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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:12.12.14)

第116巻 第12号/平成24年12月1日
Vol.116, No.12, December 2012

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総  説
1.

脂肪酸代謝異常症,ケトン体代謝異常症の最近の進歩

深尾 敏幸  1801
2.

災害に遭遇した子どもたち

北山 真次  1813
3.

炎症性サイトカインからみた炎症病態の考え方と治療法の最近の動向〜川崎病,全身型若年性特発性関節炎,クリオピリン関連周期性発熱症候群に対するサイトカイン遮断療法の効果について〜

横田 俊平,他  1829
第115回日本小児科学会学術集会
  教育講演

小児泌尿器科

島田 憲次  1842
  教育講演

小児科外来における心身症治療のポイント

小柳 憲司  1852
  教育講演

消化管感染症の課題と展望

田尻 仁  1857
原  著
1.

生後48時間以内に低血糖を呈した新生児の血中3ヒドロキシ酪酸およびインスリン値の検討

水本 洋,他  1865
2.

採尿を必要としない腎糸球体濾過量測定の試み

亀井 宏一,他  1869
3.

長期間の偏食によりヨード欠乏性甲状腺機能低下症を来たした自閉症スペクトラムの1例

後藤 元秀,他  1875
4.

可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症を合併した急性巣状細菌性腎炎の4例

藤原 祐,他  1880
5.

一般小児病棟でターミナルケアを行った新生児頭蓋内未熟奇形腫の1例

設楽 佳彦,他  1886
6.

ウロモジュリン遺伝子に新規変異G210Dが同定された家族性若年性高尿酸血症性腎症の1家系

大森 さゆ,他  1892
7.

血液透析導入期にヘパリン起因性血小板減少症を発症した1例

山村 なつみ,他  1898
8.

四肢の筋力低下を主症状として発症したビタミンB1欠乏症の思春期例

川崎 悠,他  1903
論  策
1.

小中学生におけるメディア環境がコミュニケーション能力や睡眠障害,肥満へ及ぼす影響

秋田県医師会学校保健委員会小委員会,他  1909
2.

救急救命後の長期入院小児患者における呼吸管理と退院見込み―地域差の検討―

江原 朗,他  1917
3.

医師不足の地域基幹病院小児科での取り組み

上野 たまき,他  1921

地方会抄録(栃木・中部・北日本・石川・沖縄)

  1927
日本小児科学会総合小児医療検討委員会報告

“地域総合小児医療”に関するアンケート調査

  1965
日本小児科学会学術・国際渉外委員会研究活性化ワーキンググループ報告

日本の小児科学研究の現況

  1973
日本小児内分泌学会CCS委員会報告

小児がん経験者(CCS)のための内分泌フォローアップガイド

  1976


【原著】
■題名
生後48時間以内に低血糖を呈した新生児の血中3ヒドロキシ酪酸およびインスリン値の検討
■著者
財団法人田附興風会医学研究所北野病院小児科
水本 洋  上田 和利  柴田 洋史  谷口 昌志  三上 真充  明石 良子  濱端 隆行  松岡 道生  中田 昌利  小田 紘嗣  海老島 宏典  山本 景子  中村 由恵  西田 仁  熊倉 啓  吉岡 孝和  吉田 葉子  塩田 光隆  羽田 敦子  秦 大資

■キーワード
高インスリン血性低血糖, インスリン, 3ヒドロキシ酪酸, 新生児
■要旨
 生後48時間以内に低血糖を認めた新生児25例において,低血糖時の血中3-ヒドロキシ酪酸(3-hydroxybutyric acid:3-HB)とインスリン(Immuno-reactive insulin:IRI)について検討した.全例が45 mg/dl以下の低血糖時に3-HBは低値を示し(≦0.8 mmol/l),84%の症例がIRIは高値を示した(≧2 μIU/l).しかしその中でも後に正常血糖値を保つために6〜8 mg/kg/分以上の糖供給を必要とした群(high-GIR群)では,4 mg/kg/分以下で管理できた群(low-GIR群)と比較して,低血糖時の3-HBは有意に低かった(0.02±0.02 vs. 0.18±0.26 mmol/l).生後12時間以降に限ると,low-GIR群は7例中5例が低血糖時の3-HBは0.36〜0.80 mmol/lに上昇していたが,2例のhigh-GIR群はいずれも0.10 mmol/l未満であった.
 現行の高インスリン血性低血糖症の診断基準を,生後48時間以内の新生児に適応する場合は注意が必要である.ケトン体低値を伴う低血糖を反復する恐れのある場合,治療は積極的でなければならないが,生後12時間以降も低血糖時に3-HBが0.10 mmol/l未満であることは,その指標となりうると考えられた.


【原著】
■題名
採尿を必要としない腎糸球体濾過量測定の試み
■著者
国立成育医療研究センター腎臓リウマチ膠原病科
亀井 宏一  宮園 明典  佐藤 舞  石川 智朗  藤丸 拓也  小椋 雅夫  伊藤 秀一

■キーワード
イヌリンクリアランス, 糸球体濾過率, 血漿クリアランス法, 平衡状態
■要旨
 イヌリンクリアランス(腎クリアランス法,Cin)は糸球体濾過率(GFR)測定のゴールドスタンダードであるが,方法が繁雑で非常に手間がかかり,かつ大量の輸液や複数回の採血が必要で,非常に侵襲性が高い.また,残尿などの影響で不正確になりやすく,乳幼児では膀胱バルーンが必要である.血漿クリアランス法(eCin)とはイヌリンを持続点滴投与して投与量と排泄量が等しい平衡状態となったときに血中濃度と単位時間あたりの投与量からGFRを測定する方法であり,採尿が不要である.過去に我々は10時間のeCinを報告したが,今回は改良した6時間のプロトコールで実施し,Cinとの比較を行った.19名(3〜35歳)で施行し,Cinが不正確であった4名を除く15名で比較を行った.CinとeCinはほぼ近似値をとり,Cin=eCinの直線に沿った線形の相関を示した(R2=0.78).eCin/Cin比は1.072±0.181であり,9名(60%)で0.8〜1.2の範囲内であった.血漿クリアランス法は,採尿の必要がなく,かつ採血も1回ですむなど通常法に比べて侵襲性も低く,乳幼児でも容易に検査が可能な有用な方法である.


【原著】
■題名
長期間の偏食によりヨード欠乏性甲状腺機能低下症を来たした自閉症スペクトラムの1例
■著者
産業医科大学医学部小児科学講座
後藤 元秀  山本 幸代  石井 雅宏  齋藤 玲子  荒木 俊介  久保 和泰  川越 倫子  河田 泰定  楠原 浩一

■キーワード
自閉症スペクトラム, ヨード欠乏, 甲状腺機能低下症, 微量元素, 偏食
■要旨
 症例は2歳時に自閉症スペクトラムと診断され,その頃から白米,イオン飲料しか摂取しなかった.8歳時にビタミンB12欠乏性貧血を発症し栄養指導を行ったが偏食の改善は得られなかった.11歳時に倦怠感,成長率低下が出現し甲状腺機能低下と尿中総ヨード排泄量低下,極度の偏食の病歴からヨード欠乏性甲状腺機能低下症と診断した.2か月間のヨウ素レシチンの内服で甲状腺機能は正常化した.全身の倦怠感は消失し,成長率も改善した.自閉症スペクトラム児では偏食が問題になることが多いが,ヨード欠乏性甲状腺機能低下症の報告はない.海産物摂取の多い日本ではヨード欠乏に対する認識が低く,見逃されている可能性があるため注意が必要である.


【原著】
■題名
可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症を合併した急性巣状細菌性腎炎の4例
■著者
済生会横浜市南部病院小児科
藤原 祐  田中 文子  若宮 卓也  小堀 大河  橋口 可奈  佐藤 睦美  新井 千恵  村田 宗紀  鈴木 剛  譲原 佐栄子  山口 和子  齋藤 千穂  高橋 浩之  甲斐 純夫

■キーワード
急性巣状細菌性腎炎(AFBN), 可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症(MERS), 低ナトリウム血症
■要旨
 可逆性脳梁膨大部病変を伴う軽症脳炎・脳症(MERS)を合併した急性巣状細菌性腎炎(AFBN)の4小児例を経験した.
 症例は5〜11歳の男児2例,女児2例.いずれも発熱,腹痛,嘔吐を主訴に受診し,血液検査では強い炎症所見と軽度の低ナトリウム血症を認めた.これらの症状に加え,変動する意識障害や髄膜刺激症状,異常言動などを呈した.4例ともに腹部造影CTで片側腎に楔状および腫瘤状の造影欠損像,あるいはMRIにて腫瘤状の強い炎症像を認めAFBNと診断し,抗菌薬治療で治癒した.一方,いずれも頭部MRIで脳梁膨大部に拡散強調画像で高信号,ADC mapで低信号の領域を認めた.これらの病変は後日MRI検査で消失したためMERSと診断した.
 MERS発症を誘発する疾患として,インフルエンザ,ムンプス,アデノ,ロタなどのウイルス感染症の報告が多いが,細菌感染症の報告は少数に限られる.AFBN自体の診断が困難なこともあり,今までAFBNにおける報告はない.不明熱で脳症・脳炎症状を呈した場合は,AFBNの存在も念頭に置く必要がある.


【原著】
■題名
一般小児病棟でターミナルケアを行った新生児頭蓋内未熟奇形腫の1例
■著者
東京大学医学部附属病院小児科1),同 無菌治療部2),帝京大学医学部附属溝口病院小児科3),帝京大学医学部附属病院小児科4),国立成育医療研究センター5)
設楽 佳彦1)  井田 孔明3)  細井 洋平1)  大久保 淳1)  伊藤 直樹1)  五石 圭司1)  滝田 順子2)  菊地 陽4)  五十嵐 隆5)

■キーワード
未熟奇形腫, ターミナルケア, 新生児, グリーフケア, family-centered care
■要旨
 一般小児病棟でターミナルケアを行った新生児頭蓋内未熟奇形腫の1例を経験したので報告する.患児は39週の胎児超音波検査で脳室拡大を指摘され帝王切開で出生した.日齢9に腫瘍生検を行い未熟奇形腫と診断した.日齢15からcarboplatinとetoposideによる化学療法を行ったが,さらに腫瘍は増大し脳幹部への浸潤が疑われた.両親に予後不良であることを説明し,その後の治療方針を相談して日齢34にターミナルケア目的で一般小児病棟に転棟した.
 一般小児病棟では父母同室の生活を行い,苦痛除去と家族の希望に添うような形で院内散歩などの医療介入を行った.それとともに児に対する両親の態度や心情的変化が認められ,愛着形成が促進された.
 新生児のターミナルケアは非常に困難ではあるが,一般小児病棟に転棟して行うことにより,家族の希望に添った医療の提供が可能になると考えた.今後はNICU内にも母子同室の部屋を準備し,退院前の母親への養育指導や,このようなターミナルケアを行う部屋として利用することを検討するべきであると考えた.


【原著】
■題名
ウロモジュリン遺伝子に新規変異G210Dが同定された家族性若年性高尿酸血症性腎症の1家系
■著者
さいたま市立病院新生児内科1),同 小児科2)
大森 さゆ1)  前山 克博1)  佐藤 清二2)

■キーワード
家族性若年性高尿酸血症性腎症, ウロモジュリン, 腎機能低下, 高尿酸血症, 常染色体優性
■要旨
 家族性若年性高尿酸血症性腎症(familial juvenile hyperuricemic nephropathy,FJHN)は,若年からの尿酸排泄低下と痛風,進行性腎機能障害を呈するまれな疾患である.常染色体優性遺伝形式をとり,責任遺伝子はウロモジュリン遺伝子(UMOD)と考えられている.発端症例は14歳女性.両側足趾の腫脹,疼痛を認め当院受診.母,母方祖母に痛風関節炎の既往があり,腎機能低下を指摘されている.祖母は人工透析中である.発端者は初診時検査所見において血清尿酸高値,尿酸排泄量および尿酸クリアランス/クレアチニンクリアランス比の低下を認めた.家系内の有症状患者においてUMOD遺伝子のエキソン4,5領域の直接シーケンシング解析を行った.ミスセンス変異G210Dを発端者はホモ接合性,母と祖母は同ヘテロ接合性に認めた.父の解析を行っていないため発端者がホモ接合体であると結論づけることはできなかった.日本人コントロール75名の分析ではこの変異を認めなかった.本家系に見いだされたUMODのミスセンス変異G210Dは過去に報告されていない.しかしG210Dは非極性アミノ酸から極性アミノ酸への置換であること,第210位アミノ酸は生物種間の保存性が高いことから,本変異は疾患原因変異であると推測される.


【原著】
■題名
血液透析導入期にヘパリン起因性血小板減少症を発症した1例
■著者
大阪府立母子保健総合医療センター腎・代謝科
山村 なつみ  山藤 陽子  里村 憲一

■キーワード
血液透析, ヘパリン起因性血小板減少症, 小児
■要旨
 ヘパリン治療の致死率の高い合併症としてヘパリン起因性血小板減少症(HIT)がある.血液透析(HD)中のHITは非透析日に血小板数が回復したりHIT抗体がダイアライザに吸着されたりするため,臨床症状が軽微で診断に苦慮することがある.今回HD導入期にHITと診断した小児の1例を経験したので報告する.
 症例は14歳男児.慢性腎不全で腹膜透析中に慢性膵炎を発症し,膵管空腸吻合術を施行された.術前に内シャントを作成し,一度ヘパリンを抗凝固薬としてHDを行うことができることを確認した.2回目以降のHDは術後に施行し,2〜3回目はメシル酸ナファモスタット(NM)を用い,4回目以降はヘパリンを使用した.初回HDから16日目,通算5回目のHD中に,回路内圧の上昇とダイアライザの凝血を認めた.抗凝固薬をNMへ変更したところ,回路内圧は低下し透析を継続できた.終了時血小板数は開始前の58%に減少していた.ヘパリンを用いた9回目のHDも回路内圧が高くて透析を継続できなくなり,NMへ変更した.以上の経緯からHITを疑いHIT抗体を測定したところ,陽性であったためHIT II型と診断した.NMを用いてHDを継続でき,ヘパリンを中止後に血小板減少は認めなかった.
 HD導入期はHITが起こる可能性を常に念頭に置き,回路内圧やHD前後の血小板数のモニターを行う必要がある.


【原著】
■題名
四肢の筋力低下を主症状として発症したビタミンB1欠乏症の思春期例
■著者
西神戸医療センター小児科
川崎 悠  松原 康策  内田 佳子  岩田 あや  由良 和夫  仁紙 宏之  深谷 隆

■キーワード
脚気, ビタミンB1欠乏症, 思春期, 筋力低下, 養育過誤
■要旨
 症例は15歳男児.3週間で徐々に進行し歩行不能に至る下肢優位の筋力低下と,四肢の浮腫を主訴に来院した.入院時診察所見で上下肢の腱反射は消失していた.血液検査上creatine kinase(1,320 IU/L),乳酸,ピルビン酸の高値と,血中vitamin(Vit)B1(2.6 μg/dl),Vit B2(12.6 μg/dl),Vit B12(190 pg/ml),葉酸値(3.8 ng/ml)の低値を認めた.下肢のT2強調magnetic resonance imageで両側大腿・下腿筋に高信号領域を広範囲に認めた.末梢神経伝達速度は正常だった.心エコー検査では,左室の高駆出状態,心嚢水貯留,右室圧上昇を認めた.上記を総合して多種ビタミン欠乏で,主にVit B1欠乏症と診断し,入院翌日にVit B1 75 μg/日の内服で治療を開始した.これにより心機能と浮腫(4日間で8 kgの体重減少)は劇的に改善し,入院9日目に自力歩行が可能となり,入院13日目に階段昇降可能となった.食生活を調べると,過去3〜4年に亘り朝食を摂らず,昼・夕食で精白米を1日約2,000 kcalと大量に摂取する一方,副食は種類・量ともに極端に少ない等著しい偏食だった.また11歳以降身長・体重増加が鈍化していた.栄養障害の背景に養育過誤が推定された.栄養指導後,体重と身長は正常な増加を示した.本症例は,基礎疾患のない思春期での発症であったこと,知覚障害より筋力低下が主な症状であったこと,栄養摂取過誤や養育過誤が背景にあったことが,特徴的であった.


【論策】
■題名
小中学生におけるメディア環境がコミュニケーション能力や睡眠障害,肥満へ及ぼす影響
■著者
市立秋田総合病院小児科1),今村記念クリニック2),外旭川サテライトクリニック3)
秋田県医師会学校保健委員会小委員会  小泉 ひろみ1)  後藤 敦子2)  苗村 双葉3)

■キーワード
メディア, コミュニケーション, 睡眠障害, 肥満, クロス集計
■要旨
 子どもたちとメディアが密接に接触している現代において,小児科医がその指導において担う役目は大きく,その指導の根拠には科学的なデータが必要である.また,メディアの心身への影響については,さまざまな検討項目がある.
 今回,我々はメディアが子どもたちのコミュニケーション能力にどのように影響しているのかを調査した.合わせて,睡眠障害や肥満への影響を調査した.対象は秋田県内の小学4年生と中学2年生とその保護者各約600人ずつ合計2,446人でおこなった.アンケート方式でおこない,回答者を設問ごとに2群に振り分け,すべての設問でクロス集計をおこない2群間の差を検討した.結果:メディア接触時間が長い子どもほど,コミュニケーション能力に問題があった.また,夜間覚醒などの睡眠障害があり,気分の問題や疲れやすさ,肥満への影響があった.
 われわれの今回の結果は,アメリカ小児科学会の勧告,日本小児科学会と日本小児科医会からの提言を支持し,メディアとの付き合い方を改めて提言した.


【論策】
■題名
救急救命後の長期入院小児患者における呼吸管理と退院見込み―地域差の検討―
■著者
広島国際大学医療経営学部1),大阪市立住吉市民病院小児科2),NTT東日本札幌病院小児科3),うめはらこどもクリニック4)
江原 朗1)  舟本 仁一2)  森 俊彦3)  梅原 実4)

■キーワード
小児救急, 移行問題, 慢性期医療, 医療体制
■要旨
 前回,日本小児科学会専門医研修施設578か所を対象とし,救急救命後の長期入院患者に関して行ったアンケート調査から,著者らは呼吸管理(気管挿管・気管切開)をした患者の退院見込みが低いことを明らかにした.本研究ではさらに研究を進め,呼吸管理が退院見込みに与える影響を地域別に比較検討した.
 自発呼吸をしている場合,退院見込み「50%以上」と「なし」の患者で地域分布に統計学的な差を認めなかった.一方,呼吸管理を行っている場合,退院見込み「50%以上」と「なし」の患者で地域分布に差を認め,人口あたりの重症心身障害児病床数や通園対応人数が少ない関東には,全国の退院見込み「50%以上」の患者の25.7%(18/70)しかいなかったが,全国の退院見込み「なし」の患者の47.1%(56/119)は関東に存在していた.
 長期入院患者の退院を促進するには,財政的支援を含めた退院後の受入体制(慢性期病床や在宅支援体制等)の充実が不可欠であると考えられた.


【論策】
■題名
医師不足の地域基幹病院小児科での取り組み
■著者
綾部市立病院小児科1),同 研修医2),京都府立医科大学小児科学教室3)
上野 たまき1)3)  中田 志織1)  金田 大介2)  新田 義宏2)  細井 創3)

■キーワード
地域医療, 医師不足, 勤務医
■要旨
 2004年に卒後臨床研修制度が改定されて以来,医師の地域偏在が顕著となり,地方に残された医師達の疲労は大きく,職場を去る医師は後を絶たない.その理由の一つは,行政の方策と地域住民のニーズに未だ大きな隔たりがあり,地方の勤務医の過重労働が軽減されないままであることが考えられる.このような状況で,地方都市基幹病院の小児科勤務医として,卒後3〜4年目の若手医師との二人体制で,やりがいのある忙しさをキーワードに,働きがいのある小児科を目指して行ってきた8年間の取り組みを紹介し,問題提起と解決の一助としたい.
 小児科医の負担を増やさず,症例を増やすために,診療時間内の受診を奨励した.患者数が増加すると小児科医以外のスタッフが小児患者と関わりやすくする工夫をした.自身も含め,担当医は知識・技術の向上のため,講習会や学会へも積極的に参加した.地域医療の醍醐味を味わい,地域医療を楽しむようにし,若手医師,学生の教育に力をいれた.地域医療は医療の原点であり,全人的に医療を学べる理想的な環境である.若手小児科医には,最先端医療だけでなく,地域医療のやりがいや素晴らしさを経験した上で,自分の道を見つけて欲しい.高いモチベーションを維持したまま,使命感を忘れない医師が多く育って行けば,医師不足,医師の地域偏在も解消されていくのではないかと考える.

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