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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:15.8.17)

第119巻 第8号/平成27年8月1日
Vol.119, No.8, August 2015

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原  著
1.

2013年に流行した手足口病の疫学的・臨床的特徴

松岡 高史,他  1219
2.

小児てんかん重積状態からみる小児救急医療体制の現状と問題点

菊池 健二郎,他  1226
症例報告
1.

強心薬併用極少量β遮断薬の再導入が奏効した拡張型心筋症の乳児例

鈴木 康夫,他  1233
2.

筋反復刺激試験が診断に有用であった乳児ボツリヌス症

吉川 聡介,他  1239
3.

生着不全に対し骨髄非破壊的前処置による再臍帯血移植を施行した高IgM症候群

塙 淳美,他  1244
4.

遺伝子変異を特定した小児期発症偽性低アルドステロン症II型の2例

永原 敬子,他  1250
5.

術前に虫垂炎の診断が可能であった新生児例

宮沢 啓貴,他  1257
論  策

6歳未満の乳幼児における時間帯別受診比率の推移

江原 朗  1262

地方会抄録(京都・高知・東京・群馬・福岡・熊本・静岡・北陸・石川・沖縄・青森)

  1269

日本小児科学会理事会議事要録

  1323

日本小児科学会分科会一覧

  1329

日本小児科学会分科会活動状況

  1330

雑報

  1339


【原著】
■題名
2013年に流行した手足口病の疫学的・臨床的特徴
■著者
松岡小児科医院1),信州大学医学部小児医学教室2)
松岡 高史1)  松岡 明子1)  松岡 伊津夫1)  稲葉 雄二2)

■キーワード
手足口病, コクサッキーウイルスA群6型, エンテロウイルス71型, 発疹症, 爪甲脱落
■要旨
 2013年夏,長野県松本市周辺では2年ぶりに手足口病が大流行した.当院では第25週(6/17〜6/23)から流行が始まり,第28週(7/8〜7/14)のピークを経て,第52週までに273名が受診した.シーズン途中から手足口病の疫学的および臨床的特徴が変化したため,原因ウイルスを検索したところ,エンテロウイルス71型(EV71)の単独流行からやがてピークを向かえ,その後はEV71に加えてコクサッキーウイルスA群6型(CA6)が同時に検出されるようになり,結局両者による混合流行となった.また,両ウイルスによる手足口病を比較したところ,CA6による手足口病はEV71よりも,罹患年齢が低く,発熱を伴いやすく,発疹は水疱が大きめで,顔面や体幹など四肢以外の広範囲に認めた.さらに,爪甲脱落など爪の変化も多くみられ,明らかな疫学的臨床的相違を認めた.
 新たな手足口病の出現は,エンテロウイルスの持つ多様性を再認識する貴重な機会となったが,日常診療においては集団における感染防御対策を考える上で考慮すべき必要性が示唆された.


【原著】
■題名
小児てんかん重積状態からみる小児救急医療体制の現状と問題点
■著者
埼玉県立小児医療センター神経科1),東京慈恵会医科大学小児科学講座2),埼玉県立小児医療センター保健発達部3)
菊池 健二郎1)2)  浜野 晋一郎1)  樋渡 えりか1)  平田 佑子1)2)  大場 温子1)  熊谷 勇治1)  小一原 玲子1)  田中 学3)  南谷 幹之1)  井田 博幸2)

■キーワード
医師不足, 急性脳炎脳症, けいれん重積, 熱性けいれん, 搬送時間
■要旨
 【目的】小児てんかん重積状態(以下,SE)の救急診療の現状と問題点を調査した.
 【方法】2011年4月1日から2013年3月31日までに,SEで救急受診した生後1か月から18歳未満の小児を対象とし,年齢,原因疾患,発作型,SE持続時間,救急車による搬送時間について診療録を後方視的に検討した.
 【結果】156機会(男児:女児=69機会:87機会)において,発症時年齢は中央値2.9歳(0.3〜16.2歳)であった.原因疾患では,てんかん(76機会,48.7%)が最多で,熱性けいれん(54機会,34.6%),急性脳炎脳症(18機会,11.5%),その他(8機会,5.1%)の順であった.SE持続時間は,中央値60分(30〜5,760分)で,60分を越えたのは56機会(35.9%)であった.全般発作が83機会(53.2%),部分発作73機会(46.8%)で,発作持続時間が60分を越えたのは全般発作20機会に対し,部分発作が36機会あり有意に多かった(p=0.001).救急車による搬送症例100機会では,救急車要請の入電から当センター収容までの搬送所要時間は,41.1±14.9分(平均±標準偏差)で全国平均38.7分とほぼ同様であった.
 【考察】迅速かつ適切な初期治療を要する小児SEの救急搬送に約40分かかっており,小児救急医療体制の整備が急務であり,本邦でも病院前治療の確立が重要であると考えられた.


【症例報告】
■題名
強心薬併用極少量β遮断薬の再導入が奏効した拡張型心筋症の乳児例
■著者
山口大学大学院医学系研究科小児科学分野1),国立循環器病研究センター小児循環器診療部2)
鈴木 康夫1)  岡田 清吾1)  竹川 剛史1)  長谷川 俊史1)  大賀 正一1)  津田 悦子2)

■キーワード
拡張型心筋症, β遮断薬, ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド, ホスホジエステラーゼIII阻害薬
■要旨
 特発性拡張型心筋症は,重症心不全を呈する予後不良な疾患である.内科的治療として,アンジオテンシン変換酵素阻害薬やβ遮断薬により予後が改善した.しかし,小児重症心不全におけるβ遮断薬の導入法は確立していない.今回,移植適応と考えられた重症拡張型心筋症乳児に強心薬併用下に極少量β遮断薬を再導入して安定した状態を維持することができた.
 生後6か月時,心不全を発症し治療にて改善傾向であったが,1歳2か月時急性増悪した.移植認定施設への転院を考慮したが,家族背景の問題があり困難であった.強心薬を追加し,カルベジロールを一時中止した.その後,ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチドが低下し症状が安定化した時点から,カルベジロールを極少量より再導入した.長期間かけ緩徐に増量したところ,心不全症状,左心室駆出率が改善した.現在4歳でNew York Heart Association分類1度と安定している.
 強心薬併用極少量β遮断薬の導入は,乳児重症心不全に対する効果的薬物療法のひとつと考えられた.


【症例報告】
■題名
筋反復刺激試験が診断に有用であった乳児ボツリヌス症
■著者
大阪労災病院小児科1),大阪医科大学小児科2)
吉川 聡介1)  宮崎 敬士1)  川村 尚久1)  玉井 浩2)

■キーワード
乳児ボツリヌス症, 神経筋接合部疾患, 筋反復刺激試験, 便秘
■要旨
 今回我々は本邦31例目となる乳児ボツリヌス症の6か月男児を経験した.入院1週間前からの便秘・哺乳不良・活動性の低下より発症し,当科入院となった.入院時,全身の弛緩性麻痺,眼瞼下垂を認め,四肢腱反射は消失していた.血液検査・髄液検査・頭部画像検査・脳波に異常はなかった.入院5日目,神経筋接合部疾患を疑い,麻痺筋に対する3 Hz/min反復刺激試験を施行したところwaning現象が認められた.まず全身型重症筋無力症を疑い,ステロイドパルス療法を開始した.しかし症状の改善は認められず,痰による気道閉塞から呼吸停止となり,ICU転棟,気管内挿管および人工呼吸器管理となった.ステロイドパルス療法を再度施行したが症状の改善を認めなかったため,次に神経筋接合部疾患としてボツリヌス症を疑い,入院21日目に便中ボツリヌス毒素陽性を確認した.以後対症療法で経過観察を行い,入院32日目に抜管,75日目退院となった.母親が発症約1週間前より毎日蜂蜜を喫食していたが,当該蜂蜜からはボツリヌス菌芽胞は検出されず,感染源は特定できなかった.乳児ボツリヌス症の診断に対して,筋反復刺激試験は一助となりうることが示唆された.


【症例報告】
■題名
生着不全に対し骨髄非破壊的前処置による再臍帯血移植を施行した高IgM症候群
■著者
東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児病態学分野
塙 淳美  笹原 洋二  中山 東城  森谷 邦彦  渡辺 祐子  南條 由佳  入江 正寛  新妻 秀剛  力石 健  呉 繁夫

■キーワード
高IgM症候群, 臍帯血移植, CD40リガンド欠損症, 骨髄非破壊的前処置, 自己免疫疾患
■要旨
 高IgM症候群では骨髄非破壊的前処置(reduced intensity conditioning;RIC)による骨髄移植が近年報告されている.今回我々は1回目のRICによる臍帯血移植で生着不全となったが,RICによる2回目の臍帯血移植後に生着し救済できた高IgM症候群I型(CD40リガンド欠損症)の1例を経験した.症例は生後4か月時に上記と診断されγグロブリン補充療法を施行していた.9歳時に合併した自己免疫疾患の症状をステロイドで軽減後,根治を目的にfludarabine,melphalan,低線量全身放射線照射(low-dose TBI)にてRICを行い1回目の臍帯血移植を施行したが,一次性生着不全となった.全身状態と骨髄の回復を待ち,1回目の移植から19か月後にfludarabine,cyclophosphamide,low-dose TBIのRICによる2回目の臍帯血移植を施行し,生着と完全ドナータイプを確認した.本症例では初回のRICによる臍帯血移植後に生着不全を来したが,再度RICによる臍帯血移植を行い救済し得た.その要因として2回目の移植前は自己免疫疾患の合併とドナー臍帯血に対する抗HLA抗体を認めなかったこと,2回目のRICでは初回よりも拒絶能が低下した可能性が考えられた.高IgM症候群の移植では,強度を保ちつつ晩期合併症を抑え得る前処置法の確立が今後必要である.


【症例報告】
■題名
遺伝子変異を特定した小児期発症偽性低アルドステロン症II型の2例
■著者
昭和大学医学部小児科学講座1),東京都立小児総合医療センター内分泌代謝科2),東京医科歯科大学腎臓内科3)
永原 敬子1)  阿部 祥英1)  北條 彰1)  土橋 一重1)  中村 由恵2)  後藤 正博2)  森山 宗子3)  磯部 清志3)  内田 信一3)  長谷川 行洋2)  板橋 家頭夫1)

■キーワード
偽性低アルドステロン症II型, 高K血症, 代謝性アシドーシス, Cullin3, Kelch-like3
■要旨
 偽性低アルドステロン症II型(PHAII)は遠位尿細管のNa-Cl共輸送体活性が異常亢進し,高K血性高Cl血性代謝性アシドーシスと高血圧を呈する疾患で責任遺伝子はWith No K[lysine](WNK1WNK4),Kelch-like 3(KLHL3),Cullin3(CUL3)の4つである.遺伝子変異が特定された小児期発症の報告はこれまで2例のみで,新規の2例を経験したので報告する.
 【自験例1】6歳の男児.乳児期から低身長で就学時に高K血性高Cl血性代謝性アシドーシス,低身長,高血圧,多数のう歯を認めた.家族の遺伝子解析では患児のみCUL3に変異を認めた.【自験例2】21歳の女性.3歳時に父親がPHAIIと診断され,本人の高K血性高Cl血性代謝性アシドーシスが判明した.身体所見に異常なく,成人後の遺伝子解析により,患者と父親にKLHL3の変異を認めた.2症例とも血中レニン活性,アルドステロン濃度は正常で各種負荷試験を行い,PHAIIと診断した.塩分制限とサイアザイド系利尿薬内服で経過良好である.【結語】高K血性高Cl血性代謝性アシドーシスを認める場合には本疾患を鑑別する必要がある.代謝性アシドーシスによる合併症を軽減するため,遺伝子検査は確定診断のみならず,早期介入に重要である.


【症例報告】
■題名
術前に虫垂炎の診断が可能であった新生児例
■著者
国立病院機構横浜医療センター小児科1),国立病院機構福山医療センター小児科2),国立病院機構横浜医療センター放射線科3),神奈川県立こども医療センター外科4)
宮沢 啓貴1)  菅井 和子1)2)  宮地 裕美子1)  小林 慈典1)  福山 綾子1)  鏑木 陽一1)  椎名 丈城3)  新開 真人4)

■キーワード
新生児虫垂炎, 腹部CT, 術前診断, 穿孔性虫垂炎, 汎発性腹膜炎
■要旨
 新生児虫垂炎は極めて稀であり,それらの症例は術後に判明したものがほとんどだった.今回我々は,画像診断にて早期に診断に至り緊急手術を行った症例を経験したので報告する.本症例は発熱,呻吟を主訴に救急受診,入院となった日齢18の新生児である.入院時にC Reactive Protein(以下CRP)値とプロカルシトニンが高値であったことから細菌感染症を疑った.さらに,母親がB群溶連菌陽性であったことより,遅発型敗血症を考え抗菌薬治療を開始したが,入院数時間後に腹部膨満と嘔吐あり,炎症部位を腹部と考え,腹部造影CTを行ったところ新生児虫垂炎と診断できた.即日手術し,穿孔性虫垂炎,汎発性腹膜炎と確定診断に至った.その後の術後経過は順調であった.新生児期において,腹部症状を呈する感染症の場合,外科的疾患の鑑別は必須であるが,虫垂炎も鑑別診断の一つに挙げるべきであり,新生児虫垂炎の診断には積極的に造影CTをとることが必要であると考えた.


【論策】
■題名
6歳未満の乳幼児における時間帯別受診比率の推移
■著者
広島国際大学医療経営学部
江原 朗

■キーワード
診療報酬, 時間外, 休日, 深夜, 乳幼児
■要旨
 【背景】小児人口の減少や夜間・休日の救急外来の利用に関する啓発やさまざまな予防接種の導入により,夜間・休日の小児の外来受診数は減少している可能性が高い.
 【方法】社会医療診療行為別調査(厚生労働省)を用いて,平成18年〜25年の6月期における診療時間内,時間外,休日および深夜の乳幼児の外来受診に対する加算の算定回数から,時間帯別の受診比率を比較した.
 【結果】時間外,休日および深夜の受診回数は,平成18〜22年6月期の平均では382.9(千回),347.9(千回)および62.11(千回)であるのに対し,平成23〜25年6月期の平均では365.3(千回),344.7(千回)および56.79(千回)と低い値を示した.
 また,乳幼児の総受診に占める,時間外,休日および深夜の比率は,平成18〜22年6月期の平均では4.85%,4.41%および0.79%であるのに対し,平成23〜25年6月期の平均では4.18%,3.94%および0.65%と低い値を示した.
 【結論】平成23〜25年における時間外,休日および深夜に外来受診をする比率は平成18〜22年と比べて低く,こうした時間帯に受診をする乳幼児の比率が低下していることがうかがわれた.

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