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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:12.1.6)

第115巻 第12号/平成23年12月1日
Vol.115, No.12, December 2011

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第114回日本小児科学会学術集会
  会頭講演

小児期の心血管生物学の進歩とGenetic study-based Medicine

佐地 勉  1861
  教育講演

子どもの眠りの基礎知識

神山 潤  1870
  教育講演

免疫不全症を疑うのはどんな時か?

原 寿郎  1880
原  著
1.

百日咳における3種類の診断法の検討

坂本 昌彦,他  1886
2.

インフルエンザA/H1N1 2009肺炎における胸部CT所見の検討

吉村 歩,他  1891
3.

小児血液・腫瘍患者における中心静脈カテーテルの使用可能期間についての検討

加藤 元博,他  1896
4.

当センターにおける過去10年間の虐待による硬膜下血腫30例の検討

丸山 朋子,他  1901
5.

臍炎を契機に川崎病様症状を呈した好酸球性蜂窩織炎の1例

大杉 康司,他  1908
6.

軽症の糖尿病性ケトアシドーシスに頭蓋内出血を合併していた1乳児例

塩田 睦記,他  1914
7.

MRI拡散強調背景抑制法が診断に有用であった急性腎盂腎炎の3例

國吉 保孝,他  1919
論  策
1.

WHOデータベースによる2000年から2005年における1〜4歳死亡率の先進14か国の国際比較

渡辺 博,他  1926
2.

改正臓器移植法施行後に脳死肝移植登録をおこなった小児症例の検討

垣内 俊彦,他  1932

地方会抄録(兵庫・東海・鹿児島・沖縄・千葉・福岡)

  1934

編集委員会への手紙

  1979
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.27 遊具による溢頸

  1980

日本小児科学会理事会議事要録

  1983

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2011年53巻6号12月号目次

  1987

雑報

  1989


【原著】
■題名
百日咳における3種類の診断法の検討
■著者
江南厚生病院こども医療センター
坂本 昌彦  西村 直子  大島 康徳  新川 泰子  坂本 奏子  後藤 研誠  細野 治樹  山本 康人  尾崎 隆男

■キーワード
百日咳菌, LAMP法, 分離培養法, 百日咳凝集素価
■要旨
 2008年4月〜2009年3月の1年間に,実験室診断法により百日咳と確定診断された26例について後方視的に検討した.病原体診断法として,全例から後鼻腔ぬぐい液を採取し,百日咳菌の分離培養を行うと共に,LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法を用いて百日咳菌DNAの検出を行った.血清診断法として,ペア血清の百日咳凝集素価を測定した.百日咳の実験室診断基準は,1)百日咳菌の分離,2)LAMP法による百日咳菌DNAの検出,3)ペア血清で百日咳凝集素価(山口株)が陽転または4倍以上の上昇の3項目のうち1項目以上満たしたものとした.百日咳と確定診断された26例中19例(73%)がLAMP陽性であり,培養陽性であった15例は全てLAMP法も陽性であった.15例(58%)が血清学的に診断され,その中の7例がLAMP陰性であった.LAMP陽性群(19例)と陰性群(7例)との間に,抗生剤前投与の有無及びDPTワクチン歴に差を認めなかった.11例(42%)が入院治療を要し,入院例の82%(9/11)は1歳未満であった.LAMP法は,約2時間の操作で判定可能であり,百日咳の実験室診断法として非常に有用と考えられた.


【原著】
■題名
インフルエンザA/H1N1 2009肺炎における胸部CT所見の検討
■著者
聖隷浜松病院小児科
吉村 歩  松林 正  松林 里絵  榎 日出夫  武田 紹  藤田 直也  大呂 陽一郎  岡西 徹  横田 卓也  北澤 宏展

■キーワード
インフルエンザA/H1N1 2009, 肺炎, 小児, 胸部CT
■要旨
 目的:インフルエンザA/H1N1 2009による肺炎(インフルエンザA/H1N1 2009肺炎)症例の胸部CT所見を検討した.対象と方法:胸部CTにて肺野濃度上昇域を認め,かつ鼻咽頭粘液または気管吸引物のRT-PCR法でインフルエンザA/H1N1 2009が陽性であった患児27例を対象とした.結果:全例で気管支壁肥厚像がみられた.肺野ではすりガラス影,気管支周囲浸潤影,区域性・肺葉性浸潤影,末梢側浸潤影,斑状浸潤影といったさまざまな所見を呈した.一方,小結節影などウイルス肺炎に多く認められる末梢気道病変はみられなかった.また,胸水を3例に,皮下気腫および縦隔気腫を2例に,硬膜外気腫を1例に認めた.臨床的重症度の指標として来院時呼吸数,来院時経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2),酸素投与日数を用いてCT所見との関連を検討したが一定の傾向はみられなかった.結論:小児インフルエンザA/H1N1 2009肺炎のCT所見の特徴は,1.気管支壁肥厚,2.非特異的肺実質病変,3.末梢気道病変を示唆する所見に乏しいこと,であった.


【原著】
■題名
小児血液・腫瘍患者における中心静脈カテーテルの使用可能期間についての検討
■著者
埼玉県立小児医療センター血液・腫瘍科1),帝京大学小児科2)
加藤 元博1)  康 勝好1)  菊地 陽1)2)  永利 義久1)  花田 良二1)

■キーワード
小児がん, 中心静脈カテーテル, 合併症
■要旨
 小児血液・腫瘍疾患に対する治療において,中心静脈カテーテル(CVC)は重要な役割を果たしている.しかし,CVCに関連した合併症により,使用中に抜去が必要となる場合がある.そこで本研究では,小児血液・腫瘍患者におけるCVCの合併症の頻度と使用可能期間を明らかにすることを目的として,当センターにて2003年から2006年の間に入院した116人の患児に使用された132本のCVCについて,その使用状況と合併症を前向きに検討した.
 132本のCVCの観察延べ日数は32,008日であった.このうち,観察終了時点で使用中であった19本を除いた113本が抜去され,治療終了などにより計画的に抜去されたものが94本(83.1%)であった.合併症により予定外に抜去された19本のCVCの原因は,10本がCVC関連感染症であり,6本が意図しない時期の偶発的抜去,3本が閉塞や破損であった.4.2 Fr以下の細さのCVCや年少児では偶発的抜去や閉塞・破損が多く,ダブルルーメンのCVCでは感染症が多くみられていた.CVCの使用可能期間は特に3歳未満の年少児に挿入されたものが有意に短いことが確認された.
 適切なCVCの管理のためには,合併症を前向きに観察し,CVCに関連した合併症や予定外抜去の頻度を正確に把握し,その因子を検討することが重要と考えられた.


【原著】
■題名
当センターにおける過去10年間の虐待による硬膜下血腫30例の検討
■著者
大阪府立病院機構大阪府立急性期・総合医療センター小児科
丸山 朋子  馬場 美子  高野 智子  田尻 仁

■キーワード
頭部外傷, 硬膜下血腫, 児童虐待, 乳幼児揺さぶられ症候群, 網膜出血
■要旨
 2000年4月から2010年3月までの10年間に当センターに入院した,虐待による硬膜下血腫30例につき診療録を用いて後方視的に調査した.
 対象患者は2か月から7歳7か月までの児で,1歳未満児が23例であった.虐待者は実父が9例であったが,虐待者不明が13例あった.実父母と同居している児は21例であった.急性期入院は16例,児童相談所を介する慢性期入院は14例であった.急性期画像所見は,30例中,脳腫脹14例,脳挫傷9例,クモ膜下出血5例であった.慢性期画像所見は,27例中,慢性硬膜下血腫20例(うち12例は多層性),脳萎縮19例であった.24例中20例に網膜出血を伴い,17例は両側性であった.平均入院期間は99.9日であった.1例が死亡し,12例に後遺障害を認めた.保護者の説明が変化したのは9例,保護者が虐待を認めたのは11例であった.判明した受傷機転は揺さぶり10例,直接殴打7例,布団へのたたきつけ1例であった.生存例の退院後の処遇は,自宅退院4例,施設入所16例,一時保護所入所3例,転院5例,親権者変更1例であった.
 今回の調査で,虐待者や受傷機転不明の症例の存在が明らかになった.今後,虐待の臨床診断における明確な基準を設けると共に,児童相談所・警察,保育機関等との連携のもと,受傷機転や虐待行為の契機となる事象についての検討も必要と考える.


【原著】
■題名
臍炎を契機に川崎病様症状を呈した好酸球性蜂窩織炎の1例
■著者
公立大学法人横浜市立大学附属市民総合医療センター小児総合医療センター
大杉 康司  森 雅亮  大山 宜孝  小川 真喜子  塩島 裕樹  森尾 郁子  海老名 奏子  藤塚 麻子  原田 知典  武下 草生子  菊池 信行  横田 俊平

■キーワード
好酸球性蜂窩織炎, 好酸球, 小児, コルチコステロイド
■要旨
 症例は8歳の女児.発熱と臍部からの排膿を認め,近医より,臍炎の診断で抗菌薬の内服加療が開始された.しかし症状の改善はなく,某総合病院に入院となったが,その後川崎病主要症状6項目中5項目が出現したため川崎病と診断され,大量ガンマグロブリン療法が行われた.しかし,発熱の持続に加え,発疹の増強,乏尿,血圧低下も出現し当院へ紹介となった.入院時の皮膚所見では,小水疱の集簇を伴う浮腫状紅斑が認められた.抗菌薬は無効であり,ステロイドの全身投与にて症状は一時改善したが,漸減に伴い症状の再燃が認められた.その際末梢血中好酸球の著明な増加と,皮膚病理所見で真皮内から皮下脂肪織にかけて著しい好酸球浸潤が認められ,好酸球性蜂窩織炎(eosinophilic cellulitis,以下ECと略)と診断した.本疾患は小児ではまれな疾患であり,虫刺症や感染症,薬剤などの関与が報告されているが,原因は不明である.本症例では臍炎を契機に高サイトカイン血症と川崎病様症状を呈したが,これらの症状が改善するに伴ってECが顕在化したと考えられた.


【原著】
■題名
軽症の糖尿病性ケトアシドーシスに頭蓋内出血を合併していた1乳児例
■著者
小児総合医療センター総合診療科1),同 内分泌代謝科2),同 神経科3),東京女子医科大学病院小児科4)
塩田 睦記1)4)  井垣 純子2)  武田 良淳2)  有安 大典2)  木村 直子3)  斎藤 雄弥1)  長谷川 行洋1)2)

■キーワード
糖尿病性ケトアシドーシス, 頭蓋内出血, 不随意運動, 新生児糖尿病, 合併症
■要旨
 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の神経合併症として,脳浮腫は良く知られているが,頭蓋内出血(ICH)は稀である.過去の報告でICHを合併したのは中等度以上のDKAにおいてのみであり,確定診断されたのは全例DKAの治療後であった.軽症のDKA,かつ治療前にICHの診断ができた新生児糖尿病症例を経験したので報告する.症例は生後3か月の男児で高血糖と代謝性アシドーシス(pH 7.355,HCO3 11.4 mmol/l)から軽症のDKAとして発症した新生児糖尿病と診断した.主訴が左上下肢の不随意運動だったため,頭蓋内病変を疑い,糖尿病の初期治療前に頭部CTでICHを診断した.本症例は他にICHを合併する要因はなく,軽症なDKAにおいて,初期治療前にもICHを合併することを示唆した.過去報告例の半数では,脳血管障害を疑う巣症状がなく意識障害が主症状であった.これらから考えると,DKAの重症度,発症時期,神経所見のみで脳浮腫とICHを鑑別し,ICHと確定診断することは難しいと考えられる.DKAの重症度や治療の有無に関わらず,また,DKAの経過中は常にICHを合併するリスクが高い可能性がある.DKAの経過中には,神経症状に留意し,神経症状を認めた場合には巣症状を認めなくともICHの合併を疑って画像検査を行うべきと考えた.


【原著】
■題名
MRI拡散強調背景抑制法が診断に有用であった急性腎盂腎炎の3例
■著者
津軽保健生活協同組合健生病院小児科
國吉 保孝  加村 梓  安田 すみ江  田代 実

■キーワード
拡散強調背景抑制法, DMSA腎シンチグラフィ, 急性腎盂腎炎, 尿培養, 膀胱尿管逆流
■要旨
 MRI拡散強調背景抑制法画像(Diffusion weighted Whole body Imaging with Background signal Suppression;DWIBS法)と99m technetium-dimercaptosuccinic acid scintigraphy(DMSA腎シンチグラフィ)の画像所見を比較しえた,急性腎盂腎炎の3例を報告した.報告した3例のうち2例は,尿培養検査で診断を確定できなかった.1例は両画像検査で,残り2例はDWIBS法画像でのみ有意な所見を示した.急性腎盂腎炎の画像診断には,DMSA腎シンチグラフィよりもDWIBS法のほうが鋭敏で,感度が高い可能性が示唆された.


【論策】
■題名
WHOデータベースによる2000年から2005年における1〜4歳死亡率の先進14か国の国際比較
■著者
帝京大学医学部附属溝口病院小児科1),緑園こどもクリニック2),大阪府立母子保健総合医療センター3)
渡辺 博1)  山中 龍宏2)  藤村 正哲3)

■キーワード
幼児死亡, 死亡率, 死亡原因, 国際比較, 肺炎
■要旨
 日本を含む先進14か国の1〜4歳死亡率比較を,2000年〜2005年の6年間の平均死亡率により行った.利用したのはWHO Mortality Databaseで公開されているICD-10分類に基づくデータである.
 日本の1〜4歳平均死亡率は,ニュージーランド,アメリカに次ぎ,14か国中高い方から3番目であった.内因死と外因死に分けて比較すると,内因死で日本は14か国中死亡率が最も高くなっていたが,外因死では日本は高い方から6番目であった.内因死の中で死亡率が他の国よりきわだって高い疾患群を検索したところ,呼吸器疾患,中でも肺炎の死亡率の高さが際立っていた.
 日本の乳児死亡率は先進国の間でもトップレベルの低さで,そのすぐ隣の年齢階層である1〜4歳児の死亡率の高さは奇異である.日本の1〜4歳児の肺炎による死亡の詳細を解析することで,日本の1〜4歳死亡率が先進国間比較で高くなっている原因の一端が解明できるものと期待される.


【論策】
■題名
改正臓器移植法施行後に脳死肝移植登録をおこなった小児症例の検討
■著者
独立行政法人国立成育医療研究センター
垣内 俊彦  笠原 群生  阪本 靖介  重田 孝信  福田 晃也  中川 聡  中澤 温子  松井 陽

■キーワード
改正臓器移植法, 脳死肝移植登録, 小児, Pediatric end stage liver disease(PELD)スコア
■要旨
 平成22年7月に改正臓器移植法が施行され,家族承諾があれば臓器提供可能になった.当センターで改正臓器移植法施行後から平成22年11月までの4か月間で脳死肝移植登録をおこなった6例において肝移植適応疾患名,脳死肝移植登録優先理由,Pediatric end stage liver disease(PELD)スコア,緊急性,転帰について評価した.
 患者の内訳は,急性肝不全が4名,胆道閉鎖症が1名,Caroli病が1名であった.脳死肝移植登録理由としては,両親のいずれかに基礎疾患を有する症例が5例で,1例は肝腎同時移植の必要性からドナー負担の軽減目的であった.そのうち,急性肝不全の1例は脳死肝移植登録後2日目に成人脳死ドナーの分割肝移植を実施した.残り5例では,両親いずれかからの生体肝移植を施行した.
 改正臓器移植法施行後より,脳死下臓器提供が増加傾向にあり,また小児では分割肝移植が可能であるため,脳死肝移植を積極的に考慮すべきであり,また,生体ドナー・家族の負担の軽減からも,今後小児でも脳死肝移植登録数が増加していくものと考えられる.

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