gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 最新号目次

(登録:24.4.23)

第128巻 第4号/令和6年4月1日
Vol.128, No.4, April 2024

バックナンバーはこちら


タイトルをクリックすると要旨をご覧になれます。

原  著

小児のCOVID-19ワクチン接種後の遷延する症状の多施設共同研究

堀越 裕歩,他  569
症例報告
1.

乳児濃縮赤血球症の姉妹例

中村 誠,他  576
2.

COVID-19ワクチン接種後に小児多系統炎症性症候群様の症状を呈した劇症型心筋炎

山田 浩平,他  584
3.

学校検尿を契機に診断したループスポドサイトパチー

西村 竜哉,他  591
4.

BCGワクチン接種後の皮膚腺病

清水 彰彦,他  598
5.

胸部X線異常陰影を契機に診断した気管気管支,先天性気管狭窄症

岡本 紘樹,他  603
論  策

地域小児科センターにおける小児科常勤医の増員への取り組み

大山 昇一,他  609

地方会抄録(兵庫・青森・島根)

  616

訂正

  640
専門医にゅ〜す No. 24

専門医試験に関するお知らせ

  643
日本小児科学会小児医療提供体制委員会報告

地域小児科センター機能に関する調査結果報告

  644
日本小児科学会ダイバーシティ・キャリア形成(旧男女共同参画推進)委員会報告

第126回日本小児科学会学術集会特別企画「これからの小児医療に求められるダイバーシティの推進─エビデンスに基づき土壌作りは学生時代から─」,Café 企画開催報告

  659
日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会報告

「原因不明の小児急性肝炎に関する実態調査(二次調査)」報告

  668

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2024年66巻2月掲載分目次

  681

雑報

  683


【原著】
■題名
小児のCOVID-19ワクチン接種後の遷延する症状の多施設共同研究
■著者
東京都立小児総合医療センター総合診療部感染症科,免疫科1),新潟市民病院小児科2),新潟大学大学院医歯学総合研究科小児科学分野3),聖マリアンナ医科大学小児科4),静岡県立こども病院小児感染症科5),あいち小児保健医療総合センター総合診療科6),沖縄県立南部医療センター・こども医療センター小児感染症内科7)
堀越 裕歩1)  山中 崇之2)3)  相澤 悠太3)  中村 幸嗣4)  荘司 貴代5)  奥村 俊彦6)  張 慶哲7)

■キーワード
COVID-19ワクチン, 有害事象, 副反応, 予防接種ストレス関連反応, 解離性神経症状反応
■要旨
 【目的】COVID-19ワクチン接種後には,予防接種ストレス関連反応を含む多彩な症状が遷延することがあるが,その実態はよくわかっていない.ワクチン接種後に遷延する症状を訴える小児患者の特徴を掴むことを目的とした.【方法】国内7施設の小児医療機関で2021年7月から2023年3月にCOVID-19ワクチン接種後の遷延する症状で受診した患者について,性別,年齢,基礎疾患,最終診断,生活への影響と持続期間,予後を診療録と用いて後方視的に検討した.【成績】合計46名が受診して,年齢の範囲は6〜17歳,平均値は13.1(標準偏差2.0)歳,女児が43%であった.基礎疾患を45%で認め,アレルギー性疾患19%,広汎性発達障害13%,知的発達症6%,精神性疾患6%であった.最終診断は,慢性頭痛28%,心身症26%,解離性神経症状反応17%,特発性胸痛17%,起立性調節障害17%,心因性発熱6%,複合性局所疼痛症候群4%であった.生活への影響は76%でみられ,不登校63%,運動障害6%,期間の中央値は4(四分位範囲5〜7)か月であった.予後は,治癒37%,寛解22%,軽快4%,不変37%であった.【結論】思春期でよくみられる診断が多く,解離性神経症状反応,複合性局所疼痛症候群もみられた.ワクチンへの信頼を担保するには,接種後の遷延する症状への適切な評価とケアが重要である.


【症例報告】
■題名
乳児濃縮赤血球症の姉妹例
■著者
国民健康保険富士吉田市立病院小児科
中村 誠  渡邉 祐莉子  須長 祐人  牧野 耕一  齋藤 衣子  根本 篤  小鹿 学

■キーワード
乳児濃縮赤血球症, pyknocyte, 浸透圧脆弱性試験
■要旨
 乳児濃縮赤血球症(Infantile pyknocytosis,IP)は,新生児期より一過性の溶血性貧血と黄疸をきたす稀な疾患である.ときに頻回の赤血球輸血を要するが,病因は特定されていない.複数の突起を有する不整に歪んだ濃縮赤血球,pyknocyteを末梢血塗抹標本で同定し,他の溶血性疾患を除外することで診断される.我々はIPの姉妹例を経験した.姉妹ともに生後まもなく黄疸と溶血性貧血をきたし,末梢血塗抹標本で小型の濃縮赤血球が認められた.姉の症状は日齢3まで光線療法を受けた後に軽快し,妹の症状は日齢20まで光線療法を,日齢26まで合計4回の赤血球輸血を受けた後に軽快した.姉妹の赤血球の形態異常は生後4か月で消失し自然治癒した.姉妹の末梢血に認められた小型の濃縮赤血球は変形や突起が少なくpyknocyteの特徴に乏しかったが,特徴的な臨床経過に加えてフローサイトメーターを用いた浸透圧脆弱性試験で妹の赤血球に浸透圧抵抗の亢進を認めたことが診断の手がかりとなった.新生児期発症の溶血性貧血を認めた場合,赤血球形態の評価に加えて浸透圧脆弱性試験やEosin-5-maleimide結合能検査等を実施しIPを鑑別する必要がある.我々の症例のように赤血球の形態的特徴に乏しいIP症例もあるため,フローサイトメーターを用いた浸透圧脆弱性試験やハインツ小体の証明などIPの補助的診断法の確立が望まれる.


【症例報告】
■題名
COVID-19ワクチン接種後に小児多系統炎症性症候群様の症状を呈した劇症型心筋炎
■著者
大阪母子医療センター小児循環器科1),同 集中治療科2),市立豊中病院小児科3),金沢大学小児科4)
山田 浩平1)2)  石井 陽一郎1)  高橋 邦彦3)  竹内 宗之2)  松田 裕介4)  青木 寿明1)

■キーワード
COVID-19ワクチン, 小児多系統炎症性症候群, 劇症型心筋炎, 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型, サイトカインプロファイル
■要旨
 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2型(SARS-CoV-2)感染後に小児多系統炎症性症候群(MIS-C)を発症する症例は散見されるが,COVID-19ワクチン接種後に同様の症状を呈した症例報告は稀である.我々は15歳女子がワクチン接種後にMIS-Cと類似した症状を呈し劇症型心筋炎に至った症例を経験した.ワクチン接種から1週間後に発熱し翌日に発疹出現,第3病日に眼球結膜充血し前医受診した.炎症反応上昇を認め抗生剤治療も反応なく,第5病日にショック状態となり当院搬送された.CK上昇,心機能障害を認め,劇症型心筋炎と診断した.カテコラミンサポート開始し,免疫グロブリン大量療法,ステロイドパルスを行った.第7病日に施行した心臓カテーテル検査では左室駆出率38%と心機能低下を認め,左室拡張末期圧32 mmHgと高度拡張障害を認めた.心筋生検では心筋線維の脱落と線維化を認めた.心機能は徐々に回復し,抗心不全薬を導入し第24病日に退院した.ウイルス感染や自己免疫疾患は否定的で,抗体検査の結果からSARS-CoV-2の感染関与は否定的であったが,その他のMIS-C診断基準は満たしていた.また,サイトカインプロファイルでは,IL-18,sTNF-R1/2が上昇するパターンを呈した.COVID-19ワクチン接種後にもMIS-Cを発症することがあり,劇症型心筋炎様の症状を呈しうることにも留意が必要である.


【症例報告】
■題名
学校検尿を契機に診断したループスポドサイトパチー
■著者
千葉県こども病院腎臓科1),同 アレルギー・膠原病科2),同 病理診断科3)
西村 竜哉1)  飯田 貴也1)  井上 祐三朗2)  光永 可奈子2)  内藤 千絵2)  成毛 有紀3)  久野 正貴1)

■キーワード
全身性エリテマトーデス, ネフローゼ症候群, 学校検尿, ループス腸炎, Lupus podocytopathy
■要旨
 全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus:SLE)に合併する腎病変として,免疫複合体が関連するループス腎炎が知られている.一方,免疫複合体の沈着を認めずネフローゼ症候群(Nephrotic syndrome:NS)を呈するループスポドサイトパチー(Lupus podocytopathy:LP)の報告が近年散見される.今回,検尿異常が先行し,経過とともにNSを呈しLPと診断した小児例を経験した.
 14歳女子.学校検尿で血尿・タンパク尿を指摘され当科を受診した.NSを伴わない高度タンパク尿に加え,抗核抗体陽性であった.腎病理組織ではメサンギウム増殖を認めるも,免疫蛍光法では同領域にIgG,C3が弱陽性となるのみで,係蹄壁への沈着物は認めなかった.電子顕微鏡では90%以上にわたる足突起消失を認めた.この時点でSLEの診断基準を満たしていたが,腎組織像はループス腎炎としては非典型的な所見であり,原因不明の腎炎として無治療で経過観察した.しかし8か月後にNSの基準を満たしLPと診断した.また遷延する消化器症状を認め,造影CTからループス腸炎と診断した.ステロイドを含む免疫抑制薬により,消化器症状,尿所見とも改善した.
 SLEに腎病変を合併し,免疫蛍光法で免疫グロブリンや補体の沈着に乏しい場合,LPの可能性を検討するべきである.現在提唱されているLPの診断基準案にはNSを必須としているが,病初期には無症候性血尿・タンパク尿のみを呈する場合があり注意を要する.


【症例報告】
■題名
BCGワクチン接種後の皮膚腺病
■著者
群馬県立小児医療センター感染症科1),同 アレルギー・リウマチ科2)
清水 彰彦1)  清水 真理子2)  野村 滋2)

■キーワード
Bacille Calmette-Guérin, 真性皮膚結核, 皮膚腺病, ワクチン
■要旨
 Bacille Calmette-Guérin(BCG)ワクチンは,小児の結核性髄膜炎や粟粒結核の発症予防に有効であり,本邦でも定期接種されている.BCGワクチン接種後の副反応としてリンパ節炎や皮下膿瘍が認められることがあるが,真性皮膚結核の一病型である皮膚腺病は非常に稀である.BCGワクチン接種後に皮膚腺病を発症した7歳女児例を報告する.患児は,生後5か月時に,左上腕にBCGワクチンを接種した.2年7か月後,接種部位に硬結と膿瘍が出現し,潰瘍化した.抗菌薬投与,ステロイド外用薬塗布,排膿ドレナージ等が実施されたが,寛解増悪を繰り返し,当院に紹介された.前医でMycobacterium tuberculosis complexが検出され,遺伝子解析によりBCGと同定した.臨床経過とあわせて皮膚腺病と診断した.リファンピシンとイソニアジドを併用し,局所所見は改善した.先天性免疫不全症候群の遺伝子検索では,既知の遺伝子変異は認めなかった.皮膚腺病を含む真性皮膚結核は,BCGワクチン接種後のまれな副反応である.細菌培養が陰性の難治性の皮膚潰瘍では,原因菌にBCGを鑑別に挙げ,抗酸菌培養を行う必要がある.診断と治療の遅れにより,不要な医療行為が増加し,美容的な後遺症を残すこともある.


【症例報告】
■題名
胸部X線異常陰影を契機に診断した気管気管支,先天性気管狭窄症
■著者
熊本赤十字病院小児科1),兵庫県立こども病院小児外科2),熊本市民病院小児科3)
岡本 紘樹1)  高木 祐吾1)  山本 隼吾1)  高成田 祐希2)  畠山 理2)  今村 友彦3)  平井 克樹1)

■キーワード
先天性気管狭窄症, 気管気管支, 往復性喘鳴, 胸部X線異常陰影
■要旨
 乳幼児の反復性喘鳴の鑑別診断は多岐に渡る.このうち,先天性気管狭窄症は,感染症などを契機に急激に呼吸不全に至り,致死的経過を辿ることのある疾患であり,早期診断が重要である.今回,胸部X線異常陰影を契機に診断した気管気管支,先天性気管狭窄症の1例を経験したので報告する.症例は1歳6か月男児.生後11か月から反復する肺炎の精査目的に当院紹介受診となった.陥没呼吸を伴う往復性喘鳴を呈し,聴診では両肺野でwheezeを聴取した.胸部X線画像では,右上肺野に透過性亢進域と右下肺野に肺炎を疑う透過性低下域を認めた.胸部単純CT画像では,右気管気管支と同区域分岐に一致した肺葉性肺気腫を認め,さらに右気管気管支の分岐より尾側の気管は狭小化していた.気管支鏡検査により,右気管気管支とその分岐より尾側の気管は完全軟骨輪を形成しており,先天性気管狭窄症と診断した.胸部X線画像を振り返ると,右気管気管支の分岐が確認でき,尾側の気管は狭小化が疑われた.診断後,現在に至るまで,感染症罹患時に呼吸不全を呈することはなく,内科的加療で呼吸状態は改善した.往復性喘鳴を反復する場合や胸部X線画像で繰り返す肺野の透過性変化を認めた場合には,気管透亮像の丁寧な読影と気道系を含めた先天性合併疾患を念頭に置いた精査が必要である.


【論策】
■題名
地域小児科センターにおける小児科常勤医の増員への取り組み
■著者
済生会川口総合病院小児科
大山 昇一  乃木田 正俊  中道 伸彰  西崎 淑美  萩尾 真理  井上 久美子  内藤 朋巳  有井 直人

■キーワード
医師の働き方改革, タスクシフト, 小児入院医療管理料, 多職種連携, 小児科収益
■要旨
 2010年(平成22年)診療報酬改定において,小児入院医療管理料の大幅な改定があり小児入院医療管理料2が新設された.小児科収益を増やすため,育児中の女性医師を含めた小児科常勤医師9人以上の雇用を目指した.小児科医の労働負荷を減らすため,小児科外来診療の縮小,域内の高次医療機関との連携強化,病院内でのタスクシフト,小児科医の勤務環境の見直し,長時間働く小児科医の意識改革,育児中女性医師の勤務条件の設定など多面的な対策を実施した.小児科常勤医9人の達成に成功し,この人数は医師の働き方改革で示されているA型を実現した場合の勤務条件に相当していた.しかし,大学病院からの人的なバックアップなしには達成できず,想定していない課題もいくつか明らかになった.中でも,当初に目指した小児科収益の増加は望めないことが判明し,小児科学会全体で何らかの方策を立てる必要があると考えられた.当院での経験が2024年春から始まる医師の働き方改革への対策立案の参考になれば幸いである.

バックナンバーに戻る