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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:11.8.29)

第115巻 第8号/平成23年8月1日
Vol.115, No.8, August 2011

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総  説

小児災害救急医療の現状と課題―東日本大震災支援医療を経験して―

市川 光太郎  1285
原  著
1.

小児てんかんにおけるラモトリギンの有効性と安全性

浜野 晋一郎,他  1294
2.

牛乳蛋白による消化管アレルギー患者の予後についての研究

木村 光明,他  1301
3.

1歳未満の急性血液浄化療法

亀井 宏一,他  1307
4.

経管栄養施行中の重症心身障害児における二次性カルニチン欠乏症の検討

越智 史博,他  1314
5.

放射線療法を伴った造血幹細胞移植後に甲状腺腫瘍,血清サイログロブリン異常高値を合併した2例

香川 礼子,他  1321
短  報

結合型Haemophilus influenzae type bワクチン初回免疫前後の抗polyribosylribitol phosphate抗体価に関する検討

星野 直,他  1325
論  策

埼玉県で発生した小児心肺停止患者に対する病院前救護の実態調査

櫻井 淑男,他  1328

地方会抄録(沖縄・東京・埼玉・山梨・北陸・福井・愛媛・高知)

  1333
栄養委員会・新生児委員会による母乳推進プロジェクト

小児科医と母乳育児推進

  1363
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.23 イヤホンのパーツによる食道異物

  1390

日本小児科学会理事会議事要録

  1392

日本小児科学会分科会一覧

  1398

日本小児科学会分科会活動状況

  1399

雑報

  1408

「障害年金の診断書(精神の障害)」を作成される医師の皆さまへ

  1409

医薬品・医療機器等安全性情報 No.280

  1410


【原著】
■題名
小児てんかんにおけるラモトリギンの有効性と安全性
■著者
埼玉県立小児医療センター神経科1),東京慈恵会医科大学小児科2),埼玉県立小児医療センター保健発達部3)
浜野 晋一郎1)  菊池 健二郎1)2)  田中 学1)  菅谷 ことこ1)  松浦 隆樹1)2)  中島 絵梨花1)  南谷 幹之3)  平田 佑子2)  井田 博幸2)

■キーワード
小児, 全般発作, ミオクロニー発作, 焦点性発作, ラモトリギン
■要旨
 小児てんかんにおけるラモトリギン(LTG)の有効性と安全性を評価した.対象は2剤以上の抗てんかん薬で発作を抑制できずLTGを使用した45例である.LTGを開始した平均年齢は8.3±4.6歳,LTG投与開始前に試みられた抗てんかん薬数は平均6.6±3.7剤だった.酵素誘導薬併用・VPA非併用群のLTG開始時用量は0.4±0.2 mg/kg,最大量5.3±4.0 mg/kg,酵素誘導薬併用・VPA併用群ではそれぞれ0.1±0.0 mg/kgと2.0±1.5 mg/kg,その他の場合はそれぞれ0.1±0.1 mg/kgと1.8±1.0 mg/kgだった.発作がLTG開始前に比し50%以上減少した場合を有効と判定し,使用例における有効例の比率(レスポンダー率;RR)は全体で46.7%(45例中21例)だった.てんかん分類別では焦点性てんかんのRRが55.6%,全般てんかんのRRは37.5%で,発作型別では意識減損発作および強直発作に有効例が多く,意識減損発作では焦点性運動発作に対し有効例が多かった(p=0.0484).発作の増悪を3例に認め,いずれもミオクロニー発作の増加または出現であった.副作用は,興奮1例,発疹1例で,いずれもLTGを中止しすみやかに軽快した.LTGは焦点性てんかんおよび全般てんかんの両方に有効であり,忍容性の高い薬剤と考えられた.


【原著】
■題名
牛乳蛋白による消化管アレルギー患者の予後についての研究
■著者
静岡県立こども病院感染免疫アレルギー科
木村 光明  田口 智英  楢林 成之  王 茂治

■キーワード
牛乳アレルギー, 消化管アレルギー, 乳児, 予後, アレルギーマーチ
■要旨
 【はじめに】新生児・乳児の消化管アレルギーの病像は次第に明らかになりつつあるが,予後についての情報は極めて乏しい.今回,われわれは,牛乳蛋白による消化管アレルギー(以下ICMA:intestinal cow's milk allergy)患者の予後や続発アレルギー疾患などついて調査した.【対象】平成13年4月1日から平成22年5月31日までに当科を受診し,ICMAと診断後,少なくとも1歳まで継続的に経過を観察できた28症例を対象とした.【結果】生後6か月での乳児用牛乳調整粉乳を用いた牛乳蛋白負荷試験の陰性率は26.3%であった.1歳での耐性獲得率は71.4%,2歳では87.0%,3歳では95.0%であった.離乳前に大豆乳アレルギーが2名発生し,離乳食開始後,米および鶏卵アレルギーがそれぞれ2名ずつ発生した.大豆および米アレルギーは消化管症状であったが,鶏卵アレルギーは皮疹と喘鳴を呈した.後日,アトピー性皮膚炎が11名,気管支喘息が7名に発症した.【考察】ICMAの予後は良好であり,2歳頃にはほぼ全員が牛乳蛋白への耐性を獲得することが確認された.一方,約半数にアトピー性皮膚炎や気管支喘息が続発することも明らかになり,消化管アレルギーを発端とする新たなアレルギーマーチの存在が示唆される.


【原著】
■題名
1歳未満の急性血液浄化療法
■著者
国立成育医療研究センター腎臓・リウマチ膠原病科1),同 集中治療部2),同 内分泌代謝科3),同 移植外科4)
亀井 宏一1)  小椋 雅夫1)  佐藤 舞1)  石川 智朗1)  藤丸 拓也1)  宇田川 智宏1)  六車 崇2)  中川 聡2)  堀川 玲子3)  笠原 群生4)  伊藤 秀一1)

■キーワード
乳児, 急性血液浄化, 持続血液透析, 持続血液濾過透析, 劇症肝炎
■要旨
 2006年4月より2010年6月までに,当センターで急性血液浄化療法を施行した1歳未満の35症例(総治療日数346日)についてレビューを行い,当センターでの方針や施行時の工夫について紹介した.体重は中央値7.6 kg(2.5〜10.0 kg)で施行日数は中央値6.0日(1〜51日)であった.原疾患は当センターの施設の特色上,肝不全(42.9%)と代謝疾患(20.0%)が多く,腎尿路疾患は8.6%と少なかった.バスキュラーアクセスは全例内頸静脈で,カテーテルは6.5 Frが68.6%と最多であった.88.6%で濃厚赤血球を回路内に充填して開始していた.モードは疾患毎で異なり,肝不全の86.7%が持続血液濾過透析と血漿交換併用療法,腎尿路疾患や心疾患では全例持続血液透析であった.肝不全や代謝疾患では透析液流量を特に多く必要としていた.合併症として開始時の低血圧や菌血症が問題で,血液培養陽性例は10名(28.6%)であったが,うち6名はカテーテルを抜去した.他の重篤な合併症は認めなかった.3名が死亡したが,いずれも原疾患の悪化によるものであった.乳児であっても急性血液浄化療法は安全に施行可能であり,多くの患者を救命しうる治療である.今後は原疾患毎に急性血液浄化療法のモードや治療条件などの標準化を作成していく必要がある.


【原著】
■題名
経管栄養施行中の重症心身障害児における二次性カルニチン欠乏症の検討
■著者
愛媛県立中央病院小児科1),愛媛大学大学院医学系研究科小児医学2)
越智 史博1)  大森 啓充1)  日野 香織1)  森谷 友造1)  米澤 早知子1)  岡本 健太郎1)  小西 恭子1)  平井 洋生1)  徳田 桐子1)  石井 榮一2)  林 正俊1)

■キーワード
重症心身障害児, カルニチン欠乏症, 経管栄養, 低血糖, 心筋障害
■要旨
 【緒言】重症心身障害児(重症児)では摂食障害などから経管栄養を余儀なくされることが多く,経腸栄養剤の長期使用によって二次性カルニチン欠乏症が生じることが報告されている.今回,経管栄養施行中の重症児における二次性カルニチン欠乏症について検討した.
 【対象と方法】愛媛県立中央病院小児科で経腸栄養施行中の重症児13名を対象とし,血清カルニチン濃度,血糖値,HbA1c,中性脂肪,遊離脂肪酸,アンモニア,BNP,心機能を測定した.
 【結果】13例全例でカルニチン欠乏を来しており,5例で低血糖,1例で急性心不全,4例で高脂血症,9例で高アンモニア血症も認めた.6例でL-カルニチン投与を開始したところ,血清カルニチン濃度の上昇と低血糖の改善を得たが,心不全症状が出現した症例では心機能は改善しなかった.
 【結論】経腸栄養施行中にはカルニチン欠乏による低血糖や心不全症状出現に注意し,定期的な血清カルニチン濃度の測定と経腸栄養剤の検討,および予防的なL-カルニチンの補充が重要である.


【原著】
■題名
放射線療法を伴った造血幹細胞移植後に甲状腺腫瘍,血清サイログロブリン異常高値を合併した2例
■著者
広島赤十字・原爆病院小児科
香川 礼子  藤田 直人  浜本 和子  西 美和

■キーワード
小児がん経験者, 放射線療法, 造血幹細胞移植, 甲状腺腫瘍, 高サイログロブリン血症
■要旨
 小児がん・再生不良性貧血に対する放射線療法による甲状腺への照射は甲状腺腫瘍の発生率を上昇させる.今回我々は,小児期に放射線療法を施行され,長期経過中に甲状腺腫瘍と高サイログロブリン血症を合併した2例を経験した.症例1は28歳男性.1990年(9歳時)に再生不良性貧血を発症し,全身リンパ節照射7.5 Gyを含む前処置後,同種骨髄移植を施行した.2007年より血清サイログロブリン(以下Tg)の上昇があり,2009年に左甲状腺腫瘤を認め摘出した.病理診断はadenomatous goitorだった.症例2は15歳女性.1996年(1歳時)に神経芽腫を発症し,全身放射線照射12 Gyを含む前処置後に自家骨髄移植を施行した.2006年より血清Tgの上昇を認め,2009年に左右甲状腺に腫瘤を認め摘出した.病理診断はlow grade follicular carcinomaだった,小児がんや再生不良性貧血経験者の長期フォローアップにおいて,特に全身放射線照射などによる甲状腺部に照射歴のある患者では,定期的な甲状腺ホルモン検査(血清Tgを含む),甲状腺触診や甲状腺超音波検査が必要である.


【短報】
■題名
結合型Haemophilus influenzae type bワクチン初回免疫前後の抗polyribosylribitol phosphate抗体価に関する検討
■著者
千葉県こども病院感染症科1),同 総合診療科2),千葉大学大学院小児病態学3)
星野 直1)  高柳 正樹2)  石和田 稔彦3)  河野 陽一3)

■キーワード
Haemophilus influenzae type b ワクチン, 抗polyribosylribitol phosphate抗体価, 施設入所児
■要旨
 施設入所児20名にHaemophilus influenzae type b(Hib)ワクチン初回免疫を行い,その前後で抗polyribosylribitol phosphate(PRP)抗体価を測定した.初回免疫前の幾何平均抗体価(GMT)は0.11 μg/mlと低値であり,防御抗体(≧0.15 μg/ml)保有率も15%と低く,侵襲性Hib感染症発症の潜在的リスクは高いものと考えられた.一方,初回免疫後のGMTは3.93 μg/mlと有意に上昇しており(P<0.01),長期防御抗体(≧1.0 μg/ml)保有率も90%と高率であった.入所前のHibワクチン接種の重要性が,血清学的に証明された.


【論策】
■題名
埼玉県で発生した小児心肺停止患者に対する病院前救護の実態調査
■著者
埼玉医科大学総合医療センター小児科1),埼玉県医師会母子保健委員会2)
櫻井 淑男1)2)  田村 正徳1)2)

■キーワード
小児救急, 心肺停止, 病院前救護, 医療体制, 特定行為
■要旨
 厚労省研究班による2005,2006年度1〜4歳児死亡小票全国調査から“小児重症患者の集約化”が新たな問題点として明示された.このような小児の病院前救護に関わる情報は国内では少なく,本稿では,小児心肺停止患者の病院前救護の実態解明のために埼玉県全36消防本部に上記事例においてアンケート調査を行い分析した.その結果,平成20年1月1日から1年間に埼玉県内で心肺停止のため搬送された生後7日以上15歳以下79名を対象とした.対象の23%が特定行為可能な8歳以上であった.蘇生時にメディカルコントロールを受けていた症例は48%で,救急救命士の小児心肺蘇生に関わる頻度の低さを考えればメディカルコントロールを受ける割合を引き上げる必要がある.また実際に行われた医療行為において,気道確保は挿管4%,ラリンジアルマスク6%でほとんどがマスクバックのみであった.輸液路確保も6%のみになされているに過ぎず,アドレナリン投与は4%であった.以上から特定行為対象者が全体の約1/4であったにもかかわらず,実際になされた医療行為はほとんどBLSのみであった.救命率向上のため,現場での早期の二次救命処置導入を目指して,今後は特定医療行為の年齢層の拡大,骨髄針やエアウェイスコープなど新たな技術の現場への導入,更に小児救急医療における救急隊員への新たな教育方法の確立に努力すべきと考える.

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