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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:20.10.14)

第124巻 第10号/令和2年10月1日
Vol.124, No.10, October 2020

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日本小児神経学会推薦総説

小児期から認知されるべき疾患 脳腱黄色腫症

稲葉 雄二,他  1475
原  著
1.

川崎病診断の手引き改訂(第6版)が診断に及ぼす影響

福田 清香,他  1484
2.

小児けいれん重積治療ガイドライン発刊後の治療薬選択の現状と改訂の要望

菊池 健二郎,他  1490
3.

小児家族性高コレステロール血症に対するピタバスタチンの安全性及び有効性

大竹 明,他  1499
症例報告
1.

呼吸生理学的に軽症と診断した先天性中枢性肺胞低換気症候群非ポリアラニン伸長変異

山田 恵,他  1509
2.

可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症を合併した川崎病に対する血漿交換療法

森 秀洋,他  1514
3.

RNF213 p.R4810Kホモ接合の乳児もやもや病例とその同胞への対応

坂井 勇太,他  1520
4.

血管奇形を素地として発症し早期外科治療で救命した劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症

安藤 明子,他  1527
5.

ダプトマイシンにより治癒したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌による小児急性骨髄炎

大嶋 明,他  1535
6.

腸管嚢胞様気腫症による腸重積症

三森 宏昭,他  1542
論  策

高校生のがん治療における学習支援の重要性

森 麻希子,他  1548

編集委員会への手紙

  1553

地方会抄録(徳島・宮崎・滋賀・鹿児島)

  1556

訂正

  1576

日本小児科学会理事会議事要録

  1578

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2020年62巻9号目次

  1580

令和2年度公益財団法人小児医学研究振興財団研究助成事業のお知らせ

  1583

雑報

  1584

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 375

  1585


【原著】
■題名
川崎病診断の手引き改訂(第6版)が診断に及ぼす影響
■著者
済生会横浜市東部病院小児科1),横浜市立大学大学院発生成育小児医療学2)
福田 清香1)  今野 裕章1)  松本 峻1)  灘 大志1)  岩本 眞理1)  伊藤 秀一2)

■キーワード
川崎病, 不全型川崎病, 川崎病診断の手引き, BCG接種痕の発赤, 冠動脈Zスコア
■要旨
 【背景】2019年5月に川崎病診断の手引きが改訂され,発熱期間が不問となりBCG接種痕の発赤(以下,BCG)が主要症状に加わり,冠動脈病変の定義が明示された.本改訂が診断に及ぼす影響を検討した.
 【方法】2017年1月から2019年6月に,第5版により川崎病と診断した176名の主要症状の有無,診断の変化を調査した.
 【結果】第5版では典型例/不全型は128/48名であった.各症状の頻度は,発熱95.5%,眼球結膜充血84.7%,口唇紅潮・いちご舌87.5%,発疹74.4%,四肢末端の変化83.0%,膜様落屑65.9%,頸部リンパ節腫脹61.9%,BCG50.3%であった.第6版では20名(11.4%)で症状数が増え,8名(4.5%)が不全型から典型例へ変化した.6か月以上2歳未満の好発年齢群の75名では,13名(17.3%)で症状数が増え,6名(8.0%)が典型例へ変化した.3名(1.7%)で冠動脈病変が新たに認定された.
 【考察】本改訂により11.4%で症状数が増加し,特に好発年齢群では影響が大きかった.一方,診断の早期化に関する有用性は不明であり,全国調査による検証が必要である.
 【結語】本改訂は川崎病診断の精度向上に貢献する可能性が高く,特に好発年齢群の乳幼児においてBCGが主要症状に加わったことの影響は大きい.


【原著】
■題名
小児けいれん重積治療ガイドライン発刊後の治療薬選択の現状と改訂の要望
■著者
埼玉県立小児医療センター神経科
菊池 健二郎  浜野 晋一郎  松浦 隆樹  野々山 葉月  代田 惇朗  平田 佑子  小一原 玲子

■キーワード
適応外使用, てんかん重積状態, 非静脈投与, ベンゾジアゼピン系薬剤抵抗性, ミダゾラム
■要旨
 【はじめに】小児けいれん重積治療ガイドライン2017(GL2017)発刊後の小児てんかん重積状態(SE)に対する治療薬選択の現状とGL2017改訂の要望を調査した.
 【対象と方法】以下の内容をSEに関する講演に参加した医師に無記名アンケート調査を行った.(1)SEに対する第1〜4選択薬,(2)非静脈投与時の薬剤選択,(3)ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)抵抗性有熱性SEの薬剤選択,(4)GL2017改訂の要望.
 【結果】209名から回答を得た.第1選択薬としてジアゼパムとミダゾラム(MDL)がそれぞれ49%,第2選択薬としてMDLとフェニトイン(PHT)/ホスフェニトイン(fPHT)がそれぞれ38%,第3選択薬としてフェノバルビタール(PB)36%,PHT/fPHT 35%,第4選択薬としてバルビツレート系薬剤27%,PHT/fPHT 23%,PB 19%,レベチラセタム15%で選択された.非静脈投与時にはMDL製剤のミダゾラム®,ドルミカム®が59%で選択された.BZD抵抗性有熱性SEに対してPHT/fPHTが46%,PBが28%で選択された.GL2017改訂には,治療フローチャートの採用,第1〜2選択薬の選択基準と薬剤の適応外使用に関する記載の要望が多かった.
 【考察】小児SEの治療薬選択はGL2017の推奨とほぼ同様で,改訂には薬剤選択の流れと薬剤の適応外使用の解説が期待される.


【原著】
■題名
小児家族性高コレステロール血症に対するピタバスタチンの安全性及び有効性
■著者
埼玉医科大学小児科1),興和株式会社市販後調査部2)
大竹 明1)  菅野 崇2)  栗原 雄司2)  藤井 祥子2)  新垣 航2)  郡司 良治2)

■キーワード
家族性高コレステロール血症, ピタバスタチン, スタチン, 低比重リポタンパクコレステロール, 動脈硬化症
■要旨
 【背景】ピタバスタチンは,家族性高コレステロール血症(FH)の小児患者に対する適応を日本で初めて取得したスタチン製剤である.最新のガイドラインでは,小児FHに対する第一選択薬としてスタチン製剤が推奨されているが,実臨床における本剤の長期使用時の安全性及び有効性は明らかではない.
 【方法】承認取得後2年以内に本剤の投与を開始した10歳以上15歳未満の小児FH患者を対象に,全例調査方式の特定使用成績調査を実施した.観察期間は最大3年間とし,副作用,成長発達指標及び臨床検査値の変化,低比重リポタンパクコレステロール(LDL-C)値の推移など,安全性及び有効性に関するデータを収集した.
 【結果】解析対象とした99例の男女比は1:1,平均年齢は11.8歳,LDL-C値の平均は215.0 mg/dLであった.平均687日の観察期間において副作用は7例(7.1%)に発現し,内訳は,頭痛,肝障害,血中クレアチンキナーゼ増加などであった.横紋筋融解症などの重篤な副作用はなく,成長発達に関する懸念も認められなかった.最終観察時のLDL-C値の平均は157.9 mg/dLであり,投与前からの有意な低下(平均23.2%)が認められた.管理目標値(<140 mg/dL)の達成割合は30.6%であった.
 【結論】日本人小児FH患者に対する本剤の長期的な安全性及び有効性について注意を要する問題点は認められなかった.


【症例報告】
■題名
呼吸生理学的に軽症と診断した先天性中枢性肺胞低換気症候群非ポリアラニン伸長変異
■著者
さいたま市立病院新生児内科1),東京女子医科大学東医療センター新生児科2),山形大学医学部小児科学講座3),さいたま市立病院小児科4)
山田 恵1)  大森 さゆ1)  山田 洋輔2)  長谷川 久弥2)  佐々木 綾子3)  早坂 清3)  佐藤 清二4)

■キーワード
先天性中枢性肺胞低換気症候群, PHOX2B遺伝子, 非ポリアラニン伸長変異, 炭酸ガス換気応答試験, 人工換気
■要旨
 患児は在胎35週2日,出生体重2,070 gの女児.出生後より周期性呼吸,無呼吸,高炭酸ガス血症を認めた.未熟性に起因するものと考え対症療法を行っていたが,高炭酸ガス血症が遷延したため,先天性中枢性肺胞低換気症候群(congenital central hypoventilation syndrome:CCHS)を疑った.生後2か月時に遺伝学的検査を行い,PHOX2B遺伝子の変異c.663_711delを認めCCHSと診断した.CCHSの遺伝子変異は,ポリアラニン伸長変異(polyalanine repeat expansion mutation:PARM)が90%を占め,約10%が非ポリアラニン伸長変異(non PARM:NPARM)である.通常,NPARMの多くは重症型とされている.しかし,患児はNPARMにもかかわらず,炭酸ガス換気応答試験において,血中二酸化炭素上昇に対する呼吸中枢の反応性が比較的保たれており軽症例であった.また,Hirschsprung病など自律神経系の合併症もなかった.本症例のような軽症例を客観的に証明できている報告は数少ない.今後PHOX2B遺伝子の変異型と重症度との関連性を検討する上で重要な症例の一つと考え報告する.


【症例報告】
■題名
可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症を合併した川崎病に対する血漿交換療法
■著者
大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院小児科1),国立病院機構福山医療センター小児科2)
森 秀洋1)  澤田 真理子1)  佐藤 一寿1)  荻野 佳代1)  林 知宏1)  小寺 亜矢2)  脇 研自1)  新垣 義夫1)

■キーワード
脳炎・脳症, 川崎病, 血漿交換
■要旨
 川崎病(Kawasaki disease:KD)は多彩な症状を呈す.今回我々は可逆性脳梁膨大部病変を有する軽症脳炎・脳症(clinically mild encephalitis/encephalopathy with a reversible splenial lesion:MERS)を合併したKDを経験したので報告する.症例は2歳男児.第6病日にKDと診断し,前医で免疫グロブリン療法(intravenous immunoglobulin:IVIG)を開始した.しかし,翌日より不穏・傾眠傾向が出現し,症状と頭部MRIの結果からMERSと診断した.ステロイドパルス療法を併用するも発熱と意識障害は改善せず,冠動脈に拡張を認めた.第10病日に当院に転院し,血漿交換(plasma exchange:PE)を開始した.PEを連日で計5回施行した.第19病日に解熱し,冠動脈径も正常化した.神経学的所見に異常も認めず,第27病日の頭部MRIで異常所見は消失した.MERSを合併したKDは冠動脈病変(coronary artery lesion:CAL)発症リスクが高い可能性が示唆されている.本症例はMERSを合併したKDに対してPEを施行し,CALや神経学的異常を残すことなく治療を行うことができた.PEは脳炎・脳症を合併したIVIG不応のKD症例に対しても有効である可能性がある.


【症例報告】
■題名
RNF213 p.R4810Kホモ接合の乳児もやもや病例とその同胞への対応
■著者
金沢大学附属病院小児科1),同 脳神経外科2)
坂井 勇太1)  伊川 泰広1)  西田 圭吾1)  藤田 直久1)  神川 愛純1)  井上 なつみ1)  黒田 文人1)  谷内江 昭宏1)  南部 育2)  見崎 孝一2)  毛利 正直2)  中田 光俊2)  和田 泰三1)

■キーワード
もやもや病, 脳梗塞, ring finger protein 213RNF213), 乳児期発症, 発症前遺伝子診断
■要旨
 もやもや病は日本人に多く発症する原因不明の進行性脳血管閉塞症で,10歳以下の学童期に好発する.近年,もやもや病の発症にRNF213遺伝子の関与が明らかとなった.RNF213 p.R4810Kホモ接合を有する患者はヘテロ接合の患者と比較して,脳血管狭窄が急速に進行し乳児期発症に寄与することが報告された.乳児期に脳血管障害を認めると神経学的予後に大きく影響するため,遺伝学的検査を用いたもやもや病の早期発見,早期治療介入が有効だと考えられる.今回,脳梗塞に伴う片側のけいれん発作で発症したもやもや病の乳児例を経験した.診断時,母は妊娠中であり,患児の発症にRNF213遺伝子の関与があれば,次子も同様の転帰を辿る可能性が示唆された.遺伝カウンセリングの上,両親と患児の遺伝学的検査を施行したところ,患児からRNF213 p.R4810Kホモ接合,両親からヘテロ接合が確認された.次子にホモ接合が確認された場合,定期的に画像検査を行い,最良の時期に血行再建術を行う方針で,出生後速やかに遺伝学的検査を施行した.次子はRNF213 p.R4810Kヘテロ接合であったため積極的な介入は行なっていない.ゲノム解析の発展は疾病発症予防や疾患特異的治療に大きく寄与し得る.乳児期発症のもやもや病症例を経験した際は,RNF213遺伝子バリアントの確認が次子への対応に有効な場合があると考え報告する.


【症例報告】
■題名
血管奇形を素地として発症し早期外科治療で救命した劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症
■著者
北見赤十字病院小児科
安藤 明子  植田 佑樹  加藤 晶  河野 修  菅沼 隆  三河 誠  佐藤 智信

■キーワード
劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症, 筋肉内血管奇形, 壊死性筋膜炎
■要旨
 生来筋肉内血管奇形を有していた児において,A群β溶血性レンサ球菌感染症を契機に同部位の腫脹と疼痛を来たし,その後劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)を発症した2例を経験した.症例1は6歳女児で,播種性血管内凝固症,敗血症性脳症,壊死性筋膜炎を合併し,左上肢切断を要した.症例2は6歳女児で,敗血症性脳症および軟部組織壊死を合併し,血管奇形部位の摘出術にて救命しえた.2症例とも,血管奇形部位の疼痛や腫脹といった局所症状が発生してから,約40〜50時間という短い時間経過で痙攣や意識障害といった中枢神経症状が出現した.血管奇形を有する児において,発熱や局所の疼痛を伴う軟部組織炎の所見を呈した場合にはSTSSを念頭におき,デブリードマンを含めた早期治療介入を積極的に行う必要がある.


【症例報告】
■題名
ダプトマイシンにより治癒したメチシリン耐性黄色ブドウ球菌による小児急性骨髄炎
■著者
横須賀共済病院小児科1),同 整形外科2),藤沢市民病院臨床検査科3)
大嶋 明1)  田角 悠子1)  北尾 牧子1)  山本 真由1)  林 亜揮子1)  市川 泰広1)  佐藤 美保1)  加藤 塁2)  清水 博之3)  町田 裕之1)

■キーワード
急性骨髄炎, メチシリン耐性黄色ブドウ球菌, ダプトマイシン, 小児
■要旨
 【背景】小児のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)骨髄炎に対するダプトマイシン(DAP)の有効性の報告は少ない.今回バンコマイシン(VCM)に対する薬疹のためDAPを投与したMRSA骨髄炎の男児を経験した.
 【症例】8歳,男児.38℃の発熱と左膝痛,歩行困難,血液培養からグラム陽性球菌が検出されたことからX日に入院した.入院時,体温39.6℃,左下腿頭側に発赤・疼痛を認めた.下腿単純MRI所見から左脛骨急性骨髄炎と診断した.X+2日入院時の血液培養からMRSAが検出された.入院後VCMとクリンダマイシン(CLDM)を投与したが,MRSA菌血症が持続したため,X+7日に骨搔爬術を施行した.その後解熱し再度行った血液培養は陰性化した.しかしX+13日からVCM投与の度に紅斑が拡大したため,薬疹を疑いX+19日にDAPに変更した.VCMに対するDLST(drug lymphocyte stimulation test)が陽性であり同剤の薬疹と診断した.DAPは5週間投与したが骨髄炎の再燃・再発はなく有害事象は認めなかった.ST合剤の内服に変更した後,X+56日に発症前と同程度に歩行可能な状態で退院した.
 【結語】DAP投与後も有害事象は認めず,MRSA骨髄炎の再燃・再発は認めなかった.DAPはMRSA骨髄炎に対して他の抗MRSA薬が投与できない場合には有効な治療選択肢のひとつとなりうる.


【症例報告】
■題名
腸管嚢胞様気腫症による腸重積症
■著者
都立小児総合医療センター総合診療科
三森 宏昭  絹巻 暁子  幡谷 浩史

■キーワード
腸重積症, 腸管嚢胞様気腫症, 酸素療法
■要旨
 右下腹部痛を主訴に来院する小児の中に腸管嚢胞様気腫症(pneumatosis cystoides intestinalis:以下PCI)を先進部とした腸重積が存在する.画像検査から診断に至り,高圧浣腸,高濃度酸素療法で治療をした2例を報告する.症例1は13歳男子,右下腹部痛を主訴に来院し,腹部X線,腹部CT検査で腸重積および壁内気腫を認め,本症と診断した.高圧浣腸で整復した後,PCIに対し酸素療法を施行し気腫の消失を確認し退院した.1年6か月後にPCIおよび腸重積症が再発したが,その際も同様の治療で症状,画像所見ともに改善を認めた.
 症例2は10歳男子,症例1と同様の経過,画像所見から本症と診断し高圧浣腸で整復した.気腫の残存を認めるも無症状であったため無治療経過観察とした.1年5か月後に再度腸重積を発症し,高圧浣腸に加え酸素療法を行い,気腫の消失を確認し退院した.既報ではPCIによる腸重積に対し手術加療を選択する例も散見される.自験例のように消化管穿孔等を伴わない場合は再発例においても高圧浣腸による腸重積整復が可能であり,酸素療法によるPCIの縮小効果を認めた.手術加療は侵襲的な治療であり,自験例のように保存的治療が可能であれば再発例であっても手術加療を回避すべきと考えられた.PCIの長期管理については今後の症例集積が必要と考えられる.


【論策】
■題名
高校生のがん治療における学習支援の重要性
■著者
埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科1),埼玉県立けやき特別支援学校2)
森 麻希子1)  柳 将人1)  磯部 清孝1)  荒川 ゆうき1)  花田 良二1)  涌井 剛2)  三原 和弘2)  康 勝好1)

■キーワード
AYA世代, 小児がん, 高校生, 教育支援
■要旨
 小児がんの治療成績はこの数十年の間に劇的に改善されたことにより,治療中および治療終了後の身体的・社会的な生活の質を重視した支援の重要性が認識されるようになった.AYA世代のがん患者は,思春期前のがん患者と異なり,闘病にあたり心理的・身体的な問題,また社会的問題も多岐にわたることが多い.特に義務教育後の高校生が直面する,入院中に十分な教育が受けられない状況は,その後の社会生活にも大きな影響を与えると考えられる.当センターにおいても高校生に対する学習支援はこれまで実施できていなかったが,2015年4月より併設する特別支援学校(小・中学部)のセンター的機能を活用した高校生の学習支援を開始したため,現在の状況と問題点,今後の展望などについて報告する.入院による学習空白の影響を軽減でき,闘病意欲を維持する可能性がある一方で,特別支援学校教員(小・中学部)の無償の自主的な活動に依存した制度であることから,あくまで学習「支援」であり,「指導」には結びつかない点,学習の進度は本人の意志や各高校の取り組む姿勢に大きく委ねられる点などが課題と考えられた.現在は,埼玉県内の県立高校に在籍する小児がん患者に対しての学習支援体制が,県により制度化されたが,国内における入院中の高校生学習支援は未だ不十分な状況であり,有効な学習指導の実現に向けて,行政へのはたらきかけも継続していく必要がある.

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