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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:16.8.18)

第120巻 第8号/平成28年8月1日
Vol.120, No.8, August 2016

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第119回日本小児科学会学術集会
  日本小児科学会賞受賞記念講演

先天代謝異常症の分子遺伝学的研究―尿素サイクル異常症,メープルシロップ尿症について―

松田 一郎  1175
日本小児腎臓病学会推薦総説

ネフローゼ症候群の発症機序

張田 豊  1186
日本小児臨床薬理学会推薦総説

小児を対象とする臨床研究において求められる倫理的配慮の原則

松井 健志,他  1195
原  著
1.

小児特発性肺動脈性肺高血圧症17例の治療経過と予後

宗内 淳,他  1206
2.

カルニチン欠乏症合併重症心身障害児(者)へのL-カルニチン投与のコホート研究

緒方 朋実,他  1214
3.

原発性免疫不全症における造血幹細胞移植前感染症のFDG-PETによる評価

雪澤 緑,他  1220
症例報告
1.

川崎病回復期に著明な心膜液貯留をきたした2例

田川 晃司,他  1227
2.

中枢神経系感染を契機に発見された腰仙部先天性皮膚洞の3例

大塚 雅和,他  1234
論  策

Turner症候群本人に聞く初回の不妊事実の説明に関する調査

福間 真実,他  1240

地方会抄録(東海)

  1247
日本小児科学会新生児委員会報告

2010年に出生した超低出生体重児の死亡率

  1254
日本小児連絡協議会治療用ミルク安定供給委員会報告

第2回治療用ミルク安定供給のためのワークショップ

  1265

第11回思春期医学臨床講習会報告

  1273

第3回乳幼児健診を中心とする小児科医のための研修会Part II報告

  1274

日本小児科学会理事会議事要録

  1275

日本小児科学会分科会一覧

  1277

日本小児科学会分科会活動状況

  1278

日本小児科学会英文誌 Pediatrics International 2016年58巻7号7月号目次

  1290

日本小児保健協会のご案内

  1292

医薬品・医療機器等安全性情報 No.334

  1293


【原著】
■題名
小児特発性肺動脈性肺高血圧症17例の治療経過と予後
■著者
地域医療機能推進機構九州病院(旧 九州厚生年金病院)小児科
宗内 淳  寺師 英子  倉岡 彩子  竹中 聡  杉谷 雄一郎  長友 雄作  渡邉 まみ江  城尾 邦隆

■キーワード
特発性肺動脈性肺高血圧, 予後, プロスタサイクリン, エンドセリン受容体拮抗薬, ホスホジエステラーゼ阻害薬
■要旨
 肺高血圧治療であるプロスタサイクリン(PGI2),エンドセリン受容体拮抗薬(ERA),ホスホジエステラーゼ-5阻害薬(PDE-5i)導入による,本邦の小児特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)の予後変遷に関する知見は乏しく,IPAH自験17例の治療・予後を後方視的に検討した.診断時年齢中央値8.4(4.4〜11.2)歳,学校心臓検診診断例29%,診断時肺動脈平均圧中央値65(45〜79)mmHgであった.治療開始薬は経口PGI2 4例,ERA 4例,PDE-5i 3例で,最終的に肺血管拡張薬2剤以上投与例は10例(58%)だった.観察期間中央値55(24〜108)か月中死亡8例で,1年,5年および10年生存率はそれぞれ88%,68%および59%であった.診断時WHO肺高血圧症機能分類III度以上(ハザード比293:95%信頼区間2.8〜30,826,p<0.05)と肺血管拡張薬2種類以上の併用(ハザード比0.03:95%信頼区間0.0017〜0.68,p<0.05)が生存率へ影響していた.ERA使用開始された2004年以前診断の9例(前期群)とそれ以降診断の8例(後期群)を比較すると1年および3年生存率はそれぞれ78%と100%,65%と88%であったが,生存率に統計学的有意差はなかった(p=0.48),後期群においてWHO肺高血圧症機能分類I/II度が多かった.臨床症状が軽症のうちに治療を開始することと,肺血管拡張薬多剤併用することが生存率改善に関連していると考えた.


【原著】
■題名
カルニチン欠乏症合併重症心身障害児(者)へのL-カルニチン投与のコホート研究
■著者
群馬大学大学院医学系研究科小児科1),社会福祉法人希望の家療育病院2),はんな・さわらび療育園3),群馬整肢療護園4),社会福祉法人希望の家付属北関東アレルギー研究所5)
緒方 朋実1)  村松 一洋1)  田中 宏子2)  金子 広司3)  小和瀬 貴律4)  澤浦 法子1)  羽鳥 麗子1)  倉田 加奈子1)  大津 義晃1)  森川 昭廣5)  荒川 浩一1)

■キーワード
カルニチン, てんかん, 経管栄養, アンモニア, バルプロ酸
■要旨
 【目的】重症心身障害児・者では基礎疾患の重症度,嚥下機能や呼吸状態などの合併症により長期経管栄養管理を行っていることが多い.経腸栄養剤に含有されるカルニチン量の不足,患者の体格,抗菌剤・抗てんかん薬の内服などの条件からカルニチン欠乏症のリスクが高く,治療としてL-カルニチン製剤が用いられる.L-カルニチン製剤投与による身体への影響を検討する.【方法】長期経管栄養管理実施中で,抗てんかん薬であるバルプロ酸(VPA)を内服しているカルニチン欠乏症の重症心身障害児・者に対し,6か月間にわたりL-カルニチン製剤を投与し,カルニチン及び他の検査所見の変化を調査した.【結果】L-カルニチン製剤投与によりカルニチン値は速やかに正常化し,高アンモニア血症も同時に改善した.有害事象は発生せず,その他の血液データにも影響は認めなかった.【結論】長期経管栄養管理実施中の重症心身障害児・者では定期的なカルニチン値測定とカルニチン欠乏症への対策が必要である.そのうえでカルニチン欠乏症に対するL-カルニチン製剤は安全な薬剤と言える.


【原著】
■題名
原発性免疫不全症における造血幹細胞移植前感染症のFDG-PETによる評価
■著者
横浜市立大学小児科学講座
雪澤 緑  柳町 昌克  佐々木 康二  田野島 玲大  加藤 宏美  横須賀 とも子  梶原 良介  田中 文子  後藤 裕明  横田 俊平

■キーワード
原発性免疫不全症候群, 造血幹細胞移植, FDG-PET, PET/CT
■要旨
 原発性免疫不全症候群の根治治療として造血幹細胞移植が確立されつつあるが,難治性感染症病変の残存は移植時の重症感染症など合併症のリスク因子となる.近年,炎症性疾患の診断において陽電子放出断層撮影(positron emission tomography:PET)の有用性が報告されており,当院では移植前感染症検索においてFDG-PET,PET/CTを利用している.2002年から2014年までに原発性免疫不全症11例(慢性肉芽腫症9例,高IgE症候群2例)に対し移植前感染症の評価に施行したFDG-PET,PET/CTの有用性について検討した.他画像検査から検索し得なかった感染巣をPETにより発見し得た症例や,既存の感染巣の活動性を評価できたことにより,抗菌薬の変更や移植時期を延期した症例,現在の治療効果の判定や感染巣の活動性の評価に役立った症例など,PET検査は11症例中10例の治療方針に有益な情報をもたらし,より安全に移植を実施し得た.FDG-PET,PET/CTは造血幹細胞移植前の感染症の評価に有用である.


【症例報告】
■題名
川崎病回復期に著明な心膜液貯留をきたした2例
■著者
滋賀医科大学小児科1),済生会滋賀県病院小児科2),近江八幡市立総合医療センター小児科3)
田川 晃司1)  宗村 純平1)  狹川 浩規1)  國津 智彬2)  佐藤 彩2)  中井 真由美2)  龍神 布紀子2)  星野 真介1)  古川 央樹1)  伊藤 英介2)  岡本 暢彦3)  竹内 義博1)

■キーワード
川崎病, 心膜液貯留, CRP, 心臓超音波検査
■要旨
 川崎病回復期という稀な時期に著明な心膜液貯留をきたした2例を経験したので報告する.症例1は8か月,女児.川崎病の診断下に免疫グロブリン(以下IVIG)とアスピリン(以下ASA)経口投与にて速やかに解熱し,心膜液貯留や冠動脈拡張を認めず,第15病日に退院となった.退院時CRPは1.43 mg/dLであった.第30病日の定期検診で軽度の頻脈を認め,心臓超音波検査で全周性に心膜液の貯留を認めた.プレドニゾロン(以下PSL)とASAの経口投与で心膜液は速やかに減少した.症例2は1歳1か月,男児.川崎病の診断下にIVIGとフルルビプロフェンを経口投与され速やかに解熱し,心膜液貯留や冠動脈拡張を認めず,第11病日に退院となった.退院時CRPは0.75 mg/dLであった.第27病日の定期検診で軽度食欲低下と頻脈を認め,心臓超音波検査で全周性に心膜液の貯留を認めた.PSLとASAの経口投与で心膜液は速やかに減少した.回復期の心膜液貯留では頻脈や食欲低下など軽微な症状がみられるほかに,無症状で定期的な外来受診で偶然発見される症例も多い.また,乳児例で川崎病急性期以降もCRPが陰性化せず心膜液が貯留した報告例もあり,そのような症例では心不全症状の有無を注意深く観察するとともに,罹患後2か月までは心臓超音波検査や心電図検査を行い,心膜液貯留の除外をする必要があると考えられた.


【症例報告】
■題名
中枢神経系感染を契機に発見された腰仙部先天性皮膚洞の3例
■著者
長崎大学病院小児科
大塚 雅和  渡邊 嘉章  渡邊 聖子  里 龍晴  伊達木 澄人  森内 浩幸

■キーワード
先天性皮膚洞, 脊髄膿瘍, 細菌性髄膜炎
■要旨
 腰仙部正中部の皮膚陥凹は,乳幼児健診や一般小児科臨床の場で,比較的よく経験される.多くは盲端であり病的意義を持たないが,一部に硬膜下腔と連続し,細菌性髄膜炎や脊髄膿瘍,脳膿瘍といった中枢神経系感染のリスクとなる先天性皮膚洞が含まれているため,それを同定することが重要である.
 我々は細菌性髄膜炎や脊髄膿瘍の発症を契機に発見された腰仙部先天性皮膚洞の3例を経験した.抗菌薬投与及び先天性皮膚洞・膿瘍摘出術を行い1例は後遺症なく治癒したが,2例は膀胱直腸障害を残した.感染症発症から摘出術まで時間を要し,膿瘍が形成されたことが膀胱直腸障害を残した主な要因と考えられた.
 過去の研究から,腰仙部正中部皮膚陥凹の肛門からの距離,陥凹の数と大きさ(直径),発毛・母斑・血管腫・色素沈着などの皮膚異常の有無を評価することによって,高リスクの先天性皮膚洞を同定することができると報告されており,我々の症例も全てそれに合致するものだった.先天性皮膚洞に起因する神経学的後遺症を防ぐためには,乳幼児健診にかかわる医療関係者への啓発と,疑い例に対する早期の診断,積極的な外科的治療が必要である.
 小児用肺炎球菌ワクチンやHibワクチンが普及した現在,細菌性髄膜炎や脊髄膿瘍,脳膿瘍といった中枢神経系感染症に遭遇した場合には,先天性皮膚洞を含めた基礎疾患の存在を疑って精査を行うことが重要である.


【論策】
■題名
Turner症候群本人に聞く初回の不妊事実の説明に関する調査
■著者
東京都立小児総合医療センター内分泌・代謝科
福間 真実  後藤 正博  長谷川 行洋

■キーワード
Turner症候群, 不妊, アンケート
■要旨
 【背景】Turner症候群は高頻度に不妊を伴う染色体異常症である.患者本人へ初めて行う不妊の事実の説明(以下,説明)では個別化,慎重さが要求される.現在まで,この説明に関して本人を対象とした調査,報告はない.【目的】説明を受けた時期および方法について実態と希望を調査すること.【方法と結果】不妊の事実について理解している18歳以上の本人を対象に,説明についてアンケート調査を行った.外来通院患者と患者の会に参加した他院患者の計31名を対象とした.説明の時期と説明者について実態,希望を多肢選択により調査した.また,説明方法に対して自由記載による意見を得た.時期は実態,希望ともに「高校生」が最も多かった.タイミングは実態が「診断時」33%,「女性ホルモン開始時」30%,希望は後者が50%であった.「知らないままがよかった」という希望者は皆無だった.説明者は「小児科医」が実態52%,希望81%であった.自由記載欄では,さまざまな意見,時に逆の意見が述べられた.例えば,説明時の母の同席には,肯定的意見の一方,「気兼ねして質問しにくかった」とする意見があった.家族等による説明後のサポートを望む声があった.【考察】対象数が限られた検討だが,本人の意見は示唆深く,今後説明する上で参考になる.説明は医師と両親が本人の性格,特性を踏まえた上で個別に対応を検討する必要がある.

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