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日本小児科学会雑誌 目次

(登録:10.6.9)

第114巻 第6号/平成22年6月1日
Vol.114, No.6, June 2010

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総  説
1.

小児特発性間質性肺炎の現状と課題

肥沼 悟郎  937
2.

日本における小児肝腫瘍治療の現況

菱木 知郎,他  946
原  著
1.

けいれん重積小児例の検討

塩浜 直,他  956
2.

幼児期に繰り返す嘔吐発作で発症したメチルマロン酸血症の同胞例

粟野 宏之,他  961
3.

カプセル内視鏡で診断した小腸クローン病の小児例

八木 英哉,他  966
4.

小児甲状腺濾胞癌の1例

山本 晶子,他  971
5.

一過性新生児高インスリン血症5例の病態と管理方針に関する考察

水本 洋,他  975
6.

ステロイドパルス療法と多剤併用療法が奏効しIgA腎症がオーバーラップしたANCA関連腎炎の1例

江口 広宣,他  981
7.

3D-CTにより新生児期に診断したKlippel-Feil症候群の1例

松田 和之,他  985
8.

玩具からちぎれた直径24 mmの吸盤を誤飲し幽門閉塞を呈した1歳児

鈴木 道雄,他  989
論  策

厚生労働科学研究班資料による小児患者のヘリコプター搬送に関する実態調査報告

辻 聡,他  995

地方会抄録(北海道・佐賀・石川・北陸・青森)

  1001
小児科医のQOLを改善するプロジェクトチーム

小児科医に必要な労働基準法の知識

  1016

日本小児科学会理事会議事要録

  1023

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2010年52巻3号6月号目次

  1029

雑報

  1031


【原著】
■題名
けいれん重積小児例の検討
■著者
千葉市立海浜病院小児科1),千葉大学大学院医学研究院小児病態学2)
塩浜 直1)2)  金澤 正樹1)  安齋 聡1)  加藤 いづみ1)  阿部 克昭1)  武田 紳江1)  山口 賢一1)  地引 利昭1)  黒崎 知道1)  藤井 克則2)  河野 陽一2)

■キーワード
けいれん重積, 高血糖, 急性脳症, 熱性けいれん, 予測因子
■要旨
 けいれん重積小児203機会を診療録より後方視的に解析し,初期治療時における急性脳症の予測因子を検討した.平均年齢3.2歳.原因疾患は熱性けいれん57.1%,てんかん26.7%,急性脳症8.4%.高血糖を高率に認めた(血糖値≧150 mg/dl 58.1%,≧200 mg/dl 33.0%,≧300 mg/dl 6.2%).急性脳症群と熱性けいれん群の比較では,白血球数,GOT,血糖値,けいれん難治例,血清Cre高値,尿蛋白陽性に有意差を認めた.けいれん重積例における急性脳症の予測因子の解析により,けいれん難治例(RR 5.48,CI 2.22〜13.53),GOT≧100 U/l(リスク比[RR]7.23,95%信頼区域[CI]3.03〜17.24),血糖値≧200 mg/dl(RR 4.84,CI 1.78〜13.14),血清Cre高値(RR 5.61,CI 2.19〜14.38),尿蛋白陽性(RR 4.76,CI 1.89〜12.03)が有用な予測因子となった.急性脳症群では後遺症なし例と比較して,後遺症例及び死亡例の血糖値は優位に高値であった(中央値164 mg/dl(範囲131〜311 mg/dl)vs 283 mg/dl(181〜455 mg/dl);p<0.001,Mann-WhitneyのU検定).本検討によりけいれん重積小児における高血糖が,急性脳症の早期診断や重症度の予測に有用であることが示唆された.


【原著】
■題名
幼児期に繰り返す嘔吐発作で発症したメチルマロン酸血症の同胞例
■著者
神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野1),島根大学医学部小児科2),東北大学大学院医学系研究科発生・発達医学講座小児病態学分野3)
粟野 宏之1)  八木 麻理子1)  起塚 庸1)  小林 弘典2)  長谷川 有紀2)  山口 清次2)  坂本 修3)  大浦 敏博3)  竹島 泰弘1)  松尾 雅文1)

■キーワード
メチルマロン酸血症, 嘔吐発作, メチルマロニルCoAムターゼ遺伝子
■要旨
 乳児期に全く症状を認めず,幼児期に繰り返す嘔吐発作,意識障害で発症したメチルマロン酸血症(以下MMA)の同胞例を経験した.妹は1歳時より嘔吐発作を繰り返しており,3回目の嘔吐発作時に尿有機酸分析を行いMMAと診断された.姉は3歳時より嘔吐発作を繰り返し,周期性嘔吐症として経過観察されていたが,妹がMMAと診断されたことを契機に精査を行い化学的にMMAと診断された.さらに,メチルマロニルCoAムターゼ遺伝子解析にて,p.G380E/p.G648Dの複合ヘテロ接合変異を同定した.感染等のストレス時に嘔吐発作を繰り返す症例の中には,診断に至っていないMMA例が潜在している可能性がある.


【原著】
■題名
カプセル内視鏡で診断した小腸クローン病の小児例
■著者
京都大学医学部附属病院発達小児科学1),公立高島総合病院小児科2)
八木 英哉1)  田口 周馬1)  田中 篤志1)  藤野 寿典1)  八角 高裕1)  澤田 眞智子2)  西小森 隆太1)  平家 俊男1)  中畑 龍俊1)

■キーワード
クローン病, カプセル内視鏡, ダブルバルーン内視鏡
■要旨
 症例は14歳男児.慢性腹痛,腸間膜リンパ節腫大,体重減少の精査目的で,当科紹介となった.当初,感染症,悪性腫瘍,膠原病を疑い精査を進めたが,有意な所見は得られなかった.慢性腹痛,発熱,体重増加不良,貧血,便潜血陽性,腹部造影CTでの小腸壁肥厚などは炎症性腸疾患(IBD)の症状に合致しており,大腸内視鏡検査に臨んだが,観察範囲にはIBDに合致した所見を認めなかった.それでも臨床経過と所見からIBDが疑われたため,カプセル内視鏡(VCE)を用いて小腸まで検索の範囲を拡げたところ,下部空腸を中心に敷石状の変化や多数の潰瘍形成を認めたため,ダブルバルーン内視鏡(DBE)を施行し,小腸クローン病と診断した.
 近年成人領域では,VCEとDBEが相次いで実用化され,適応範囲も拡がりつつあるが,小児での症例は少なく,欧米のガイドラインにおいても未だ一定のコンセンサスを提示できない状況である.小児のクローン病は小腸病変を主体とすることが稀ではなく,重度狭窄からイレウスを来して初めて診断されるものも少なくない.IBD疑い症例の診断ツールとして,VCEとDBEが有用であることを示した示唆に富む1例であったため報告する.


【原著】
■題名
小児甲状腺濾胞癌の1例
■著者
熊本市立熊本市民病院小児科
山本 晶子  中村 俊郎

■キーワード
甲状腺腫瘤, 小児, 甲状腺濾胞癌, サイログロブリン
■要旨
 小児科領域において稀な甲状腺濾胞癌の症例を経験した.症例は13歳女児で,生来健康であったが,2008年1月,左前頸部の腫脹を指摘され自発痛も覚えるようになった.多汗,手指振戦,体重減少などは認めず,バイタルにも異常はなかった.左前頸部に鶏卵大,弾性軟の腫瘤を触知し,血液検査では炎症所見は認めなかった.TSH, FT3,FT4は正常であったが,サイログロブリンの高値を認めた.甲状腺エコーにて左葉に内部不均一な腫瘤を認め,甲状腺シンチグラフィでは左葉にびまん性の淡い集積を認めた.悪性も疑われ診断を兼ね甲状腺左葉切除を行った.病理組織では濾胞上皮細胞の密な増生と複数個所の被膜浸潤が確認され甲状腺濾胞癌と診断された.現時点で全身への転移は認めていないが,今後も血行性転移の検索を定期的に行う必要があると考えられた.


【原著】
■題名
一過性新生児高インスリン血症5例の病態と管理方針に関する考察
■著者
財団法人田附興風会医学研究所北野病院小児科1),八尾市立病院小児科2)
水本 洋1)  明石 良子1)  中田 昌利1)  濱端 隆行1)  松岡 道生1)  末永 英世1)  匹田 典克1)  山本 景子1)  飯田 ちひろ1)  吉岡 耕平1)  寺岡 由恵1)  西田 仁1)  熊倉 啓1)  吉岡 孝和1)  吉田 葉子1)  塩田 光隆1)  羽田 敦子1)  大村 真曜子2)  道之前 八重2)  秦 大資1)

■キーワード
低血糖, 高インスリン血症, 赤芽球増多症
■要旨
 重症の一過性新生児高インスリン血症の5症例の経過を提示した.3例は子宮内発育遅延児であり,出生時に仮死を認めた.1例は小腸閉鎖の術後に低血糖が急激に悪化した.全例が入院時に著明な赤芽球増多症を認め,長期間末梢血中に残存した.胎内での慢性的低酸素状態が引き金となって膵臓β細胞が過敏な状態となり,出生前後の様々なストレスに対してインスリン分泌が亢進する可能性が示唆された.また高濃度糖液補充やステロイドなど,インスリン分泌を刺激しうる治療は,さらに病態を悪化させる可能性があり,ジアゾキサイドやソマトスタチンアナログなどインスリン分泌そのものを抑制する治療を優先させることが有用である可能性が考えられた.


【原著】
■題名
ステロイドパルス療法と多剤併用療法が奏効しIgA腎症がオーバーラップしたANCA関連腎炎の1例
■著者
松戸市立病院小児医療センター小児科
江口 広宣  松本 真輔  平本 龍吾  小森 功夫

■キーワード
MPO-ANCA, IgA, ステロイドパルス療法, 小児
■要旨
 メサンギウム領域にIgA沈着を伴うANCA関連半月体形成性糸球体腎炎の7歳女児例を経験した.従来よりpauci-immune型が多いとされるANCA関連腎炎にも,免疫複合体の沈着を認める例が報告されつつあるが小児例は稀である.小児におけるANCA関連腎炎には不明な点も多く,確立された治療指針もないのが現状である.治療に難渋することも多いANCA関連腎炎は,免疫複合体の沈着を伴うとpauci-immune型の場合よりも更に尿蛋白量が高度になるとされるが,本症例にはステロイドパルス療法とミゾリビンを含む多剤併用療法が奏功した.治療開始より2年半以上経過した現在は,リシノプリルの内服のみを継続しているが,尿検査上の異常はなくMPO-ANCAの再上昇も認めていない.


【原著】
■題名
3D-CTにより新生児期に診断したKlippel-Feil症候群の1例
■著者
国立病院機構三重中央医療センター小児科1),同 臨床研究部2)
松田 和之1)  盆野 元紀1)2)  川崎 裕香子1)  杉野 典子1)  大森 雄介1)  山本 和歌子1)  馬路 智昭1)  佐々木 直哉1)  田中 滋己1)  山本 初実2)  井戸 正流1)

■キーワード
Klippel-Feil症候群, 3D-CT, 新生児期, omovertebral bone
■要旨
 3D-CTを用いて新生児期に診断し得たKlippel-Feil症候群の1例を経験した.症例は在胎36週1日,体重2,654 gで出生した.出生後から続く重篤な無呼吸のため人工呼吸を含む治療を行った.抜管後の吸気性呼吸困難が遷延し,3D-CTを施行したところ,頸椎,胸椎の癒合,二分脊椎と頸椎後面の骨化像を認めた.身体所見で短頸,後頭部毛髪線低位,頸部可動域制限の三徴を認め,本症例をKlippel-Feil症候群と診断した.
 骨形成が未熟な新生児期には椎体上下縁の骨端核がみられず,単純レントゲン像で椎体癒合を診断することは非常に困難である.そのためKlippel-Feil症候群の新生児期の報告は家族例や剖検例を除いて無く,本症例が3D-CTを用いて診断した初めての新生児例である.
 本症例では3D-CTを用いてKlippel-Feil症候群を新生児期に診断したことにより,合併した上気道閉塞症状と嚥下障害に対し早期に治療方針を決定し得た.
 新生児期にKlippel-Feil症候群を疑い,上気道閉塞症状や嚥下障害を伴う場合は,3D-CTを用いて早期診断を行うことで,合併症に対する早期介入が可能と考えられた.


【原著】
■題名
玩具からちぎれた直径24 mmの吸盤を誤飲し幽門閉塞を呈した1歳児
■著者
江南厚生病院こども医療センター
鈴木 道雄  西村 直子  新川 泰子  成田 敦  坂本 昌彦  山本 康人  小山 慎郎  尾崎 隆男

■キーワード
異物誤飲, 幽門閉塞, CT, 内視鏡, 塩化ビニル
■要旨
 症例は1歳4か月の男児.玩具からちぎれた吸盤の誤飲を主訴に近医受診したが,無症状のため経過観察として帰宅となった.誤飲の2日後に突然嘔吐が始まり,その翌日には脱水所見を認めたため入院となった.腹部X線写真では異物所見を認めなかったが,入院後も嘔吐を繰り返したため更に画像検査を行った.超音波検査では胃内容物の充満を認めたのみであったが,CTにて幽門を栓状になってふさぐ異物の存在を確認できた.直ちに全身麻酔下に内視鏡を施行し,吸盤を摘出した.径24 mmの塩化ビニル製の吸盤が,胃酸により硬化する材質とその特異な形状により,幽門を閉塞したと思われた.消化管異物において胃まで落下した異物の95%以上は自然排泄され,消化管閉塞をきたすことは非常に稀である.しかし,X線透過性異物の誤飲後に嘔吐などの消化器症状が出現した場合には,超音波検査,消化管造影,CT,MRIなど積極的な画像検査が必要と考えられた.


【論策】
■題名
厚生労働科学研究班資料による小児患者のヘリコプター搬送に関する実態調査報告
■著者
国立成育医療センター救急診療科1),同 総合診療部2)
辻 聡1)  池山 由紀1)  阪井 裕一2)

■キーワード
ヘリコプター搬送, ドクターヘリ, 消防防災ヘリ, 集約化
■要旨
 【背景】平成18年度厚生労働省の班研究事業として,ドクターヘリ事業実施病院(以下ドクターヘリ)及び都道府県各地域の消防防災航空隊(以下消防防災ヘリ)の各施設に対して,当該施設で経験した搬送症例に関する調査が行われた.【目的】調査資料より15歳以下の搬送症例を抽出し,小児患者のヘリコプター搬送について検討した.【結果】平成18年における小児患者のヘリコプター年間搬送件数はドクターヘリが270件,消防防災ヘリが193件だった.年齢別では新生児及び乳児が114件,1〜4歳が143件,5〜9歳が105件,10歳以上が95件であった.全搬送症例463件中258件(55.7%)が自施設を含めた救命救急センターに搬送され,その他大学病院には100件(21.7%),小児病院には51件(11.0%)が搬送されたが,搬送件数に地域差が認められた.大学病院や小児病院への搬送件数は,内因系では小児患者全体の約33%,外因系では約16%であり,外傷患者の約50%は救命救急センターに搬送されていた.【考察】重症患者の予後の改善に向け,「集約化」は重要なキーワードである.ヘリコプター搬送システムの拡充と,外傷を含めた小児集中治療体制の整備により,従来の救急車搬送システムでは集約化が不可能であった遠隔地や緊急度の高い患者にも,時間的空間的制約を取り除き,集約化による予後の改善が期待できる.

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