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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:13.12.25)

第117巻 第12号/平成25年12月1日
Vol.117, No.12, December 2013

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日本小児内分泌学会推薦総説

小児糖尿病治療UPDATE

浦上 達彦  1839
総  説
1.

ワクチン導入前のロタウイルス胃腸炎入院症例の疫学調査

浅田 和豊,他  1851
原  著
1.

小児呼吸不全に対するVenovenous ECMOの検討

中村 美穂,他  1857
2.

非挿管下での加圧・非加圧CTによる気管軟化症の診断と重症度評価

宮原 純,他  1863
3.

重篤小児患者の民間旅客機搬送

青木 一憲,他  1869
4.

インフリキシマブ投与により失明を回避したステロイド抵抗性特発性汎ぶどう膜炎の1例

藤木 俊寛,他  1877
5.

非進行性肝型と考えられる糖原病IV型の1例

河野 香,他  1883
6.

尿管結石を契機に発見された副甲状腺腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症の1例

石井 雅宏,他  1888
7.

肺炎・血球貪食症候群を合併した劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症の1例

奥村 恵子,他  1893
8.

Campylobacter showaeによる感染性心内膜炎が疑われた1例

大村 亜紀奈,他  1898
9.

Clostridium perfringens A型感染の1例

佐々木 悟郎,他  1902
10.

インフリキシマブが著効した乳児難治性川崎病の1例

町田 静香,他  1907
11.

著明な脳腫張を呈し致死的経過をたどった急性白質脳炎

高柳 勝,他  1913
12.

短腸症候群にD型乳酸アシドーシスを合併した中枢性低換気症候群の1例

菅野 潤子,他  1919
13.

嚢胞性線維症の日本人小児例

小島 大英,他  1925
論  策

人口規模別に見た市区町村における小児科標榜医の存在について―標榜様式による比較―

江原 朗  1930

地方会抄録(奈良・滋賀・埼玉・福島・島根)

  1935

雑報

  1955

日本医学会だより

  1956


【総説】
■題名
ワクチン導入前のロタウイルス胃腸炎入院症例の疫学調査
■著者
国立病院機構三重病院小児科1),国立感染症研究所疫学センター2),三重大学医学部附属病院小児科3),理化学研究所統合生命医科学研究センター4),川崎医科大学附属川崎病院小児科5),国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース6),国立病院機構三重中央医療センター小児科7)
浅田 和豊1)  神谷 元2)  菅 秀1)  長尾 みづほ1)  一見 良司1)  藤澤 隆夫1)  大矢 和伸3)  谷田 寿志4)  田中 孝明5)  伊東 宏明6)  田中 滋己7)  井戸 正流7)  庵原 俊昭1)  中野 貴司5)

■キーワード
ロタウイルス胃腸炎, ロタウイルスワクチン, 臨床的重症度, 入院率, 遺伝子型
■要旨
 2011年11月にロタウイルスワクチンが日本に導入され,ロタウイルス胃腸炎が減少していくことが予想される.今後,ワクチン導入による疾病負担軽減効果,血清型(遺伝子型)の変化を評価していくためには,導入前の疫学情報が必要である.私たちは,2007/08〜2010/11の4シーズンで,ワクチン導入前の三重県津市におけるロタウイルス胃腸炎入院症例(5歳未満)の実態を調査した.対象症例は205例(男児113例,女児92例),入院率は1,000人・年あたり4.2であった.年齢別の割合は,生後3か月未満が3例(1.5%),生後6か月未満が9例(4.4%),1歳未満が49例(23.9%),2歳未満が126例(61.5%)であった.対象者205例のうち,131例(64%)について遺伝子型別を行った.各シーズンにおいて,遺伝子型はG3P[8]が62〜75%,G1P[8]が11〜28%で,その他は少数であった.また臨床的重症度を,調査票を用いて評価した.調査票が回収でき,合併症(熱性けいれんや胃腸炎関連けいれんなど)を認めなかった症例134例(65%)を対象にした.年齢別と遺伝子型別で,臨床的重症度に差を認めなかった.


【原著】
■題名
小児呼吸不全に対するVenovenous ECMOの検討
■著者
国立成育医療研究センター集中治療科1),同 MEセンター2)
中村 美穂1)  問田 千晶1)  六車 崇1)  井手 健太郎1)  磯部 英輔2)

■キーワード
小児集中治療, 重篤小児患者, 体外補助循環
■要旨
 【背景】小児重症呼吸不全に対するVenovenous Extracorporeal Membrane Oxygenation(VV ECMO)は有効であるとされているが,未だ国内での施行率は低い.
 【目的】VV ECMO有効性の検討.
 【対象・方法】2002年3月から2012年6月までのVV ECMO施行例を後方視的に検討.
 【結果】中央値(最小値〜最大値)
 月齢1.5(0〜19)か月,体重4.1(3.2〜12)kg.胎便吸引症候群2例/急性呼吸窮迫症候群2例/気管支喘息1例/Respiratory Syncytial virus細気管支炎1例.導入前人工呼吸日数1(1〜7),ECMO日数6(4〜13),Venoarterial(VA)方式への転換1例.生存退室5例で神経学的後遺症なし.
 【考察】小児重症呼吸不全においてVV ECMO生存率は83%であり,生存例では神経学的後遺症は認めなかった.ただし循環障害,再還流,換気効率等で管理困難な場合は,早期のVA方式への転換も考慮すべきである.
 【結論】小児重症呼吸不全に対しVV ECMOは有効であった.


【原著】
■題名
非挿管下での加圧・非加圧CTによる気管軟化症の診断と重症度評価
■著者
聖隷浜松病院小児科
宮原 純  武田 紹  松林 正

■キーワード
気管軟化症, CT
■要旨
 目的:非挿管下に加圧,非加圧下の胸部CTを施行し小児の気道脆弱性の定量的な評価を試みた.
 方法:気管軟化症3例と気管軟化症ではないコントロール2例に鎮静筋弛緩下に加圧,非加圧の2条件で胸部CTを撮影し,気管の断面積変化から予測気道閉塞圧を算出した.また気管軟化症の症例ではOkazakiらの報告した気道内圧断面積試験を施行し予測気道閉塞圧を算出しこれを胸部CTから算出したものと比較した.
 結果:胸部CTより算出した予測気道閉塞圧は気管軟化症の症例では気管軟化症ではない症例に比較し高値となった(−14〜−55 cmH2O vs.−165〜−310 cmH2O).気管軟化症の症例ではCTから算出した予測気道閉塞圧は気道内圧断面積試験によるものと近似した.
 結論:非挿管下の加圧,非加圧下の胸部CTは小児の低侵襲的かつ簡便な気道脆弱性の定量的な評価法として有用であると考えられた.


【原著】
■題名
重篤小児患者の民間旅客機搬送
■著者
国立成育医療研究センター集中治療科1),同 救急診療科2)
青木 一憲1)  六車 崇1)  植松 悟子2)  伊藤 友弥2)

■キーワード
重篤小児患者, 長距離搬送
■要旨
 【背景】小児重症疾患は発生頻度が低く,治療可能な施設が限定される.そのため疾患や病態によっては,固定翼機による長距離搬送が必要となる.しかしながら,飛行中の生理学的変化と小児の特異性,原病が問題となるため,充分な体制で臨む必要がある.
 【目的】重篤小児患者における民間旅客機搬送の問題点を抽出する.
 【方法】2002年4月から2012年3月までの10年間に,民間旅客機で搬送を行った重篤小児患者を,診療録より後方視的に検討した.
 【結果】対象は8名.月齢中央値は9.5か月(最小1〜最大70か月),体重は同5.7 kg(3.6〜17.6 kg),搬送距離は同882 km(386〜8,835 km).気管狭窄が2例,拡張型心筋症,劇症肝不全,慢性活動性EBウイルス感染症,食道閉鎖,痙性麻痺,慢性呼吸不全が1例ずつであり,2〜4人の搬送チームが担当した.全例,気管挿管または気管切開下で搬送し,気道関連の有害事象は認めなかった.医療機器やバッテリーのトラブルを認めたが,患者への影響なく搬送し得た.
 【考察】重篤小児患者の民間旅客機搬送では,気道管理が極めて重要である.酸素やバッテリーなどを充分に準備し,医療機器を含むトラブルを予測し対応することが重要である.


【原著】
■題名
インフリキシマブ投与により失明を回避したステロイド抵抗性特発性汎ぶどう膜炎の1例
■著者
市立砺波総合病院小児科1),金沢大学医薬保健研究域医学系小児科2)
藤木 俊寛1)2)  山田 恵子1)  小西 道雄1)  清水 正樹2)  谷内江 昭宏2)

■キーワード
ぶどう膜炎, 生物学的製剤, TNF-α阻害薬, インフリキシマブ
■要旨
 ぶどう膜炎に対する治療は,ステロイド薬の点眼及び全身投与が主体となるが,近年ステロイド不応例に対してインフリキシマブの有効性が報告されている.今回ステロイド抵抗性特発性汎ぶどう膜炎に対してインフリキシマブが奏効した1例を経験した.症例は14歳女児で,左眼霧視を主訴に受診し,特発性ぶどう膜炎の診断で,ステロイド点眼及び全身投与を開始したが治療抵抗性で,左眼視野は欠損し,さらに右眼視野欠損も出現した.インフリキシマブおよびメトトレキサートの投与により右視野は劇的に改善し,有害事象の出現もなく,投与を継続している.難治性ぶどう膜炎に対し,インフリキシマブを含めたTumor necrosis factor(TNF)-α阻害薬は極めて有用であると考えられる.今後ぶどう膜炎の標準治療確立のため,副作用を含めたデータを集積するとともに,比較対照試験に基づいた治療法の確立が望まれる.


【原著】
■題名
非進行性肝型と考えられる糖原病IV型の1例
■著者
神奈川県立こども医療センター内分泌代謝科1),同 感染免疫科2),同 病理診断科3),東京女子医科大学医学部小児科4),自治医科大学医学部小児科5)
河野 香1)4)  安達 昌功1)  朝倉 由美1)  室谷 浩二1)  鹿間 芳明2)  赤城 邦彦2)  田中 祐吉3)  福田 冬季子5)  杉江 秀夫5)

■キーワード
糖原病IV型, 非進行性肝型, 肝生検, PAS染色
■要旨
 糖原病IV型は,グリコーゲン分枝酵素の欠損により進行性肝障害を呈する予後不良な疾患である.症例は現在11歳6か月の男児.1歳2か月時に偶然肝逸脱酵素上昇を指摘され,肝脾腫も認めた.高乳酸血症は認めなかったが,肝生検組織のPAS染色にてジアスターゼ抵抗性のアミロペクチン様物質を認め,赤血球中グリコーゲン分枝酵素活性の低下を確認した.経過中,肝脾腫の消失とともに肝逸脱酵素も低下し,現在は全く無症状であるため,非進行性肝型の糖原病IV型と考えられた.本疾患の臨床症状の多様性が再認識され,肝腫大症例では常に本疾患を念頭に置く必要があると考えられた.


【原著】
■題名
尿管結石を契機に発見された副甲状腺腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症の1例
■著者
産業医科大学医学部小児科学講座1),佐久間小児科医院2)
石井 雅宏1)  山本 幸代1)  斎藤 玲子1)  後藤 元秀1)  荒木 俊介1)  川越 倫子1)  河田 泰定1)  佐久間 孝久2)  楠原 浩一1)

■キーワード
原発性副甲状腺機能亢進症, 尿管結石, 血尿, 副甲状腺腺腫, 高カルシウム血症
■要旨
 尿管結石を契機として発見された副甲状腺腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症の1例を経験した.症例は13歳男児.X年8月に肉眼的血尿が認められたが自然軽快した.X+1年6月に腹痛,血尿が出現し,尿管結石と診断した.高カルシウム血症,高カルシウム尿症,PTHの上昇,頸部超音波検査で右頸部に4×2×2 mmの低エコー領域を認めたため,副甲状腺腺腫による原発性副甲状腺機能亢進症が疑われた.副甲状腺腺腫摘出術を施行し,術後病理所見で,副甲状腺腺腫と確定診断した.その後の経過は良好で,再発も認めていない.原発性副甲状腺機能亢進症は小児では稀な疾患である.しかし,尿路結石による血尿や腹痛を契機として発見される場合があり,また学校検尿での無症候性血尿からの早期診断も可能であるため,小児でも鑑別疾患として念頭においた診療が重要である.


【原著】
■題名
肺炎・血球貪食症候群を合併した劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症の1例
■著者
国保松戸市立病院小児医療センター小児科1),名戸ヶ谷あびこ病院小児科2),山口大学大学院医学系研究科小児科学3)
奥村 恵子1)2)  伊藤 健一郎1)  津留 智彦1)  池原 甫1)  奥井 秀由起1)  市山 高志3)  平本 龍吾1)  小森 功夫1)

■キーワード
劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症, 肺炎, 多臓器不全, サイトカイン, 血球貪食像
■要旨
 肺炎・血球貪食症候群を合併した劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome;STSS)の14歳女児を経験した.基礎疾患に多発小奇形,最重度精神運動発達遅滞,てんかんがあり,誤嚥性肺炎を反復していたが,定期通院中の肝腎機能は正常であった.発熱から2時間後に急に心肺停止状態となった.蘇生にて一旦自己心拍再開したものの,肺炎と多臓器不全により発熱から6時間後に永眠された.気管内吸引痰の培養ではA群溶血性レンサ球菌(GAS)を単一で検出,病理では末梢気道内に連鎖球菌を認め,肺炎とSTSSと診断した.骨髄ではマクロファージによる高度の血球貪食症候群を呈していた.血清サイトカインはIL-6,IL-10,IL-2が高値であったがTNF-αは正常であった.小児でGAS感染症による肺炎・血球貪食症候群を呈したSTSSの報告は稀であり,調べた限りではない.貴重な症例と考え報告する.


【原著】
■題名
Campylobacter showaeによる感染性心内膜炎が疑われた1例
■著者
天理よろづ相談所病院総合診療教育部1),同 小児科2),大和高田市立病院小児科3)
大村 亜紀奈1)  松村 正彦2)  田中 大喜2)  芝 剛2)  吉村 真一郎2)  三木 直樹2)  山中 忠太郎2)  砂川 晶生3)  南部 光彦2)

■キーワード
感染性心内膜炎, Campylobacter showae, Down症候群, 先天性心疾患
■要旨
 症例はDown症候群の17歳女子.生後7か月時に心内膜床欠損の手術を受け,軽度の僧帽弁閉鎖不全があり経過観察中であった.入院2日前から38度台の発熱があり近医を受診,炎症反応高値が認められ,心疾患術後であるため当科紹介され入院した.最近の生肉摂取歴や歯科治療歴はなかった.入院時のCRP値は17.3 mg/dlであった.入院当日と翌日に血液培養を施行後,抗菌薬を開始した.入院当日の血液培養では2セットとも陰性であったが,入院翌日採取した1セットのうち嫌気性培養ボトル1本からCampylobacter属を検出し,菌株の16S rRNA解析にてCampylobacter showaeと判定した.心臓超音波検査を数回施行したが明らかな疣腫は指摘できなかった.修正Duke診断基準に基づき「感染性心内膜炎の可能性」と診断し,抗菌薬の投与開始4週間で36度台に解熱した.Campylobacter属が血液培養で検出されることは稀であるため報告した.Campylobacter属は血液培養での検出および増菌培養が難しいため,起因菌不明の感染性心内膜炎では,Campylobacter属も念頭に置くべきである.


【原著】
■題名
Clostridium perfringens A型感染の1例
■著者
東京歯科大学市川総合病院小児科1),慶應義塾大学医学部小児科2)
佐々木 悟郎1)  篠原 尚美1)  新庄 正宜2)  江口 博之1)

■キーワード
Clostridium perfringens, ウェルシュ菌, 血便, 乳児, メトロニダゾール
■要旨
 Clostridium perfringensは,ヒト腸内に常在する嫌気性菌であるとともに,病原菌として食中毒,壊死性腸炎などの腸管感染症の原因でもある.われわれは,Clostridium perfringensの関与が示唆される乳児血便症例を経験した.患者は4か月女児,2週間以上続く血便を主訴に来院した.哺乳は良好であり,発熱,貧血,体重減少などの全身徴候は認められなかった.肛門部病変,アレルギー関連症状の既往はなく,過去に消化管感染症の罹患歴や抗菌薬投与歴もなかった.血液検査上,白血球増加および好酸球増多を認めたが,CRPなどの炎症反応は陰性であった.便好気性培養で病原菌は検出されなかったが,便嫌気性培養でClostridium perfringensが検出された.特異抗体を用いた産生毒素の検討から,Clostridium perfringens A型と同定し,細菌遺伝子の検討から,α毒素とβ2毒素遺伝子の保有を確認した.遷延する血便に対して,メトロニダゾールの経口投与を開始し,著明な改善を認めた.治療後,末梢血白血球数および好酸球数は正常化し,便嫌気性培養は陰性化した.本症例は,血便以外に症状を認めない乳児において,Clostridium perfringens感染との関連を示すはじめての報告であり,同時に遷延する乳児血便の診断における,便嫌気性培養の有用性を示唆する.


【原著】
■題名
インフリキシマブが著効した乳児難治性川崎病の1例
■著者
東京医科歯科大学小児科
町田 静香  石井 卓  倉信 大  武井 陽  高橋 暁子  西山 光則  土井 庄三郎  水谷 修紀

■キーワード
インフリキシマブ, 難治性川崎病, 免疫グロブリン大量療法抵抗性川崎病, 冠動脈合併症, 副作用
■要旨
 【はじめに】免疫グロブリン大量療法(IVIG)抵抗性の川崎病は冠動脈合併症をきたしやすいが,治療法は確立されていない.インフリキシマブ(IFX)は種々の副作用が懸念されるが,病状の改善や冠動脈合併症の減少が期待できる治療法である.【症例】症例は7か月の男児で,第4病日に川崎病と診断された.アスピリン投与,IVIG(2 g/kg)を合計3回,通常量ステロイド療法(2 mg/kg/day),ステロイド・パルス療法(20 mg/kg/day,3日間),ウリナスタチン投与を行ったが,発熱をはじめとする諸症状は改善せずCRPは17.6 mg/dlと高値であった.第9病日にIFX(5 mg/kg)の投与を行い,36℃台へ解熱した.IFX投与は,当院倫理委員会の承認と両親の同意を得た上で行った.第10病日からシクロスポリンの持続静注(1.3 mg/kg/day)を併用した.諸症状は改善し,CRPは第16病日に0.23 mg/dlまで低下した.冠動脈合併症はみられず,現在までIFXによる明らかな副作用の出現はない.【まとめ】各種治療に不応のIVIG抵抗性川崎病に対しIFXが有効であった乳児例を経験した.IFXによる明らかな副作用はみられなかったが,乳児における副作用頻度や晩期障害については依然として不明な点が多く,今後も症例ごとの詳細な検討が必要と考えられた.


【原著】
■題名
著明な脳腫張を呈し致死的経過をたどった急性白質脳炎
■著者
仙台市立病院小児科1),石巻赤十字病院小児科2)
高柳 勝1)  楠本 耕平1)  曽木 千純1)  遠藤 若葉2)  鈴木 力生1)  北村 太郎1)  西尾 利之1)  大浦 敏博1)  大竹 正俊1)

■キーワード
急性散在性脳脊髄炎, 劇症型ADEM, Hurst脳炎, 急性出血性白質脳炎
■要旨
 2歳5か月女児.熱性けいれんを主訴として入院,第3病日に治療抵抗性のけいれん発作とともに遷延性意識障害を呈した.同日の脳MRIでは,左小脳半球,橋,左外包を中心として散在性T2WI/FLAIR高信号病変を認めた.急性散在性脳脊髄炎(ADEM)と診断,ステロイドパルス療法や抗けいれん薬などで治療を開始したが,散在性白質病変の拡大とともに急速な脳腫張を呈し,外減圧術にてもコントロールできず頭蓋内圧は常に平均動脈圧を上回った.第7病日に脳幹機能はほぼ廃絶し,第27病日に心臓死に至った.本症例は経過および画像所見より,ADEMと急性出血性白質脳炎(AHLE)の移行型を呈した急性白質脳炎と考えられた.致死的経過をたどるADEMは稀であるが,急激な経過を示す場合はAHLEの可能性を考え,可及的速やかに頭蓋内圧のコントロールと種々の免疫抑制療法などによる積極的な治療を開始すべきである.


【原著】
■題名
短腸症候群にD型乳酸アシドーシスを合併した中枢性低換気症候群の1例
■著者
東北大学病院小児科
菅野 潤子  森本 哲司  守谷 充司  佐藤 優子  鎌田 文顕  箱田 明子  熊谷 直憲  藤原 幾磨  呉 繁夫

■キーワード
D型乳酸アシドーシス, 短腸症候群, 中枢性低換気症候群
■要旨
 D型乳酸アシドーシスは,短腸症候群の患者で認められる稀な病態である.消化吸収障害と腸内細菌の異常増殖によるD型乳酸の過剰産生により,重度の代謝性アシドーシスと特徴的な神経症状を来す.症例は,先天性低換気症候群の4歳女児で,2歳時に発症した腸炎に対して行った壊死腸管切除による短腸症候群で,中心静脈栄養と経腸栄養管理を行っていた.経口摂取量の増加に伴い中心静脈栄養を中止後,意識障害を伴う代謝性アシドーシス発作を呈した.発作時の血中乳酸は正常であったが,尿中乳酸が著明高値であった.乳酸にはL型とD型があり,両者は光学異性体で,D型乳酸は通常では殆ど検出されず,また一般的な検査法では血中ではL型乳酸のみが測定されD型乳酸は測定されない.患児の発作時の尿中乳酸が高値であったため,発作時の保存血清でD型乳酸を測定したところ,D型乳酸の著明高値を認め,D型乳酸アシドーシスと確定診断した.発作は重曹の投与や補液で改善したが,炭水化物摂取や経腸栄養後に再燃を繰り返したため,炭水化物摂取を制限し,経腸栄養を中止したところ,発作が消失した.短腸症候群の患者で神経症状を伴う代謝性アシドーシスを認めた場合,D型乳酸アシドーシスを念頭におく必要がある.確定診断には尿中乳酸と血中D型乳酸の測定が有用である.


【原著】
■題名
嚢胞性線維症の日本人小児例
■著者
名古屋第二赤十字病院小児科
小島 大英  家田 大輔  畔柳 佳幸  後藤 智紀  笠原 克明  後藤 芳充  石井 睦夫  神田 康司  岩佐 充二

■キーワード
嚢胞性線維症, 気管支拡張症, 胎便性イレウス, CFTR遺伝子
■要旨
 嚢胞性線維症の日本人女児例を経験したので報告する.症例は6歳5か月女児.新生児期に胎便性腹膜炎で緊急手術を受けた既往がある.乳児期には,脱水症で入院,電解質異常を指摘されている.3歳頃より夜間に咳嗽が出現するようになり,徐々に悪化した.6歳時に当科紹介受診し,胸部レントゲンで,両側のびまん性顆粒状陰影,索状影を認めた.胸部CTでは両肺びまん性に気管支から細気管支の壁肥厚,拡張と末梢気道の粒状影を認めた.血液生化学検査では,膵酵素の上昇を認めた.指先からの自然発汗で測定した汗中Cl濃度は,114.3 mEq/L(正常<40 mEq/L)と異常高値であり,臨床症状と併せて嚢胞性線維症と診断した.cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)遺伝子解析では,母親由来のL441Pヘテロ変異を認めた.嚢胞性線維症は今後,本邦でも診察の機会が増加する可能性があり,原因不明の難治性咳嗽がある場合には本症を考慮に入れ,汗中Cl濃度測定をする必要があると思われる.


【論策】
■題名
人口規模別に見た市区町村における小児科標榜医の存在について―標榜様式による比較―
■著者
広島国際大学医療経営学部
江原 朗

■キーワード
医療提供, 地域振興小児科, 標榜, 小児科外来診療料
■要旨
 一次医療圏(市区町村)の人口規模別に,主および従として小児科を標榜する医師(主標榜医および従標榜医)の有無について解析を行った.
 主標榜医は,人口規模が1万人以上の市区町村では半数以上,7万人以上ではすべての市区町村に存在していた.一方,従標榜医は,人口規模が1千人未満の市区町村でも23%,5千人以上では半数以上の市区町村に存在した.主標榜医と従標榜医の存在比率は,3万人未満の市区町村ではその差が20%を超えていた.
 また,3歳未満の外来受診回数のうち従標榜医への受診が25.4%を占めており,診療回数からも従標榜医の小児医療への関与が示された.
 小規模な市区町村では従標榜医だけが存在するところも多く,また,保険点数上も従標榜医が小児医療の提供に大きく関与していることは明らかである.特に,医療資源の乏しい地域においては,従として小児科を標榜する医師も考慮に入れた小児医療提供体制の構築が求められる.

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