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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:14.4.21)

第118巻 第4号/平成26年4月1日
Vol.118, No.4, April 2014

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日本未熟児新生児学会推薦総説

周産期母子医療センターネットワークデータベース解析からみた極低出生体重児の予後

河野 由美  613
総  説
1.

セレン欠乏を認めた小児消化器疾患患者におけるセレン投与量の検討

新井 勝大,他  623
原  著
1.

最近3年間の小児マイコプラズマ肺炎における実験室診断法と臨床像

後藤 研誠,他  630
2.

インフルエンザ罹患時に一過性の意識消失を呈した症例

柏木 充,他  638
3.

小児の下部尿路症状における症状スコアの有用性

池田 裕一,他  645
4.

先天性複合型下垂体機能低下症に伴う胆汁うっ滞の検討

芦刈 友加,他  653
5.

リステリア髄膜炎の4例

羽田野 ちひろ,他  661
6.

Linezolidが奏功したMRSA踵骨骨髄炎の1例

幸田 朋也,他  665
7.

急性腹症を呈し腹腔鏡で診断した14歳のFitz-Hugh-Curtis症候群

高村 彰夫,他  670
8.

クロモグリク酸,中鎖脂肪酸,トラネキサム酸を使用した蛋白漏出性胃腸症の1例

羽田野 ちひろ,他  674
9.

局所陰圧閉鎖療法が有用であった重症心身障害児の大腿骨骨髄炎の1例

村田 真野,他  679
論  策

小児専門医療機関における災害対策の現状調査

鶴和 美穂,他  685

地方会抄録(秋田・宮崎・和歌山・富山・宮城・滋賀・山梨・東海)

  692
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会
  Injury Alert(傷害速報)

No. 47 木製おもちゃの誤嚥による窒息

  750

雑報

  753


【総説】
■題名
セレン欠乏を認めた小児消化器疾患患者におけるセレン投与量の検討
■著者
国立成育医療研究センター器官病態系内科部消化器科1),同 器官病態系内科部肝臓内科2),同 生体防御系内科部アレルギー科3),同 病院長4),東京家政大学家政学部5),順天堂大学医学部小児科6)
新井 勝大1)  船山 理恵1)5)  清水 泰岳1)  箕輪 圭1)6)  伊藤 玲子2)  野村 伊知郎3)  松井 陽4)

■キーワード
セレン欠乏, 小児, 経腸栄養剤, セレン投与量, 消化器疾患
■要旨
 目的:セレンを含まない中心静脈栄養や一部の経腸栄養剤・特殊ミルクで栄養管理されている小児消化器疾患患者では,セレン欠乏の予防と治療のためのセレン補充が必要だが,適切な投与量に関する報告は少ない.本患者群における,セレン欠乏治療のためのセレン投与量について検討した.
 方法:セレン欠乏(血清セレン濃度10 μg/dl未満)を示した消化器疾患の小児6例に,亜セレン酸ナトリウム内服液を経口的に補充した.投与量は日本人の食事摂取基準をもとに2段階に定め,投与量1は推奨量と耐容上限量の中間以上,投与量2は耐容上限量に相当する量とした.血清セレン濃度を追跡し,正常化しない場合,投与量2へ増量した.
 結果:補充開始前の血清セレン濃度は4.9±1.5 μg/dlで,いずれの症例も既知の欠乏症状は認めなかった.血清セレン濃度は,投与量1の補充にて7.8±2.4 μg/dlと改善し(p=0.063),投与量2の補充では10.4±2.2 μg/dlと有意に改善した(p=0.0013).投与量1より投与量2への増量でも,血清セレン濃度は有意な改善を示した(p=0.0065).
 結論:小児消化器疾患患者のセレン欠乏の治療には,食事摂取基準の推奨量以上の補充が必要であることが示唆された.栄養療法を実施されている消化器疾患患者ではセレン欠乏の可能性があり,セレンのモニタリングおよび補充を考慮する必要がある.


【原著】
■題名
最近3年間の小児マイコプラズマ肺炎における実験室診断法と臨床像
■著者
江南厚生病院こども医療センター
後藤 研誠  西村 直子  武内 俊  服部 文彦  堀場 千尋  伊佐治 麻衣  岡井 佑  大島 康徳  細野 治樹  竹本 康二  尾崎 隆男

■キーワード
マイコプラズマ肺炎, Mycoplasma pneumoniae, loop-mediated isothermal amplification(LAMP), 血清診断, マクロライド耐性
■要旨
 近年マクロライド(ML)耐性マイコプラズマ(Mp)の流行がみられるが,その臨床像について網羅的に調査した成績は乏しい.また,急性期Mp肺炎の確定診断法としてloop-mediated isothermal amplification(LAMP)法によるDNA検出が推奨されているが,ML耐性Mp肺炎を診療する上での有用性についても評価が必要である.我々は,LAMP法によるDNA検出および血清抗体測定の実験室診断法にて確定診断された小児Mp肺炎例の臨床像を示し,一般診療におけるLAMP法の有用性を検討した.2009年4月〜2012年3月の3年間に,当センターで肺炎と診断された1,567例全例に,咽頭拭い液からのMp DNA検出(LAMP法)および急性期・回復期のペア血清の抗体測定(CF法)を前方視的に行った.LAMP陽性と4倍以上の抗体価上昇のいずれかを満たした556例(36%)をMp肺炎と診断した.夏から秋にかけて患者数は増加した.年齢分布は8歳未満児が57%を占めた.診断法の内訳はLAMP陽性かつ血清診断が274例(49%),LAMP陽性のみ255例(46%),血清診断のみ27例(5%)であった.2010年以降,臨床的ML耐性(ML以外の抗菌薬を要した)Mpの割合は増加し,また年長児の占める割合とLAMP陽性のみで診断された症例が増加した.臨床的ML耐性Mpでは,抗菌薬開始後のLAMP陽性期間がMLのみで治癒した症例と比べて有意に延長した.MLを既に使用していても軽快しない例においてLAMP陽性の場合には耐性Mpの可能性が高いと考えて適切な治療変更が可能であっただけでなく,非Mp肺炎に不必要な抗菌薬投与を避けることができた.抗菌薬の適正使用という観点からもLAMP法は有用と思われた.


【原著】
■題名
インフルエンザ罹患時に一過性の意識消失を呈した症例
■著者
市立枚方市民病院小児科1),田辺こどもクリニック小児神経内科2),大阪がん循環器病予防センター循環器病予防部門3),大阪医科大学小児科4)
柏木 充1)  田辺 卓也2)  梶浦 貢3)  島川 修一4)  玉井 浩4)

■キーワード
一過性意識消失, 反射性失神, 血管迷走神経性失神, 体位性頻脈症候群, 遷延性起立性低血圧
■要旨
 一過性の意識消失は,インフルエンザ罹患時に出現する神経症状の1つであるが,臨床像の詳細は明らかではない.
 インフルエンザ罹患時,一過性に意識消失した症例の臨床像と発生機序を検討した.対象は,2009年1年間にインフルエンザ感染に伴い入院した173症例中の8症例で,カルテを後方視的に臨床経過,身体所見,心電図・血液・画像・脳波検査の結果,簡易起立負荷試験の結果を検討した.
 意識消失は,7例はトイレ中や後に,1例は嘔吐後に発症し転倒した.7例は5分以内に,1例は10分後に意識回復した.臨床経過,脳波や心電図より一過性の意識消失の原因は反射性失神(神経調節性失神,neurally mediated syncope:NMS)と判断された.また,症例1は嘔吐後に,症例2,6は排便・排尿中に発症し,状況失神と判断された.他の症例は,トイレ後,起立して間もなく発症し,血管迷走神経性失神(vasovagal syncope:VVS)と判断された.
 簡易起立負荷試験では,5例中1例に前失神症状が出現し,混合型VVSと診断された.また,1例は体位性頻脈症候群と遷延性起立性低血圧,2例は体位性頻脈症候群,1例は遷延性起立性低血圧の診断基準を満たした.
 インフルエンザ罹患時における一過性の意識消失の原因はNMSであり,発生機序には,起立不耐性の低下に加え嘔吐や排便,排尿の関与が考えられた.


【原著】
■題名
小児の下部尿路症状における症状スコアの有用性
■著者
昭和大学藤が丘病院小児科
池田 裕一  布山 正貴  塚田 大樹  松野 良介  外山 大輔  藤本 陽子  磯山 恵一

■キーワード
下部尿路症状, 症状スコア, 排泄・生活指導, 抗コリン薬, 小児
■要旨
 小児の尿失禁や尿意切迫感などの下部尿路症状は日常診療の場でも比較的よく遭遇するが,診断や管理を定量的にスコア化する取り組みがなされていない.成人領域では過活動性膀胱に代表される下部尿路症状をスコア化する取り組みがなされており,実際の臨床でも用いられている.今回,下部尿路症状,特に昼間尿失禁を有する小児の症状スコアの有用性を検討したので報告する.対象は過去2年間に尿失禁を主訴に来院した患者のうち,年齢が5歳以上15歳以下,尿失禁が1回/日以上みられ,12週間の排泄・生活指導,膀胱訓練を行った後に,12週間抗コリン薬で加療した計36名を対象とした.受診毎に記入してもらった症状スコアから,初診時,排泄・生活指導終了後,抗コリン薬投与後の各時点を抽出しスコアを点数化して後方視的に検討した.スコアは治療経過に伴い有意に低下した.抗コリン薬の治療で尿失禁の頻度が50%以上に減少した治療有効例23人(63.8%)と減少しなかった治療無効例13人(36.2%)の比較では臨床像に両群間の有意な相違はなかったが,初診時,排泄・生活指導後,抗コリン薬投与後の各時点において無効例は有効例に比べて有意にスコアが高かった.症状スコアは小児の下部尿路症状,特に昼間尿失禁を有する患児における治療効果を適切に反映しており,管理の定量化に有用な方法であることが示された.


【原著】
■題名
先天性複合型下垂体機能低下症に伴う胆汁うっ滞の検討
■著者
名古屋市立大学大学院医学研究科新生児・小児医学分野
芦刈 友加  伊藤 孝一  杉浦 時雄  遠藤 剛  加藤 晋  石田 敦士  垣田 博樹  今峰 浩貴  長崎 理香  水野 晴夫  伊藤 哲哉  加藤 稲子  鈴木 悟  戸苅 創

■キーワード
胆汁うっ滞, 複合型下垂体機能低下症, 胆道閉鎖症, 新生児肝炎, 低血糖症
■要旨
 新生児・乳児期に胆汁うっ滞を来す原因の一つに先天性複合型下垂体機能低下症がある.先天性複合型下垂体機能低下症は生後1か月頃から胆汁うっ滞を認めることが多く,胆道閉鎖症との鑑別が重要となる.今回我々は,名古屋市立大学病院小児科において2004年から2010年までの7年間で先天性複合型下垂体機能低下症に伴う胆汁うっ滞と診断された4症例について検討した.4症例で下垂体茎断裂症候群の所見を呈し,3症例で異所性後葉を認めた.3症例で肝生検を施行し,いずれも巨細胞性肝炎の所見を認めた.また,この4症例と胆道閉鎖症55症例の血液検査値について比較検討した.その結果,複合型下垂体機能低下症のγGTPは胆道閉鎖症のγGTPと比較して有意に低値であった.この点は胆道閉鎖症との鑑別に有用であると考えられる.複合型下垂体機能低下症ではさまざまなホルモンが欠乏することにより胆汁酸合成能の低下,胆汁酸輸送経路の成熟遅延,細胆管の構造および機能異常等が生じ,その結果胆汁うっ滞をきたすと考えられている.直接型ビリルビンが上昇している症例においては内分泌疾患による胆汁うっ滞の可能性を考慮し,低血糖,マイクロペニス,電解質異常,midline anomaly等の徴候を確認し,それらを伴う場合は下垂体ホルモンの測定を行うべきである.


【原著】
■題名
リステリア髄膜炎の4例
■著者
安城更生病院小児科1),名古屋掖済会病院2),刈谷豊田総合病院3),名古屋第一赤十字病院4)
羽田野 ちひろ1)  深沢 達也1)  加藤 有一1)  宮島 雄二1)  小川 昭正1)  安藤 将太郎2)  長谷川 正幸2)  岩瀬 将信3)  山田 緑3)  前原 優美4)  糸見 世子4)  久保田 哲夫1)

■キーワード
リステリア, 髄膜炎
■要旨
 リステリア(Listeria monocytogenes)感染症の多くは周生期に見られ,その後の小児期にはまれである.また,小児期の罹患者の約半数には基礎疾患が見られないが,髄膜炎を発症する例もあり注意が必要である.一方,細菌性髄膜炎の中では起炎菌としてリステリアはまれである.今回,2010年から2011年に愛知県内で発生したリステリア髄膜炎と確認しえた4例の臨床像について報告する.4例の発症年齢は1歳11か月から10歳で,いずれも基礎疾患は認めなかった.全例で発熱を認め,下痢や嘔吐を認めたのはそれぞれ4例中3例であった.痙攣は2例で認められた.全例発症から診断確定までに3〜7日を要しており,細菌性髄膜炎としては比較的緩徐な経過を示し,髄液の塗抹鏡検ではいずれも菌体は認めなかった.全例で抗生剤治療が行われ,3例でデキサメタゾンが併用されていた.治療への反応は良好で,4例とも後遺症は認めなかった.リステリアによる髄膜炎は基礎疾患のない小児に発症するが,細菌性髄膜炎としては症状が典型的ではない例も多く,日常診療で髄膜炎の鑑別としてこの疾患を考慮すべきであろう.


【原著】
■題名
Linezolidが奏功したMRSA踵骨骨髄炎の1例
■著者
徳島県立中央病院初期臨床研修医1),同 小児科2)
幸田 朋也1)  鈴江 真史2)  郷司 彩2)  須賀 健一2)  井上 奈巳2)  森 一博2)  湯浅 安人2)

■キーワード
踵骨骨髄炎, アトピー性皮膚炎, MRSA, Linezolid
■要旨
 骨髄炎は長幹骨の骨端に起こることが多いが,まれな踵骨骨髄炎の10歳女児例を経験した.左踵部痛と発熱があり第3病日に当院を紹介された.アトピー性皮膚炎の治療コンプライアンスが低下しており,強い掻痒と全身に出血を伴う掻破痕を認めた.左踵部に熱感と強い疼痛を伴う腫脹を認め,その近傍にも掻破痕を認めた.Magnetic resonance imaging(MRI)で左踵骨内及び周囲に炎症像を認め,血液培養からMethicillin-resistant staphylococcus(MRSA)が検出された.MRSA踵骨骨髄炎と診断し,抗菌剤linezolid(LZD)投与により軽快した.骨髄抑制のためLZDは14日後からMinocycline(MINO)に変更したが計6週間の抗菌剤治療で後遺症なく治癒した.踵骨骨髄炎は慢性疼痛などの後遺症を残すこともあるが,組織移行性が高いLZDを早期に投与することで観血的治療を要さず治療可能であった.


【原著】
■題名
急性腹症を呈し腹腔鏡で診断した14歳のFitz-Hugh-Curtis症候群
■著者
川崎医療生活協同組合川崎協同病院・小児科
高村 彰夫  重光 幸栄  能城 一矢  金 孝子  佐々木 秀樹

■キーワード
小児, 急性腹症, Fitz-Hugh-Curtis症候群, Chlamydia trachomatis
■要旨
 Fitz-Hugh-Curtis症候群は骨盤内感染症に肝周囲炎を合併する病態であり,原因菌としてChlamydia trachomatis(以下クラミジア)が最も多い.近年,初交年齢が低下しており若年女性の急性腹症の一因として注目されているが,小児科での報告例は少ない.症例は14歳女児.3日間持続する右下腹部痛を主訴に受診し,炎症反応高値のため急性虫垂炎を疑って腹腔鏡を施行.術中所見で肝被膜と腹膜の間に線維性癒着を認め,Fitz-Hugh-Curtis症候群に特徴的なViolin string signが確認され確定診断とした.周囲の腹水及び,腟からは擦過検体(スワブ)のPCR法でクラミジアは陽性であり診断を裏づけるものとなった.治療はアジスロマイシン内服とミノサイクリン点滴静注を行い,症状軽快した.初交年齢の低下により若年者でもクラミジア感染がみられるようになってきており小児科を受診する年齢の児にとっても無関係では無くなってきている.早期発見・治療のみならず,治療後の教育,更には予防教育と子供に関わるものの連携が重要となってくる.


【原著】
■題名
クロモグリク酸,中鎖脂肪酸,トラネキサム酸を使用した蛋白漏出性胃腸症の1例
■著者
安城更生病院小児科
羽田野 ちひろ  深沢 達也  久保田 哲夫  宮島 雄二  小川 昭正

■キーワード
蛋白漏出性胃腸症, クロモグリク酸, トラネキサム酸, マクトンオイル
■要旨
 症例は2歳の女児.上気道感染の罹患時から顔面浮腫が出現し,感染治癒後も浮腫が悪化したため当院へ紹介となった.受診時,著明な低蛋白血症を認めたが,尿検査所見では蛋白尿は認めず,画像検査所見では明らかな異常所見は確認できなかった.また,皮膚疾患も認めなかった.低蛋白血症の原因として蛋白漏出性胃腸症を疑い,99mTcヒトアルブミンシンチグラフィーを施行したところ,小腸からの漏出が確認できた.臨床経過や検査所見からは炎症性疾患や二次的なリンパ管障害の可能性は低いと考え,原疾患として原発性腸管リンパ管拡張症(primary intestinal lymphangiectasia以下PIL)を疑った.確定診断には病理組織検査が重要だが,全身麻酔下での内視鏡検査,生検の侵襲を考慮し未施行のうえで治療を目的としたクロモグリク酸,トラネキサム酸,中鎖脂肪酸の投与を開始したところ,数日で低蛋白血症の著明な改善がえられた.入院後18日で退院し,外来でクロモグリク酸,トラネキサム酸,中鎖脂肪酸の内服を継続したが低蛋白血症の再燃はなく経過している.これら3種類は異なった作用で蛋白漏出を防ぐが,副作用はいずれも少なく,PILの可能性がある場合には使用が有効と考えた.


【原著】
■題名
局所陰圧閉鎖療法が有用であった重症心身障害児の大腿骨骨髄炎の1例
■著者
市立枚方市民病院小児科1),田辺こどもクリニック2),大阪医科大学小児科3)
村田 真野1)  柏木 充1)  田辺 卓也2)  玉井 浩3)

■キーワード
局所陰圧閉鎖療法, 骨髄炎, 重症心身障害, 褥瘡, 神経性セロイドリポフスチン症
■要旨
 症例は遺伝性の代謝性進行性疾患である若年型神経性セロイドリポフスチン症の18歳の女児で,ADLは全介助の重症心身障害児であった.感染を契機に臀部褥瘡から大腿骨骨髄炎に進展し,当科に入院となった.経過中に,局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy:NPWT)を導入して,創部の早期の肉芽形成とポケット縮小に成功し,良好な転帰を得た.
 NPWTは創部に対して閉鎖環境下で,陰圧をかけることにより,創傷治癒を促進させる治療法である.NPWTは難治性の創傷に対して画期的な治療として成人領域では急速に広まっているが,褥瘡や皮膚潰瘍を診療する機会の少ない一般小児科医に詳細は知られていない.
 重症心身障害児(者)は褥瘡のリスクが高く,再発を繰り返すことも多い.褥瘡に菌血症や骨髄炎などが併発した場合は死亡率が高くなる.褥瘡のリスクが高い患者を診療する小児科医は褥瘡の予防や管理に関して一定の知識が必要である.
 本症例に導入したNPWTに関して若干の文献的考察を加えて報告する.


【論策】
■題名
小児専門医療機関における災害対策の現状調査
■著者
東京都立小児総合医療センター救命救急科1),同 集中治療科2)
鶴和 美穂1)  井上 信明1)  清水 直樹2)

■キーワード
災害医療, 小児, 災害対策
■要旨
 災害医療において小児は災害弱者として扱われる.災害弱者である小児に対する災害対策を立てることは,特に小児専門医療機関としては不可欠である.また,小児人口は成人に比して少なく,平常時より小児特有の資源が豊富にあるわけではない.これらを踏まえて,いざという災害時により効率良く支援をおこなうために,また今の小児災害対策の弱点を明らかにするために,今回,小児専門医療機関を対象に小児用医療資源の備蓄状況や災害時の小児医療連携体制に関する災害対策の現状調査を実施した.
 対象施設15施設のうち,12施設より回答を頂いた.その結果,備蓄に関しては,ミルクや患者用一般食の備蓄をおこなっている施設は11施設(約92%)であったが,一方,小児特有のアレルギー食や職員用一般食の備蓄また職員用飲料水の備蓄をおこなっている施設は半数以下であった.食糧や飲料水だけでなく薬剤や衛生用品も含めた備蓄状況は施設によって異なっており,これら備蓄状況を平常時から情報共有しておくことは災害時の効率良い支援に繋がると考えられた.また,災害時の近隣医療機関との連携,小児専門医療機関同士の連携体制に関して,ほぼ全施設において整っておらず,災害時には被災地内外の患者搬送や病院避難も必要となる可能性があることから,平常時からの連携構築は小児災害対策において急務であると考えられた.

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