 岡崎 伸
■キーワード
プロテインS欠乏症, 脳静脈洞血栓症, 急性上気道炎, 脱水症, ステロイド
■要旨
プロテインS(protein S;PS)欠乏症は,抗凝固因子であるPSの血中濃度や活性の低下をきたす疾患で,長時間不動や感染症,脱水などを契機に深部静脈血栓症や肺塞栓症などの再発性の静脈血栓塞栓症を発症することがある.今回,急性上気道炎,乳突蜂巣炎,脱水,ステロイド内服などの血栓傾向となる多要因が重なり,脳静脈洞血栓症をきたすに至った症例を経験したので報告する.
症例は3歳男児.発熱・感冒症状から急性上気道炎を発症.ステロイド・抗菌薬の内服にて数日で解熱したが,感冒症状と活気不良,経口摂取不良が持続した.発熱の14日後,強直間代発作を認め,救急搬送された.頭部MRI,MRV,造影CTにて上矢状静脈洞,右横静脈洞,右内頸静脈にまたがる広範な静脈血栓を認めたため,脳静脈洞血栓症と診断し,抗凝固療法を開始した.併存症として,副鼻腔炎・乳突蜂巣炎,脱水を認めた.後にPS遊離抗原量低下,PS活性の低下が判明し,PROS1遺伝子に既報の遺伝型が検出されたことから,遺伝性のPS欠乏症と診断した.本症例では,PS欠乏症の児において乳突蜂巣炎,脱水,ステロイド内服などの凝固促進因子が重なり,脳静脈洞血栓症をきたすに至ったと考えられた.
遺伝性PS欠乏症は日本人の約2%に認める頻度の高い特発性血栓症であり,感染症などの日常診療においては本疾患を念頭においた治療が大切であると考えられる.
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【症例報告】
■題名
免疫抑制療法を行ったB型肝炎ウイルスキャリアの難治性川崎病
■著者
埼玉県立小児医療センター感染免疫・アレルギー科1),同 消化器肝臓科2) 佐藤 法子1) 上島 洋二1) 佐藤 智1) 吉田 正司2) 菅沼 栄介1)
■キーワード
B型肝炎, 川崎病, 再活性化, 無症候性キャリア, 免疫抑制療法
■要旨
B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)既感染者に対して免疫抑制療法を行う場合,HBV再活性化による劇症肝炎の発症に留意する必要がある.症例は1歳10か月男児,母子感染によるHBVキャリアである.第3病日に川崎病主要症状5項目(群馬スコア8点)を呈し,前医にて免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIG)とプレドニゾロン(prednisolone:PSL),アスピリンの投与を開始した.PSL漸減中に再燃し,第14病日に再度IVIGを行ったが,第23病日に再燃し当院へ転院した.HBV再活性化の懸念から,IVIGを追加投与しアスピリンの増量とウリナスタチンの併用による治療で解熱したが,第31病日に再燃した.セロコンバージョン前の無症候性キャリアであることを考慮し,小児栄養消化器肝臓学会認定医の協力と家族の同意を得て,核酸アナログ製剤を併用せずにシクロスポリンの経口投与を開始した.症状や検査所見は速やかに改善し,肝炎や冠動脈病変の発生もなく,第53病日に退院した.HBV既感染者に対する免疫抑制療法のリスクや核酸アナログ製剤の適応は,抗原・抗体パターンに基づいた判断を要する.川崎病好発年齢に多い無症候性キャリアでは,IVIG不応例に対する免疫抑制療法は,非キャリア同様に追加治療の選択肢となりうる.
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【症例報告】
■題名
幼児期に急激な体重増加と呼吸不全で発症した抗ZSCAN1抗体陽性ROHHAD症候群
■著者
福島県立医科大学小児科学講座1),広島大学大学院医系科学研究科小児科学/遺伝医学2),広島市立北部医療センター安佐市民病院小児科3),東北大学大学医院医学系研究科小児病態学分野4) 赤間 太郎1) 鈴木 雄一1) 佐久間 一理1) 山田 美香1) 浅野 裕一朗1) 野寺 真樹1) 宇都宮 朱里2)3) 島 彦仁4) 細矢 光亮1)
■キーワード
ROHHAD症候群, 中枢性肺胞低換気, 体重増加, 抗ZSCAN1抗体, 呼吸不全
■要旨
Rapid-onset obesity with hypothalamic dysfunction,hypoventilation and autonomic dysregulation(ROHHAD)症候群は急性発症の肥満症,中枢性肺胞低換気,視床下部機能障害,自律神経障害を来す疾患である.本疾患は中枢性肺胞低換気による突然死の可能性があり,早期診断と呼吸管理の導入が必要である.我々は幼児期に本疾患と診断し,気管切開術を施行した症例を経験したので報告する.
症例は2歳女児.1歳から自律神経障害,2歳頃から急激な体重増加があり,2歳10か月時に呼吸不全を呈し中枢性肺胞低換気が明らかとなった.PHOX2B遺伝子変異を認めず症状から本疾患が疑われた.覚醒時にも低酸素血症と高二酸化炭素血症を認め,非侵襲的陽圧換気療法での呼吸管理が困難になり気管切開術を施行した.
本疾患は致死的な転帰をたどりうるが,初期は症状が揃わず診断に苦慮する.本症例では中枢性肺胞低換気から本疾患が疑われたが確定診断に至らず,症状の進行に合わせた呼吸器管理になった.気管切開術後に提出した,呼吸不全発症時の検体の血中抗Zinc finger and SCAN domain-containing protein 1(ZSCAN1)抗体が陽性であったことから,抗ZSCAN1抗体が本疾患の早期診断や積極的な治療介入の指標になる可能性があると考えられた.
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【症例報告】
■題名
インフルエンザ後に全身性紅斑を呈した学童男児に発症した侵襲性A群レンサ球菌感染症
■著者
総合病院国保旭中央病院小児科 安藤 博貴 北澤 克彦 本多 昭仁 仙田 昌義 小林 宏伸 荒川 真梨子 木山 崇 小森 和磨 浜崎 亮 星加 史郎
■キーワード
A群レンサ球菌, 侵襲性A群レンサ球菌感染症, 猩紅熱, インフルエンザ, 薬疹
■要旨
インフルエンザ後に遷延する発熱と紅斑を呈し,薬疹を疑い管理中に侵襲性A群レンサ球菌感染症(invasive group A streptococcal infection;iGAS)を発症した10歳男児例を報告する.発熱2日目にインフルエンザと診断され抗ウイルス薬とアセトアミノフェンを含む処方を受けた.その後,9日間持続する発熱と全身性紅斑のため入院した.血液検査で強い炎症所見を認めたが,咽頭炎所見を認めず,咽頭GAS迅速抗原検査は陰性であった.皮膚科との協議の上,薬疹疑いとして皮膚生検後にプレドニゾロン(PSL)投与を開始したところ,翌日には速やかに解熱し紅斑も落屑を残し消退した.しかし,PSL投与3日後に41.2℃の高熱,傾眠,髄液細胞増多,肝酵素上昇を認めた.血液培養後,経静脈的抗菌薬投与を開始したところ,翌日には解熱し意識も清明となった.抗菌薬投与後の髄液培養は陰性であったが,血液培養でGASが検出されたためiGASと診断し計14日間の抗菌薬治療を行った.皮膚病理所見では薬疹を否定できなかったが,猩紅熱としても矛盾はなく,遷延する発熱と紅斑は猩紅熱の症状であったと推察された.インフルエンザはiGASの発症誘因になり得るとの知見が集積している.上気道にGASを保菌した患児がインフルエンザを発症した場合,インフルエンザとしては非定型的な経過をとることがあり,時にiGASを発症し得ることに注意が必要である.
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【論策】
■題名
児童・生徒とその保護者に対しバイオサイコソーシャルな視点で行う個別健康診断の有用性
■著者
日本小児科医会乳幼児学校保健委員会 松下 享 板金 康子 伊藤 晴通 糸数 智美 岩田 祥吾 川上 一恵 河村 一郎 小池 明美 新津 直樹 増田 英子 稲光 毅 伊藤 隆一
■キーワード
就学児, 思春期, 問診, バイオサイコソーシャル, 健康診断
■要旨
現代の子どもとその保護者が抱える諸問題を明らかにし,心の不調を有する子どもへの早期介入の可能性を検討することを目的に,予防接種や軽微な症状で医療機関を受診した小学生〜高校生の子どもとその保護者に対して質問票を用いた個別健診を実施し,184組の親子から得た回答を検討した.その結果,就寝時刻が遅い子ども,外遊びや運動が好きではない子どもの比率は,高学年グループほど高かった.また半数以上の子どもがスマホやゲームを長時間使用し,食習慣に問題を有する回答も散見された.高校生の62%が自分の容姿を気にしており,中学生の71%,高校生の65%がイライラやストレスを感じて生活していた.死にたいと思ったことがあると回答した高校生は21%であったが,曖昧な回答を含めるとその比率は32%まで上昇した.一方で保護者への質問からは,門限を定めていない,インターネットの使用ルールを決めていない,子ども部屋にテレビやインターネット環境があるなど,子どもの回答と同様の傾向があった.また高校生の保護者の59%が,子どもと性に関する話をしたことがないと回答していた.
就学児以降に行う健診は,子どもと保護者が日常生活や健康について一緒に考え家族全体の健康意識を高める契機となる.また子どもの心の不調に対しては早期に介入できる可能性もあることから,バイオサイコソーシャルな視点で行う健診制度の一層の充実が望まれる.
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