gakkaizashi


日本小児科学会雑誌 目次

(登録:10.3.16)

第114巻 第3号/平成22年3月1日
Vol.114, No.3, March 2010

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総  説
1.

関節症状を伴う若年性特発性関節炎におけるメトトレキサートの適応拡大の取得

森 雅亮,他  415
2.

社会的養護と小児医学

庄司 順一  426
3.

不登校の理解と対応

山崖 俊子  432
4.

癇癪,衝動,攻撃,同一性保持など問題行動に対する精神療法―好い事作り療法

石川 丹  439
原  著
1.

葉酸による神経管閉鎖障害の一次予防

篠崎 圭子,他  447
2.

幼児死亡小票調査からみた医療提供体制の課題

藤村 正哲,他  454
3.

ムコ多糖症親の会の患者家族に対する出生前診断の意識調査(酵素補充療法承認前調査)

田中 あけみ,他  463
4.

Prader-Willi症候群での成長ホルモン開始時期の検討

土屋 貴義,他  468
5.

北海道における小児期細菌性髄膜炎の疫学調査成績

富樫 武弘,他  473
6.

エコーウイルス30型髄膜炎における髄液および血清中サイトカイン/ケモカイン解析

浅田 和豊,他  479
7.

成人を対象としたジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチンの安全性と免疫原性

伊東 宏明,他  485
8.

当科における過去10年間の心室中隔欠損症の検討

橋田 祐一郎,他  492
9.

川崎病容疑例(狭義の不全型)の疫学的特徴

上原 里程,他  497
10.

新生児医療施設長期入院児のQOL調査

前田 知己,他  503
11.

水痘罹患4か月後に脳梗塞をきたした1例

森 達夫,他  510
12.

白血球増多による偽性高カリウム血症を呈した一過性骨髄異常増殖症の1例

相場 佳織,他  515
短  報
1.

本邦ではまれな遺伝子変異の認められたベータサラセミアの2家系

大戸 佑二,他  519
2.

「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」の使用経験

大山 昇一,他  522
論  策

埼玉県全域における小児救急患者救急車搬送の現状分析

櫻井 淑男,他  525

地方会抄録(中国四国・和歌山・高知・千葉・岩手・徳島・沖縄・滋賀・福島・青森・熊本・山陰・鹿児島・甲信・静岡・山形・岡山・福岡・愛媛・北陸・富山・山口)

  531
日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会

Injury Alert(傷害注意速報)No.15 自転車のサドルによる外陰部外傷

  630

査読者一覧

  632

日本小児科学会英文雑誌 Pediatrics International 2010年52巻1号2月号目次

  633

雑報

  634

厚生労働省からのお知らせ

  635

医薬品・医療機器等安全性情報 No.265

  636


【原著】
■題名
葉酸による神経管閉鎖障害の一次予防
■著者
トロント小児病院臨床薬理学部門
篠崎 圭子  田中 敏博  伊藤 真也

■キーワード
神経管閉鎖障害, 葉酸, 妊娠, 妊婦, 予防
■要旨
 二分脊椎や無脳症等の神経管閉鎖障害(neural tube defects:NTD)は,妊婦および妊娠可能年齢にある女性の積極的な葉酸摂取によりその発生が抑制される.米国とカナダでは,1990年代前半,妊娠可能年齢にある女性に対して0.4 mg/日以上の葉酸摂取を勧告し,1990年代後半からは小麦粉やパスタなどに葉酸添加を義務付けている.実際にカナダでは,NTD発生率が15.8/1万出生(1993〜1997年)から8.6/1万出生(2000〜2002年)へと46%減少した.日本でも北米に倣い,妊娠可能年齢にある女性に対して通常の食事に加えて0.4 mg/日の葉酸摂取を推奨することが,2000年に厚生省(当時;現,厚生労働省)より勧告された.しかし,対象者の摂取は十分量に達しておらず,葉酸とNTDに関する認識もいまだ浸透していない.さらに,NTDの中で二分脊椎に注目した場合,1970〜1980年代は1〜3/1万出生であったものが,2000〜2004年には5.3/1万出生と増加傾向にあるという概算報告もあるが,その実数は不明である.今後我が国で葉酸とNTDに関する議論を発展させていくためには,赤血球葉酸値に代表される葉酸摂取量や,登録制度を整備した上での患者実数等,基礎データの収集・把握がまずは不可欠である.


【原著】
■題名
幼児死亡小票調査からみた医療提供体制の課題
■著者
大阪府立母子保健総合医療センター1),東京女子医科大学母子総合医療センター2),東京大学大学院医学系研究科小児医学講座3),埼玉医大総合医療センター小児科4),京都きづ川病院小児科5)
藤村 正哲1)  楠田 聡2)  渡辺 博3)  櫻井 淑男4)  青谷 裕文5)  松浪 桂1)  米本 直裕1)

■キーワード
幼児死亡, 死亡率, 死亡場所, 死亡原因, 医療提供体制
■要旨
 「患者の死亡した場所」は医療提供体制の実態を示す重要な一要素である.指定統計調査・調査票(死亡小票)を用いて1〜4歳児の死亡場所と死亡原因について分析し,幼児死亡率を改善するための基礎資料を得ることを目的とした.対象は2005年,2006年2年間の1〜4歳児死亡小票全数2,245人である.病院内死亡は1,880人(84%)で病院数は647であった.1病院内死亡が5人以下の小規模病院が563施設(87.0%)と多数を占め,それらの病院で1,037人(55.2%)が死亡した.つまり幼児死亡は死亡数の少ない病院群に偏っていた.
 病院内死亡について,死因別分類の上位は病死1,469人,火災を除く事故死(交通事故,転落,溺水,窒息,中毒,他不慮外因死)294人であった.病院当たり死亡数別に病死数と事故死数を検討した.病死例に比べて事故死例は,15人以上の死亡があった病院に比べて,4人未満の病院では5.5倍,4〜6人の病院では2.9倍,7〜9人の病院では2.7倍,10人以上15人未満の病院では2.5倍であり,緊急の救命救急処置が必要な事故死例は,病死例と比較して小規模の病院で診療を受けて死亡した割合が有意に多かった(P<0.0001).
 医療機関の規模別(日本小児科学会の地方会による分類案)の死亡数を,死因の種類別に検討した.事故死の割合は地域小児科センター相当が19%,中核病院が7%であり,その他の小児科において最も大きく全死因の25%であり,やはり事故死群は病死群と比較して小規模の病院で診療を受けて死亡した割合が有意に多かった(P<0.0001).
 重篤な子どもの診療について,小規模な医療機関で対応している事実が明らかとなった.小児救命救急機能が貧困な現状のため,重篤小児が小規模医療機関で診療を受けざるを得ないのが現状である.このような医療提供体制を続けることは不適切である.重症で生命危機のある急性疾患の診療を,診療能力の高い救命救急施設(例:小児専門病院,小児集中治療室を有する施設)に集約する体制を構築することにより,この年齢層の死亡率をOECD諸国並みに下げる道を開くことになると考えられる.


【原著】
■題名
ムコ多糖症親の会の患者家族に対する出生前診断の意識調査(酵素補充療法承認前調査)
■著者
大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学
田中 あけみ  澤田 智  山野 恒一

■キーワード
ムコ多糖症親の会, 出生前診断, アンケート調査, 酵素補充療法
■要旨
 効果的な治療法のない遺伝性の疾患に対し,両親の希望により出生前診断が選択されることがある.遺伝性難治性疾患の患者会のひとつであるムコ多糖症の親の会1)の患者家族に対し,酵素補充療法承認前の平成17年に出生前診断の意識調査を行った.
 方法は,アンケート用紙を各家庭に送付し,父親,母親別々に同じ質問に答えてもらった.158家族に質問用紙を送り,90家族(父84名,母90名)の回答を得,以下の結果であった.(1)出生前診断の認知度は,父親33%,母親54%であった.(2)出生前診断を希望する人は,父親58%,母親69%であった.(3)過去に出生前診断を受けた人では,父親では100%の人が受けてよかったと思っていたが,母親では,2名(2%)の人が「いいえ」と答えていた.(4)もし,出生前診断ができなければどうするかという質問では,父親では,「避妊するし,妊娠してしまったら人工流産する」が18%,「避妊するが,妊娠してしまったら産む」が20%,「自然にまかせる」が51%で,自然にまかせるという人が最も多かったのに対し,母親では,それぞれ35%,32%,32%と,どれも同じ割合であった.母親の方が,出生前診断についてよく勉強しており,また,母親の方が「避妊する」という答えも多かった.母親のほうが病気の子供を持ちたくないという気持ちが強く,より現実的な判断をしていた.


【原著】
■題名
Prader-Willi症候群での成長ホルモン開始時期の検討
■著者
獨協医科大学越谷病院小児科
土屋 貴義  吉野 篤範  小幡 一夫  村上 信行  永井 敏郎

■キーワード
Prader-Willi症候群, 成長ホルモン, 開始時期
■要旨
 背景:Prader-Willi症候群(PWS)における成長ホルモン(GH)治療は広く認知されている.投与量・効能・安全性などに関しては議論されたが,開始時期に関してはコンセンサスがなく,経験的に行われているのが現状である.
 目的:PWSにおけるGH治療開始時期について検討した.
 方法:GH開始時期から,2歳未満開始群(n=13)と,2歳以降開始群(n=13)に分け,GH開始1年後の身長SDS,insulin-like growth factor-I(IGF-I),body mass index(BMI),体脂肪率(%fat),除脂肪筋量(LBM),骨密度(BMD)について比較検討した.
 結果:身長SDS,IGF-I,%fat,LBM,BMDに関しては,両群とも統計学的有意に改善を認めた(p<0.05).
 考察/結論:身長,IGF-I,%fat,LBM,BMDに関しては,両群とも改善がみられたが,早期開始の利点とは言えなかった.しかし体組成,骨密度を乳幼児期から改善させることで,糖尿病,骨粗鬆症などの予防に好影響を及ぼす可能性が示唆された.また2歳未満開始群では粗大運動発達が遅く,筋力低下が著しい症例が多く含まれていたが,GH治療開始後にキャッチアップした可能性があり,今後粗大運動発達改善効果に関する検討も必要と思われた.


【原著】
■題名
北海道における小児期細菌性髄膜炎の疫学調査成績
■著者
札幌市立大学看護学部1),旭川厚生病院小児科2),札幌医科大学小児科3),北里大学北里生命科学研究所4)
富樫 武弘1)  坂田 宏2)  堤 裕幸3)  生方 公子4)

■キーワード
細菌性髄膜炎, インフルエンザ菌b型, 肺炎球菌, Hibワクチン, 結合型肺炎球菌ワクチン
■要旨
 2007年1月1日から2008年12月31日までの2年間に北海道で小児期(0〜15歳)に発症した細菌性髄膜炎は39例(2007年21例,2008年18例,男児23例,女児16例)であった.起因菌はインフルエンザ菌24例(61.5%),肺炎球菌7例(17.9%),B群溶連菌4例(10.3%),大腸菌2例(5.1%),その他2例(リステリア菌,髄膜炎菌,5.1%)であった.発症年齢は1か月未満3例,1か月〜1歳未満15例,1〜5歳未満17例,5歳以上4例であった.インフルエンザ菌20株の莢膜型は19株がb型であり,18株をアンピシリン耐性遺伝子型で分類するとそれぞれgBLNAR 9株,gLow-BLNAR 3株,gBLPAR 2株,gBLPACR-II 3株,gBLNAS 1株であった.肺炎球菌5株の血清型及びペニシリン耐性遺伝子型はそれぞれ6A(gPISP),6B(gPRSP),19F(gPRSP),23F(gPRSP),34(gPSSP)であった.B群溶連菌3株の血清型はそれぞれIb,III,V型であった.髄膜炎菌の血清型はY/W135であった.予後はB群溶連菌の1例が発達遅延,視力障害,尿崩症を残し,肺炎球菌,リステリア菌の2例に水頭症,インフルエンザ菌b型,肺炎球菌の2例に聴力障害と5例の後遺症を残したが,死亡例はなかった.この2年間を平均すると1年間で北海道の5歳未満人口10万人あたりインフルエンザ菌髄膜炎は5.5,肺炎球菌は1.2の発症頻度であった.


【原著】
■題名
エコーウイルス30型髄膜炎における髄液および血清中サイトカイン/ケモカイン解析
■著者
独立行政法人国立病院機構三重病院小児科
浅田 和豊  中野 貴司  松野 紋子  田中 孝明  伊東 宏明  一見 良司  菅 秀  藤澤 隆夫  庵原 俊昭

■キーワード
エンテロウイルス, エコーウイルス30型, 無菌性髄膜炎, サイトカイン, ケモカイン
■要旨
 無菌性髄膜炎疑いで2008年7月に当科へ入院した12例を検討した.髄液PCRでエンテロウイルス(EV)陽性が8例,そのうち3例で髄液細胞数増多を認めた.PCR法でEVが陽性であった症例において,PCR産物の遺伝子配列を解析した結果,全例エコーウイルス30型と判定された.髄液PCR陽性例では発熱,頭痛,嘔吐,髄膜刺激症状の4症状を全例で認め,陰性例では2〜4症状と症状がそろわない症例も認めた.髄液PCR陽性例において,髄液中サイトカイン/ケモカインであるIL-6,IL-8,INF-γ,IP-10,MCP-1,MIP-1α,MIP-1β値が,陰性群に比し有意に上昇していた.エコーウイルス30型における無菌性髄膜炎は,髄液細胞数が正常な例でも生じていた.また髄液PCR陽性例において,髄液細胞数増多を認める症例は,髄液細胞数が正常な症例に比し,髄液中MIP-1β値が有意に上昇していた.このことから,髄液中MIP-1βの高値と髄液細胞数増多には何らかの関連がある可能性が示唆された.


【原著】
■題名
成人を対象としたジフテリア・百日咳・破傷風混合ワクチンの安全性と免疫原性
■著者
国立病院機構三重病院小児科1),三重大学医学部小児科2)
伊東 宏明1)  中野 貴司1)  松野 紋子1)  長尾 みづほ1)  藤沢 隆夫1)  庵原 俊昭1)  神谷 齊1)  堀 浩樹2)  駒田 美弘2)

■キーワード
百日咳, DPT, Tdap, 免疫原性, 副反応
■要旨
 国内外で,成人や年長児の百日咳患者が増加傾向にあることが昨今指摘されている.これらの年代では百日咳の臨床症状が非定型的な場合も多く,診断されずに放置されることもしばしばである.わが国では未だTdapワクチンは認可されていないが,現行のジフテリア・百日咳・破傷風混合(DPT)ワクチンは,その接種量を調整すれば欧米のTdapワクチンと類似した組成となる.我々は,成人164名に対してDPTワクチン0.2 mlを接種して,その安全性と免疫原性を検討した.接種前血清では163名中76名(47%)で抗百日咳毒素(PT)抗体価,24名(15%)で抗線維状赤血球凝集素(FHA)抗体価が感染防御レベルとされる10ELISA unit/ml未満であった.今回検討した年代では,過去の接種歴にかかわらず,百日咳に対する感染防御能が十分ではない可能性があると考えられた.抗PT抗体,抗FHA抗体は接種により有意な抗体上昇を認めた.また,副反応は通常の乳児へのDPT接種と比べて重篤ではないと考えられた.DPTワクチン0.2 ml接種は,成人での百日咳予防策として有用であると同時に,リスクの高い乳幼児への伝播を予防することにも繋がり,今後積極的に導入することを提言したい.


【原著】
■題名
当科における過去10年間の心室中隔欠損症の検討
■著者
鳥取大学医学部周産期・小児医学
橋田 祐一郎  辻 靖博  坂田 晋史  倉信 裕樹  美野 陽一  船田 裕昭  小西 恭子  長田 郁夫  神崎 晋

■キーワード
心室中隔欠損症, 発生頻度, 自然閉鎖, 手術時期
■要旨
 【背景】心室中隔欠損症(VSD)は先天性心疾患(CHD)の中で最も発生頻度が高く,自然閉鎖する症例から乳児期早期に内科的・外科的治療を要する症例まで臨床像は多彩である.【目的】当科で経験したVSDを後方視的に検討し,臨床像を再確認する.【対象・方法】過去10年間(1995〜2004年)に,当科にて超音波検査でVSDと診断し,最低4年以上(4〜14年)追跡可能であった234例(男児108例,女児126例).【結果】VSDはCHDの50.6%を占め,膜様部が150例(63%)と最も多かった.自然閉鎖は116例(50%)に認め,欠損孔径4 mm未満,膜様部・筋性部で高率に認めた.手術症例は45例(19%)で,欠損孔径6 mm以上では23例中20例(87%)が1歳未満に行われていた.室上稜上部では16例中4例(25%)で右冠尖逸脱(RCCP)・大動脈弁逆流(AR)を合併し手術を要していた.右室二腔症(TCRV)合併例では3例中2例で右室流出路狭窄(RVOTS)が進行し手術を要していた.死亡例はDown症候群とHolt-Oram症候群の2例であった.【考察】発生頻度と自然閉鎖は以前の報告と同様であった.大欠損症例では手術技術の進歩もあり比較的早期に手術が施行されていた.室上稜上部ではRCCP・ARの出現,TCRV合併例ではRVOTSの進行に注意が必要と思われた.死亡例はいずれも染色体異常であり慎重な観察が必要と思われた.


【原著】
■題名
川崎病容疑例(狭義の不全型)の疫学的特徴
■著者
自治医科大学地域医療学センター公衆衛生学部門1),日本赤十字社医療センター小児科2)
上原 里程1)  屋代 真弓1)  中村 好一1)  柳川 洋1)  薗部 友良2)

■キーワード
川崎病, 記述疫学, 容疑例, 季節変動, 冠動脈障害
■要旨
 【目的】我が国の川崎病容疑例の疫学像を明らかにすること.【方法】1991年から2006年までの16年間に初診患者として川崎病全国調査に報告された患者のうち,診断について回答があった119,886人を対象とした.容疑例は診断の手引きに合致しないが川崎病の疑いが有る例として報告された患者で,人,場所,時間という記述疫学の三要素に着目して典型例(確実A)との相違を観察した.また,初回ガンマグロブリン投与頻度の経年変化と急性期の冠動脈障害発生頻度の経年変化を典型例と比較した.【結果】川崎病患者全体に占める容疑例の頻度は1991年では10.0%であったが2006年には14.8%となり,有意な増加傾向を示した(p<0.001).3歳での頻度が最も低く(9.5%),3歳より低年齢になる程および高年齢になる程容疑例の頻度は有意に上昇した(ともにp<0.001).2000年以降は冬と夏にピークを形成する典型例の発生パターンとほぼ同様の季節変動が観察された.容疑例の初回ガンマグロブリン投与頻度は1999年以降51%から58%の範囲でほぼ横ばいであった.1997年から2006年までの急性期冠動脈障害発生の頻度は典型例では19.2%から10.9%へ有意に減少していたが(p<0.001),容疑例では4.3%から7.4%の範囲で有意な減少は観察されなかった(p=0.64).【結論】川崎病容疑例の疫学像は典型例とは異なるが同様の季節変動を示すことから,典型例と同様の疾患をみている可能性が高いと考えられる.


【原著】
■題名
新生児医療施設長期入院児のQOL調査
■著者
大分大学医学部小児科・小児神経科1),愛媛県立中央病院2),大分県立病院総合周産期母子医療センター新生児科3),愛媛県立中央病院発達小児科4),社会福祉法人聖母の騎士会恵の聖母の家5)
前田 知己1)  梶原 眞人2)  飯田 浩一3)  大森 啓充4)  佐藤 圭右5)

■キーワード
長期入院, 新生児集中治療室, 生活の質, 超重症児, 重症心身障害児施設
■要旨
 新生児医療施設に1年以上の長期入院児と重症心身障害児施設の就学年齢前入所児のQOL評価を行い比較した.QOL評価はこばと版QOL評価質問表を一部改変して使用した.新生児医療施設から117例,重症心身障害児施設から316例のQOL評価表の回答があった.
 QOL評価表の比較は回答全例群,4歳未満群,超重症児群,呼吸管理中の寝たきりで反応乏しい最重症例群,年齢と超重症児スコアをマッチングさせ抽出した群,それぞれにおいて行った.いずれの群においても,全般,身辺・情緒,人との関係,生理的状態,生活環境,サービス内容,療育サービス,機会,意思決定・選択の全ての領域において,重症心身障害児施設のほうが新生児医療施設よりもQOL評価点が有意に高かった.特に療育サービスと機会の領域においてその差は著しかった.
 新生児医療施設は長期に生活することを想定した,環境整備,人員配置はなされていない.重症心身障害児の生活の場としてみると,生活音や照明の不適切な環境,面会制限,一般社会との交流の機会の途絶,重複障害を抱える児に必要な専門的な療育体制の不足などQOLを阻害する要因が多い.新生児医療から引き続く重症心身障害児のQOL向上のために,重症心身障害児施設の高度な医療処置可能な病床整備,新生児医療施設との連携強化が望まれる.


【原著】
■題名
水痘罹患4か月後に脳梗塞をきたした1例
■著者
高松赤十字病院小児科
森 達夫  関口 隆憲  岡村 和美  清水 真樹  高橋 朋子  幸山 洋子  坂口 善市  大原 克明

■キーワード
脳梗塞, 水痘罹患後血管炎, 片麻痺, トロンボモジュリン
■要旨
 症例は1歳11か月男児.突然,左上下肢の不全麻痺が出現した.意識は清明であったが,会話はできない状態であった.
 発症8時間後の脳MRI拡散強調画像(DWI)で右被殻から放線冠にかけてhigh intensity areaを認め,右レンズ核線条体動脈領域の脳梗塞と診断した.
 1歳7か月時に水痘に罹患し,血液抗Varicella zoster virus(VZV)-IgG・IgM抗体陽性,髄液抗VZV-IgG抗体陽性,VZV-IgG indexの上昇を認め,発症にVZVの関与が示唆された.
 フリーラジカル抑制のためエダラボン(1 mg/kgを12時間毎に1日2回投与)7日間投与,血小板凝集抑制のためアスピリン(5 mg/kg/day)投与を行い,症状の改善を得た.
 アスピリン同量継続投与を行いながら,2歳11か月まで脳梗塞の再発,血管狭窄像の進行を認めていない.
 水痘罹患後血管炎による脳梗塞は再発率が高い.本例では,発症時からトロンボモジュリン(TM)の異常高値を認め,正常化するまで約1年を要した.TMは血管内皮細胞障害を表すといわれ,水痘罹患後血管炎の状態を反映する指標として有用であると考えられた.


【原著】
■題名
白血球増多による偽性高カリウム血症を呈した一過性骨髄異常増殖症の1例
■著者
豊橋市民病院小児科
相場 佳織  杉浦 時雄  忍頂寺 毅史  野村 孝泰  幸脇 正典  小山 典久

■キーワード
偽性高カリウム血症, Down症候群, 一過性骨髄異常増殖症(Transient abnormal myelopiesis;TAM), 胎児水腫, 白血球増多
■要旨
 白血球増多による偽性高カリウム血症を呈した一過性骨髄異常増殖症(Transient abnormal myelopoiesis;以下TAMと略す)の1例を経験した.症例は胎児水腫,Mirror症候群の診断にて在胎37週5日に緊急帝王切開で出生した女児.入院時検査ではトランスアミナーゼ,肝線維化マーカーの上昇,白血球や血小板数の高値,芽球の出現,そして血清カリウム高値を認めた.肺高血圧を伴う重度の呼吸循環不全に対する集中治療とともに,高カリウム血症に対する治療も行ったが効果は認められなかった.その後腹水と血漿カリウム値は正常な値であり,血清値との解離を認め,偽性高カリウム血症と診断した.交換輸血を行い,これに伴い白血球数が減少したのちは血清にてカリウム値を測定しても,異常値は認められなくなった.各種集中治療を行ったが,乏尿の状態が続き,日齢16に多臓器不全で死亡した.白血球増多による偽性高カリウム血症に関する報告は,現在までいくつか見られている.しかし本疾患の原因,発症率,病的意義も不明な点が多く,今後の検討が待たれるところである.また肝線維症を合併したTAMの例は生命予後が悪く,さらなる治療法の確立が望まれる.


【短報】
■題名
本邦ではまれな遺伝子変異の認められたベータサラセミアの2家系
■著者
総合太田病院小児科1),同 小児血液腫瘍科2)
大戸 佑二1)  設楽 利二2)  成相 宏樹1)  鹿子生 祥子1)  白井 晴己1)  宮路 尚子1)  棗田 とも1)  谷内 真由美1)  島村 圭一1)  佐藤 吉壮1)

■キーワード
ベータサラセミア, 遺伝子変異, 国際化
■要旨
 サラセミアは,地中海沿岸や中近東・東南アジアに多発し,日本には従来低頻度でしか存在しないと言われていたが,国際化に伴い遭遇する機会が増えている.今回我々は稀な遺伝子変異を持つベータサラセミアの2家系を経験した.両家系とも海外から移住してきており,認められた遺伝子変異は日本人固有の変異とは異なる本邦ではまれな変異であった.国際化が進むとこのような疾患に遭遇する機会も増えると思われ,鑑別疾患として留意すべきである.


【短報】
■題名
「宗教的輸血拒否に関するガイドライン」の使用経験
■著者
済生会川口総合病院小児科
大山 昇一  相原 真樹子  東 範彦  島村 直紀  碓氷 樹理  池辺 明子

■キーワード
輸血, 医療ネグレクト, ガイドライン, 児童福祉法
■要旨
 2008年2月に学会,司法の専門家などにより宗教的輸血拒否に関するガイドラインが発表された.症例は1歳代の幼児で,上部消化管出血と代償性ショックの状態で緊急処置が必要と考えられたが,両親より宗教上の理由から輸血拒否の申し出があった.代替療法を継続しながら説得したが両親は応じず,転院先も見つからなかった.児童相談所に通告し,24時間後に親権を一次停止する家庭裁判所の仮処分が出され,患児はその翌日に高次医療機関に転院となった.
 通告の時点ではガイドラインの存在を知らなかったが,ガイドラインが15歳未満の小児例に対して輸血実施まで踏み込んだ指針を示したことで,親権者と対立してもこどもの利益を優先する選択肢が生じたことは有意義であると思われた.


【論策】
■題名
埼玉県全域における小児救急患者救急車搬送の現状分析
■著者
埼玉医科大学総合医療センター小児科1),埼玉県医師会母子保健委員会2)
櫻井 淑男1)  鈴木 伸一朗2)  山崎 博2)  栃木 武一2)  宮崎 通泰2)  田村 正徳1)2)  赤司 俊二2)

■キーワード
小児集中治療, 救命救急センター, 小児救急, 医療体制, 集約化
■要旨
 はじめに
 日本小児科学会は,『小児医療供給体制の改革ビジョン』で小児救急医療集約化の方向性を示している.
 本稿では,埼玉県小児救急車搬送年間データを解析し,集約化の度合を含めて小児救急車搬送の実態を明らかにすると伴に小児救急患者集約化の推進策を検討した.
 対象と方法
 1)埼玉県内全36消防本部を対象に小児患者の救急車搬送に関するアンケート調査を施行した.
 2)対象患者は平成19年1月1日から平成19年12月31日までに埼玉県内で救急車搬送を受けた生後7日以上15歳以下の小児で後方視的調査を行った.
 結果
 1)アンケート回収率は100%であった.
 2)埼玉県全体で年間24,386件の救急車を用いた小児救急患者搬送が行われていた.
 3)心肺停止79件は,23施設,重症患者367件は92施設,中等症患者3,439件は245施設,軽症患者20,465件が544施設に搬送されていた.
 4)中等症,重症患者の搬送先は年間5人以下のみ収容している施設がそれぞれ62%,85%を占めていた.
 5)東京をはじめとする県外に年間1,612件搬送されており中等症と重症患者の割合が高かった.
 考察
 1)埼玉県内では小児救急患者の集約化が不充分である.
 2)埼玉県内では小児重症患者に対応できるだけの重症患者診療体制が確立しておらず,県外に依存していることが判明した.
 以上の問題点を解決するために次の2点が必要と考える.
 1)小児救急車搬送データをもとに心肺停止患者,重症患者を主に集約化する施設と中等症,軽症患者を主として集約化する施設を選定する.
 2)小児重症患者に対応できるように埼玉県内に小児集中治療室を集約化して整備する.

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