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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:17.12.19)

第121巻 第12号/平成29年12月1日
Vol.121, No.12, December 2017

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第120回日本小児科学会学術集会
  教育講演

特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病の診断と治療―ITPの新たな展開―

今泉 益栄  1937
日本小児神経学会推薦総説

小児の後天性脳損傷

栗原 まな  1945
日本小児栄養消化器肝臓学会推薦総説

小児B型慢性肝炎における治療の現状

乾 あやの  1955
原  著
1.

植え込み型除細動器移植小児患者に対する集学的支援の重要性

潮見 祐樹,他  1964
2.

緑膿菌が検出された小児気管切開患者の肺炎における抗緑膿菌薬の使用実態

小川 英輝,他  1969
3.

重症心身障害児(者)の経管栄養に伴う二次性カルニチン欠乏症のリスクと補充経路

上野 知香,他  1975
症例報告
1.

新生児期から無呼吸・嚥下障害を呈した脳幹部低酸素性虚血性障害の乳児例

岩田 啓,他  1981
2.

保育士が自動体外式除細動器で救命できたカテコラミン誘発多形性心室頻拍

田邉 のぞみ,他  1987
3.

不全型川崎病に続発した劇症型急性脳症

山口 玲子,他  1995
4.

虐待との鑑別を要し原発性抗リン脂質抗体症候群が疑われた幼児例

松岡 諒,他  2002
5.

マイコプラズマ感染と解熱剤の関与が考えうるStevens-Johnson症候群再発例

弘田 由紀子,他  2008

編集委員会への手紙

  2013

地方会抄録(熊本・鹿児島・千葉・広島・栃木)

  2014
小児医療提供体制委員会報告
  わが国の小児保健・医療提供体制の整備に向けて

「小児保健・医療提供体制2.0」

  2037

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2017年59巻11号目次

  2042

日本小児保健協会のご案内

  2044

医薬品・医療機器等安全性情報 No. 348

  2045


【原著】
■題名
植え込み型除細動器移植小児患者に対する集学的支援の重要性
■著者
神戸市立医療センター中央市民病院小児科
潮見 祐樹  山川 勝  青田 千恵  宮越 千智  鶴田 悟

■キーワード
植え込み型除細動器, 肥大型心筋症, 心肺停止, 心室細動, 精神的サポート
■要旨
 心室性不整脈リスクに対する植え込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator:ICD)移植は,成人領域では標準治療となりつつあるが小児での実績や経験は未だ乏しい.当院において自動体外式除細動器(AED)治療後心室細動の5例(移植時年齢13〜21,平均15.4歳)にICD移植を実施した.全例後遺症なく社会復帰したが,小児期にICD移植を実施した2例では,不適切作動等デバイスの問題もあり,希死念慮の萌芽を疑わせる抑うつ状態,運動志向に相反する運動制限との葛藤,自己否定などを呈し不登校に陥った.青年期以降にICD移植を実施した1例では疾患やデバイス治療受容困難,女性として結婚や挙児希望に関連する不安を訴えた.しかし3例ともに医学的管理の改善や多職種医療スタッフの心理的支援および学校関係者への指導による環境の適正化などで復学や就労継続が可能であった.今後小児でもICD移植件数の増加が予想されるが,現状ではこれら若年者特有の問題への対応策は十分とは言い難く,医学,臨床工学,心理および教育的側面からの包括的な支援が望まれる.


【原著】
■題名
緑膿菌が検出された小児気管切開患者の肺炎における抗緑膿菌薬の使用実態
■著者
国立研究開発法人国立成育医療研究センター感染症科1),同 総合診療科2)
小川 英輝1)  庄司 健介1)  水口 浩一2)  窪田 満2)  宮入 烈1)

■キーワード
重症心身障害児, 気管切開, 緑膿菌, 肺炎
■要旨
 小児の気管切開患者は肺炎で入院加療を要することが多いが,起因菌の判断は難しく,気管内吸引物から緑膿菌が検出された場合は,長期の広域抗菌薬治療が行われることも多い.当院において,緑膿菌が検出された小児気管切開患者の肺炎に対する抗緑膿菌抗菌薬の使用実態を調査し,その必要性について検討することを目的とした.当院外来で気管切開の指導管理が行われた症例を母集団として,そのうち2012年4月〜2015年8月に肺炎として抗菌薬治療が行われた0歳〜18歳の患者を対象とした.患者背景や臨床経過などについて,電子診療録を用いて後方視的に検討した.対象期間中に肺炎と診断された症例は49例で,年齢の中央値は6歳であった.気管内吸引物の培養では,38例(78%)で緑膿菌が検出された.38例のうち33例は抗緑膿菌活性のない抗菌薬で治療が開始され,29例(88%)は抗菌薬を変更せずに治療を完遂した.抗菌薬を変更した4例も最終的には治癒し,死亡例はなかった.気管内吸引物のグラム染色でグラム陰性桿菌が検鏡されず,培養検査で緑膿菌が検出された16例のうち,15例は抗緑膿菌活性のない抗菌薬で治療が開始され,抗菌薬変更を要した症例は1例のみであった.小児気管切開患者の肺炎では,緑膿菌が検出された場合でも起因菌でない可能性がある.また,気管内吸引物のグラム染色は,初期治療抗菌薬を決定する一助になる可能性がある.


【原著】
■題名
重症心身障害児(者)の経管栄養に伴う二次性カルニチン欠乏症のリスクと補充経路
■著者
国立病院機構東佐賀病院小児科1),久留米大学医学部GC/MS医学応用研究施設2)
上野 知香1)  今吉 美代子1)  横田 吾郎1)  沖 眞一郎1)  荒牧 修一1)  田代 恭子2)  猪口 隆洋2)  山本 修一1)

■キーワード
カルニチン欠乏症, 重症心身障害児(者), 経管栄養
■要旨
 【背景】経管栄養は二次性カルニチン(Car)欠乏症のリスクとされる.Car欠乏症はL-Car製剤による治療が可能だが,投与経路の違いによる生体への影響は明らかではない.
 【目的】重症心身障害児(者)(以下,重症児(者))の経管栄養に伴うCar欠乏のリスクを確認し,さらにL-Carを経管投与した時,胃内投与,空腸内投与のいずれがより適切か明らかにする.
 【方法】東佐賀病院に入院中の重症児(者)で,食事を経口摂取する経口群9例とCar無添加経腸栄養剤を長期使用する経管群9例の空腹時血中遊離Car濃度を酵素サイクリング法にて測定した.さらに経管群(胃投与群4例,空腸投与群5例)にL-Car 30 mg/kgを単回投与し,その後の血中遊離Car濃度を測定した.
 【結果】経口群の血中遊離Car濃度は基準値(36〜74 μmol/L)をほぼ満たす(中央値37.1 μmol/L)が,経管群では全例で基準値を下回った(中央値21.4 μmol/L).経管群9例中8例でL-Car単回投与により血中遊離Car濃度は基準値内へ上昇した.胃投与群と空腸投与群のL-Car最高血中濃度,最高血中濃度到達時間,投与前後の血中濃度の変化量に有意差はなかった.
 【結論】経管栄養に依存する重症児(者)でCar欠乏症のリスクが高いことを改めて確認した.経管でのCar補充は,胃内投与,空腸内投与のいずれも同様に有効である.


【症例報告】
■題名
新生児期から無呼吸・嚥下障害を呈した脳幹部低酸素性虚血性障害の乳児例
■著者
東京都立墨東病院新生児科1),東京医科歯科大学発生発達病態学分野2)
岩田 啓1)  馬場 信平2)  滝 敦子2)  森山 剣光2)  伊藤 まりえ1)  小寺 美咲1)  青木 龍2)  大森 意索1)  清水 光政1)  森尾 友宏2)

■キーワード
低酸素性虚血性脳障害, 新生児仮死, 無呼吸, 嚥下障害, 脳幹機能障害
■要旨
 周産期の呼吸循環不全の既往があり,無呼吸と嚥下障害を主症状とした脳幹部低酸素性虚血性障害の5か月女児について報告する.児はApgar score 1分値6点,5分値7点で出生した.臍帯動脈血pHは7.07であった.出生後から発作性の無呼吸・嚥下障害が遷延し,しばしば徐脈となり蘇生処置を要した.原始反射消失の遅延,脳幹反射の減弱を認め,頸定は遅れ5か月で不十分ながら寝返りを獲得するなど運動発達の遅滞が見られた.電気生理学的検査では瞬目反射が消失していた.頭部MRIでは橋・延髄移行部背側にT2延長病変を認め,低酸素性虚血性脳障害による信号変化として矛盾しない所見であった.脳幹部が中心に障害される低酸素性虚血性脳障害の報告は少ないが,脳幹背側部は傍正中動脈と長回旋動脈の分水嶺領域にあたり低灌流に対して脆弱性を持つことが知られており,本症例では周産期の呼吸循環不全を契機として同部位が障害を受けたと推察された.新生児期・乳児期の脳幹はその構造が小さいため,定型的なMRI撮影法では病変が検出できないことがある.このため周産期の呼吸循環不全の既往があり無呼吸・嚥下障害といった症状を認める児では,仮死の重症度に関わらず脳幹の機能を評価し,同部位に焦点を当てた画像評価を行うことが原因診断において重要であると考えられた.


【症例報告】
■題名
保育士が自動体外式除細動器で救命できたカテコラミン誘発多形性心室頻拍
■著者
熊本赤十字病院小児科1),熊本市民病院小児循環器内科2)
田邉 のぞみ1)  西原 卓宏1)  小原 隆史1)  山下 貴大1)  三浦 義文1)  武藤 雄一郎1)  小松 なぎさ1)  平井 克樹1)  右田 昌宏1)  八浪 浩一2)

■キーワード
カテコラミン誘発多形性心室頻拍, 自動体外式除細動器, 保育所, 上室性不整脈, 発達遅滞
■要旨
 カテコラミン誘発多形性心室頻拍(catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia:CPVT)は,遺伝性不整脈の一つで,心停止を初回症状とすることも多い.今回我々は保育所での水遊び中に心室細動となったCPVTの5歳男児例を経験した.保育士が速やかに心肺蘇生を開始し,設置してあった自動体外式除細動器(automated external defibrillator:AED)を使用した.救急隊到着時には洞調律に復帰しており当院に搬送となった.当院到着時の心電図で,二方向性心室頻拍,心房細動の所見を認めた.CPVTの診断にてプロプラノロール,フレカイニド投与を行い,不整脈は軽快した.神経学的に後遺症を認めず,第22病日に退院となった.後日,リアノジン受容体遺伝子の新規変異が確認された.本症例は入院後に多様な上室性不整脈を認めたが,乳児期より上室性期外収縮の頻発を指摘されていた.また精神運動発達遅滞を以前より指摘されておりリアノジン受容体遺伝子変異との関連も考えられた.
 保育所・幼稚園におけるAEDの設置に関してはガイドラインでも具体的な記載がなく,自治体や施設の判断に委ねられている.自治体により差はあるが,公立/私立,認可/認可外での設置率には違いがある.本症例を経験して,全ての保育所・幼稚園でのAED設置が望ましいと考えた.


【症例報告】
■題名
不全型川崎病に続発した劇症型急性脳症
■著者
名古屋第二赤十字病院小児科1),城西こどもクリニック2)
山口 玲子1)  周戸 優作1)  安藤 直樹2)  神田 康司1)  岩佐 充二1)

■キーワード
川崎病, 急性脳症, 頭部MRI, サイトカイン
■要旨
 症例は3歳女児.発熱と右頸部リンパ節腫脹を主訴に来院,第3病日に入院し抗菌薬治療を開始した.第4病日の頸部造影CTで咽頭後壁に低吸収域を認め咽後膿瘍と判断し内科的治療を継続した.第9病日に再検したCTでは低吸収域は殆ど消失し,炎症反応ともに改善を認めた.第13病日より38度台の発熱が出現し,川崎病の主症状4項目を認めた.第16病日未明に痙攣が出現,頭部CTでは視床や皮質下白質に低吸収域を認めた.頭部MRIでは,T2強調像とFLAIRにおいて脳幹,両側視床や尾状核,白質にびまん性の高信号域を認めた.急性脳症と判断し速やかに治療を開始したが,12時間後には瞳孔散大と尿量増加を認め,CTでは著明な脳浮腫と脳幹腫脹の増悪を認めた.痙攣前後より肝逸脱酵素の上昇を認め,全身の血管炎に伴う脳症と考え,dexamethasone palmitateを投与,加療継続するも改善なく人工呼吸器依存の状態となった.脳波は平坦化し,聴性脳幹反応でも反応は認められなかった.本症例は川崎病症状に続発し,血管炎を主体として発症した急性脳症と考えられるが,痙攣発症後の急激な経過と画像所見は非典型的であった.川崎病に合併する脳症は非常に稀ではあるが,本症例の様に非常に重篤な経過を辿る症例がある.


【症例報告】
■題名
虐待との鑑別を要し原発性抗リン脂質抗体症候群が疑われた幼児例
■著者
埼玉県立小児医療センター総合診療科1),同 血液・腫瘍科2),東京慈恵会医科大学小児科学講座3)
松岡 諒1)3)  青木 孝浩2)  石川 悟1)3)  原 朋子1)  南部 隆亮1)  萩原 真一郎1)  康 勝好2)  鍵本 聖一1)  井田 博幸3)

■キーワード
抗リン脂質抗体症候群, 虐待, ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体, ヒトメタニューモウィルス
■要旨
 【緒言】小児の抗リン脂質抗体症候群(APS)の中には感染症に惹起されるAPSが存在し,出血・血栓症状を呈することが知られている.今回,繰り返す紫斑を主訴に受診し,当初虐待が疑われたが最終的に原発性APSと考えられた症例を経験した.
 【症例】1歳5か月男児.入院3週間前にヒトメタニューモウィルス感染症に罹患した.入院9日前に突然の両大腿部紫斑と腫脹を主訴に受診し血液検査(凝固はPT・APTTのみ検査)に異常なく,紫斑と腫脹は速やかに消失した.しかし再び両大腿の紫斑と腫脹を認め,繰り返す原因不明の紫斑のため虐待も疑い入院とした.初診時の検体を再検したところ,FDP 1,012 μg/dl,D-Dimer 533 ng/dlと高値であり,抗カルジオリピン抗体(aCL)-IgG・ホスファチジルセリン依存性抗プロトロンビン抗体(aPS/PT)が陽性であった.紫斑は速やかに改善し,凝固線溶系も1か月後に正常化した.aPS/PTは初発から7か月後に陰性化し,SLE症状など認めていない.初発時より2年経過し,aCL-IgGは依然陽性であるため,原発性APSの児が感染により出血症状が惹起されたと考えられた.
 【結語】小児では感染症により一過性に血栓・出血症状が惹起されるAPSが存在する.原因不明の紫斑を認めた時,虐待も鑑別に挙げ,血栓症状がなくてもAPSを念頭に置き,血栓性素因についても確認することは重要である.


【症例報告】
■題名
マイコプラズマ感染と解熱剤の関与が考えうるStevens-Johnson症候群再発例
■著者
東京北医療センター小児科
弘田 由紀子  中谷 夏織  田中 希央  中川 竜一  清原 鋼二

■キーワード
Stevens-Johnson症候群, マイコプラズマ, アセトアミノフェン, 再発
■要旨
 症例は13歳男児.入院3日前に発熱があり,入院2日前咳嗽が出現したため,市販のアセトアミノフェン含有の総合感冒薬を内服した.入院前日,嘔吐,下痢が出現し,発熱が続いたためアセトアミノフェンを内服した.翌日,眼球結膜充血,口唇・口腔内のびらんが出現したため入院した.3年前,同様の症状からStevens-Johnson症候群(以下,SJS)が疑われプレドニゾロン(以下,PSL)投与で軽快し,薬剤添加リンパ球幼弱化反応(以下,DLST)でアセトアミノフェンが疑陽性だった.前回の経過からSJSと診断し,PSL 1.5 mg/kg/日静注を開始した.入院2日目,下肢の小紅斑,陰部びらんが出現,入院4日目,眼球結膜の偽膜を認め,口腔内びらんのため経口摂取困難となり,経鼻胃管での経管栄養を行った.翌日解熱,口腔内びらんも徐々に改善し,PSLを漸減して入院28日目PSL 0.5 mg/kg/日内服で退院した.マイコプラズマ抗体価(PA法)は160倍から1,280倍に上昇,DLSTではアセトアミノフェンが陽性であり,マイコプラズマ感染とアセトアミノフェンが関与したSJS再発の可能性が考えられた.

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