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日本小児科学会雑誌 目次 |
(登録:24.9.19)
第128巻 第9号/令和6年9月1日
Vol.128, No.9, September 2024
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原著総説 |
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林 藍,他 1141 |
原 著 |
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宮島 雄二,他 1149 |
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山田 克彦,他 1156 |
症例報告 |
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長井 佐知,他 1165 |
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上杉 裕紀,他 1171 |
論 策 |
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奥山 舞,他 1177 |
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中村 健吾,他 1186 |
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1193 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 |
Injury Alert(傷害速報)Follow-up報告 |
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1203 |
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1205 |
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1206 |
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重篤な疾患を持つ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン(2024年改訂版)
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1208 |
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告 |
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1216 |
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会報告 |
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医療における子ども憲章策定過程における子どもアドボカシー
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1221 |
日本小児科学会小児救急・集中治療委員会 |
小児院外心停止の原因検索に関する調査小委員会報告 |
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1229 |
日本小児科学会災害対策委員会報告 |
第127回日本小児科学会学術集会 |
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1239 |
日本小児科学会主催 |
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1243 |
日本小児科学会将来の小児科医を考える委員会報告 |
はじめの一本14 |
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1244 |
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1246 |
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1247 |
日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2024年66巻7月掲載分目次
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1253 |
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1255 |
【原著総説】
■題名
水無脳症の長期生存2例報告と文献レビュー
■著者
京都第一赤十字病院新生児科1),同 小児科2) 林 藍1) 木下 大介1) 砂田 真理子1) 短田 浩一2) 西村 陽1)2)
■キーワード
水無脳症, 出生前診断, 長期生存
■要旨
水無脳症は,生下時より大脳半球の大部分が欠損する稀な先天性脳奇形である.水無脳症の多くは生後1年以内に死亡する生命予後不良な疾患であると報告されている.我々は,出生前診断後,長期生存している2例を経験した.症例1は8歳女児.症例2は4歳女児.両症例ともに,重度の精神運動発達遅滞を認めている.症例1は,経管栄養,在宅人工呼吸管理を要しているが,症例2は,経口摂取可能であり,医療的ケアは要していない.両症例ともに水頭症を併発し,乳児期に脳室腹腔シャント術を実施した.これまでに水無脳症の長期予後に関するまとまった報告はなく,今回,2000年以降に報告された水無脳症57例と自験例2例について臨床像を明らかにした.1年以上生存した長期生存例は25例あり,必ずしも生命予後不良ではないことが明らかとなった.長期生存例の臨床的特徴については,医療的ケアの必要性は症例により様々であり一定の傾向はないこと,水頭症の合併率が高いことが明らかとなった.水無脳症と出生前診断をうけた家族への説明や出生後の治療方針決定のために,今後症例を蓄積し,長期生存の可能性や医療的ケアの必要度について予測し得る客観的な指標を見出すことが必要である.
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【原著】
■題名
重症血友病を対象としたエコーによる関節の評価
■著者
安城更生病院小児科 宮島 雄二 竹尾 俊希 辻 元基 大森 大輔 鈴木 道雄 深沢 達也 久保田 哲夫
■キーワード
血友病, 関節症, 超音波検査, 滑膜炎
■要旨
今回われわれは関節エコーを用いて血友病患者の関節状態の評価を行ったので報告する.対象患者は重症血友病患者9名(平均年齢16.3歳)である.関節エコーは関節内出血の症状のない時に中央検査室で一人の検査技師が施行し複数の技師で評価した.両側の肘,膝,および足関節の6関節を,Hemophilia early arthropathy detection with ultrasound(HEAD-US)の基準(滑膜肥厚と骨軟骨損傷)に滑液貯留の有無も加えて評価した.評価した54関節中41%に異常所見を認めた.異常所見の内容は,滑液貯留のみ19%,滑膜肥厚20%,骨表面不整2%であった.HEAD-US基準で陽性例は22%であった.関節部位別では,肘関節の6%,膝関節の44%,足関節の72%で異常所見を認めた.肘関節は,滑液貯留の1例のみで,HEAD-US陽性例はなかった.膝関節は,28%の関節が滑液貯留のみであったが,残り17%の症例はHEAD-US基準で陽性であった.足関節では,22%の関節は滑液貯留のみであったが,50%の関節がHEAD-US基準で陽性となり,1関節では骨軟骨損傷を認めた.年齢別でみると,15歳未満の症例では42%の関節,15歳以上の症例は40%の関節で異常所見を認め,有意差はなかった.関節エコーを用いた血友病患者の関節評価は有用と考えられた.今後も経時的にエコー検査を行い,臨床的意義を検討していく.
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【原著】
■題名
肥満小児の高インスリン血症を正常化させる肥満改善指標
■著者
佐世保中央病院小児科 山田 克彦 犬塚 幹
■キーワード
小児肥満, 高インスリン血症, 行動療法, 体格指標, 治療目標
■要旨
肥満小児の高インスリン血症を正常化させる肥満改善指標について分析した.6歳以上15歳以下で肥満治療が開始され,治療開始時に高インスリン血症があった男女51例を対象とした.治療期間中にインスリン値が高値のままだった30例(非正常化群)と正常化した21例(正常化群)の2群間で治療期間,最終肥満度,最終ウエスト周囲長,最終ウエスト身長比とこれら体格指標の変化量を男女別に比較した.男児では,非正常化群に比べて正常化群では初回インスリン値,初回ウエスト周囲長,最終肥満度,最終ウエスト周囲長,最終ウエスト身長比は有意に低く,肥満度変化量,ウエスト周囲長変化量,ウエスト身長比変化量とも有意に大きな負の変化を示した.女児でも最終肥満度が有意に低く,肥満度変化量,ウエスト周囲長変化量,ウエスト身長比変化量が有意に大きな負の変化を示した.これらの変数がインスリン値正常化に及ぼす影響をロジスティック回帰を用いた多変量解析で評価した.結果,男児で肥満度10%以上低下,ウエスト周囲長3 cm以上減少が有意に影響していた.女児でも肥満度10%以上低下がインスリン値正常化に有意に影響していた.肥満度10%以上の低下例ではインスリンの他にも男女でインスリン抵抗性指数正常化と,男児でALT正常化と相関していた.肥満小児の高インスリン血症を正常化させる肥満改善指標は10%以上の肥満度低下であり,患者と共有すべき数値目標である.
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【症例報告】
■題名
虐待による胸部打撲で生じた心室中隔穿孔・右冠動脈損傷に対する治療と社会的対応
■著者
京都大学医学部附属病院小児科1),宇治徳洲会病院小児科2),京都大学医学部附属病院心臓血管外科3) 長井 佐知1) 馬場 志郎1) 奥村 謙一2) 赤木 健太郎1) 久米 英太朗1) 福村 史哲1) 松田 浩一1) 井出 雄二郎3) 平田 拓也1) 池田 義3) 滝田 順子1)
■キーワード
虐待, 外傷性心臓損傷, 心室中隔穿孔, 冠動脈損傷
■要旨
虐待による鈍的外傷に伴う症状は非特異的で診断が遅れる場合がある.児の安全確保のために詳細な病歴聴取,全身の評価を行い,関係機関と連携する必要がある.今回我々は嘔吐を主訴に前医を受診し胃腸炎と診断された外傷性心室中隔穿孔,右冠動脈損傷症例を経験した.
症例は5歳男児.入院2日前から嘔吐が出現し前医救急外来を受診.胃腸炎と診断され帰宅したが症状軽快なく,2日後に同院を再受診した.顔色不良と心雑音から心疾患を疑われ,心臓超音波検査で中等度の三尖弁逆流を認めたため急性心筋炎の疑いで当院へ転院搬送となった.入院時の胸部X線検査で心拡大と肺うっ血像を認め,心電図ではV2〜4誘導のみにST上昇を認めた.心臓超音波検査で心尖部に断裂したような心室中隔欠損を認めたことと前胸部の皮下出血から外傷性心室中隔穿孔と診断した.虐待が疑われたため,入院後は両親の面会を禁じ,児童相談所が児を一時保護した.その後,本児は両親の離婚後に父親から日常的な虐待を受けており,入院2日前に父親が胸部を強く殴打したことが明らかになった.心機能については,右室収縮能は低下し,左右短絡により左室心拍出量は低下していた.内科的治療のみでは改善せず,同時に右冠動脈損傷・心尖部心室瘤も認めたため,受傷16日後に心室中隔欠損閉鎖術,心室瘤縫縮切除術を行った.心機能改善は緩徐だったが徐々に全身状態の改善を認め,入院35日目に退院となった.
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【症例報告】
■題名
可逆性後頭葉白質脳症を契機に診断した副腎性Cushing症候群
■著者
姫路赤十字病院小児科1),同 小児外科2) 上杉 裕紀1) 中川 卓1) 高見 勇一1) 久呉 真章1) 鶴野 雄大2) 岡本 光正2) 福澤 宏明2)
■キーワード
Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome, Cushing症候群, 高血圧症, 副腎腺腫, 中心性肥満
■要旨
可逆性後頭葉白質脳症:Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome(以下PRESと略)は高血圧症,血液疾患,腎疾患,膠原病,及び薬剤使用などを背景として生じる後頭葉を中心とした可逆性の脳症である.意識障害やけいれん,頭痛,視覚症状などを主症候とする.今回,我々はPRESを発症した後に,副腎性Cushing症候群と診断して外科手術で根治できた症例を経験したので報告する.症例は11歳の男児.腹痛を訴えた後に全身強直発作があったために当科に救急搬送された.当科受診時は意識清明,血圧153/115 mmHgであった.その後1分ほどのけいれん発作を繰り返した.頭部CTで後頭葉に低吸収域を認め,頭部MRIで後頭部大脳皮質主体の高信号域を認めPRESと診断した.腹部エコーで左腎盂拡大と左尿管結石,右副腎腫瘤を認めた.血漿ACTH 5 pg/mLと低下し,血清コルチゾールが23.5 μg/dLと高値であった.腹部の造影CTと造影MRIにて径2.5 cm大の右副腎腫瘤と左副腎の萎縮を認めた.機能性副腎腫瘍によるCushing症候群と診断し,腹腔鏡下右副腎腫瘍摘出術を施行した.病理組織は副腎皮質腺腫であり後療法は行わずにヒドロコルチゾン補充を行った.入院41日目,高血圧は改善し神経学的後遺症なく退院した.7か月前に周囲の人から顔が丸くなったと指摘されていたエピソードがあり,後方視的にはCushing症候群の症状であったと推測された.PRESでは急性期の適切な血圧管理に加え,背景にある疾患の解明とその速やかな解決が重要である.
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【論策】
■題名
COVID-19流行下の第1期麻しん風しんワクチン接種率低下に対する原因調査
■著者
国立感染症研究所感染症疫学センター1),同 ウイルス第3部2) 奥山 舞1) 柴村 美帆1) 高梨 さやか1) 森野 紗衣子1) 森 嘉生2) 鈴木 基1) 神谷 元1)
■キーワード
麻しん風しんワクチン, COVID-19, 定期予防接種, 接種率低下, アンケート
■要旨
コロナウイルス感染症2019(COVID-19)の流行に伴い,国内外で定期予防接種率の低下が指摘され,日本においても2021年度の第1期麻しん風しんワクチンの接種率が前年度と比較して約5ポイント低下した.今回,原因検索を目的として調査を行った.対象は2歳の小児の保護者とし,第1期麻しん風しんワクチン接種群200例と非接種群200例に対して,基本情報,予防接種の情報源,接種または非接種の理由等について,インターネットによる調査を行った.接種群では,COVID-19の流行に関わらず接種が重要であるからという回答が74.5%を占めた.非接種群では,必要だと思ったが接種しなかった(I群)が41.5%,不要だと思った(II群)が58.5%であった.非接種の理由は,I群では接種するつもりだったが忘れてしまったが42.2%,COVID-19の感染を避けるためが32.5%,II群では麻疹や風疹の流行がないため接種は不要だと思ったという回答が35.0%を占めた.保護者が信用している情報源は,インターネットの情報と比較し,かかりつけの小児科医,母子健康手帳,行政機関からの広報が多かった.本研究では,非接種群にも調査を行うことで,予防接種率の向上に有用な情報発信の方法や,未接種ワクチンがあることのリマインドにより接種の可能性があることなど,接種率改善の検討に資する情報が得られており,対策に繋げていく.
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【論策】
■題名
喫煙・受動喫煙関連疾患に対する保護者の認知度の変化
■著者
国立病院機構下志津病院小児科1),千葉県こども病院アレルギー・膠原病科2) 中村 健吾1) 鈴木 修一1) 冨板 美奈子2) 重田 みどり1)
■キーワード
質問紙法, 禁煙, 喫煙関連疾患, 受動喫煙, 保護者
■要旨
【目的】能動喫煙および受動喫煙に関連する疾患や症状(SADC)に対する保護者の認知度の変化を評価する.
【方法】2008年と2021年に当院小児科外来を受診した保護者を対象に質問紙調査を実施した.肌あれ・しみ(皮膚症状),低出生体重(LBW),中耳炎,気管支喘息(喘息),肥満,持久力低下(持久力)のうち,SADCと思うものを選択するよう依頼した.回答者の属性,日本の子どもは受動喫煙から守られていると思うか,日本のタバコ対策や禁煙支援で不足していると思う項目への回答に基づき層別解析した.【結果】2008年は344名(有効回答率82.5%),2021年は1,089名(同90.1%)の回答を解析した.喘息の選択率は83.7%から92.5%へと有意に増加したが,LBW(66.0%から53.8%)と持久力(57.8%から47.8%)は有意に減少した.皮膚症状(31.1%から34.7%)は有意な変化がなく,肥満(5.8%から6.5%)と中耳炎(4.7%から4.1%)は低いままであった.回答者の属性と他の質問への回答に基づく層別解析でも,選択率の変化は類似していた.【結論】SADCとしての喘息の認知度は高く増加したのに対し,LBWと持久力は低下し,肥満と中耳炎は極めて低いままであった.この結果は,子どもを受動喫煙から守るための保護者への啓発が,日本ではまだ不十分であることを示唆している.
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